033 昼行性
*** ハル ***
レイドレからダンジョンの城下町に戻ってきた。
装備の一部が新しくなったことで機動力と防御力が少しずつあがった。
私の名前をもじって "フレア=ロージー" と名付けた我らがゴーレムの装備も、次回ハコバスさんの店に行った時には新調される予定だ。火魔法を使うのでフレアとした点も含め、いい名前を付けられたと思う。
ペイネも新しいワンドの調子が良い様子でご満悦だ。魔素操作の精巧さが違うのだとか。
「クレアも一度使ってみたらいいよ。使ってるとワンドの中に魔素の道筋みたいなものができて、自分の魔法に馴染むのが分かるんだけど、その質が良くなったの。クレアの場合、セーン文字の様に固定されるんじゃないかしら?」
そういうことらしい。
さすがにセーン文字の固定まではできないと思うけれど、今度私もレレッズさんに頼んでみようかな?ワンドの質次第で効果に違いがあるのかもしれないし。
アンデッドの行動範囲のマッピングは順調に進み、戻ってから 2 週間程で大体把握した。
一応簡単に作った地図上では、石壁から離れすぎない場所に限るけれどその範囲が弧を描いていることが分かる。カーブが緩いから分かりにくいが、きっと外周を辿れば円形なのだろう。
・・・なら中心にアンデッド復活の秘密があるのかな、と想像する。
まだ奥に進んではいないけれど、いずれはそこを目指すことになる。
アンデッドとの戦闘で新しく気付けたことは多くないものの、幾つかある。
まず部隊ごとに格というか強さが違うと云うこと。多くの部隊は構成員に種族差があっても一体一体は大体同じ強さで、けれどたまに一段階強い集団がいる。なんなら一度、二段階は強い部隊に遭遇して、指揮官らしきスケルトンは私の聞き間違いでなければ人語を呟いていた。
次に、復活の際は必ず一度影に吸収されると云うこと。これはとても重要で、影から相当浮かせて灰すら残さず焼き切ってしまうと復活しなかった。対処法が分かったなら進んでみればいいのでは?とも思ったけれど、マッピングを優先したかったことと、時間が経ちさえすれば結局復活できる可能性が捨て切れないので、ひとまず保留にした。いつの間にか厚くなったアンデッドの包囲網に捕縛される・・・なんて御免だから。
何だかんだ言ってみたけれど、多分、進むことはできる。3 人ともそう思っている。
私たちは今後の方針を相談する。
「僕が霧、ボウェルが風、ロージーが火ってことでいいんじゃないかな。それ以外に候補が思いつかないけれど」
「クレアが風でロージーが火のパターンもあると思うわ」
「それはさすがにソロジーがキツイんじゃない?」
「そうでもないよ」
「え、そうなの」
「うん」
フレアのことはみんなフレアとかロージーとかその時々で違って呼んでいるけれど、なんとなくそのうちフレアに統一される気がする。
「戦闘はともかく、食糧調達が問題よ。さすがに何週間も保存食だけってなると、保たないわ」
「そうだね。往復でせいぜい 3 週間くらいかな?そのための準備にも数日は必要だろう」
探索期間は穀物系の保存食次第と言える。野菜は森でそれらしい植物が、肉は魔物の数だけあるわけだけど、町にはそのどれも無い。
「アンデッドも食べれたらいいんだけどねー」
「それはないね」
「それはないわ」
・・・まぁ、ないよね。
「例の影の領域に入ってしまうとどうなるか見通しがつかないから、やっぱり数回は小遠征の形にした方がいいんじゃないかしら?」
ペイネの言うとおり、それが良さそうだ。
「じゃぁとりあえず 3 日進むことを目標に行ってみようか」
「夜が不安だけど、行ってみないことにはね・・・。僕もそれでいいよ」
一日目。アンデッド小隊を焼き尽くすこと 5 回。
想定したよりもアンデッド部隊は少なく、遭遇頻度が荒野の魔物と同じくらいだったことには安心した。
それから例の影については、部隊が存在するところ以外は密度がかなり薄く、私たちに何かしらの危害が加わっている様子もない。その正体は分からないけれど。
夜は私が見張りに立つ。今日の様子次第ではここで引き返すことも検討しないといけないだろう。
そう思って警戒するが、中々アンデッドはやってこない・・・。
そしてついに朝までアンデッドが襲って来ることはなかった。
数回遠目に偵察らしきアンデッドの気配を感じたのと、一度狼型のアンデッドが単体で襲ってきただけだった。
「あら、来なかったの」
「うん。どうしてだと思う?」
「ダンジョンの中だとアンデッドも生態が違うとか?」
どうなんだろう。今日だけかもしれない。
「とにかく、3 日は進んでみよう」
結局 3 日間ひたすらアンデッドの部隊を滅却し続けただけで、他に変わったことはなかった。
途中、おそらく強かったのでは、と思われる小隊がいたくらいだろうか?思われる、と言うのは、やけに風格のあるその部隊も風で浮かせてからの火炎滅却で対処できてしまったから。
油断が良くないのは分かっているけれど、案外楽に行けそうだとついつい頭の片隅で思ってしまう。
*** ウルゾ ***
俺はガレル様の配下の一人、スケルトンのウルゾ。
ダンジョンで死んだ冒険者だと云うことは覚えているが、その他に覚えていることはない。
今はアンデッドの部隊を一つ指揮している。
ガレル様がフォルト様から預かっているのは武器持ちのアンデッドばかりで、それだけに人型が多い。俺のように。
ガレル様は武器持ちの中でも群を抜いて実力と知性が高く、直下に数人、俺のようなそこそこのヤツが補佐についている。
フォルト様を総大将とする軍隊、その大隊の一つをガレル様が束ねているわけだ。
軍隊と言っても役割がはっきり決まっているわけじゃない。
そのうち地上に打って出るという話だけは噂で聞いているが、今はとりあえずブラブラして、小隊として動く意識だけを植え付けているところ・・・って感じだろうか。
そんなわけであんまり他の隊とも交流がない。
ただ、つい最近になって戦闘があったと聞いた。端っこに配属された小隊らしい。
こんなことは今まで一度もなかったから、俺も珍しいもの見たさに隊を引き連れて行った。
話半分に聞いていた “死んでも死なない” というのを体験してみてもいい。
そんなことを思って端の方に向かうこと数日。
俺の小隊も遂に冒険者パーティに遭遇した。
小隊は端に配置されるほど知性も落ちるから、情報の正確性など有って無いようなものだ。五人組と聞いていたが 4 人だった。
とりあえず俺は後ろで様子見を決め込み、部隊を送り込む。
俺の部隊はガレル様の大隊の中でも質は上位だと思う。部隊には魔法剣士も少なからずいて、連携こそ皆無だが実力は中堅以上の冒険者が集まった感じだ。見た目は禍々しいが。
それなり程度の冒険者では、小隊規模で集まった俺達に勝てないだろう。
・・・そう思っていた。少なくとも交戦前は。
交戦直前にパーティは姿を眩ませ、気付いた時には隊員の殆どが宙に浮き、そしてそのことに皆があたふたし始めた時には火炎が襲いかかった。
離れた所から一連の流れに呆気にとられていた俺は、浮いたまま灰にされた隊員が噂と違い復活してこないことだけ確認すると、一度も振り返ることなくアジトへ駆け出した。
数日でアジトにたどり着くと、早足でガレル様の部屋に向かう。
「ガレル様!」
「なんですか、ウルゾ。珍しく慌てて」
「冒険者と接触してきましたが、相当の手練れです。我らが軍では・・・少なくとも "ウェポンズ" ではガレル様の小隊しか太刀打ちできないと思われます!」
「そうですか。その根拠は?」
「我が小隊は敵を正確に視認する前に、後方から指示していた私を除いて火魔法で灰も残さず倒されてしまいました」
「それで?」
「私の隊もガレル様の隊ほどではないですが、普の冒険者パーティなら一蹴できる程度の力はあったと考えています。それが、一瞬で壊滅したのです。私と同程度の者の部隊でも同じ結果になるでしょう」
ガレル様は静かに先を促す。俺と同様スケルトンだからという理由の他に、生前の達人気質とでも言うのか、静かな表情の中に全ての感情を孕んでいるようで、何を考えているか分かりにくい。
「私の隊を含め、ほとんどの小隊は例のゴーレムとも大して戦っていないため実践経験も乏しく、同じ結果になるのは目に見えています。さらに言えば、フォルト様が仰ったと言う "復活" もそのパーティの攻撃では起きませんでした。これでは普通の魔物のように一方的に数を減らされるだけです!」
ガレル様はしばし考え、剣を抜き構えつつ答えられた。
「つまりそのパーティは幻影魔法で身を隠し、風魔法で小隊員全てを浮かせ、火魔法で直接的な攻撃を行ったと、そう言うことですね?」
「そ、そうです」
「もう一人は何をしていたんですか?」
言われてみれば、これでは多く見積もって 3 人しか手を出していない。
「あぁ、いいです。おそらくは補助、回復、直接戦闘員、そのどれかでしょう」
「すぐに引き返したもので。面目ない」
「いえ、引き際を見誤らないことも肝要ですから」
ガレル様は続ける。
「さすがに先遣とは言え、あまりに弱いと冒険者たちにはお試し期間を与えたような形なってしまったと云うことですかね・・・」
俺は復活がどのように成されるのかよく知らないから、意見できるような立場にもない。
「では、行ってみますか」
「は?」
「わたくしも見学に行ってみましょう。どうせいずれは剣を交える可能性があるのです。ならば、早いか遅いかの違いだけですから」
そう言うと、ガレル様はサッと部隊を召集し、その日の内にアジトを出て行かれた。
*** ガレル ***
ウルゾの報告は退屈な日々の潤いそのものでした。
剣に人生を捧げたは良いものの、ダンジョンで散らした命。スケルトンになってしまいましたが、むしろ体が軽く、この再誕には感謝しかありません。
しかし、どうにもわたくしほどハキハキしたアンデッドは希少なようで、どうあがいても勝てそうにない王たるフォルト様を除けば、今日まで、対等足り得るのはナイーゲルとユニバーサの二人だけでした。
そんな彼らとてフォルト様の下では同僚。剣を交えるわけにいかないのが辛いところ。
せっかくお互いアンデッドだと云うのに。
それに、フォルト様のおかげで本当の意味での不死すら与えられていると云うのに。
町の端にある森や農耕地に行けばそれなりの魔物もいますが、どうにも対人戦を求めたい衝動は生前の気質ゆえでしょうか。
さて、わたくしの記憶が正しければ、この町は冒険者未踏のはずです。
つまりウルゾの言うパーティは荒野を超え、さらにその先のどこかにあるこの城下町までたどり着いたことになります。
ウルゾがいつの時代を生きていたアンデッドか知りませんが、軍の中で荒野の先を知る者がいないことから、いずれにしてもそのパーティは生前のわたくしたち以上の実力を持っていると考えるのが妥当でしょう。
ウルゾは小隊の全滅に焦っていましたが、特におかしい結果とは思いません。
スケルトンを中心にゾンビやリビングアーマー等、武器持ちを束ねるわたくしですが、アンデッドになったことと強くなったかどうかはあまり関係がなく、せいぜい体が軽くなったり体に囚われなくなったり、あるいは条件付きの不死性を得たくらいです。
昼夜を問わず活動できることも利点ですが、フォルト様の魔力消費の兼ね合いもあり、配下の行動は基本的に昼だけと決まっています。
他にはアンデッドになったことで食料問題が消えたため、大規模な行動が可能になった点も生前と異なるでしょうか。
いずれにせよ、ここまで潜れる熟練冒険者パーティならば、"多少腕に覚えがある" 程度の冒険者だったアンデッドを苦にすることの方が、むしろ不自然な感があります。
もちろんフォルト様による復活はまた別の話で、対処が難しいでしょうが。
・・・だからこそ、ウルゾが報告したパーティには興味があります。わたくしの剣の相手として。
できればこの剣で交わり、語り合いたいものです。
さて、いかがでしょうか。




