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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第三章 ロッキンガム大祭
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040 模擬戦

*** オヴァリ=エンダ ***


 ナユタさんが一軒家を整え、ダンジョンの活性化が一応収まったらしいことを確認した後、僕たち再来は北に向かうことにした。

 ただ最後まで、城下町のアンデッドと表層で出現していた知性の高い魔物の群れとの関連までは分からなかった。


 僕の世迷言のような考えを受け入れてくれたパーティメンバーには本当に感謝している。その世迷言の足掛かりとして、まずは王国を目指す。

 連邦は国々が連立して成り立っているけれど、そこに含まれる国のことではなくて、ポロアスト大陸北部に位置する "ロッキンガム王国" のことだ。


 ダンジョン以外でも功績を残し、国を超えて迅速に動けるようにしていきたい。・・・というのが理由の半分で、もう半分は単に治安の良い王国から行脚を開始しようというもの。

 王国の首都ロッキンガムはダンジョンからまっすぐ行って 1 ヶ月もかからないけれど、今回は初めてなので寄り道しながら行くことにした。寄り道先は王国西南のガラン山で、ロックバードの素材採取が目的だ。

 商人たちの話では、王国は軍備の拡充や装飾品のブームでロックバード由来の素材の需要が高まっているらしい。


 ロックバードは主にガラン山に生息していて、グランンドドラゴンのワンランク下くらいの強さと聞いている。

「お、あれかな?」

 グレイモアさんが指差した方には確かにそれらしい鳥が飛んでいた。

 ダンジョンでは魔物は一様に襲って来るけれど、ダンジョン由来でない生き物はそういうことはない。こちらが攻撃したら、襲ってくることも逃げることもある。特に飛んでいるなら尚更だ。

 まずは近付かないと・・・そう思っていると、ナユタさんが一歩踏み出して刀を振った。


 シュッと音がして待つこと数秒、ロックバードがグエっと鳴いた。

「ナユタさん、今のは?」

「真空刃だ」

 ・・・聞いたことのない技だった。グレイモアさんも首を傾げている。

「刀のスキルだ」

「魔法とは違うんですか?ダンジョンでは見なかった技ですけど」

「多分違う。ダンジョンだとイマイチ見通しが悪かったからな」


 これまでも何度か聞いた話ではあるけれど、ナユタさんが元いた世界の武芸はこちらのものとは少し様相が異なるらしい。なんでも "スキル" という単語が僕たちが思うような技術的熟練を意味するのではなく、"スキルという能力" のことを指すのだとか。

 うまく理解できなかったし、結局は聞いても仕方なさそうだったので途中で深く考えるのはやめてしまった。


 ロックバードは真空刃だとダメージが不十分だったようで、近付いてレイネさんの魔法で地に落として囲む形に落ち着いた。遭遇頻度はグランドドラゴンと同じくらいで、群れには遭遇しなかった。

 レイネさんやナユタさんの使う魔法はもしかしたら僕たちの魔法と仕組みが違うのかもしれないけれど、それを完全に確かめる術は今のところ無さそうだ。


 ダンジョンの時の習慣で、一番近くの町で補給しつつ手持ちがロックバードの素材で一杯になるまでガラン山に篭っていたので、結局首都に着いたのは最後に連邦を出て 3 ヶ月後だった。


 ロッキンガム王国の首都は王都とも呼ばれ、連邦の中心的な大国であるトーキーオよりも広い領土を有している。街並みは格式高い建物が多くて、落ち着きと実用性が重視されている気がする。

 ひとまず道ゆく人に訊ねてギルドへ向かう。

 王都はみんな初めてなので、ギルドでは都の中の主要な施設の場所を聞いて、それから他のパーティの情報も聞いた。ノトは来たことがありそうなものだけど、特に用がないから来たことがない、とのことだった。

 ナイトゴーレムを新たに突破したパーティはいないらしいことと、やっぱりアンデッドの問題を解決したのはディモンたちデイブレイクだったことが分かった。

 デイブレイクも城下町からは進まず、今はダンジョンを離れているのだとか。


 王都のギルドに集まっている依頼は連邦で見たような、例えば護衛や家の仕事の手伝いといったものが並び、報酬も大きくは変わらない。強いて言えば魔物関連の依頼に出て来る魔物の名前に見慣れないものが多いけれど、名前から何となくどんな魔物か想像できるし、報酬を見れば強さも大体察しがつく。

 主目的ではないけれど、何かしら人との繋がりが生まれそうな依頼を探しつつ、王国滞在中は依頼をこなしたりロックバードを狩ったりすることにした。

 それから、一度ノトの故郷ダダライオにも行くつもりでいる。



 1 週間ほどギルドに出入りしていると、騎士らしき女性に声をかけられた。

「失礼、"再来" の面々とお見受けしますが、間違いありませんか?」

「えぇ。僕たちが再来です」

「そうですか。私はレデントーラと申します。ロッキンガム騎士団の副長です」

 見た目通り騎士だったようだ。

「騎士団の方がどういった御用でしょうか」

「探索隊から再来の噂はよく聞いていたので、挨拶をと思い声をかけさせて頂きました」


 依頼を介さずに重要そうな人物との伝手ができそうだと思ったけれど、ナユタさんはあからさまに警戒心を強めている。

「俺は騎士団とか軍は苦手だ。大体折り合いが悪い」

「俺は何か裏があるんじゃないかと、思わなくもないねぇ」

 グレイモアさんは別の理由で警戒しているようだ。

 まぁ、それが普通だよね。


 メンバーで話していると、案の定レデントーラさんから招待を受けた。

「もし良ければうちの騎士団で模擬戦などして頂けるないでしょうか?」

 ・・・模擬戦は正直に言って苦手だ。一度実践ばかりの日々に浸ってしまうと、手を抜くとか形だけの動きが難しいから。つまり、うっかりやり過ぎてしまうかもしれない。

 もちろん騎士団を侮っているわけではないけれど、自分を過小評価する必要はない。

「そういうのは慣れていませんから・・・」

「では、専用の依頼を出します。それならいかがでしょうか?」


 依頼ならと云うことと、報酬が良いこと、何かあっても何とかできるだろうとナユタさんが言ったことで、僕たちは騎士団との模擬戦を受けることにした。

 政治的ないざこざはよく分からないけれど、ナユタさんたちは「慣れているから必要なら要所を抑えられるだろう」とのことだった。嫌そうではあったけれど、頼らせてもらうことにする。


「力を持つと云うことは人の好意も悪意も集めることと表裏一体だ」

 ナユタさんにかなりきつめに忠告されてしまう始末。

 そんなこと気にしたこともなかった僕とノトは、周りの人に対する注意を一層払おうと頷き合った。




*** 王国騎士 ガントレイ=レデントーラ ***


 ロッキンガム探索隊と騎士団は特に仲が悪かったり関わりが薄いわけではありませんが、お互いを意識していることは確かでしょう。

 王の下で使命を全うする立場は同じでも、いざ従事するとなるとどちらも一長一短あるからです。

 騎士団は基本的には国を守る立場で、特に王家の護衛の意味合いが強く、戦時には軍と違い一歩引いた位置に配備されます。普段は訓練をしつつ、王家の依頼で王都のいざこざの解決等、警備的な仕事もします。

 訓練の成果を披露する場は実際のところ少なく、体を鍛えることそれ自体を良しとする団員以外には物足りなさもあるようです。しかし団員は軍や冒険者から選び抜かれただけあって実力も折り紙付きで、給料や福利もそれに見合った分だけ保証されている点は素晴らしと思います。


 探索隊は冒険者や軍から志願して入隊する場合が多いですが、基本的には隊長や副長が勧誘しているようです。中には隊長のヒジュー=ショークのように騎士から転身する人もいますが、稀でしょう。

 探索隊は基本的には冒険者と同じ活動をしていますが、王家がバックアップに付いていることが他の冒険者との最大の違いです。

 依頼の遂行の他、メインの活動はダンジョンの探索で、構成メンバーから毎度選抜されて継続的にダンジョン探索に当たっています。

 最近話題だった "活性化" など、いざの時王国としての対策で遅れを取らないための部隊と言えるでしょう。

 騎士団と違い日々実践の中で生きることになりますが、反面死の危険があり、また皇子や場合によって要職の子息の訓練の場を兼ねるため、それに伴う煩わしさもあるようです。尤も、今隊に就いているデレス様に関してはそういった厄介ごととは無縁のようですが。


 実践の場が欲しい騎士団としては探索隊との模擬戦ができれば良いのかもしれませんが、探索隊の上位メンバーは常に出払っているため難しく、他に相手を見繕おうにも騎士団がそもそも王国内の実力者の集まりのため、匹敵する団体は中々見つかりません。

 ・・・むしろ騎士団レベルの実力を持つ勢力が現れないよう見張っている、と言えなくも無いのですが。

 現王の統治の安定性から国内での反乱も殆どなく、今回の再来への依頼は隊長の気まぐれ半分で立案されましたが、多くの団員が楽しみにしているようです。



 模擬戦の当日、私たちは騎士団の詰所ではなく都の闘技場に集まりました。

 闘技場は武芸者同士の手合わせや流派の大会の開催に用いられる他、とても広いため大規模な演劇、臨時の市が開かれることもあります。

 闘技場は実はそれ自体がマジックアイテムで、ある程度の損傷が自動で修復される特性があります。一説には、この闘技場の存在ゆえに王国はこの地に開国されたとも伝わっています。

 ちなみに闘技場は 2 つあり、郊外にあるもう一つはより格式高く、闘技場それ自体が闘技者を選ぶ性質を持っています。


 今回クリアすべき問題は致命傷への対処です。

 ギルドへの依頼という形をとったため、依頼にまつわる問題は受託した冒険者の自己責任とも言えますが、さすがに国の威信もあり、どちらにも死者を出すわけには行かないでしょう。郊外の闘技場ではその点もクリアされるのですが・・・。

 団長から報告を受け承認した国王をはじめ、どこからか聞きつけた国の重役たちも模擬戦を見学するというから尚更です。

 そこで今回は治療院に無理を言って、あらかじめ治癒結界を張っておくことになりました。完全に致死的な攻撃でなければ、致命傷も重症くらいには緩和されるはずです。

 この結界は数人の治癒術師が "治療院の掟" と呼ばれるアイテムを用いて張ることができるのですが、触媒にアダマンタイト鉱石を必要とし、術者への負担も大きいため、滅多に使用されません。

 国王が治療院に口添えして下さったからこそ、と言えるでしょう。

 そしてそれだけ、国王自身がこの模擬戦に注目している様子も窺えます。


 国王の意図はともかく、騎士団としても日頃の成果を発揮するまたと無い機会です。しかも噂に聞く再来相手となれば尚更。

 結界の維持が可能な時間を考慮すると時間は限られますが、存分に私も力を振るうとしましょう。




***


 模擬戦は全部で 5 回行われ、その内訳は再来の全勝だった。


 一回戦は騎士団でも中堅でオールラウンダーの 2 人がエンダ、グレイモアの 2 人と戦い、魔法剣士としての練度の違いを見せたエンダたちがすんなり勝った。エモノだけの戦闘ならまだしも、魔法ありきでは団員は明らかに遅れを取った。


 一回戦を受け、二回戦はナユタが出て騎士団からは熟練の剣士が 2 人で立ったが、ナユタはこちらの世界で馴染みのない技を見せなかったにも関わらず、そして殆ど魔法も使うことなく、剣術だけで圧倒してしまった。

 おそらく剣の扱いに関しては再来でもナユタが頭一つ抜けていると思わせる、そんな鮮やかさだった。


 三回戦は打って変わって魔法中心の、つまり中遠距離での戦いが繰り広げられた。騎士団からは見るからに魔法使いと云う雰囲気の団員が 3 人前に出たため、エンダとレイネが対峙した。

 団員はさすが生え抜きと言わんばかりの物量でエンダとレイネを襲ったが、エンダは剣を駆使して、レイネは重力魔法でそれらを跳ね除け、攻撃の隙を突いたサンダーボルトが団員たちを正確に撃ち決着した。

 普段見ることのない規模の魔法の応酬に、観客たちは一番の盛り上がりを見せた。


 四回戦は副団長 2 人がタッグを組み、再来からはエンダと大盾に持ち替えたグレイモアが再び出場した。副長はそれぞれが剣士としても魔法使いとしても一流の魔法剣士だが、グレイモアの盾術によりうまく分断された上で各個撃破され、それまでで一番の長丁場だったが再来の勝利に終わった。


 最後の戦闘はおそらく一番見応えがあっただろう。騎士団からは会場に来ていた団長以外の 15 人が全員出場し、再来も全員でこれを迎え撃ったからだ。

 副団長を含む団員たちはパーティ相当の 5 人ずつ 3 グループに別れ、初手で闘技場に土魔法で幾多の壁を作りさながらゲリラ戦の如く再来を襲った。

 これまでの戦闘を見ていたからこそ、最善と思われるルートと連携で 3 方向から挟み撃ちを狙ったが、騎士団の予想は裏切られ、結局各個撃破されることになった。

 ここまで参戦していなかったポットのバフが効果を発揮し、再来のメンバーをそれまでより数段速い速度で侵攻させたからだ。もちろんこの行軍速度は 5 人揃ったからこその行動の最適化の結果でもあり、ダンジョンで培った練度の高さが披露された形だった。

 団員たちとしてはレイネの重力魔法にわけも分からず拘束されたところを 3 人の剣士に袈裟斬りにされた格好だ。

 おそらく、見ている分には再来目線ならば爽快感すらあったかもしれない。それほどに鮮やかに再来は騎士団を攻略してみせた。



 模擬戦を終え互いの健闘を称えあった後、観戦に来ていた国王が口を開いた。

「双方、日頃の成果を十分に見せてくれた。特に再来は、聞き及んでいたが見事なものだな。騎士団の今後の励みになるだろう。礼を言わせてくれ」

 そして何やら団長と顔を合わせると、国王は一つ咳払いして続けた。

「再来の発展を祈って、小規模に食事会を開きたい。近々使者を送るので考えておいてくれ。忙しい身だろうから、強制はしない。では」

 そう言うと、騎士団に護衛される形で国王は退席した。


「食事会だって。面倒ごととセットじゃないといいけどね」

「俺は気が向かないが、美味いものが食べられそうだから行ってもいい」

 グレイモアもナユタも消極的ながら参加の意を示し、後日訪れた使者に対して再来は、食事会への招待を受けると返事をしたのだった。

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