039 事後
新章です。
*** ゾンビのユニバーサ ***
うちの関与していないところで、いつの間にかフォルト様が倒された。
フォルト様の影が引いたから、そのことにアンデッドは皆気付いた。
「ユニバーサ様、フォルト様は・・・」
ラッパレンがすぐに駆け付けたけれど、うちも今気付いたばかりなので何とも言えない。
「倒されたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。とりあえず教会に行ってみよう」
「はっ」
うちとガレルとナイーゲルは、フォルト様直属の護衛 3 体を除けばアンデッドの中でも 3 強と言える。
スケルトンのガレルは武器を扱えるアンデッドを、ゴーストのナイーゲルはゴーストと動物系のアンデッドを、うちは人型ゾンビ系のアンデッドを主に統括している。ナイーゲルが墓地、うちが教会を挟んで墓地と反対側、ガレルがその間を担当して部隊を配置していた。
フォルト様の身に何かあったとして、流石にゴーレムにやられたとは考えにくいから、冒険者がガレルかナイーゲルを破った上でのことだろう。その実力は計り知れない。
数日かけて教会に着き、全てを悟った。
荒れた大聖堂、仲間のモノらしき残骸、そしてそこに誰もいないという事実・・・。ダンジョンによって殆ど修復されかけていたけれど、戦いの痕跡ははっきりと分かった。
フォルト様は何者かに倒されたのだ。
数日教会に滞在したけれど、ガレルもナイーゲルも現れなかった。何かあれば教会に来る取り決めだから、二人とも倒された可能性がある。
ラッパレンに問われる。
「ユニバーサ様。どう、致しましょう」
簡単に答えられる内容ではないけれど、答えない訳にもいかない。
「原因の調査を優先する。フォルト様が不在の間は、うちが長を代理しよう」
そもそもまともに編成された軍ではなかったけれど、少なくともうちはフォルト様にカリスマを感じていたし、実際恐るべき能力をフォルト様は秘めていた。義理立てよう、と思うだけの忠誠心がうちにはある。
「仮にフォルト様が消滅されていたとして・・・その時はうちがお前たちを指揮する」
「はっ・・・」
調査、連絡、警戒などなどの役割に人員を振り、2 週間程度を目処に部下を散らせた。
当初予定した 2 週間の間、うちは帰らない主と同僚の姿を待ったが、遂にその姿を見ることはなかった。
得られた情報はと言うと、私たちが元々いた方向へと侵攻するパーティの脅威だけだった。しかも信じ難いことに、そのパーティにはドラゴンゾンビが同行していたらしい。
ドラゴンゾンビなどと云う恐ろしい存在が何体もいるわけがない。容易にフォルト様の護衛だったネフだろと推察される。
・・・この情報はうちに、そのパーティがフォルト様を消滅させたのだと結論付けるだけの十分な衝撃をもたらした。
フォルト様の庇護が無くなったとなれば、今後はまたゴーレムが土地を奪い返しに侵攻してくるだろう。
そうなれば、アンデッドの軍は文字通り壊滅してしまう可能性がある。
「ラッパレン」
「はっ」
「フォルト様に代わりうちがお前たちアンデッドを束ねる。今や目標などない。生存が全てだ」
うちは自分に言い聞かせる様に語気を強める。
「軍を再編する。より "軍らしい軍" を構築するんだ」
「なれば、情報網整備からですな」
巨人系のアンデッドの見た目に似合わずラッパレンは戦略家だったらしく、その気質が所々で窺える。
「そうだな。規模は縮小することになるだろう」
「では教会から墓場にかけて領土を構えましょう」
「なぜ?」
ラッパレンは嬉しそうに答えた。
「アンデッドは墓地に居るものですよ」
*** ナユタ ***
アンデッドの復活が無くなってから 3 週間後、俺たちは南ベースに戻った。
丁度時を同じくして南ベースに帰還していた夢幻の 4 人にも遭遇したが、彼らもアンデッドの異変を受けて戻ったのだと言う。
元々は俺もレイネもテミスでの市民権を得る目的が第一にあって、その代わり有事の際動ける様にとダンジョンの視察に来たのだが、もはや当初の予定とはかけ離れて積極的にダンジョン探索に乗り出している。
聞いていた話では、“有事” の背景にはダンジョンの活性化、もっと言えばアンデッドの関与が噂されていたから、今回の件でその危機は去った可能性がある。
そうなると、紹介されたテミス北端の町 "ユガ" で、悠々自適な生活のための環境作りを始めるのもいいんじゃないかと、思わなくもない。
「私はナユタに付いて行くわ」
レイネは嬉しいことを言ってくれる。もちろん、俺もレイネを蔑ろにするつもりはない。
「なぁ、3 人は今後もダンジョンに入り浸るのか?」
メンバーの意見を聞こう。
まず答えたのはギー=グレイモアだった。
「俺はいろんな所に行ってみたいけど、それ以上にこのメンバーなら得るところも大きいと思ってるから、兼ね合い次第かな」
流浪人らしい意見だ。
ノト=ポットがグレイモアに続く。
「正直なところ、元々は安定志向なんだよね、俺」
「これ以上は望まないと云うことか?」
「元のままならそうかもしれない。でもこのパーティならそれ以上に愉しい人生が送れそうだとも思う。まぁ要するに、オヴァリに付いて行こうかなと」
そしてオヴァリ=エンダが最後に答えた。
「ナユタさんとレイネさんはテミスに帰る・・・そういうことでしょうか」
「考え中だ」
「そうですか。じゃぁ二人も残って今のパーティで、という前提で話します」
俺は表情で先を促す。
「アンデッドの復活とダンジョンの活性化が本当に関連した事象なのかを、数回の探索と並行して聞いて回って、関係があったと結論付けられたら、ひとまず周囲の国も落ち着けると考えます」
それは俺の今後の方針を決める上での核心でもあるな。
「それで、その後は世界中を回って見聞を広げようかと」
「それは何のためだ?」
エンダは少し溜め、メンバーを見回して答えた。
「世界の危機に応じられる様、備えるためです」
・・・いきなり何を言い出すんだ?と俺は思ったが、ポットは特に疑問にも思っていない様子だ。なんならグレイモアも、そうだねぇ、と肯定気味に頷いている。
「どういうことか、聞いてもいいか?」
「えぇ。ナユタさんは僕らのパーティが "再来" と呼ばれていることは知っていますか?」
「あぁ、何度かそういう話を聞いたな」
「自分で言うのは恥ずかしいんですが、僕自身が "再来" の二つ名で呼ばれているからだと思います」
それも聞いたことはある。
「再来とは、何の “再来” を指すのかしら?」
レイネが先に問いかけた。
「アポロア様のことだよ」
グレイモアが横から答える。
「アポロア様?」
「神話の様な史実上の英雄で、魔王の脅威から人族を守ったと伝わっている。多彩な魔法、特に雷の魔法を好んで使った魔法剣士の姿で、お伽話では描かれているね」
ふむ、そういうことか。
「この世界の魔法剣士を思えば、確かにエンダが特異な存在でそのアポロア様とやらを彷彿とさせるのも、分からんでもないな」
「それで、その二番煎じをしようということか?」
「簡単に言えばそうなりますけど・・・」
語尾を濁しつつ、しかしエンダははっきりと言葉を続ける。
「多分僕がこういう能力を持っているのも、再来と呼ばれる様になったのも、全部意味があると思うんです。アポロア様の時代以後は人族存亡の脅威は現れていませんが、ダンジョンの活性化だけでなく本当の脅威が現れる、そんな気がするんです」
「それで、平和なままだったら?」
「それはそれで良いじゃないですか。平和が一番ですよ」
強者ゆえの責務、か。俺の世界の言葉で言えば “持つ者よ、余すことなく奮え。人の気高さを示せ” といったところだろう。
「それに見聞を広めることは冒険者として大切なことだと思うんですよね。だから、できるだけ早いうちに世界を回ってみたいんです」
「世界旅行か。尚更面白そうだね」
グレイモアはこれまでも一人であちこち足を運んでいたためか、かなり乗り気だ。
「ポーラ大陸にも行くのか?」
「そうだね、海の国なんかにも」
「へぇ」
ポットも特に反対しない。
俺はレイネと顔を見合わせる。
「ねぇナユタ、こっちの世界のことを知るのも、いいんじゃないかしら?せっかく気ままに動き回れる様になったのだから」
ふむ。
「それに、もっと住みやすい場所も見つかるかもしれないわ」
それはまぁ、そうかもしれない。温泉地帯であるテミスの住み心地は十分良さそうだが、焦って決めることもないか。
「・・・分かった。俺たちも行こう」
俺の答えにエンダは嬉しそうに笑った。
方針が決まった。
数ヶ月ほどダンジョンの様子を探り、その後はこの大陸を中心に各地を探索することになった。
ダンジョン警戒の期間中、俺はレイネと相談してダンジョンでの資金を元手にユガで一軒家を見繕い、住み込みのお手伝いを一人雇って住環境を維持してもらうことにした。
"帰る家がある" ことそれ自体が、何となく俺たちには必要だと考えたからだ。
お手伝いとしてユガの町長に紹介してもらったフェイル=ラライアは感じのイイ猫系獣人の若い女性で、短い時間の中で最低限打ち解けられたと思う。
さて、世界旅行が楽しみだ。
*** ブロック=ハコバス ***
久しぶりにあいつらがうちの店に来た。あいつらとはもちろんディモンたちのことだ。
もはやあいつらが来るよりも噂がうちに回って来る方が早いが、顔を見ると妙に嬉しくなる。
デイブレイクの二つ名を冠された彼らがフレアドラゴンだけでなく、その先のアンデッド討伐と、それにまつわるダンジョン活性化の抑制に貢献したらしいと、既に聞いている。
「よう。デイブレイクの皆さん。活躍してるようだな」
「いやぁ、気恥ずかしいですね」
相変わらずディモンが最初に答える。
「その足はどうしたんだ?」
例のゴーレムが、頭上に変なものを括り付けられている。
「これは気にしないでください」
「そうか?」
今回もデイブレイクが持って来た素材は相変わらず一級品で、フレアドラゴンの素材の割合が増えていた。
「アンデッドも倒して回ってると聞いたが?」
「あー、あれは所詮アンデッドですから・・・・」
そういうもんか?
ともあれ、今回の分で 3 人と 1 体の装備も殆ど揃えられるだろう。
それから今日はわしの成果もある。俺は奥に引き、一本の刀を持って来た。
「ソロジー、前の刀はどうだった?新しいものを打ったから交換といきたいんだが」
ソロジー嬢はいまいち捉えどころの無い性格の上、容姿も印象に残りにくい。しかし妙に惹きつけられるものがある。
「アンデッドに人型が多かったこともあって、刀自体の扱いにはかなり慣れましたよ。師がいれば最善なんですけれど。あ、もちろん刀の質は素晴らしいと思います。今のところ定期的な手入れで困っていません」
「そうか。今回のは多分、それよりも粘りがあるからその辺の感想をまた教えてくれ」
ソロジーは神妙な表情でわしの渾身の作を受け取った。
彼らが懇意にしてくれていると云う噂をどこからか聞きつけた冒険者たちがうちに来るようになって、ララの店の売り上げは少なからず増えている。
うちの店は正直に言って見た目に地味な武器が多いが、デイブレイク効果とでも言えばいいのか、質が彼らの実績に伴って認められたような感じなのだろう。結構売れる。
もちろんデイブレイクはそんなこと知らないだろうが。
「今後もダンジョンで活動するのか?」
「今までと同じ、ですかね」
「というと?」
「ダンジョン攻略もしますが、メインは各国を回ることなので」
ダンジョン探索が片手間なのか・・・末恐ろしい話だ。
「そうか。どこへ行くんだ?」
「神国とか、王国とか、色々です」
彼らは一通り装備を受け取って新たな注文を済ませると店を後にした。
「父ちゃん、俺思うんだけど、あいつらってホントに商人とか冒険者が話題にするようなパーティなのかな」
ガナックがそんなことを言う。
「だってさ、他の冒険者ほど貫禄みたいなものが感じられないと云うか、親しみやすいと言うか、そんな感じじゃない?」
「言いたいことは分かるが、冒険者にも色々いるからな」
「父ちゃんはどう思ってるんだよ」
「わしか?そりゃ、すげぇ冒険者と懇意になれて幸運だと思ってるよ。こればっかりは運が大きいからな」
もう少し正直に言えば、わしもあいつらがそんなにすごいパーティとは未だに思えん。いっそ、昨今たまに見受けられる所謂 "ビジュアル枠" とすら思わないでもない。
しかし彼らが持って来る素材が全てを語っている。彼らは本物だ。疑いようもない。
「ふーん」
ガナックにもいずれ分かる時が来るだろう。その時は、店を任せることも検討しよう。




