038 攻略
*** ハル ***
ネフを寝返らせよう、と自分の中で決めると、やるべきことがより鮮明になった。
完膚無きまでに叩きのめす。それだけだ。再生も復活も関係ない。完全に私が上だと知らしめる。
その上で、対話によってしがらみを断ち切らせるのだ。
「ネフ、私と行こう。そうさせてあげる」
「だから、何を言っている?」
短いやり取り。私たちは戦闘を再開した。
アンデッドとの戦闘で火魔法は重要だが、必須ではない。私はフレアを制御から外し、自分自身に集中する。
魔素制御だけと言えばそれまでだけど、魔素制御が秘める可能性は広い。
まず重要なのが自分の体を物理的な意味合いを超えて把握できること。身体能力を跳ね上げ、さらに感覚も高まる。
回避を度外視した速度で接近し、関節部と腹部に狙いを定めて幾つもの剣筋を刀で描く。
ネフは首や心臓を狙わない私の攻撃に対応しきれず崩れ落ちる。
ゾンビの再生力が戦況に追いつく前に更に腹を切り裂き、動きの落ちたところで首を跳ねる。
そして首に続いて全身を風刃で切り刻み、教会の中に撒き散らす・・・。
・・・ネフが復活し、差異の小さい繰り返しを演じる。
一連の一方的な攻防の中でネフに声をかける。
「どう?私、結構強いでしょ?」
「ほら、もう負けた」
「復活しても心は同じなの?」
「あのゴーストに従っているのは何でなのかな」
少なくとも復活の前後で、このドラゴンは一貫した存在に思える。
影に吸収され復活するアンデッドたち。
形を作るだけなら理解し易いが、意識もとなると何か別の要素・・・例えば魂の様なものが介入しているのではないかと考えてみる。
フォルトに聞かないと分からないんだろうけれど、聞いても教えてはくれないだろう。
いずれにしてもこの戦闘で確かなのは、フォルトを倒さないとネフも倒し切れないと云うことだ。
私はネフの攻撃に慣れ、ペイネとディモンも他 2 体への対応をパターン化でき始めている。
となれば、必然的にフォルト攻略に意識が移る。
「そろそろ動いた方がいいんじゃない?」
私はフォルトに声を投げる。
フォルトは私たちの戦闘を見るばかりで直接の介入はしてこなかった。もしかしてサポート型の能力特化なのか?と思えてくる。
「そうだな、仕方ないか」
私の挑発に、彼は溜息混じりに答えた。
私たちは相変わらず護衛 3 体の相手もしている。そこにフォルト自身が加わると対処に困るかも?と思っていたけれど、彼が前線に出て来ることはなかった。
代わりにアンデッドの軍勢を影から生み出し、生まれたばかりのアンデッドたちが戦列に加わった。数はざっと 30 程。
初めから出せば良かったのに、そうしなかったのは何か制限や負荷があるのかもしれない。
パッと見た感じ、新規戦力にガレルほどの実力者はいなさそうだ。油断はしないけれど。
護衛の存在を考慮すると単純に数的にキツイ。ただ逆に、フォルト自身には力が無いと推察される。結局やることは変わらず、アンデッドの王フォルトを倒すことが終着点だ。
この数を相手するには教会は狭い。しかし、フォルトから距離をとってしまっては終わりが遠くなる。
ではどうするべきか?
「ペイネ!こっち任せていい?!」
「えぇ、見てたから大体把握してる!」
最速で決める。これだ。
フォルトの能力が知れないこともあって彼を狙うのは躊躇っていたけれど、いつまでも様子見でいるわけにもいかない。
多分この前のゴースト同様、彼自身は戦闘力が低い・・・と云うことにして、新しく現れたアンデッドは無視でフォルトを斬るのだ。
身体強化と風の足場、それから干渉魔法への抵抗性を考えると、私が特攻役に適任だろう。
有象無象のアンデッドを全速力で飛び越えフォルトの背後を取る。アンデッドたちにはやはりガレルほどの手練れはいないらしく、私の動きに付いて来れていない。
流石にフォルトは遠かったこともあって私の姿を捉えている。
「まさかここまでとは」
呟きつつ魔法を放ってきたが、案の定あっさりレジスト出来た。
あまりにも簡単に魔法の効果が消滅したためか、フォルトの顔が驚愕に歪む。
彼を飛び越え狼や猪のアンデッドが襲ってくるが、遅い。
・・・斬ッ!!
一閃、フォルトの胸を横に裂く。
「うっ・・・」
フォルトは呻き、私は引き裂かれた体の頭側を更に刻みつける。
もちろん魔素の乱流を送り込みながら。
よし、再生が上手く機能していない。
・・・いや、まさかこれで終わりか?
そう思って遅れて来たアンデッドたちにフレアの火魔法を叩き込んでいると、流石にフォルトが復活した。
影から。
私はその魔素の流れを見逃さなかった。
フォルトの本体は影なのだろう。仮にそうでないとしても、元の形態はともかく、少なくとも能力の関係で影が本質になっている。
ならばやることは絞られる。
「これで、どうかな?」
私は両手を地面に・・・教会の床を埋め尽くす影に添えた。
体を斬り裂いた時とは比べ物にならない驚きと焦りの表情を浮かべ、フォルトは叫んだ。
「貴様!」
私は影の魔素を侵食し “本体” を探す。
残党のアンデッドが飛びかかってくるが、所詮烏合の衆だ。片手間の風魔法とフレアの火魔法で消していく。
そして形を成しているフォルトの "仮の本体" へと探査の手を伸ばす途中、影の中で私はその意識に遭遇した。
「・・・決着だね」
仮の本体が諦めとも憎悪ともつかない表情で私を睨む。
「こんなにあっさり終焉が来るとはな・・・」
表層の呟きは無視して、私は見つけ出した "その意識" に集中する。
さっきペイネが「分かっちゃった」と言った意味が私にも分かった。つまり、私はフォルトへの侵食の副産物として、影魔法の使い方が直感的に分かった。ペイネが分かったと言った魔法と同じかまでは分からないけれど、お互いに魔法を掛け合えば同じことだ。
そしての本体を注視したことでもう一つ知れたことがある。
「・・・そうか、アンデッドは分裂して生み出してたんだね」
フォルトの顔が更に歪む。もはや隠し立てはできない。
いやしかし、個体の同一性の謎は解決できていない。
「どうやって復活させてるの」
「言っても仕方あるまい」
「魂?」
「そんなものは無い、と思うが分からんな」
「そう」
教えてくれる気は無いらしい。
長々と会話を続ける気も無いけれど。
「じゃ、さよなら」
・・・私は影の中に潜んでいた本体を一思いに拡散させ、残党を相手しながら再びフォルトが形作られないか見張った。
いつまで経ってもフォルトは復活せず、魔物たちも復活しなくなった。
「ペイネ!」
ディモンは相手していた 2 体を丁度倒したところで、ペイネはネフを倒せていない。
幸いと言うべきだろうか?
「任せてもらっていい?!」
「ええ」
立ち位置を代わり、私は再びネフと対峙する。
「フォルトは倒したよ。分かるでしょ」
「そうらしいな」
「どう、私と来る気になった?」
少しの間を置いてネフが答える。
「我の全力を受け止めてみせたなら」
・・・そうこなくちゃね!
ネフは無防備に溜めを作り、渾身のブレスの構え。
「来い!受け止める!」
私は風の形態すら取らない魔素の障壁を眼前に展開し、更に魔素を刀に宿して衝撃に備える。
ネフは両前足をがっつり構え、教会の背景が霞むほどの炎を口から漏らしている。
ゴゥァアッ!!
迫る火炎放射を真正面から受け止めるが、思いがけず威力が高い。
いや、そうじゃない。なんらかの魔法が物理的な圧力を伴って炎に追従している。
炎が前面に立っているせいで魔法全体を直接レジストできない分、障壁に力を注ぐ。
「おらァ!そんなもんかぁッ!」
ついつい語気を強めつつ、ブレスに対抗する。
・・・十秒ほど火炎放射を耐え切ると、一気にブレスは弱まりネフの攻撃は止まった。
ゲフッと吐いた残り火と共に、完全にネフから戦闘の意志が落ちたのが分かる。
「私の、勝ちだね」
ネフは首を垂れ、敗北の事実を静かに受け入れた。
「そのようだな・・・お前に従おう」
私はネフの言葉に満足する。
「お前じゃなくて、クレア=ソロジーだよ」
こうして私たちはアンデッドの王を倒した。自称だったため確証はないが、広がっていた "影" は霧散したままなので間違いないだろう。
おそらく今後アンデッドは個体ごとの本来の再生力を残すだけで、"復活" は無くなるはずだ。
「ねぇソロジー。"オラァ" なんて言うんだね」
「え?そんなこと言ったかな」
「私も聞いてた。でも、そんなに意外ではないかなぁ」
それはそれでどうなんだろう。
てへっと笑ってごまかし、私たちはアンデッドの断片を完全に燃やし尽くしてから教会を後にした。
***
その日、城下町に踏み込んでいた 2 つのパーティは共に異変に気付いた。
それまで倒しても倒しても次から次へと復活していたアンデッドたちが、倒したらそのまま復活しなくなったからだ。
"夢幻" の 4 人は互いに、きっと "再来" が攻略したのだろうと考えた。
それにしても早い解決だった、と思わなくもないが、他に考えられる理由がない。
アンデッドが倒せるとなるとパーティの方針も変わってくる。
ダイナダの光魔法で浄化する、ダンデの熱魔法で溶かし切る、といった通常のアンデッド対策が有効なら、城下町のアンデッドの強さはせいぜい荒野前半のゴーレム程度であり、先を目指せることになるからだ。
問題はアンデッドを倒すメリットが乏しいことと、石壁を越え左回りに進んだ先にあった "森" の魔物が異常に強かったことだろうか?ダンジョンの傾向を考えると、森に出現したミノタウロスや、復活込みのアンデッドがこの層の強さの基準なのでは、と云う懸念がある。
この仮定が正しいとすると、進んだ先でいきなりミノタウロス並みの魔物に挟まれて行き詰まる可能性があるのだ。
「さて、どうするかな?」
一度壁まで引いたところでミクストがメンバーに問う。
「とりあえず一回戻らない?食料の問題もあるし、もしかしたら南ベースで再来の情報を得られるかもしれないよ?」
「俺様もダンデに同意だな」
ロウに続いてダイナダも頷く。
「わかった。じゃあ、一旦戻ろう。ずっとこの陰気な中で過ごすのも気が滅入るしね」
パーティの意向が固まり、夢幻は一度南ベースへ帰還することを決めた。
もう一つのパーティ "再来" は、アンデッドが復活しなくなった原因について幾つかの可能性を考えた。
夢幻が攻略した。アンデッド復活の原因が自壊した。その他のパーティが解決した。
「いずれにせよ、情報が乏しいまま奥に進み過ぎるのは躊躇われるよね。人為的に解決されたのなら、きっと "ひと段落" と考えてそのパーティも一度帰還するだろうし」
ノトのこの考察には誰も意を唱えず、再来も南ベースへ戻ることになった。
二つのパーティが帰還を選択した頃、デイブレイクの 3 人と 1 体は町に留まっていた。
「結局あの復活はなんだったの?」
「あれは我の闇魔法の応用だと思われる」
「どう云うこと?」
「我の闇魔法は記憶に関する要素を兼ねる故・・・」
「影の範囲は・・・」
「アンデッドの王って・・・」
「いつから・・・」
彼らは再び教会に戻り、3 人がネフを質問責めにしていた。ネフとしてはクレア擁するデイブレイクに与した形であり、情報提供を拒むつもりは無い様子だ。
しかし、アンデッド軍の全容やフォルトの魔法については分からないことも多いらしい。
「ところでクレア、ネフはこんな見た目なわけだけど」
ディモンが当然の疑問を投げる。
「え?ああ、私の影に入ってもらおうと思うんだけど」
「「?」」
二人分の疑問符を受けてクレアが答える。
「フォルトの影に干渉中、倒れたアンデッドが影に取り込まれた瞬間があったんだけど、その時にその・・・何て言えばいいの?影に吸収する魔法?がなんとなく分かったんだよね」
「ちょっとよく分からないんだけど」
ディモンは、また魔素操作系か?と思いつつ話の続きを待つ。
「ペイネは影魔法、どう思う?」
「そうね・・・私たちの影があくまで光の副産物とすると、魔法の影は擬似的な感じかしら。ネフと一緒にいたリビングアーマーの魔法も、結局は影の様な干渉魔法だったし」
「じゃぁ、フォルトの影が特殊だったのかな。あれはそれ自体が実体みたいなところもあって、その実体にアンデッドを組み込んで運用する仕組みっぽかった」
「・・・うん?・・・クレアも "影" になれるってこと?」
「それはやってみたけど無理だった。今ある "この体" に "私" が馴染み過ぎているとか、理由はいくつか考えられるけれど」
クレアは物は試しとネフに向け影を広げる。影に触れたネフは何かを察し、そのままスルスルと影に呑み込まれてしまった。
「ねぇ、それ、私も取り込めるのかしら?」
クレアはペイネにも影を伸ばす。
「無理みたい。なんなら、ネフ以外のモノは無理そう」
「そうなんだ。ディモンより先に空間魔法が使える様になったのかと思ったわ」
「私もそれを期待した節があることは認めないといけない」
「僕の立場・・・」
「影そのものがもう一つの本体的な状態になってるから、このまま喋れるね」
「我も驚いた。これは確かにフォルト様の魔法に似ている」
「出すのは取り込む時の逆でやってみるけど、多分フォルトの "復活" は別の魔法なんだろうな」
そう言いつつ、クレアはネフを再び影から出した。
「ねぇソロジー。フレアとネフの 2 体分も制御することになるけど、大丈夫なのか?」
「まぁ、なんとかなるでしょ」
「そうね、クレアだもの。大丈夫じゃないかしら?」
楽観的な女性陣とは対照的に、ディモンは一人リーダーを心配するのだった。
「ところで、これからどこへ向かうのだ?我は別段希望も無いが」
「あぁ、それなら決めてるんだ」
「え、そうなの?クレア」
「うん。町の探索だね。ネフはこの城下町のこと、どれくらい知ってる?」
「そうだな、町の端に森と農耕地があることと、深部方向ではゴーレムが居座っていることくらいか。元々はこの辺りもゴーレムの縄張りだったらしいが」
「へぇ。ナイトゴーレムみたいなものかな?まぁそういうことで、とりあえず森や農耕地を目指そう。多分そこにこの層本来の魔物が生息しているだろうから」
リーダーの一任でデイブレイクは探索続行の方針となる。
元々長丁場を予想していたアンデッド攻略が少し早めに終わり、実質的に弱体化したアンデッド地帯なら今後は消耗も少ないと予想される。ならば、森で食料も現地調達が可能だろうと予測しての決定だった。
ネフはピクニックにでも行くかの様な足取りで魔物の森を目指す 3 人に新鮮な気分を覚えつつ、影から出て彼らの後を追った。
「・・・時にクレアよ」
「何?ネフ」
「ゴーレムに括られたあの下半身は何なのだ?」
「あーアレね・・・そのうち調べるから、またその時に」
オブジェと化した下半身を肩車するゴーレムに違和感を覚えながら。




