029 5人
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その日、"夢幻" のメンバーは浮かれた気持ちで荒野を駆けていた。
遂にナイトゴーレムを倒せる!という期待がパーティ内で高まっていたからだ。
夢幻はたった 4 人でしかも全員まだ若いにも関わらず、他の熟練パーティと遜色ない実績を上げていた。
パーティは一人が斥候、他 3 人は幻影魔法使いとかなり変則的で、しかしそれはこのパーティの強みでもある。
光の幻影使いダイナダと霧の幻影使いロウは、魔法剣士でもある。熱の魔法使いヨークラメは水魔法もこなし、火魔法と水魔法を駆使する。幻影魔法は魔物の属性次第で見破られ易さに差があるものの、流石に 3 重の幻影を先制された上で抜け出せる魔物は限られる。
そして先制に重要な役割を担うのが斥候のカルサノで、ハーフフットの彼女は種族特性に加えて感覚強化の魔法に長け、更にダンジョンに潜る冒険者としては珍しい "魔道具使い" でもあった。
魔道具使いはアイテムやセーン文字を駆使する冒険者のことで、アイテムの希少性やセーン文字の戦闘応用の難しさから、わざわざその道を極めようとするのは変わり者の証拠と言える。
しかし少なからずそういった人物はいるもので、カルサノもその一人だった。
カルサノがトップパーティで彼女の役割を正しく発揮できている一因には、彼女の育ての親クイナ=ウェッジが魔道具開発の第一人者だから、と云う背景がある。もちろんカルサノが魔道具の扱いに長けていることも前提にあるが、そもそもそうなったのもウェッジによる子育ての環境因子が無視できない。
ウェッジの新作 “氷獄の杖” は 4 本ひとセットの魔道具で、それぞれの杖の先に魔力を溜める玉が付いている。玉で囲った四面体内部を玉に込められた魔力に応じて凍らせ続ける効果があり、任意の 4 点を決め中心となる杖に起動の魔力を込めると発動する。
この効果は回復し続けるナイトゴーレム攻略の糸口として、戦闘不能状態の維持を模索した結果の産物だった。
杖自体は大した時間を掛けずウェッジがプロトタイプを作ってしまったが、出力や魔力効率、適応可能距離、使用時の連携・・・等を夢幻の拠点であるアバレティナン近郊で試す日々が長く、夢幻はしばらくの間ダンジョンを離れていた。
"氷獄" 発動後は起動時の座標で勝手に氷獄が固定されるため、杖を離しても問題ない。そして氷獄が溶けてしまわない様に魔力の再装填が可能な回路もウェッジによって実装済みだった。
凍らせた後ナイトゴーレムを完全に倒せないのか?という問題は残るが、持続的な無力化ができればひとまずは "良し" と夢幻のメンバーは考えていた。・・・と言うより、取り敢えずいい加減ナイトゴーレムの問題を片付けて先へ進みたかったのだ。
道中ボス級の魔物相手に氷獄の杖を使った連携を確認しつつ、氷獄の完成度を高めて石壁まで辿り着いた夢幻。つい一昨日はグランドドラゴンさえその体の半分を凍らせ、無防備になった首を落とすと云う実に満足のいく成果を上げていた。
ようやく石壁の先を拝める!その期待感は最高潮に達し、意気揚々と遠くに見えた石壁へ近付く 4 人だったが、何やら様子がおかしい。
ナイトゴーレムの姿が、何処にも見当たらないのだ。・・・いや、よく見ればそれらしい砂がサラサラと蠢いている。
4 人は呆気に取られつつも、流石に状況を悟った。
ナイトゴーレムは倒されたのだ。それもまだ時間が経っていない。どこかのパーティが文字通り、ナイトゴーレムを塵にしてしまったらしい。
再生の片鱗が見えるのが恐ろしいと思いつつ、折角なので 4 人はナイトゴーレムだったと思しき蠢く砂を氷獄で固め、なんとも言えない気分で石壁へと歩を進めたのだった。
*** ミクスト=カルサノ ***
母さんの氷獄の杖の出番がただの残飯処理みたいになってとても悲しい気持ちだけど、そんな思いは石壁を超えた先で遭遇した戦闘の強烈な印象に吹き飛んでしまった。
石壁の先には半壊した城下町とでも言うべき光景が広がっていて、ダンジョン内で初めて人為的な要素を感じた。むしろこれが人為的でなければ一体何だと言うのか・・・。ダンジョンは魔王かそれ以外の誰かが造ったという説に私は懐疑的だったけれど、噂の信憑性が一気に増したわけだ。
町は廃墟特有の不気味さを漂わせていて、正直に言って苦手だ。
少し進むと遠くから戦闘の音が聞こえてきた。ナイトゴーレムを倒したパーティの顔が見れると期待し、躊躇うことなくそちらへ向かう。
町の小さな広場には狼や熊のゾンビとゴーストの群れと、アンデッドに対峙する 5 人の冒険者がいた。私たちは広場から遠くない建物の 2 階に陣取って観戦する。
5 人は鮮やかな立ち回りで次々とアンデッドを倒していたけれど、アンデッドの数があまりに多い。
「・・・ねぇ、あれ、数が減ってなくない?」
うん?
「ほら、倒したアンデッドがすぐ後ろで再生してるように見えない?」
ダンデが指摘したように、言われてみれば確かにアンデッドは倒された端から後方で補充されている。前線とは距離がある。彼らは気付いてないんだろうか。
「それにしてもすごいな」
「あぁ」
アンデッドが減らないこととは別に、ダイナダとロウは彼らの技量を称賛していた。
「前に出てる 3 人が際立ってるな。マルト流に、大盾に・・・あの武器は何だ?ロウ、知ってるか?」
「俺様も見たことがない。それよりあのマルト流、雷使いの魔法剣士だぜ。例の “再来” じゃないのか?」
「“再来” ならインドールの風にいるものと思っていたが」
二人が言うように、前に立つ 3 人の技量は方向性は違えどいずれも目を見張るものがある。
ダイナダの言うマルト流の雷魔法剣士は、剣の技量に加えて要所要所で織り交ぜる雷魔法が冴えている。
大盾使いはアンデッドを堰き止め、二人の剣士に振り分けるだけでなく、自分自身も盾による突進、プレスで積極的に攻める。
風変わりな剣を使う黒衣の男は、基本的には柔の剣で、しかし鋭さも兼ね備えた美しい立ち回りを見せている。
魔法剣士のダイナダとロウが関心するのも納得だ。
ダンデとしては後ろの美人の方が気になったようだ。
「ねぇあれ、私の知らない魔法を使ってる気がするんだけど」
「私も気になってたところ。・・・重力魔法かな?」
「重力魔法って何?」
・・・そうか、私は母さんの雑多な話の中にその単語があったのを覚えていたけれど、重力魔法は理論上の魔法の一つだ。母さんも挑戦を続けているものの、きっかけすら手にできていない。
「モノの重さを制御する魔法だよ。母さんから聞いたことがある」
「へぇ、だからアンデッドの動きが遅いんだ」
「・・・そうよね。普通、狼のアンデッドともなればもっと素早いわよね」
あの数に対して 3 人の剣士が上手く立ち回れているのは、彼女のサポートの影響が大きそうだ。もっとも、仮に彼女がいなくても変わらずアンデッドを薙ぎ倒し続けそうではあるけれど。
小一時間隠れて彼らを見ていたけれど、アンデッドの数はやっぱり減りそうにない。4 人の持久力をもう一人の男が回復魔法で支えているらしいが、それもいつまで保つか。
「キリがないよ。一回離脱させない?」
ダンデが提案する。
「そうだな。彼らの実力は分かったが、どうにも分が悪いように俺様にも見える」
ロウの返答に私もダイナダも頷く。
広場に近付き、アンデッドに向けて 3 人が広域複合幻影魔法を展開する。夢幻の本領と言える魔法だ。アンデッドは霧に包まれ、霧の中では光と熱の織りなす幻想に感覚を奪われていることだろう。
私も試しに一度受けてみたから分かるけれど、幻影を抜けるどころか冷静さを取り戻すのにすらかなりの時間を要する。
いやでも、知能の低いアンデッドにはむしろ効き難かったりするのかな?
暫く警戒したけれど、アンデッドが幻影を抜け出してくる様子はなかった。
「横からごめんなさい。余計なお世話だったかしら」
とりあえず私が声をかける。夢幻のリーダーは私だ。
「いや、そろそろ一度撤退しようと考えていたところです」
マルト流の剣士が答えた。
そして私たちは石壁まで撤退した。
「あぁ、やっぱり再生してたんですね」
「なんだ、気付いてたのか」
同じ大剣使いとして通じるところがあるのか、ロウは “再来のエンダ” とすぐに打ち解けていた。
「さすがに物量が異常でしたから。倒していればそのうち途切れるかと期待したんですが、結局そういう気配も無くて、仕組みも分かりませんでした」
「俺らも後ろから見させてもらってたが、分からなかったな」
「そうですか」
話を聞くに、ナイトゴーレムを倒したのはやはり彼らだった。
なんでも、美人の重力魔法使いレイネの魔法で一撃だったと言う。わけが分からないよ。
アンデッドとの交戦に入ったのは聞いた時間から逆算すると私たちが彼らを見つける小一時間前で、つまりゴーレムも倒された直後だったらしい。
私たちが石壁を越え荒野に戻ると氷獄はまだ持続していた。
エンダが興味深そうにどういう魔法なのか聞いてきたが、アイテム使いとはいえアイテムの仕組みにまで精通しているわけではないので答えられなかった。
話はアンデッドのことに移る。
アンデッドはオヴァリの火魔法や雷魔法で灰にもしたらしく、それでも数が減っていないので普通のアンデッドとは何かが違うと彼らは感じたようだ。
聞く限りでは私たちの持ち合わせでも倒せるイメージが浮かばない。
まるでナイトゴーレムの話をしている様な気分になるけれど、アンデッドは圧倒的に数が多く、場合によっては撤退もままならない・・・なんてことになりかねない。
「これはまた、時間がかかりそうだな」
ダイナダの言葉に私は気が滅入る。居合わせた誰もが私と同じ反応かなと思ったけれど、ナユタとレイネはそうでもなさそうだった。
「そのうちなんとかなるさ」
「そうよね。ちょっとくらい障害がないと、張り合いもないわ」
レイネの言葉は彼女の外見にそぐわなく思えて意外だった。まぁ、さっき知り合ったばかりなので意外も何もないんだけど。
*** オヴァリ=エンダ ***
夢幻とは初めて出会った。彼らの使った幻影魔法は霧で全てが覆われていたので詳細が分からなかったけれど、彼らがその魔法に絶対の自信を持っていることは感じられた。
それからアイテムによる "氷獄" も、ナイトゴーレムにそんな倒し方があるのかと驚いた。もっとも氷漬けになっていたのはレイネさんが粉々にした残骸だったけれど。
夢幻と別れ、彼らは彼らで、僕らは僕らでアンデッド攻略に向けて動く。混成パーティは大抵上手くいかないから。
軍勢を相手にするのは疲れるけれど、それならそれでやりようもある。遠くから広範囲魔法をひたすら放つとか、少数をおびき寄せて倒すとか。
ただそういうやり方もアンデッドの再生の秘密を解き明かさないと意味がない。僕たちは今後の方針として、ヒットアンドアウェイを繰り返して突破口を探すことにした。基本をしっかり押さえていく。
異世界人のナユタさんとレイネさんもこの方針に異論は無いらしい。
「退路が確保されてるなら、どうってことはない」
・・・前の世界での苦労を垣間見る言葉だった。
「ところで」
ノトがグレイモアさんに声をかける。
「カルサノさんの魔道具、そんなに気になった?」
確かにグレイモアさんはやたら氷獄の杖のことを聞いていたし、いっそカルサノさんとは知り合いの様な雰囲気すらあった。
「あぁ、あれは俺も関わったからな」
「へぇ。っえ?」
ノトと僕は顔を見合わせる。どういうこと?
「今回ダンジョンに来る前は、アバレティナンにいたんだ」
これで分かった?という感じでこっちを見るけれど、残念ながら分からない。
「えっと、アバレティナンのクイナ=ウェッジって知らない?」
それなら聞いたことがある。というか氷獄の杖の製作者だ。
「そのウェッジさんの所に行ってたってことか?」
「あぁ。俺は元々魔道具やアイテムが好きなんだ。興味本位で第一人者の研究所にお邪魔してたってわけ」
ふむ。
ナユタさんとレイネさんのことは "異世界から来た" という印象が強すぎて、中々踏み込めないし、踏み込んでもイマイチ話が掴めないので時間をかけて交流しようと考えていた。
一方でグレイモアさんについても、大盾使いでマルト流を修行中である、としか知らない。大盾は流浪の開祖マッス氏の下で "マッス流" を皆伝されたと聞いたけれど、そのマッス流をそもそもよく知らない。
「魔道具、ね。じゃあなんで盾とか剣とかやってるの?」
ノトが怪訝そうに聞く。
「そりゃ、自衛のためさ」
自衛のために流派を極めたのか。しかもマルト流もすでにかなりの腕前だ。
「アイテムを使おうと思ったら使える場所は限られる。大抵はダンジョン同様に危険な所だ。分かるだろ?」
グレイモアさんの言う理屈は分かるけれど、本命である魔道具の知識は実践レベルで、片手間の武芸も完璧とは、とんだ超人もいたものだ。
そういえばノトも戦闘の前線にこそ滅多にでないけれど、僧侶でありながらダダライオ流の棒術をかなりのレベルで習得している。似た様なものかもしれない。違うかもしれない。
・・・自慢になるけれど、インドールの風の時も今も、僕は相当パーティ運に恵まれているらしい。そのことを今更ながら実感した。
たまには一人に・・・いや、たくさん一人になりたい今日この頃です。




