026 解散
*** オヴァリ=エンダ ***
石壁でゴーレムのファスと遭遇した後 2 回ダンジョンへ潜ったけれど、ファスにもアンデッドにも出会わなかった。
ナイトゴーレム討伐の糸口が見出せないまま、インドールの風は連邦の北にあるグラッツァに滞在している。今後の方針を落ち着いて話し合うために。
きっかけはミーさんの負傷だった。
ナイトゴーレムとの交戦中タイミング悪くドラゴンの強襲を受けた際、とっさにドラゴンの突撃に身を挺したミーさんは左の肘から先を失った。そして更にタイミングの悪いことに、弾け飛んだ左腕はゴーレムの火魔法に焼かれてしまった。
腕がそのまま残っていたらノトの魔法で再生できただろうけど、失くなった部位の再生となると、世界でも数人しか可能な人物はいない。
ちなみにその一人は神国にいるらしい。
神国の話になると、パーティの方向性に関わる意見がもう 2 つ挙がった。
「そろそろガイナス祭があるから、私は神国へ赴くことになるな」
「私もだね」
ググリエルさんの言葉にダリアンさんもうなずく。
ガイナス祭・・・聞いたことはあるんだけど、何だったかな?
「そうか、もうそんな時期になるか。ガイナ教徒は大変だな」
「別に大変ではないわ。それに、開催は 20 年に一度しかないのよ」
「むしろガイナ教徒はみんな楽しみにしているからね」
「それが神国であるんですか?」
ノトが尋ねる。
「えぇ。ガイナス祭への参加はガイナ教徒唯一の務めよ。絶対の義務ではないけれど。基本的には巫女様が舞台を披露するお祭りなんだけど、それにかこつけて、ありとあらゆる催しが開かれるの」
「へぇ」
王国出身のノトも僕同様ガイナス祭のことを知らなかったらしい。
「流石に祭への参加を邪魔立てするわけにはいかんな。ミー、腕を治す当てを探しに、二人に付いて神国に行ってみたらどうだ?」
ライナーさんがミーさんに提案する。
「ライナーさんは行かないんですか?」
僕が尋ねると、ライナーさんは神妙な表情で深く息を吐いた。
「わしはそうだな・・・まだまだ動けんわけではないが流石に歳を喰った。ここらで国に帰るのもいいんじゃないかと考えとる」
「・・・そうか、お前も隠居か・・・」
ググリエルさんが寂しさを滲ませる。
アルド校長がパーティを抜けた後、最古参としてインドールの風を支えてきたのはググリエルさんとライナーさんだ。事実上の解散と云うことになるのだろう。それを誰もが察して、パーティを沈黙が包む。
エルフやドワーフは人族の中では長命だけど、そうは言っても種族の入り混じった今の世の中では大抵の場合数百年も生きられるわけではない。
ググリエルさんはエルフの血が濃いようで、まだ引退を考える様な衰えは見えない。僕の目にはドワーフであるライナーさんもそう見えないけれど、自分の体のことだし、本人がそうだと言うならそうなんだろう。
「私だけになっては、インドールの風を名乗り続けるのも忍びない」
「・・・そうか。そうだな。解散、と云うことになるか」
「あぁ」
ググリエルさんとライナーさんの言葉は重く、僕はお伽話の一場面を見ているような感覚を覚えた。
しばらくの間、僕たちは夜更の酒場で静かにグラスを傾けていた。
僕とノトが一緒に神国に行く案もあると思うけれど、ライナーさんは解散という一区切りをより明確にしたかったのかもしれない。ミーさんには 3 人で神国に向かうよう提案した。
僕も神国の祭には興味がある。でも一緒に行くとなると、パーティの結末に対して未練がましい気もする。
なら僕が採るべき道は自ずと決まってくる。
「ノト。僕と新しくパーティを組もう」
ノトは僕を、気が早いねとか切り替えが早いねとでも言いたげな目で見る。
「メンバーには当てがあるのか?」
「一緒に探そう」
「それまでは?」
それまでは、やっぱりダンジョンに潜ることになるかな。どこかの国を拠点にするより、メンバーを探すならダンジョンがいい気がする。別のパーティからスカウトするつもりはないけれど、冒険者の情報は周辺の国にいるより集まるだろうから。
「二人でダンジョンの行ける所まで行ってみよう。僕らもパーティを引っ張れるようにならないとね」
僕の提案に、ノトは笑顔で頷いてくれた。
方針は決まった。インドールの風は解散する。
1 週間かけて共有していた荷物の整理を終えると、僕らは 3 方向に向け新たな旅の一歩を踏み出した。
*** ノト=ポット ***
オヴァリは流石に二つ名が広まっているだけあって、スペックの高さを道中改めて感じた。
インドールの風では水魔法はダリアンさんが、火魔法はライナーさんが担当という感じで、オヴァリは主に雷魔法を使っていた。だからついついオヴァリを雷魔法使いと錯覚してしまうが、実際には水魔法も火魔法も、なんなら土魔法や風魔法ですら、雷魔法と同等のレベルで使えるのだ。
その上ミーさんを師匠に鍛えたマルト流剣術もかなりのレベルである。
物語で語られるアポロア様のような魔法と剣術の複合こそ若干苦手の様だが、応用力の片鱗は見え隠れしている。"再来" と呼ばれるのも納得がいく。
オヴァリとダンジョンを目指して 2 週間。二人で辿り着いた夕方の南ベースはいつもと同じ風景の中にあって、それでもいつもとは少し違って見えた。
商隊はいなかったが、広場にはパーティがひと組キャンプを張っている。・・・いや、よく見たら一人でキャンプ中の冒険者もいる。
パーティは常設組で、インドールの風の解散を告げると驚いていた。当然と言えば当然かもしれない。南ベースに戻るまで一ヶ月ちょっとしか経っていないので、流石に新しい情報は無かった。
もう一方、一人でいる方にも声をかける。オヴァリが。
「こんばんは。お一人ですか?」
「ん?なんだ?一人だが」
「僕はエンダといいます。初めてお目にかかるかと思いますが、ダンジョンには一人で?」
「あぁ。一人だね。何か問題が?」
「いえ・・・。あの、不躾なんですが、その大盾があなたの装備ですか?」
テント脇には大盾が置いてある。その横に大剣もあるが、オヴァリはそれには触れなかった。
「そうだとも言えるし、そうでないとも言えるな。今はそうでない、というところか」
「つまり?」
「今は剣術の訓練中だ」
銀髪の優男はグレイモアと名乗り、ダンジョンはたまに訪れるのだそうだ。
元々は大盾使いだったが、思うところがあって今は大剣での戦闘にシフトしているらしい。
「グレイモアさん・・・もしかして、マルト流ですか?」
「そうだ。まぁ、齧った程度だがな」
「僕もマルト流の門下なんです。この間プーム先輩に、グレイモアさんのことを聞いたのを思い出しました」
プームと云うとハラルタナイツのメンバーだったか?よく覚えていないが。
「へぇ、じゃああんたは兄弟子になるのかね」
「そうかもしれませんね。僕もまだまだですが」
うん、まだまだどころじゃないね。結構なもんだよ。
「そうか。そのうち手合わせを頼むよ」
「えぇ、是非」
オヴァリはそれで満足したのか、張ったテントに戻ろうとする。いや、ちょっと待て。
「グレイモアさん、俺はノト=ポットという、まぁ、言ってみれば僧侶なんですが、俺らと一緒に来ませんか?試しに数日の間」
グレイモアは怪訝そうな目を俺に向ける。もしかして個人主義が至上な性格だろうか。
「俺ら、先日パーティを解散したばかりで、メンバーを探し始めたところなんですよ」
「あー、そういう・・・」
イマイチな反応だ。
「たまには誰かと潜るのもいい経験だと思いませんか?」
グレイモアさんは暫し考えていた。断られるかな、と思ったが「いいよ。一回行ってみようか」と予想外に良い返事をもらった。
オヴァリは特に何も言わず、反対もしなかった。
後で聞いた話になるが、オヴァリとしては現状二人でどこまで行けるか腕試しをしたかったらしい。それと、マルト流の門下として弟弟子にかっこ悪いところを見せたくないから、まずは二人でもやれることを確認して自信を云々・・・などと、煮え切らない態度で言っていた。
そんなことは知らん。オヴァリは一期一会をもっと大切にして、瞬間瞬間を生きる喜びを見出すべきだとしばしば思っていたが、今日は一層そう思った。
先を見据えることは大事だが、それだけでは生きていけない。
ともあれ、ギー=グレイモアが仮パーティメンバーとしてダンジョン探索に加わった。
マルト流が二人では乱戦特化すぎるので、グレイモアの提案で、彼は大盾装備で行くことになった。
俺たちはダンジョンでの隊列や立ち回りの基本方針を話しながら、その日は南ベースで夜を明かした。
翌日。昼を待っても商隊が来なかったため、買い足しは無しでダンジョン探索を開始する。幸い香辛料や日用品の類は多めに持っているので、3 人で行けるところを予測するに、足りないことはないだろう。
*** ギー=グレイモア ***
アバレティナンでクイナから魔道具やセーン文字について話を聞く日々は新鮮で楽しかったが、たまには盾や剣を振わないと腕も落ちる。そう思って久しぶりにダンジョンへ向かったら、南ベースで二人組の同世代らしい男たちに声をかけられた。
一人はエンダと名乗ったので、おそらく風の噂に聞いた “再来のエンダ” だろう。もう一人は分からないが、エンダがここにいるということはインドールの風から二人は離れてきたのだろうか?そう思って聞いてみると、パーティは解散したのだと知らされた。
大陸でも特に有名なパーティの 1 つだっただけに流石に驚いた。
二人と暫定的にパーティを組み、ダンジョン探索を開始する。
オヴァリは噂と違って、雷魔法以外の殆どの魔法も高レベルで行使してみせた。
ノトはノトでオヴァリが苦手なバフや回復魔法への適性が高いようで、さらに棒術を修めていることも分かった。
オヴァリは魔法だけでなくマルト流剣術もかなりの腕前で、大盾を極めたと自負する俺としては、得物こそ違うものの、大剣術ではオヴァリが到達するであろうレベルには至れなさそうだと察してしまった。
・・・察してしまった以上仕方がない。俺は道中二人に大盾メインで行くことを告げ、そしてこのまま正式にパーティに加わらせて欲しいと申し出た。正直、オヴァリだけでも手放すのは勿体無いメンバーだ。
パーティ加入に際して、俺の目的はひとまず自己研鑽としたが、いずれきちんと話すこともあるだろう。一旦保留する。
パーティは先頭から俺、オヴァリ、ノトの順で陣形を固定して進む。
俺は一人で探索していた時、森の浅層までしか来たことがなかったが、 このパーティだとあっさり荒野に到達してしまった。石壁到達の経験は伊達じゃない、と云うことか。
ゴーレムとの戦闘はゴーレムが複数体同時に現れると少し手古摺ったが、まだ問題無かった。
しかし流石にグランドドラゴンと対峙すると、俺の盾はなんとか通用するものの、受け止めた後の切り崩しや攻撃に時間が掛かり過ぎたため、ここが 3 人での限界と判断した。
オヴァリの噂はしばしば耳に入っていたくせに、どうやら俺は "噂は噂" と、彼らの実力を軽んじていたようだ。まさかこんなに早く生きたドラゴンの姿を拝めるとは思っていなかった。
討伐したグランドドラゴンの角を回収しつつ、俺は無神論者だがこの出会いを神に感謝したい気持ちになった。
ダンジョンでの他パーティとの遭遇はそこそこ珍しい。ダンジョン内は有限の空間のはずなのに、不思議と他の探索者と出会わない。
・・・その男女に出会ったのは、3 人での探索にもすっかり慣れて、今後の方針やメンバーのことをああだこうだと言いながら南ベースを目指している途中だった。ダンジョンでも特に見通しの悪い幻惑の森の中、ホワイトタイガーと対峙する彼らは奇妙な存在感を放っていた。
オヴァリとノトも何か感じるモノがあったらしく、パーティを代表する形でオヴァリがホワイトタイガーを倒した彼らに話しかけた。
「こんにちは。ホワイトタイガーを一太刀とは、すごい腕前ですね」
「うん?そうか?」
「えぇ。・・・僕はエンダと言います。僕たちは 3 人パーティなんですが、お二人だけ、ですか?」
「あぁ。俺はナユタ、こっちはレイネだ」
ナユタと名乗った男は見慣れない剣を腰に提げていた。
オヴァリが彼の実力を見込んでパーティへの参加を打診すると、彼はもう一人の女性、レイネと何やら相談した後、条件付きでパーティに加わることになった。
俺といい、ナユタとレイネといい、とんとん拍子だ。
流石 “再来”。運の良さもパラメータが振り切れているんだろうか。
ナユタの条件は 4 つ。
ダンジョン以外へは基本的に同行しないこと、ナユタの能力について触れ回らないこと、周囲にナユタのことを話す際は刀使いとして扱うこと、レイネのことを触れ回らないこと。
俺たちは 3 人とも直感的に彼らの能力を高く見積もっていたので、条件を受け入れて二人のパーティ加入を喜んだ。
・・・彼らが異世界からの転移者で、この世界では馴染みのない能力を使うと知るのは遠くない未来の話である。




