034 復活
*** ハル ***
3 日目の野営を終えた私たちは予定通り一度石壁に戻り、今度は入念に食糧の準備をして再び影の領域に足を踏み入れた。警戒しつつ行くことになるので、偵察だった前回同様、普段の半分程度の速度で移動する。
行ける所まで・・・影の中心まで行くのが今回の目標だ。
前回の探索ではあまり障害が無かったこともあって、今回は建物や町の構造にも注目しつつ進むことにした。町の成り立ちなどの手掛かりになるものが見つかれば、何かしら良いことがあるかもしれないと思ったからだ。
石壁近くでは特徴のある建造物は無かった。せいぜい通りの開けた場所に枯れた噴水があったくらいか。
何も分からないままだとしても、それはそれでいい。言ってみれば気分の問題だから。
進むこと 5 日。アンデッド滅却のパターン U にも慣れてきた頃、その小隊が現れた。
小隊の中でも装備した剣や防具から言い知れない威厳を感じる隊長らしきスケルトンは、ペイネの風に抵抗し、幻影に紛れたはずの私たちを向いて口を開いた。
「お前たちがわたくしの敵か?」
スケルトンは剣を抜き構えると、部下らしき他の隊員に何やら指示を出して離れさせた。
「よろしい。剣を交えようではないか」
ディモンが剣を構えそのスケルトンと対峙する意思を示したので、私とペイネは目配せして周りの相手をすることにした。
パターン U の導入にあたるペイネの風魔法が跳ね返される。離れてじっとしているスケルトンが、ペイネに対抗している風魔法使いだろうか?
・・・魔素を見るにそうなんだろう。
ペイネの魔法に抵抗するアンデッドがいることよりも、今はその影響でアンデッドの数が減っていないことが問題だ。どんどん小隊の先頭が近付いて来る。
いやむしろ都合がいい。動かない風魔法使いの効果範囲から離れたアンデッドが私の風魔法で高々と浮き、そしてフレアの火魔法であっけなく焼かれた。
消滅した仲間を見ていた他のアンデッドたちは流石に突っ込んでくるのをやめ、風魔法使いの方へ後退りする。
どうやらこの武器持ちのアンデッドたちは魔法の実力もかなりのものらしく、距離を取った後には魔法を放ってきた。火魔法、水魔法が幾つかと風魔法が一つ。
私は風魔法でそれらを掻き消し、どう切り込んだものか考える。
後ろの風魔法使いは小隊の中でも魔法に長けているのだろう、ペイネがかかりっきりで抑えてくれている。
ディモンは・・・あれ?押されてる?
とりあえずディモンの方は一旦無視しよう。こっちを片付けないことには動けない。
「ペイネ、動ける?」
「今は難しいかなぁ」
「私が代わったら?」
「動ける」
「じゃぁ後ろのから。バフかけるから。二重で」
「復活は?」
「復活より早く他を倒す」
「わかった」
話はまとまった。
風魔法使い以外から放たれる魔法は大した脅威ではなく、片手間の風魔法で対処できる。
ペイネに身体強化を施し、合図と共にペイネは風魔法を中断、自分に身体強化を施す。
均衡状態だった風がゴウッと一陣吹き抜けると、ペイネは私の風魔法で加速をつけて一気に魔法使いのスケルトンへと飛んだ。少々の距離をものともせず数秒で他の隊員を飛び越え魔法使いの背後をとると、研ぎ澄まされた風の刃がワンドから放たれる。
魔法使いは振り返り、一瞬遅れて風魔法で防ごうとするが、それで防げるほど私たちの攻めは甘くない。
ペイネに続いてすぐさま飛んでいた私は魔法使いを挟んでペイネと反対側を陣取り、がら空きの背後に刃の乱流を放った。
小規模な嵐にも見えるそれはスケルトンを切り刻み、ふと思いついて私は細切れになりゆくソレを高々と空に撒き散らした。
魔法使い復活まで何秒だ?悠長にしてはいられない。
即座に残りのアンデッドに風魔法を放つペイネに続いて、私も風魔法を放つ。
私は舞い上がった彼らの下を駆け抜けフレアの制御可能圏内に戻り、浮き上がったアンデッドにフレアから炎を放った。
魔法の扱いに関しては他のアンデッドはやはり数段劣っていたようで、水魔法や風魔法を放った者もいたがその全てを飲み込んで炎は彼らを焼き尽くした。
後は魔法使いの復活に備えるのみ。ディモンはどうなった?
「クレア!」
ペイネの呼ぶ声と、私がその光景を目にしたのは殆ど同時だった。
スケルトンの剣がディモンの剣を弾き飛ばしたのだ。
「ペイネ!任せた!」
私はディモンへと駆け出す。
ディモンは左腕の盾で私が駆けつけるまでの十秒足らずを凌ぎ切り、私の加勢が間に合う。
「ほう、なかなかどうして、若いわりにやりますね」
スケルトンには余裕が感じられる。というか、こんなにはっきりアンデッドが喋るのを聞くのは初めてだった。
「あなたも元は冒険者だったの?」
何の気無しに聞いてみる。
「そうかもしれませんね。しかし、そんなことはどうでもよろしい。わたくしにとって大切なことは剣を交えることであり、全てはその中で語られるのです」
「アンデッドは軍なのかな。あなたは強い方?」
「そう易々と情報を漏らすわけもなく。お分かりでしょう?」
そうだな。たった数秒の会話で、もうわかった。
このスケルトンは武人だ。強さをひたすらに求めるタイプの。
「勝って教えてもらうことにする」
私の一言に、表情のない骸骨が笑ったような気がした。
一度大きく距離をとり、ディモンに回復と身体強化を施す。スケルトンはそれを止めるでもなく見ている。
「剣、拾ってきてね。私がやられないうちに」
ディモンは頷き、剣を探しに走る。
私は身体強化を自分に施す。
ペイネの方を見遣ると魔法使いが復活しそうな気配があった。
「待たせたね。やろうか」
刀を抜き、私はスケルトンと対峙した。
私の刀の扱いは完全に我流だ。剣道をやったことはないし、もちろん読み漁った漫画の知識で刀が扱えるようになるわけもない。
つまり、ダンジョンの魔物相手に培った技術と云うことになる。
"抜刀術" とか "何々術" だとかを使えたら効率もいいしカッコイイんだろうけど、生憎そんなものは無い。
一応剣を使っていた時とは違って、刀身に負荷をかけ過ぎないよう、受け流しからの返しの技術に重きを置いてきたつもりだけれど、熟練のスケルトン相手に通じるかどうか。
向かい合うこと数秒、私から動いた。
近くに寄せたフレアに火魔法を使わせるが、スケルトンは風魔法でそれを減弱させる。魔法も使えるのか。
私はカマイタチを放ちながら接近し、風の足場で背後を取ろうとするものの、合間合間に放っているフレアの火魔法にも対応しつつスケルトンは私から目を切らさない。
ついに射程に入ったと思った瞬間、スケルトンは初動を感じさせない一歩を踏み込み、私に斬りかかった。
ビュ!っと音を残す剣筋をなんとか避け、刀での応戦に移る。
剣、刀、剣、刀。
私たちはお互いの攻撃を身に受けることなく数合交え、たったそれだけの時間がやけに長く感じた。
そして直感的に分かった。多分この勝負は平行線のまま、だらだらと持久戦になってしまう。
同じことをスケルトンも感じているだろうと、私は勝手に推測する。
私はスケルトンの攻撃を、体の動きだとか剣筋以上に "魔素の動き" で見ている。身体強化は殆どされていないが、それでもスケルトンの動きを補助するように魔素が動くのがわかる。
一方でスケルトンは剣士として未熟な私を相手に、攻撃が当たらないまでもその剣先を御するのは容易いとでも思っていることだろう。
実際、純粋に武器のみでの戦いになれば数秒も保たないと思う。
そういうわけで平行線を辿る未来が既にみえてしまった。
ディモンもまだ戻る気配がない。どうしたものか・・・。
そう考えていると、向こうから剣を下ろして声を掛けてきた。
「惜しいものです。その先を知らないとは」
「どういう意味かな」
「わかるだろう」
わかるけど。
「・・・レドラがまだとなると、引かねばなりませんね」
「そこにボスでもいるの?」
「いずれわかること」
そしてスケルトンは剣を納めてしまい、「わたくしの名はガレル。また、いずれ」と言い残して町の奥へ歩いて行ってしまった。
ペイネの方へ意識を向けると風魔法使いは復活の気配が止み、そのまま復活することはなかった。
*** ウルゾ ***
10 日程経ってからガレル様は帰還された。
レドラ以外の隊員はいなかった。
「ガレル様、いかがでした?」
「中々どうして、逸材のようですね。生前を遥かに上回る私の技量に対抗できるとは」
ガレル様は嬉しそうにしている。逃げ帰った、と言うわけではないのだろう。そうならもっと違う態度だと思う。
「ひとまず、軍の再編とまではいかなくとも、強化は必要ですね」
俺もそれは思っていた。
これはダンジョンに限った話ではないが、俺の具体性の無い経験則に照らせば、大体の事柄はある一定のレベルを超えると、そこに至らない者では数で代替できなくなるのだ。
「フォルト様とも相談して来よう」
そう言ってガレル様はすぐにアジトを出て行ってしまった。
「レドラはどう思った?」
レドラは風魔法を使うスケルトンで、俺は勝手に俺と同じくらいの強さだろうと見積もっている。
「・・・」
そうだった。こいつは無口だった。
「うん、か、ううん、でいいから」
「うん」
「強かったか?」
「うん」
「ガレル様は苦戦してたか?」
「ううん」
「あいつら、すぐにここまでくると思うか?」
「うーん」
「フォルト様とはどうだと思う」
「うーん」
「そうか、ありがとう」
レドラもアジトを出て行った。
他の下位部隊から人員を拾い上げれば小隊を再編できるが、良い機会なのでガレル様の下につけるよう頼むことにしよう。ガレル様の小隊も壊滅したようだし、不都合はないだろう。
それにしても風魔法か。なんかいい案が思いつけそうなんだが・・・。
アジトでだらだらしながら考えること一日、俺は対抗策を考えるのを諦めた。
そもそもあの風魔法に対抗できるだけの魔法を使えないことにはどうしようもない。例えば武装を重くするという案も、こちらの機動力が落ちてしまえば結局根本的な解決にはならない。
とりあえずガレル様の帰還を待つことにする。
数日後、フォルト様の所から戻ったガレル様は部隊を引き連れていた。
ううむ?俺の勘違いでなければ、元の部隊そのものに見えるんだが。
「ガレル様、彼らは?」
「もちろん、私の隊員ですが」
見間違いじゃなかった。
「皆焼かれたと伺った気がしたのですが」
「フォルト様の力です」
そうですか。そりゃすごい。
色々と考えていたのが急にバカみたいに思えてきた。
どうやったのかはわからないが、結局復活の噂は本当だったのだ。
そうであれば俺がウダウダ考える必要などなく、事実上無限と言える数の有利だけで勝てる。
「お前もフォルト様を訪れてみては?場合によっては部下を再びこの世に連れ戻せるでしょう」
条件付きなのか。
「・・・わかりました。私もフォルト様を訪れるとします」
「急いだ方が何かと都合は良いでしょう」
「左様ですか。できればどなたかに案内を頼みたいのですが」
俺の申し出を聞き入れて下さったガレル様から部下を一人案内に借り、俺もフォルト様の居城を訪れた。
フォルト様は教会と思しき建物に居を構えていた。
礼拝堂の中、整然と並んだ信者用の長椅子の一つにフォルト様は座っていた。
「お初にお目にかかります、ガレル様の配下が一人、ウルゾと申します」
フォルト様はチラッと俺を振り返り、何だ、と小声で返される。
「私の部下を復活して頂きたく、お願いに参りました」
「あぁ、そういう」
フォルト様はおもむろに席を立ち、俺に近付くと右手を足元に翳した。
「ちょっと減ってたら、それはそう云うもんだと思って諦めてくれ」
そう言うと俺の影からいくつかの影が立ち上り、やがてはっきりとした形になった。
「おぉ、お前たち・・・!」
人数こそ減っているが、現れたのは間違いなく俺の部隊の隊員だ。
「フォルト様、ありがとうございます。きっとお役に立って見せます!」
王たるフォルト様の力を目の当たりにし、忠誠の言葉が自然とこぼれる。
「まぁなんだ、もう少し軍と云うものを学んでおくべきだったかな」
フォルト様が誰にともなく呟かれる。
「と、言いますと?」
「分かってるだろ」
そう言ったきり、フォルト様は再び長椅子に戻り、ひらひらと手を振って俺の退席を促した。
俺にはフォルト様の力の根源は理解できず、しかし確かに強大なものを感じ、これまで大して期待していなかったこの軍への帰属意識が高まるのを感じた。
そのことをガレル様に伝えると、ガレル様は何を今更、と一笑された。返す言葉もない。
「さて、あのパーティは遠からずやって来ることでしょう。さすがに一度再編しましょうか」
ガレル様はそう言いつつも、既に隊員を各小隊に派遣し、大隊編成の改変に着手しているとのことだった。
週 4 回くらい土曜日が欲しいです。




