030 荒野は食料調達所
*** ハル ***
ゴーレムが加わったダンジョン探索は案外順調だった。ゴーレムを盾兼囮に、ペイネをアタッカーに配置するパターン G にも慣れてきて、私のゴーレム操作も、きちんと盾役っぽいことをさせられるくらいには上達した。
ナイトゴーレムが元々備えていた自己修復機能は、仕組みは分からないけれど相変わらず健在だ。おかげでゴーレムを気兼ねなく最前線に送り込める。
魔法をどうやって使わせるのか?という問題も、これが正しいとは限らないけれど一応解決した。
ナイトゴーレムの魔法はゴーレム自体ではなく "あの影" が発動していたのか、それとも影は単にエネルギー源で影の接続がゴーレムの魔法発動の起動スイッチだったのかは分からない。
分からない事は考えても仕方ないので、私単体で可能な属性魔法であるセーン文字の応用を模索することにして、ふと思い立ってゴーレム内にセーン文字を描き火魔法を発動してみた。
・・・ゴーレムから放たれた火魔法は描いたセーン文字の限界を明らかに越えた規模で、交戦していたトレントを一撃で木炭に変えてしまった。危うくペイネが魔法の余波で火傷しかけた。
私のセーン文字に対するこれまでの認識を良い意味で裏切られたけれど、要因が分からないのが気持ち悪い。
試しにもう一度ゴーレムを介さず同じ魔法を起動してみても、ゴーレム経由ほどの威力はない。謎だ。
火魔法以外だと水や風は全然ダメだったけれど、土魔法はゴーレム経由で威力が増大した。
テレ〜ンッ!ゴーレムは火魔法を覚えた!ゴーレムは土魔法を覚えた!
そんな気分。
そんなこんなで荒野前にゴーレムの魔法問題が進展したため、荒野では積極的にゴーレムに魔法を使わせた。火魔法はペイネの攻撃との兼ね合いがまだ難しいので、私の風魔法での魔物の拘束をゴーレムの土魔法で補助する形で。
ちなみにゴーレムはセーン文字を永続的に固定する媒体にはできなかった。ゴーレムの体をいじってセーン文字を物理的に形成しても、自己修復で消されてしまったから。ゴーレムの "アイテム化" ができるんじゃないかと期待したのに、残念。
どうやらゴーレムの製作過程を知る以外でゴーレムと魔法の真の関係を解き明かすのは難しそうだ。
グランドドラゴンとフレアドラゴンは数回ずつ遭遇したけれど、流石にパターン G だと機動性を欠くのでドラゴン必殺のパターン D を発動した。装備の質が向上して動き易くなったおかげか、討伐にかかる時間は短くなっていた。
そしていよいよ荒野も終盤。再びナイトゴーレムの待ち構える石壁に戻って来た。
「ナイトゴーレムは前回の方法で撃退するとして、そのまま進むってことでいいのかな?」
「私はいいと思うわ」
ディモンもペイネも石壁を越えることに躊躇いはなさそう。もちろん私も。
「アンデッドの集団がどんなものか、早く見てみたいね」
「そうね、クレアのゴーレムも火魔法を使える様になったことだし」
「正直普通の火魔法使いの魔法より威力があって、僕は始め戸惑ったよ。連携を繰り返したおかげで大分慣れたけれど」
ディモンが言う通り、お決まりの型の繰り返しは個人の武芸に留まらずパーティでも意義深い。幾つかのパターンを繰り返したことで、私としては 2 人の技の精度、範囲、速さ、威力を発動時の雰囲気で大体掴めるようになった。
私たちの場合魔素制御を共通に訓練していることも大きい。一事が万事とまでは言えないけれど、基本は魔素制御にあるので他の動きも予測しやすいというメリットがある。
遠目に見つけたナイトゴーレムは前回同様 3 体で、今回は影に目標を絞って幻影を発動、ペイネが素早く接触すると、やはり影は速やかに離脱した。
さすがにこれ以上 "お供" を増やすと邪魔そうだし、ゴーレムの装備の質はわざわざ回収する程でもないので、今回は停止したゴーレムは完全に無視する。
そして私たちは、気を引き締めて石壁を越えた。
石壁の先は棄てられた町といった様相で、ダンジョンの暗さと相まってちょっと不気味だった。建物はせいぜい 2 階建までで、死角は多いけれど幻惑の森ほどではない。
魔物の気配に注意を配りつつぶらぶらと町を歩くと、さっそく魔物らしき一団が探知に引っ掛かった。
「アンデッドかな」
ディモンに聞く。
「そうだと思うけど、数はそこそこ多いね」
「私の感覚では 32 体だけど、どう?」
「僕も 32 だと思う。一体少し離れてるのが気になるところ」
ディモンとの数合わせは今まで違ったことはない。今回も、離れた一体を含めて一致する。
「それで、どうするの?」
「そりゃもちろん行くでしょ」
ペイネが分かっているだろうにわざわざ聞く。このパーティは基本的にみんな積極的だ。
幻影を纏い囮を配置して、乱戦が前提のパターン C で行く。
パターン C は私とペイネが先制攻撃のカマイタチで一通り切り刻み、残党を潰しに切り込む型だ。幻影に紛れて放つカマイタチを避ける、あるいは防御するのはかなり難しい。と思う。
離れた 1 体を含む 32 体を瞬く間に風が蹂躙し、ゴーレムの火魔法を追加で浴びせ、それも収まったタイミングで集団に駆け寄る。
・・・もう何も残っていないと思って近付いたのに、思いがけない現象が私たちの目の前で起こった。
「さすがにアンデッドと言っても、限度があると思うわ」
ペイネの言葉に私も同意する。
アンデッドは大して時間をかけず、灰塵に帰した事実など無かったかのようにその場に復活してしまったのだった。
「もしかしてアンデッドじゃないとか?僕には見当もつかないけれど」
ディモンの意見も可能性としては捨てがたい。何しろ直前のナイトゴーレムがそれまでのゴーレムとは性質の違った個体だったのだから。
検討の余地しかない。
しかしとりあえず今重要なのは、このアンデッドの軍勢は定説通りの火魔法では倒せない、ということだった。
事実を事実として確認した後、パーティとしての方針は決まっている。私たちはこういう時を常に想定して動いている。
一応リーダーの私。指示を二人に伝える。
「広域魔法を放って撤退!」
私の合図でディモンは幻影を掛け直し、私とペイネは再度カマイタチを、私は更にゴーレムに火魔法を行使させて、集団が復活する前にその場を後にした。
*** ペイネ=ボウェル ***
アンデッドは予想外の再生性を備えていて、パターン C で一気に躍りかかった私たちはアンデッドの復活に出鼻を挫かれた。
ゴーレムの火魔法で焼却から復活までの一部始終がよく見えなかったので、原因もよくわからない。
「私もイマイチ分かんなかったな。地面から復活したよね、くらいにしか」
クレアにも分からなかったらしい。
「アンデッドってあんなに再生力が強いの?」
ディモンが改めて聞く。
「さすがに灰になれば復活しないと思ってたんだけど」
私もそう思っていた。多分、3 人とも同じように思っていた。
「やっぱりダンジョン固有の性質なんじゃないかな?一体司令官みたいなのもいたし」
クレアは少しだけ離れていた人型のことを言っているんだろう。遭遇したアンデッドはほとんど動物系だったので、離れた一体には私も気付いていた。
「司令官を倒せばいいってこと?あ、司令官も火魔法の範囲内だったのか」
ディモンの言う通り、その辺りクレアは抜かりはない。
石壁付近の廃屋でしばらく憶測を重ねていたけれど、情報が少ないから結論付けられない、と云うことで意見が一致した。
その後も探索を続けて、初めに遭遇したような動物系の一団、装備が貧相な人型の一団、装備がまともな人型の一団・・・という 3 種類の集団に数回ずつ遭遇して、パターン C をお見舞いしてからの離脱を繰り返した。
「それで、二人は何か分かった?」
苔の光が変わり日が暮れた頃、私たちは荒野まで一度撤退して野営の準備を始めた。
ダンジョンの中とは言っても基本的にアンデッドは夜行性だと思う。荒野まで引いたのは、他の魔物と違って夜こそ一層警戒が必要だと考えたから。
「ディモンはどう?」
「僕に分かったのはアンデッドは種類に関係なく、完全に倒せたと判断できてから復活までの時間が同じだった、ってことかな。それから、何かしらの "流派" を感じるアンデッドソルジャーが混じってた」
「その場で復活しても、後ろで復活しても?」
「うん」
カマイタチだけで細断したアンデッドは火魔法を浴びる前に消滅、復活してしまう。復活する場所はその場だったり、部隊の後方だったりとまちまちで、一体一体の挙動までは追えていなかった。
さすが斥候、さすがディモン。
「私、気付かなかった」
クレアも私と同じみたい。
「私が気付けたことは、司令官みたいな個体はどの一団も 1 体ずつだったことと、それから司令官はカマイタチと火魔法への反応が、さすが司令官という感じで早かったことよ」
魔素の動きは火魔法に紛れていてよく分からなかった。
「クレアは?」
クレアは珍しく押し黙って、野営用に起こした焚火をじっと見つめている。
「ねぇ、二人はあのアンデッドたちが全部、一体の魔物だって言ったら信じる?」
・・・?どういうことかしら?
ディモンを見ると、ディモンも顔に疑問符が張り付いている。
「アンデッドたちは、どうしてその場以外だと後方で復活するんだと思う?どうして石壁までは来ないんだと思う?それからどうして、火魔法を浴びせるごとに隊列が少し引いたんだと思う?」
私より先にディモンが答える。
「全部同じ理由じゃないかな。つまり、司令官が動ける範囲が決まってて、それで復活も司令官の都合で場所が決まる、と」
「でもそれなら、司令官が倒れた時は?」
「オートなんじゃない?」
「司令官の魔素も他のアンデッドと同じような挙動なのに?」
「え、そうなの?」
ディモンがクレアの見立てに驚く。もちろん私も。
「それってつまり、司令官は司令官じゃないってこと?」
「それは分からないけど・・・」
このことが、"一体の魔物" 説とどう繋がるんだろう?と思っていると、クレアは自説を語った。
「私に見えたままを言うと、軍団の足下はナイトゴーレムの影みたいに魔素溜まりの様になっていて、それがびっくりするくらい広かった。どれくらい広いかと言うと、一団から離れた後別の一団に遭遇するまで、遠目にずっと "それ" が続いてるくらい」
何だか壮大ね・・・。
「それで途中からアンデッド自体はほぼ無視してその足下の影ばっかり見てたんだけど、火魔法を浴びると影はちょっと後退して、影のところにいたけど灰になった魔物は影の後退と一緒に下がるみたいに、復活場所が一団の後ろに回ってたんだ」
ふんふん。
「じゃぁクレアは、その影がナイトゴーレムの影みたいなもので、見えていたアンデッドはナイトゴーレムに相当する存在だと、そう思っているのね?」
「大雑把に言えばそう。でも規模が大きすぎて自分で言ってて疑わしいし、実際何かが違う気もする」
「そんなのさすがに御伽話レベルじゃ・・・」
ディモンの小さな呟きが、焚火を囲う私たちの静寂に妙に響いた。
その後いくつかの考えをお互いに出し合って、結局今のところ予想される理由が 3 通りにまとまった。
一つ目は、アンデッドに見えるけれどアンデッドとはちょっと違う種類の、再生に長けた魔物説。
二つ目は司令官が中枢で、魔物たちの間で瞬時にその役割を代われる説。
最後、あまり考えなくないけれど、三つ目はクレアの言った一体の巨大な魔物説。
翌日からは適宜荒野で休憩しつつ、ひとまずアンデッドたちの行動範囲のマッピングから始めることにした。




