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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第二章 ダンジョン探索
29/185

023 ナイトゴーレム

*** ハル ***


 レイドレを出て 1 ヶ月。私たちは再びダンジョンの荒野、その終盤へと戻ってきた。

 ララの店でディモンが入手したアダマンタイト混じりの剣は好調で、ディモンの剣技も冴えて見える。

 私の刀は多分まずまずといったところ。多分、というのは、思い返せば竹刀すら振ったことがないため刀の扱い方を知らない私は、まずは刀に慣れる段階を踏んでいるから。少なくともその範疇では不具合を感じない。

 私たちと同世代の、店主の息子ガナック君作なのだとか。お父さんもだけど、ガナック君もいい職人になりそうだ。


 今回は道中グランドドラゴンに遭遇しなかったが、フレアドラゴンには 2 回も遭遇した。

 ロッキンガム探索隊隊長のアドバイスは私たちのパーティでは参考にならないので、前回同様にパターン D で応戦する。

 一度討伐していることもあって私たちの動きも良くなっている。具体的には炎による攻撃・・・ブレスのタイミングと距離感をある程度把握したおかげで立ち回りの迷いが減った。

 一頭目は飛翔のタイミングを見誤り、討伐まで 30 分ほど掛かった。

 ブレスへの対応が十分にできていると感じたのは一頭目だったけれど、二頭目は初動から飛び上がったところを確実に突けたため、ほぼノータイムで倒せた。


 正直私たち、かなり強くない?調子に乗ってもいいんじゃない?

 ・・・と思わざるを得ない。


 実際どうなんだろう?ダンジョンはポロアスト大陸の中でも、単純に戦闘力を要するという意味では難易度が高いとされる。

 賢者の町南西の山脈やその先の熱帯、あるいはポーラ大陸東部の極寒地帯は未開の領域が多いため、その辺りは除外するとして、フレアドラゴン級に強い魔物や動物は殆どいない。そもそもそういう個体は出現頻度も低い。

 ダンジョンの魔物の討伐歴、あるいは直接の手合わせや決闘くらいでしか、冒険者も力自慢も自分の力を測ることができない。


 魔素制御だけでここまでこれてしまったんだろうか?魔術大学の魔素動態顕微会でそう話したら喜ぶこと請け合いけど、確証が無いうちはやめておこう。

 他に考えられる要素としては私たちの基礎能力がとても高い、もしくはとても運が良い、とか?

 ・・・いや、結婚も考えていた恋人と引き裂かれ異世界に飛ばされた自分に運があるとは思えないな・・・。

 かと言って前者も信じがたい。私たちは魔素の影響を除けば、3 人とも能力に大きな差は無さそうだから。


 男女差を考慮した上で私の見立てでは、地の身体能力はディモン、私、ペイネの順、判断の速さは私、ペイネ、ディモンの順、考察の深さと広さはペイネ、私、ディモンの順・・・。捉え方は色々あると思うけれど、要するに私たちは良い意味で、お互いに引け目を感じるほどの差がなく、うまくパーティをやってこれている。と思う。

 私もペイネも学校の頃、周りと比べて特別すぐれた子供ではなかった。大人たちの反応を見ていればわかるが、園での様子から、ディモンも同類だろう。もちろん、オヴァリという例外がすぐ側にいたせいで基準がよく分からなくなっている可能性は、無くも無いけれど。

 そういう意味で自分たちの基礎能力を過信する気にもなれない。


 となると魔素制御の力か?それくらいのことなら、少なからず既に極めて名を馳せたり、方法論として広めた人がいても不思議ではないと思うんだけど・・・。

 ペイネとディモンにも聞いてみると、二人の答えはまちまちだった。


「やっぱり魔素制御の成果じゃないかな。僕はともかく、ソロジーとボウェルの身体強化は並じゃないよ。気付いてないかもしれないけど。この間のロッキンガムの人とも、一対一で勝てるんじゃない?」

 魔素制御というより、身体強化すごい説。

「私はそうねー、感知系の差じゃないかと思うわ」

「感知系って?ボウェル」

「ディモンはクレアの瞳が綺麗な理由、知ってる?」

 綺麗だなんて照れるね。

「琥珀色で綺麗だなって思うけど。あと何だろう、輝いてる感じ?があるよね」

「そう、それよ」

 え、つまり?


 ペイネの話をまとめるとこうだ。

 私が普段から目に集中させている魔素の精度と密度が高すぎて可視化され、私以外の人ではそういう現象は起きないために目立って見える、と。

 ペイネも魔素制御の一貫で五感の感度が高まっていて、ペイネの主観では私ほどでないにしろ索敵能力や魔物の動きへの対応がうまくできているのだ、と。

 私はペイネより感度が高い。ディモンは斥候で、そのうえ魔素制御も上達した。敵の動きを知れる、敵の動きに合わせられる。それがうまくやってこれた理由だ・・・と。


 感知特化説。なるほど、そういうことはあるかもしれない。私同様ディモンもこの考察には同意している。

 よし、結論は先送りにしよう。どうせいずれ何かしらの形で分かる。


 それから私は密かに “主人公補性” という私主人公説の可能性も捨てがたいと考えたが、やっぱり外れた時が怖いので封印することにした。



 フレアドラゴンを討伐し、荒野も大詰めになった。

 ペイネはいいトレントの素材が手に入らないままなので不満そうだけど、ひとまずは先へ進もう。

 目の前に迫った石壁を越えるのだ。


 石壁はナイトゴーレムと呼ばれる 3 体組のゴーレムが守っていると聞いている。詳しくは知らない。

 そのことを二人と話していると、噂をすれば、だ。ゴーレムの姿を遠方に捉えた。

「どうする?とりあえず当たってみる?」

「そうだね、まずは一度接触してみないと」

「もしもの時はクレアに任せようね」

「そうだな。ソロジーに任せよう」

 何言ってんの二人とも。


 魔物が群れていることは珍しくないけれど、常に一定数となると話は別だ。特殊な個体なのかな?

 とりあえず突っ込んでみよう。

 パータン 1 だ。


 遠目に捉えたゴーレムに見つからないようディモンの幻影を纏い、尚且つ彼らの視界に入りにくいルートを選んで接近する。

 近付きつつ霧に取り込んでしまえば、あとは動きを封じて袈裟斬りにするだけだ。

 ゴーレムは体のどこかに核があるが、一発で狙えるとは思っていない。

 3 人で同時に別々のゴーレムを襲ってみると、誰も核は外したようで、ゴーレムに私たちの存在がバレた。


 幻影はそのままにそれぞれが一体ずつ受け持って攻撃を続けるが、どうにも違和感がある。

 一体一体の強さは荒野前半に出現したゴーレムを凌駕し、お互いが連携を取ろうとする気配もある。確かにこのゴーレムが侵攻の直接の妨げになっているのも、肯けなくはない。

 肯けなくもないが、トップレベルのパーティでさえ攻略できていない、と云うのは納得いかない。正直に言ってグランドゴーレム程度の強さだと思う。

 例えゴーレムが 3 体とも剣や盾を持っているとしても。

 例えゴーレムがそれぞれ別の魔法を使うとしても。

 例えゴーレムの回復が異常に早いとしても。


 違和感の理由を探す。

 ナイトゴーレムの動きが "人臭い" からだろうか。何のかまでは分からないけれど剣術らしき流れを感じる。

 それとも回復の早さだろうか。他の魔物も少なからず、おそらく魔法によるのだろう回復なり身体修復をするが、ゴーレムの回復の早さは抜きん出ている。

 あるいはその所在だろうか。石壁は長く、このゴーレムが冒険者の行手を必ず石壁で阻むというのは無理があるように思う。いや、他の魔物も一体ではないのだ。何組もいるのかもしれない。


 二人に合図を送り、いつまでも倒れる気配のないゴーレムと一旦距離を取る。

「やっぱり石壁を守ってるのは伊達じゃないってことかしら?」

「何と言えばいいのか手応えが少ないよね・・・ソロジーでも倒せないのがいい証拠だよ。ボウェルもそう思わない?」

「そうね。私たちはともかくね」

 二人とも私のことを過信しすぎだと思う。


 しかし距離を取ったことで気付けたことがある。

「ねぇ、二人は気付いた?」

「何に?」

「なんとなくコレかなっていうのはあるけれど」

 ペイネは察したらしい。私ほどは "見えない" と言っているけれど、取っ掛かりは掴めてきているのかもしれない。

「あの影のことでしょ?」

「うん。影のこと」



 長々と追いかけてきていたゴーレムを撒いたことを確認して、改めて話す。

「あのゴーレムは多分、ゴーレム自体が本体じゃないね。影に秘密がある」

「影を倒すってこと?」

「いや、それもちょっと違うかな」

「じゃぁ、倒せないってことかい?ソロジー」


 距離をとってゴーレムを観察すると魔素の動きが明らかにおかしかった。具体的には魔素がゴーレムの体内ではなくその影から供給され、そして 3 体の影は繋がっていた。幻影に紛れて近づいた時はゴーレムに注意が行って足元は気にしていなかったから、気付かなかった。

 仄暗いダンジョン内では影が見え難いけれど、そもそも暗いのに影があることがおかしく、さらに光源との関係性も不自然だと分かればもう確定的だろう。

 ・・・話していて思い出したことがある。荒野で見かけた魔素溜まり。あれも似たようなものだった気がする。もしかして同類だろうか?


「ソロジーとしては、ナイトゴーレムは影が操る人形と考えてるわけだ」

「そうだね。人形の出所が気になるけど、影が本体と考えていいんじゃないかな」

「影を倒すわけじゃない、って言うのは?」

「影は影だから、倒しようがないと思うんだけど。・・・あれ?倒せるのかな?」

「シャドーって魔物なら、光魔法とか火魔法で倒せたよね」

 そうなんだ。いや、まぁそうか。この場合文字通りの意味での影ではないのだから。

「でもそれなら、どっちも手元にないからやっぱり無理だね」

 あれがそのシャドーという魔物かどうかも分からないけれど。


「影ってことは、ほとんど魔素だけで体ができてるってことだよね。それなら、僕がゴーレムをなんとか抑えるから、その間に二人が直接影の魔素に干渉すればいいんじゃない?」

 ディモンが提案する。確かにそれは有効そうだ。しかしディモンの負担が半端ない。

「さすがにキツイと思うから、私もディモン側につくよ。ペイネ、本体をお願いしてもいいかな」

「いいわ、やってみましょう」


 物は試しと、作戦を詰める。

 影は 3 体の中心を好んでいる。さっきは大体そんな感じだった。

 影への干渉中無防備になるペイネを守るため、3 体に囲まれた中、必然的に一人は 2 体のゴーレムを相手にすることになる。大きめの攻撃で適宜押し戻す・・・ノックバックさせることが肝心だ。

 影の魔素を操作できるのかも分からず、操作が及ぼす影響も不明ではある。多分力ずくでなんとかすることになると思う。

 やってみないと分からないことばかりで作戦が作られたため、保身を第一に優先することだけは確実に決めた。

 それじゃあ、いってみよう。



 ・・・ナイトゴーレムとの再戦は案外あっけなく終わってしまった。


 私とディモンがゴーレムとの戦闘を開始し、ペイネが影に手を翳すと、影は自分が攻撃の対象になったことに気付いたのかすぐさま拡散してしまったからだ。

 やっぱり魔素溜まりと同じもののような気がするな。

 それはさておき、拡散した影はよく見れば全体を捉えることができるものの、どう対処すれば良いか分からない。分からないまま止まったゴーレムは無視して影の動きを注視していると、そのうちに影は石壁へと引き下がってしまったのだった。


「逃げてったね」

「そうなの?バラけた後はよくわからなかったわ」

「僕にもよくわからなかった」


 疑問がいくつかあるけれど、それは後にしよう。

 立ち尽くしたゴーレムは切り刻んでも自己修復され、ゴーレム自体は本当にただの人形らしいと推測される。試しに影がやっていたみたいに魔素を流すと、ゆっくりではあるけれど動かすことができた。

 流石に 3 体一気だと、微動としか言えないくらいにしか動かせない。

 影がそれほどに魔素制御に長けていたのか、あるいは別の理由か。

 魔素制御力が理由なら、そもそもペイネから逃げる必要が無かったのでは、と思う。何か別の要素が関わっている気がする。


「ねぇ、このゴーレム一体連れてっちゃダメかな?」

 試しに二人に聞いてみる。

「あんまり動かせてないように見えるけれど。私にも難しいし」

 私で少し、ペイネでごく僅かに、という操作性だ。

「そのうち盾役にできないかなーって思ったんだけど」

「時間がかかるんじゃない?」

「うん、時間はかかると思う」

 それでも、このゴーレムは何かの糸口になる。そんな気がしている。


「フレアドラゴンの素材もあるし、一度帰還するのはどうかな。僕らの防具がどうなったかも気になるし。レイドレに連れて行って、戻るまでに上手く操作できていればその後も連れて行く。どう?」

「あら、いいんじゃないかしら。石壁の先も気になるけれど、荷物を軽くして、準備もしっかり整えて行きたいわ」

 有難い提案だ。

「ありがとう。あんまりにも進歩がなかったら、ちゃんと諦めるから」

 二人は微笑んでくれた。メンバーに恵まれたなとつくづく思う。


 ナイトゴーレムを根本的に倒したわけではないけれど、石壁の向こうへの挑戦権を得た形で私たちは南ベースへの帰路についた。

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