024 戦利品というか盗品
*** ハル ***
帰り道はナイトゴーレムとの戦いだった。
戦いと言っても戦っているのは私だけで、連れて来たゴーレムの操作に手間取っていたわけだ。
ナイトゴーレムは 3 体とも使う魔法が違ったのでどれを連れて行くか迷ったけれど、相談の末に火魔法を使う個体を選んだ。
冒険に欠かしたくない魔法は幾つかあって、水魔法は必須で、火魔法はできるだけ欲しい。
私たちの場合水はディモンが使えるけれど、火魔法は基本的に使えない。
基本的にと云うのは一応私が使えるからで、他のパーティの目がない場合は私が火を起こす。まぁ、他のパーティなんて殆どいなんだけど。
体内でのセーン文字構築は上達したものの、既知の文字だと魔法の出力にある程度のところで制限がかかってしまうため、まだ戦闘では実践段階にない。原因は模索中。
パーティ結成当初、セーン文字のおかげで多属性の魔法を使えることを隠そうとしたのは無闇に有名になることを避けるためだったが、フレアドラゴンを倒したとなるとその意義は薄れていると思う。むしろ今となっては、実戦レベルで使えない魔法がなんとなく恥ずかしくて、それを隠す意味合いの方が強い。広まっているセーン文字が日常レベルのものばかりなので仕方ないけれど、器用貧乏と思われかねないのが嫌だからだ。
ゴーレム操作が上達した暁にはゴーレムに火魔法を使ってもらうことにしよう。あの影がどうやってゴーレムに火魔法を使わせていたのか今のところ不明だけど、そのうち分かるだろう。
・・・ゴーレムが火魔法を使うこと自体不自然かもしれないけれど、そこはその時にうまい言い訳を考えよう。
いずれにしても今はゴーレムそのものの操作に集中している。
普通の移動速度の 1/3 程度でしか動けないためか、やたら魔物と遭遇した。私はゴーレム操作を並行して戦闘に当たったため、主に二人が戦っていたことになる。
ペイネは慣れたもので、今まで私が務めていたパターン 1 のギロチン役を買って出て、トドメの精度をどんどん上げていった。何気にペイネも空中に足場を作れるようになっている。
私が作る足場は厳密には風魔法ではないけれど、ペイネは突き上げる風を局所的に起こして駆け上がっていた。
私はと言うとゴーレムを盾役のつもりで歩かせて、それから風魔法で魔物を拘束するだけ。なんとも歯痒い。
「僕の普段の気持ちが分かった?」
「いい経験になるわ」
とは、私の心境を明かした時の二人の返答だ。
対ドラゴン戦や魔物の集団との戦闘以外で殆ど剣を使う機会のなかったディモンはこういう気持ちだったのか。なんかごめんね・・・。
ペイネは軽やかに動き回って楽しそうだ。この姿を見たら、元々インドアな性格とは誰も信じてくれないだろう。
グランドドラゴンとの戦闘では流石にゴーレムを放置したけれど、その他は軒並み二人に多くを任せてゴーレム操作に集中した。
一番の収穫は幻惑の森で巨大なトレントに遭遇し、討伐後良質な枝が手に入ったことだった。
ようやく武器を新調できる目処が立ち、ペイネさんご満悦。ペイネの喜ぶ姿が見られて私とディモンもご満悦。よきかな。
後半ペースが上がったとは言え、南ベースまで約 2 ヶ月半を要した。
時間がかかった分入手できた素材も多く、戦利品は幻惑の森で枝を集めて作ったソリに載せて移動した。ソリはゴーレムに引かせたので道中もそんなに邪魔にならない。
ゴーレムが街中で目立つ問題は、下位のドラゴンから集めた革を簡単に繋ぎ止めて兜と全身鎧を作り、さらにディモンが常に幻影魔法をかけることで一応解決、ということにした。
仲間一人にずっとソリを引かせていることにはなるけれど、幻影への耐性が強かったりマジマジと近くで見なければ、元々剣と盾は持っているので、少なくともそれなりの冒険者に見えるはずだ。
南ベースに着いたのは陽も傾いた頃で、商隊は居なかった。私とペイネで野営の準備をしている間にディモンがキャンプを張っていた 2 パーティから聞いたところによると、商隊は数日いなかったので明日は十中八九来るだろうとのことだ。
お荷物になる素材はさっさと手放したいので、商隊の到着を待つことにする。
翌日は装備を手入れして過ごし、昼過ぎには予想通り商隊が到着した。
他の 2 パーティはダンジョンに朝から潜っている。
「こんにちは」
ディモンに対応は任せるが、3 人で商店を訪れる。
「こんにちは。はじめましてですね」
店主は珍しく女性で、物腰の柔らかさに好感が持てる。
「素材の買取と、それから防具を買いたいんですが」
「えぇ、喜んで。防具はあなたの?」
「いえ、兜までセットの全身鎧を。あ、いや、大きいフード付きのロングコートがいいかな?大きさは僕より二回り大きいくらいで」
「そう?」
ひとまず戦利品をカウンターに出すと、店主はその内容に驚きつつも素早く状態を確認し、金額を提示した。
提示された額で問題ないことを伝えると、店主は奥から注文に合うロングコートを持ってきた。用途については言及されなかったけれど、注文の仕方から顔と体を隠したい意図が伝わったのかもしれない。
買取の代金とコートを受け取った後は、食糧や細々とした日用品を少し足して南ベースを後にした。
コートを着たゴーレムはちょっと怪しい。恥ずかしがり屋という設定にしよう。姿を隠すという目的は達成されている。
*** ブロック=ハコバス ***
わしはその 3 人組が訪れるのを待ちわびていた。
もちろん、ディモン、ボウェル、ソロジーのことだ。
初めて 3 人がうちに来た時。見事なグランドドラゴンの角を持ってきた 2 回目。以後、わしとガナックは 3 人の依頼に掛かりっきりだったと言っても過言ではない。
前回はソロジーにガナックが打った刀を託したが、今回はわしの作品を渡す。それから、フレアドラゴンの革から作った一人分の装備も。
フレアドラゴンの革を扱うことは、少ないながら無くもない。受け取った革はそれなりの量があったが流石に数人分の装備には足らず、おそらくアタッカーだろうディモンを想定して仕上げた。
フレアドラゴンの素材は希少さだけでなく扱いの難しさも一級品だ。逆に言えばそれを扱えると云うことは、職人としてのレベルが保証されることと同義であり、当然、依頼を受けることは大変な栄誉なのだ。
3 人の世情への精通具合は見た目相応で、そんなに世間を知ってはいないようだが、おそらく飾っていた剣を見てうちを信用してくれたのだろう。実に有難い。そうでなければトップパーティから加工を依頼する店を聞いて、ここには持ってこなかっただろうから。
重要なのは刀の方だ。作り方と形状が分かっている以上、最適解の模索が職人の腕の見せ所と言える。
形の成し方には試作 5 本で大体慣れたが、完成形の探究は先が長そうだ。来店時点での最善の一振りを渡すことにしている。
ガナックの刀も良く仕上がっているが、切れ味や構えた時の手馴染み等、全体的にわしの作品の方がモノがいい。
前回の来店から大体 4 ヶ月、久しぶりに来店した彼らは 4 人組になっていた。
「おう、待っとったぞ。そのフードは新メンバーか?」
「えぇ、そんなところです」
「そうか。品を取ってくる」
裏に回り刀と防具を手に取り、それからガナックを呼んで戻る。
「まずはこれ、フレアドラゴンの革製装備だ。一人分になっちまったが、ディモン用に仕立てた。お前さんが前衛と思ってのことだが、よかったかね」
ディモンはボウェルとソロジーを見て、二人から頷きをもらって向き直った。
「えぇ、ありがとうございます。早速装備してみても?」
「もちろん」
ディモンが装備を変える間に、ソロジーが話を振ってくる。
「あの、ロングコートの代わりに全身鎧を見繕いたいんです。軽さ重視で何かありませんか?」
「無いこともないが、それなら部分鎧の方がいいんじゃないか?」
「まぁ、事情がありまして。防御力は無視で大丈夫です」
そう言ってソロジーはフードのメンバーを見た。
「・・・とりあえず出そう。ガナック、お前が作ったライトアーマー、あれが合うんじゃないかと思うから持ってきてくれ」
「え?でもあれは売り物になるレベルじゃないよ、父ちゃん」
ガナックが可動域確認の練習用に作った薄いプレートアーマー。ガナックの言う通り売り物ではないが、防御用でないとなると、姿形を隠す目的に必要なのだろう。それならば問題ない。
もしかしたらコートの 4 人目が喋らないのは、声に特徴があるからなのかもしれない。
・・・余計な勘ぐりはしない方がいい。犯罪がらみの気配がない限りは、それが冒険者とうまく付き合うコツの一つだ。
ライトアーマーを取りに行ったガナックを待つ間にディモンの試着が終わった。鱗の美しさが映える装備で、胸腹部、上肢、腰から下の 4 パーツから成る。素材の伸縮性を考慮してそれぞれ作ったつもりだ。
「想像以上に軽いですね。それに動きやすい」
「あぁ、何よりだ」
「動きの邪魔にならないのが、素晴らしいです」
嬉しいことを言ってくれる。
わしとしては防具は縁の下の力持ちであるべきと思っている。だからディモンの感想は、俺の信念がうまく形に成った証明と言えるだろう。
ディモンの装備は問題無しとして、個人的に本題と考えている方に話を移す。
「ソロジー、これはわしが鍛えたものだ。試してくれ」
「ありがとうございます。私も刀の扱いは練習中ですから、ハコバスさんと一緒に刀の完成を目指せたらと思っています」
ソロジーから前回渡していたガナック作の刀を受け取り、交換に自作の刀を渡した。
「よく手入れしてくれているな」
「そうですか?正直、手入れは全然自信が無いです」
ソロジーは謙遜するが、モノを見れば分かる。
「職人冥利に尽きるね。刀の可能性を垣間見ているようで」
次回、今渡した刀に再会する時が楽しみだ。
「父ちゃん、これでいいかな」
タイミングよくガナックが帰ってきた。
ライトアーマーをフード姿のメンバーに渡すと、彼・・・彼女?は器用にフードを被ったまま後ろ向きに鎧を装備して向き直った。
新メンバーは剣と盾を構えて一通りの動作をしてみせたが、特に問題はなさそうだった。ソロジーもウンウンと頷いている。
「これを貰います」
そのまま購入が決まった。
こちらから品物を渡した後は、彼らの戦果を受け取った。
フレアドラゴンの革が前回の倍になってカウンターに置かれたのには驚いた。いや、今更か。次回までには 2 人分の装備を仕上げることを約束する。作るのはボウェルとソロジー用と分かっているので、事前に要望を聞くことも忘れない。
それから、ボウェル用にと、滅多に見ないレベルで上質なトレントの枝の加工を依頼された。
しかし生憎ワンドやロッドは専門ではないので、確かな腕を持つ馴染みの魔道具店を紹介した。セーン文字研究家でもあるレレッズは、魔法使いの装備であるワンドやロッドを大っぴらには売り出していないものの、彼女の技術の高さは職人界隈ではそこそこ有名だ。
フレアドラゴンの革以外にも幾つか素材を受け取り、武器の代金を貰って彼らを見送った。
「父ちゃん、あのフードの人、男かな?女かな?」
「なんだお前、そんなこと気にしてたのか?」
「父ちゃんは気にならなかったの?」
「気になったが、それは男か女かじゃない。パーティに加わった経緯だ」
「そんなの、冒険者なら色々あるから分からないだろ」
・・・いや、そうでもない。予測は立てられる。
「いいか?前ディモンたちが来た時にお前も思っただろうが、彼らは 3 人の関係がうまく噛み合っていた。そういうパーティは大抵、お互いのコミュニケーションが上手いんだ」
「ディモンばっかり話してた様にと思うけど」
「馬鹿、対外的な役割ってのは別だ。そこへあの無口ときた。俺は相当に偉い立場の人物が彼らを青田買いして同行しているか、犯罪者を匿っているか、あるいはゴーレムを使役しているかだと思う」
「なんで 3 択?他にもありそうだけど」
「勘だ」
ガナックはわしの答えに不服そうだ。
「俺としてはお偉いさんの線が濃厚と思ってる。犯罪者については、たまに明らかに冤罪のお尋ね者ってのがダンジョンに隠れているらしいから、無くはないって程度だ」
「ゴーレムは?」
「お前も "ゴーレムマスター" ってのがいるのは知ってると思うが、それなら最初の時にもあのフードはいただろう。ゴーレムで自衛もするんだ。街中だろうがそうしてるのが普通だ」
「まぁそうだろうね。でも最初、3 人とも使役系魔法とは無縁そうだった」
「あぁ。武器や防具を見れば分かる。だから可能性として一応挙げただけだ」
ガナックがよく分からないという表情で聞く。
「え、でもそれなら可能性すらないんじゃない?」
確かにその気持ちは分からんでもないが・・・。
「いや、あいつらの実力とその根元は未知だ。この短期間でゴーレムマスターの技能を手にしていたとしても、わしは驚かん。そういう話だ」
初めて彼らと会話をした時に推察した彼らの経歴と、フレアドラゴン討伐までの期間の短さ。この不整合性はどう考えても異常だ。
何にせよ、そんな新星と縁ができたことはわしにとっても、それからガナックにとっても幸運である。
もっと言えば "刀" という武器の熟成に立ち会えていることも。
「よし、今日のことで改めて確信した。あいつらは本物だ。あいつらの活躍に見合う装備をわしらも用意しようじゃないか」
「あぁ!俺ももっと頑張るよ、父ちゃん!」
威勢のいいガナックの返事にわしも俄然やる気が出た。
今のところ刀は鉄で打っているが、彼らならレアメタルもあっさり調達してくるだろう。
レアメタルで刀を打つ。その真の本番にしっかり応えられるよう、確実に技術を身につけておくか。




