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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第二章 ダンジョン探索
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025 異世界転移者

*** リーデンローザ=ディモン ***


 ララの店を出てハコバスさんに紹介された魔道具店にワンド作製を依頼した後、レイドレからは一泊でダンジョンに戻ることにした。ソロジーは魔道具店のレレッズさんとセーン文字について小一時間ほど盛り上がっていた。

 僕とソロジーが新装備を試したいこと、ソロジーがもっとゴーレム操作を上達させたいことの 2 つが主な理由で、すぐにダンジョンに戻ることにはボウェルも異論なさそうだった。


 ダンジョンへの道のりは相変わらず平和で、特にイベントらしいイベントもない。

 ソロジーのゴーレム操作は移動に関してかなり慣れたらしく、移動速度も 3 人だけの時の 8 割程度は保てている。アーマーがガチャガチャと鳴って五月蠅かったけれど、接触部を余っていた革で保護するとかなり軽減できた。


 南ベースでは 2 パーティと接触して情報を得た。

 どちらも別のパーティからの伝聞だったけれど、なんでもアンデッドが荒野に現れたようだ。

「徒党を組んでいると聞いた」

「統率が取れていたらしい」

「ナイトゴーレムのひと組が 2 体に減ったとか」

 ・・・うん、ナイトゴーレムは僕らが原因だろう。


 アンデッド対策には光魔法か火魔法が定石で、どちらもパーティメンバーは使えないけれど、ゴーレムは一応火魔法を使える予定だ。と言うのも、ソロジーはレレッズさんとの会話でセーン文字の攻撃応用に何か思うところがあったらしい。

 ・・・まぁ実際のところは仮に両方無くとも、ソロジー頼みにはなるけれどこれまでの戦闘の応用でなんとかなるだろうと楽観視していることは否定できない。

 通用しなければ撤退して熟考。それをきちんと念頭に置いてさえいれば割となんとかなる。


 僕たちはゴーレムを加えた新しい布陣の調整もあって、前回の半分くらいのペースでダンジョン探索を開始した。


 ゴーレムを加えて模索中の "パターン G" はまだ機能していないけれど、完成系は見えている。僕は幻影。ゴーレムが盾で、ソロジーはその操作と風魔法での魔物の封じ込め。背後からボウェルが奇襲。

 幻影もあるけれど、もし魔物に察知されてもゴーレムを囮にすることで魔物の注意は逸れ、結局僕らの攻撃は難なく通る寸法だ。

 まぁ表層の魔物相手にそこまでする必要はないんだけど、パターンの練習は重ねておいて損はない。

 メンバーが増えたらまた変わるんだろうか?それはそれとして、ひとまず今のメンバー用にパターン G 以外にも開発中だ。



 ボウェルは魔素制御能力が向上して、最近は僕より先に魔物に気付くことすらある。ソロジーの目ほどではないとしても、魔素濃度が高いところはうっすら見える様になったのだとか。

 魔素制御の練習は僕もずっと続けているけれど、イマイチ伸び悩んでいる。制御力が上がれば自然とやるべきことも見えてくるんだろうか?


 試しに二人にも相談してみた。

「最終的にはディメンションレイ習得が目標なわけだし、空間把握と相性が良さそうな霧の操作に役立てて、そこから何かしらの空間能力を見出せればいいんじゃない?」

 ・・・あ、ディメンションレイの件、やっぱり冗談じゃなかったんだ。

「せっかくの霧魔法じゃない。クレアが言うように伸ばすのがいいと私も思うわ。それに空間魔法があると色々便利だし」

「二人は空間魔法、使えなさそうなの?」

「私は今のところ無理そう」

「私も」


 魔素制御は身体能力強化を媒介に練習していたけれど、せっかく "先輩" からアドバイスをもらったので今後は霧魔法で練習することにしよう。

 何事もやってみないとわからない。僕の魔素制御しかり、ボウェルのアタッカーしかり、ソロジーのゴーレム操作しかり。


 僕たちは時々お互いができることを確認したり相談しながら、4 度目のダンジョン探索を進めていった。




*** ナユタ ***


 この世界に転移して初めての土地はジャングルだった。

 明らかに人の気配はなく、ひとまず木々の上から遥か遠くに見えた山を目指して移動した。

 山は近付いてみると長大な山脈の一際高い峰だったことが分かり、今度はその山頂を目指した。

 馬鹿と煙はなんとやらと言うが、目的とすべき場所を探すためには高い所に登っておけば間違いない。


 ジャングルでは巨大な獅子や巨大なキノコ、巨大な蛇と、とにかく大きいモンスターと遭遇したが、幸い俺のスキルで対処可能だった。山で襲ってきたドラゴンはさすがに無理かもしれないと思ったが、これもなんとかなった。

 ドラゴンが弱い部類と云うことはないだろう。どうやら戦闘面では、この世界でも俺の力はそれなりに通用するようだ。


 山頂から微かに見えた煙を目指して進むと、集落と呼ぶには軍事的な偏りのある拠点に着いた。

 拠点では初めてこちらの世界の人間を見た。元の世界では亜人は少なかったが、こちらではそうでもないのだろうか。ドワーフが割合多く、他にエルフや獣人も混じっている。それから、それら亜人と人の中間的な見た目の者もいる。

 拠点を訪れてみると背負っていたドラゴンを見て俺の実力を推し量ったのか、拠点の長らしきカンメ=レイと名乗る人物にもてなされた。

 ・・・いや、もしかすると同行しているレイネのあまりの美しさに、何らかの勘違いをしたのかもしれない。俺を "従者" か何かと思った、とか。ありうる話だ。


 言葉が通じたのは幸いだった。共通言語スキルは取得していたが、こちらの世界でも通用するらしい。スキルを介していない可能性もあるが。

 ともかく、歩法や攻撃等のスキルが使えたのであまり心配していなかったが、人との接触の失敗だけは避けたかったので言葉が通じて安堵した。


 異世界から転移してきたことを伝えるか迷ったが、レイネの提案もあり素直にそのことを伝えた。嘘を通すのは簡単だが、それではなんのために転移してきたのかわからない。

 俺はレイネとの自由を求めて世界を渡ったのだ。

 こちらでも政略等のいざこざはあるんだろうが、そんなものに巻き込まれるのは真っ平御免だ。仮に世界情勢が分かったなら、情報を得た後はアサシンとしての俺の全てを使って、余計な干渉は全て断ち切って見せよう。



「ナユタさんは、これからどうするおつもりなんですか?」

 ドワーフ混じりの風貌のレイに問われる。

「俺はこのレイネと、静かに暮らしたいんだ」

「静かに、と言うと?」

「そうだな・・・全部を自給自足となると大変だろうから、最低限農業が完結した村か町で護衛か農作でもしながら過ごすのはどうだろう」

 レイネに意向を示す。正直なところ、あの世界を離れたことでレイネを守ると云う目的はほぼ達成されたと考えることもできる。しかし最低限の生活については、実際に過ごしてみないと分からない。

「あなたは人間なのだから、人と交わることも大事よ」

 レイネが言う。・・・そうかね。そうかもしれんが、そうだろうか?


 レイの話では、レイの国テミスはポロアスト大陸という人や亜人・・・人族の大陸の南に位置する連合国に属し、連合国の西端にあるらしい。そのテミスの西に俺がドラゴンを倒した山脈があり、今いるジャングルは大陸の南西で、山脈によって隔離された土地なのだとか。

 ドラゴンはエンドランドラゴンという名の山脈の覇者で、倒せる者は連合国でも限られるとのこと。

 初手からミスったか?と思ったが、もう文字通り世界が違うのだ。新しい気持ちで進もう、と切り替え、身構えるのはやめた。


 大陸にはダンジョンというモンスターの巣窟があり、ダンジョンを探索したりダンジョンから溢れるモンスターを倒す冒険者職があるのだとか。

 興味が無いわけではないが、俺の戦力を察してかレイは俺に協力してくれるつもりらしいので、ひとまずは第一に掲げた目的を優先する。


 レイは一度国へ戻りギルドマスターに俺のことを相談すると言う。ギルドマスターは穏健派で力ある者は無理に囲わず共存を目指すタイプらしく、俺にもいざの時の協力と引き換えに安寧を整えてくれるのではないか、とのことだった。

 俺はこの世界のことをまだ何も知らないのだ。ひとまずは流れに身を任せてもいいだろう。スキルが通用し、俺の実力もかなり高いことがレイとのやり取りから分かったことで、少し緊張感も和らいでいる。いつまでも張り詰めていては、動くべき時に動けない。



 ギルドマスターとの連絡を終え拠点に戻ったレイ。レイに引き連れられ案内されたテミスは、農耕が中心の国で首都には温泉街があった。

 ギルドマスターのアエヴィナは豪胆な性格のドワーフで、物言いはバッサリとしているが丁寧で、組織の長にしては裏のなさそうな安心感のある人物だと感じた。


 アエヴィナは俺との手合わせを願い出た。速度に特化した俺は元の世界ではドワーフ相手だと剣が交わることすら許さなかったが、アエヴィナが反応して見せたことには驚いた。

 しかし結局俺はスキルを使わず、純粋な剣術でアエヴィナを下した。

「いやぁ、強いですね。私も自信が無い訳では無いんですが」

 アエヴィナはこの手合わせに何の意図があったのか教えてくれなかったが、マイナスに働いたわけではなさそうだった。


 落ち着いて過ごすのに良い場所として国の北端の町ユガを紹介され、町の宿屋宛の紹介状を渡された。

「宿代を 1 年ほど持ちますから、その間に住む所や収入源を探すといいでしょう。ただ、レイが伝え私も初めに確認した様に、人族の危機に手を貸して下さると約束して頂けないでしょうか?例えばダンジョンなどが、そうなる可能性を孕んでいます」

「・・・いいだろう。政争がらみじゃないなら約束しよう」

 今更人の恨みを買いかねない役回りをするつもりはない。

 例に挙がったダンジョンは人類共通の敵と云う位置付けらしく、そのことに疑問はない。ならば、そんな条件で良いのかとこちらからお願いしたいくらいだ。

 物事の流れに勘のいいレイネも特に反対しなかったので、尚更いい条件だと思えた。



 ユガの宿で紹介状を渡すと店番が店主を呼び、店主は町長を呼んできた。そんなに御大層なことが書いてあったんだろうか?

 町長には今後町で世話になることを伝え、手っ取り早い仕事と、それから続けられる仕事の案を聞いてみた。

「ナユタさん、腕が立つならダンジョンへ潜られるのが最善と思います。駆け出しならいざ知らず、上級パーティは危険を避けて安定した収入を得られると聞いていますから」

 そういうものなんだろうか。俺は農耕や物づくりを念頭に置いていたが、悪い案とは思わない。

 武に生き身に着いた財産をみすみす腐らすのも勿体無いと思ってはいたから。


 この世界での常識や風土など最低限旅に必要な情報と元手になる金が用意できれば、その後はテミスに留まらず理想郷を探しに出ればいい。

 ダンジョンが大陸の中心にあるというなら、収入源は約束されているようなものだ。

 しかしいずれにしても、この世界に慣れることから始めよう。・・・もう血で血を洗う泥沼とは縁を切ったのだ。ゆっくりやろう。


 そんな風に、俺は新しい世界での日々をスタートした。

 


 宿には最低限の物が揃っているため、町の散策に数日費やした後は早速ダンジョンに行ってみることにした。

 ダンジョン付近にはキャンプ地があり商隊から食料を買うこともできると聞いたので、キャンプ地までに必要そうな食料を用意して俺とレイネは町を出た。

 ダンジョンには冒険者や荷馬車に踏み固められた道を進めば着くらしく、道案内もいらない。俺もレイネもこういう旅路には慣れている。


 途中狼に数回襲われたが、他に大きな障害もなく 10 日でダンジョンに着いた。

 聞いていた通り店を構えていた商隊から食料を買い、キャンプ地の冒険者たちには声をかけずダンジョンの穴へと踏み出した。

 何にせよ自分の目で確かめないことには、他人と話しても実入りは無いだろうからな。




*** レイネ ***


 ナユタはダンジョンの光景に珍しくはしゃいでいました。私もダンジョンの綺麗さを堪能しています。

 ダンジョンは洞窟なだけあって暗く、しかし淡く光る虫や草によって全ての輪郭が浮かび上がり、薄明かりの広がりが幻想的な世界を作り出しています。


 ダンジョンのモンスターはテミスからの道中にいた狼だけでなく、蛇や熊、羊に山羊、巨大な昆虫、動く木など様々でした。

 ナユタは初めて尽くしのモンスターとの遭遇をその度ごとに喜び、そして一瞬で倒してしまいました。

 こちらの世界ではまだ刀を見ていませんが、ナユタの戦闘を見れば、誰もが刀に憧れることでしょう。

 それくらいナユタの剣技は美しいのです。


 私たちは新しい世界の中でも異質なダンジョンという小宇宙を堪能しながら、少しずつ深部を目指しました。

 2 週間ほどで鬱蒼と生茂る森へ辿り着き、その後さらに 2 週間ほどで荒野が出現しました。

 荒野ではゴーレムが徘徊していましたが、ゴーレムには精霊が宿っているわけではありませんでした。


 元の世界では、ゴーレムといえば精霊が操っているものでした。

 こちらでも精霊の気配は感じていますが、まだ直接その姿を見ていません。ナユタが人間と邂逅した様に、私も同族に挨拶したいと思っています。

 もしかしたらこの世界では精霊が明確な形を成した存在ではないのかもしれない、という懸念もあるだけに、ゴーレムが期待外れだったことは残念です。


 この世界のモンスターには、核とでも言うべきものを持つものと、持たないものの 2 種類います。

 動く木やゴーレムの様に本来動かなそうなもの、それからゲル状のモンスターの様な空想的なものが前者で、狼や蛇の様な生き物の形をしているものが後者です。

 この 2 種類は別の方法で発生しているのでしょうか?

 わからないことも多いですが、それはそれとして私たちは順調に進んで行きました。



 荒野でドラゴンを倒しつつ進んでいると、これまでとは趣の違うモンスターに遭遇しました。

 アンデッドです。

 趣が違うというのは、アンデッドが倒す前から既に死んでいるという当たり前のことではなくて、彼らが明らかに合目的な徒党を組んでいた、ということです。

 ナユタの手にかかれば森以前のモンスター同様瞬殺でしたが、潜るにつれダンジョンのレベルが上がっていることは実感されます。


 そうこうしているうちに持参した香辛料の類が心許なくなり始めたこともあって、一度ダンジョン入口の拠点に戻ることになりました。


「せめてどんなモンスターのどんな部位が高く売れるかは聞いとけばよかったな。商隊の店番にでも」

 ナユタはそう言いつつ、腐らなそうで状態のいい部位を空間収納に収めています。

 しかし数人分の荷物を収められるその収納も、そろそろ限界の様でした。

「ダンジョンもそこそこ進めたんじゃないかしら。今度は聞いてみましょう」

「そうだな」

 ナユタはとても満足そうな顔で笑いました。

 ナユタの屈託の無い笑顔が見られる・・・それだけで、この世界に転移したことの不安は埋め合わせられるように感じます。

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