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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第二章 ダンジョン探索
33/185

027 新しいパーティ

*** エ=2=エテ ***


 我輩に届く "シャドウガーデン" からの報告は芳しくない。城下町には元々シャドウガーデンに操らせたゴーレムを配置していたが、アンデッドの脅威が増したため後退を余儀なくさせられている。人族側のアンデッド軍は少しずつ、しかし確実に勢力を増しているのだ。


 アンデッドが現れ始めたのは随分前のことだ。

 ダンジョン外では人族、魔族、動物、魔物を問わず、死後アンデッドとして新たな生を得ることがあるが、ダンジョン内でも同様の現象が起こる。

 当初はシャドウガーデンとゴーレムの邪魔になれば排除するだけの簡単な対応で問題無かったし、むしろ城下町の多様性が自然に生じて好都合とすら考えていた。

 しかし近年、急速に奴らの勢力が伸びた。シャドウガーデンによる調査も儘ならない程に。


 原因は幾つか考えられる。

 まず、深部まで至れる冒険者パーティの数が増えたこと。強い魔物が倒される数が増えれば、それだけ強いアンデッドが生まれやすくなる。

 次に、人族の死者も増えたこと。人族がアンデッド化すると生前の記憶や知能を持っていたりする。しかし知性を宿していようと、ほとんどの場合アンデッド特有の衝動に染まり、その能力は負の方向に発揮されるわけだが、"衝動" への回答として周囲のアンデッドと結託することがある。

 もう一つは、どこかの段階でアンデッドの王たる器を持つ個体が発生した可能性。アンデッドには稀に、圧倒的な能力を持って生まれる個体がいる。最上位の力を持つアンデッドは俗に "ザ・デス" と呼ばれ、アンデッドが生まれやすい環境を整え、生まれたアンデッドを統率するのである。

 他にも考えるならば、ダンジョン自体が死者を溜め込みやすいとか、意思を持って成長するとか、そう云うカグラも知らない機能が存在する可能性が、無いとは言えない。


 吾輩としてはザ・デスが生まれた可能性を危惧している。

 ある意味吾輩もザ・デスの一人だが、仲間意識など欠片も無い。不都合になれば排除することを躊躇う理由はない。



 アンデッドに関係しない報告には、喜ばしく興味を引かれる内容もあった。

 冒険者たちが "ナイトゴーレム" と呼ぶ、城下町直前の石壁に配置していたシャドウガーデンとゴーレムがようやく倒された。聞けば、吾輩たちが正攻法と想定していた 3 体同時の無力化ではなく、シャドウガーデンへの直接攻撃によりシャドウガーデンが撤退したそうだ。

 城下町以後はそれ以前と魔物の様相が異なるため、ナイトゴーレムをバランサーとして配置していたのだが、倒されないままの日々が続いて久しかった。・・・数年、数十年ではなく、数百年単位の話だ。


 本来ならほぼ無限に回復するナイトゴーレムを倒す方法は、精霊素の集合がすぐには不可能なほどバラバラにする以外にない。生半可な攻撃では即座に再生可能だからだ。

 もちろん完全に塵にされたところで半日もすれば再生するが、流石にそうなれば倒したと言っていいだろう。


 ゴーレムを一体ずつ倒すやり方では、残ったゴーレムに対するシャドウガーデンの制御密度が増すため討伐は時間と共に困難になる・・・そんな筋書きだったのだが。まさか精霊とゴーストの性質を調和させた、吾輩とグッグの最高傑作であるシャドウガーデンに直接干渉してみせるとは思わなかった。


 ダンジョンに挑むパーティの一つ、という枠を超えて、個人的な興味が湧いてくる。

 是非直接会ってみたいものだ。


 アンデッドの件は懸念材料が多かったが、人族側は何とかなりそうに思えて、少し気が楽になった。



 一方の魔族側では、アンデッド攻略に向けガルネリア軍が中心となって動いているらしい。


 ダンジョンの魔族側には人族側より遥かに早いペースでアンデッドが増え、奴らは好き勝手に地上を目指そうとしていた。

 統率が妙に “人間臭い” ため、こちらは単にアンデッドの発生数が多く、それに伴ってアンデッドを束ねる上位存在の出現数も増えたためと予想している。

 ダンジョンの攻略深度はナイトゴーレムの守る石壁までで人族領側と同じだったため、魔族サイドもアンデッドという新たな脅威の全体像を掴みかねている様子。


 ・・・シンクロニシティ、であろうか?

 それとも、人族と魔族のレベルが単に似通っているだけなのだろうか。

 吾輩の経験では魔族の方が基本的な能力は高い印象だが・・・。


 何はともあれ吾輩たちとしては現状、アンデッドの城下町以深への侵攻は、元々配備していたゴーレムの配置替えで防げている。

 地上のことは地上に生きる者たちがなんとかすればいいだろう。アンデッドたちの過度な侵略は見過ごし難いが、しかし結局のところ、吾輩たちが想定したダンジョンの存在意義から逸脱しているわけでもない。

 吾輩が今すべきは、そこそこの情報収集、自身の研鑽、護衛に当たる部下の強化・・・そんなところか。今までと変わらないな。



 シャドウガーデンからの不定期連絡を聞き終える。

 ひとまずは吾輩の脅威となり得る例の 3 人組対策を練ることから始めよう。

 それから、人族の前進はグッグも興味を示すだろう。彼女の意見も聞こう。




*** オヴァリ=エンダ ***


 即席と言って差し支えない僕たち 5 人組パーティは、想像を遥かに超えて滑らかに機能した。

 幻惑の森は何の障害も無く通り過ぎ、荒野も殆ど足を止めることなく進めた。グランドドラゴンや、フレアドラゴンでさえあまり脅威に感じなかった。

 理由ははっきりしている。レイネさんの魔法が強力すぎるからだ。


 ・・・言い間違いではない。ナユタさんの剣術でもグレイモアさんの大盾術でもなく、レイネさんの魔法がとにかく凄い。

 彼女の魔法はモノの重さを操るらしく、魔物は強制的に地に伏せさせられるか、あるいは宙に浮いて足場を失い動けなくなった。

 人の魔法の真似こそが僕のアイデンティティと思っていたけれど、その魔法は僕には使えなかった。正直に言って自分の魔法を疑いたくなる様な体験だったけれど、僕もそんな動揺を悟られるほど弱い精神でやってきたわけじゃない。

 素直にレイネさんの魔法を称賛し、パーティの中での役割分担について考えた。


 フレアドラゴンすら動きをかなり制限してしまう "重力魔法" の威力を考えれば、今のところは陣形を組む必要はない。それどころか、レイネさんとナユタさんの二人でどこまでだって行けてしまいそうだ。

 しかしそうは言っても、冒険や探索には必要な事柄が幾つもある・・・のだが、移動や攻撃の癖をみるに暗殺術が得意そうなナユタさんなら、探索に関わる諸々を全て自力で補えそうに思えた。何故って、ナユタさんは日常生活レベルの魔法なら火、水、風は使えたし、斥候職と前衛だけでなく状況次第で中衛も遊撃もこなせるのだから。



「初めの条件のことなんだが、俺とレイネはここじゃない別の世界から最近 "転移" して来たんだ」

 荒野も終わりに近づいた時、ふとナユタさんが話し始めた。

「こっちの魔法がどういうものか知らないが、もしかしたら俺らの魔法とは違うのかもしれん」

 俄かには信じ難いことをサラっと告げられた。でも、本人がそう言うならそうなんだろう。

 実際、自分の能力を誇示するつもりは無いけれど、僕が魔法を真似できなかったことが傍証だ。・・・ならばこそ、聞けることもある。

「・・・元の世界の魔法は、どういう扱いだったんですか?」


 ナユタさんはレイネさんと顔を見合わせ、レイネさんが頷くと口を開いた。

「逆に聞くが、この世界ではどうやって魔法を使うんだ?」

 この問いにはノトが答えた。

「幼少期に特定の魔法の扱いがなんとなく分かって、使えるようになるな。他の魔法も、魔術学校なんかで訓練すれば後付けで習得できるらしい」

「じゃあ、ずっと一つの魔法で過ごすのか?」

「同じ属性の魔法ならそれなりに応用できるが、そう云うことになるかな」

「不便だな」

 不便・・・なんだろうか。そんな風に思った事は無かった。


「俺がいた世界だと魔法には基本の詠唱があって、それを正しく唱えたら周囲の魔素が魔法を形作った。慣れれば心で同じ過程を正しく念じるだけで発動できる。まぁ、こっちの魔素とあっちの魔素が同じモノかは分からないし、俺の魔法が "どっち" を媒介にしてるのかも分からないが」

 へぇ。でも、それなら簡単に試すことができる。

「一番簡単な詠唱を教えてくれませんか?」

 僕の言葉の意図を汲んで、ナユタさんは水を出す魔法の詠唱を教えてくれた。

「いいか、“清き水よ至れ” だ」

 ナユタさんの声に反応して、ナユタさんの前に球状の水がゴボゴボと生まれた。

「“清き水を至れ”」

 ・・・僕の前には何も出てこない。


 その後もイメージ等のアドバイスをもらって何度も試したけれど、やっぱり水は出なかった。

 ナユタさんの魔法は、僕たちの魔法とは別の法則が働いているらしい。つまり、僕は重力魔法を今後も使えそうにない。

「俺たちにとっても知るべきことは沢山ある。何か気付いたことがあれば教えてくれ」

 ナユタさんがそう言うと会話は途切れ、僕たちはナイトゴーレム戦に備えて休息をとった。


「そういえば、二人だと荷物に困りませんでしたか?」

「んー、あー・・・。そうだな・・・」

 うん?ナユタさんの歯切れが悪い。

「こっちの世界じゃ、空間魔法はレアなのか?」

「え、そりゃもちろん。お伽話レベルですよ」

 ナユタさんはバツの悪そうな雰囲気を醸し出して、一つの魔法を見せてくれた。

 ・・・まさかの空間魔法だった。



 ナユタさんがいた世界でも空間魔法は珍しかったけれど、こちら程ではなくて、初歩の収納魔法ならそこそこ使える人がいたらしい。そんな中でナユタさんは、得意属性が空間魔法と自称するほど空間魔法に長けているのだとか。空間魔法にも種類があって種類ごとの得手不得手はあるようだけど。

 と言うか、異世界からの転移も空間魔法の応用らしい。ちょっと理解できない。

 一応まだ仮パーティのつもりだから空間魔法系は抑えていて、正式にパーティを組んだ暁には披露する気もあるとナユタさんは言った。

 ・・・出し惜しみした上でこの余裕なのか、と、なんだか切ない気分になった。ノトも同じような表情だった。グレイモアさんはポーカーフェイスなのでよく分からない。



 そして遂に、到達した石壁でナイトゴーレムと対峙した。

 ・・・重力魔法で一撃だった。


「え?」

「え?」

「え?」


 僕とノトだけでなく、グレイモアさんもその光景に唖然とした。

 重さに耐えかねたといった様相で体を崩された 3 体のゴーレムは、そのまま動かなくなったのだ。規格外すぎる・・・。

 正直僕らは足手纏いなのでは?とすら思えてしまう。2 人と合流してからここまで、グレイモアさんに至っては本業の大盾を使う機会も無く、修練中のマルト流剣術しか見ていない。

 前の世界での争いに疲れ逃げるように転移したと云う話が本当なら、ナユタさんとレイネさんがいた前の世界はまさに地獄だ。想像もつかない。


 僕はそんなことを考えていたけれど、ナユタさんはナユタさんでパーティの利点を感じていたようだった。

「俺もレイネも結局は裏方が本業だ。表立って活躍してくれる人材がいた方が都合がいい」

 戦闘面以外の話だろうか。

「・・・多分この先俺もレイネも頭打ちを喰らう。そうなれば、3 人が中心になってモンスターと対峙することになるだろう」

「頭打ち、ですか?」

「あぁ。どうもこっちの世界だと、俺らの能力向上には前と比べて制限が掛かっているらしい。この 1, 2 ヶ月の間、殆ど成長を感じられていないんだ」

 "法則の違い" に原因があるんだろうか。

「だからこの先、もっと深い所で俺らは足手纏いになるかもしれん」

 流石にそれは無いと思うけれど、異世界からやって来た彼らの実感は、彼らにしか分からない。


「でもむしろ、こっちの魔法が使えるようになるかもしれませんよ?」

「ふっ、今更初級魔法が使えても仕方ないさ」

 それはそうかもしれないけれど。

「なら、こっちの世界の魔法と元の世界の魔法の違いを解き明かして、新しい魔法体系を生み出す・・・なんてどうです?楽しそうじゃないですか?」

 口から出任せの提案をしてみる。

 ナユタさんは俺にジトっとした目を向けたけれど、レイネさんの言葉がそれを遮った。

「ねぇナユタ、そういうのも楽しそうじゃない」

 その一言で、ナユタさんは心を決めたようだった。


 結局、ナユタさんとレイネさんは正式にパーティメンバーに加わった。

 ナユタさんの収納魔法があるとはいえ流石に一杯になった魔物の素材を売るための帰路、レイネさんに参戦を控えてもらったことでグレイモアさんの "マッス流盾術" の流麗さが光り、僕やノトの懇願もあってグレイモアさんもパーティメンバーとなった。

 実にスピーディなパーティ結成に自分でも驚きつつ、今後の楽しみのため踏み込まずに引き返した石壁の向こうに、僕は想いを募らせた。

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