022 端緒
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その部隊に初めて接触したのはロッキンガム探索隊だった。
ヒジュー=ショーク率いる 7 人は石壁付近でナイトゴーレムとの戦闘を繰り広げていたが、石壁の隙間からアンデッドの狼が群れで現れ、襲撃に加わった。
ショークの即座の指示によりガレクスト、トーリの二人が土魔法でゴーレムの進路を阻み、かつアンデッドの狼と分断する。
ショークはゴーレムを他の 5 人に任せると、自分と同様光魔法が使えるデレスを引き連れ狼を強襲した。
7 匹で群れを成していた狼はショークの剣捌き、魔法捌きに対応できず瞬時に 3 匹が斬られ、デレスの追撃で戦線から完全に退場させられる。
残った 4 匹は半円状にショークを囲むが、炎魔法と光魔法に加え身体強化まで極めたショークの誘い込みとカウンターによって、ものの数分で全滅することになった。
戦いの最中ショークは石壁の影に魔物の姿を捉えたが、まずは現状の打破を優先し、再びゴーレムとの戦闘に加わった。
倒せないとは言え流石に他のメンバーもナイトゴーレムとのやりとりには慣れたもので、戦局を大きく崩されないようチームワークを発揮して立ち回っていた。
ショークの無事を確認したメンバーは阿吽の呼吸でゴーレムと距離を取る。
ロッキンガム探索隊は、隊で決まっているイレギュラーへの対処の原則である一時撤退を選択し、荒野へと走りナイトゴーレムを撒いた。
安全を確認し立ち止まると、まず口を開いたのはリーダーのショークだった。
「誰か、アンデッドの目撃例を聞いたことはあるか?」
そんなことは聞いたことがないと、皆一様に首を振る。
「石壁の向こうがアンデッド地帯というだけでは?」
意見したのはデレス=ロッキンガム、ロッキンガム探索隊隊員でありロッキンガム王国第 3 皇子でもある青年だ。
「その可能性はあるが、初めてのことだ。慎重に越したことはない」
皇子とはいえ、探索隊では非常時以外一隊員として扱われる。
「他のパーティはどうなのかしら。ここ半年、他のパーティと遭遇してないから」
フェインが問いかける。他のパーティがインドールの風、ハラルタナイツ、夢幻の 3 パーティを指すことはメンバーも理解している。
「どうかな。知っているかもしれないが、そうなら何かしら話が回ってきそうなもんだ」
パーティ間の情報は緩やかながら共有される。実力が伴わなければ先を目指す意味は薄いと冒険者の誰もが共通の認識として持っており、それならば冒険者全体の死亡率を下げることが優先されるべきと考えるからだ。
「ショークは壁に引いた魔物に気づいたか?」
「ああ。ただ、気付きはしたがはっきりとは認識できなかった」
「私は立ち位置が違ったから見えていたが、あれは人型だったぞ。明らかに人型だった」
デレスの報告にメンバーの緊張が高まる。
「ゴーレムではないんだな」
「そういう感じではなかったな」
ダンジョンには荒野まで、完全な人型の魔物はいなかった。
人型となると真っ先に思い浮かぶのはゴーストや、人がアンデッドになったパターンではあるが、彼らが危惧するのは魔族の存在だ。
魔族と良くも悪くも交流があったのは遥か昔のことだが、ダンジョンで再び人族と魔族が交わる可能性は否定できない。
ダンジョンは成因を含め謎が多く、むしろ魔族が関わっているのではないかとの見解は少なからず支持されている。
直接デレスの言う人型の姿を見ていない 5 人も積極的に意見を出す。
簡単に考えるなら、石壁の向こうには人型のアンデッドが統率する形でアンデッドたちが跋扈している。そういうことになる。
しかしショークは隠れるように石壁に消えたアンデッドに抱いた違和感を払拭できなかった。
「・・・一度、南ベースに情報を求めるか」
優れた騎士でもあり判断力も折り紙付きのリーダー、ショークの方針をメンバーは尊重し、ロッキンガム探索隊は帰還を決めた。
*** ヒジュー=ショーク ***
約 1 ヶ月半の道のりで南ベースに辿り着くと、丁度とあるパーティも帰還した直後のようだった。3 人組の若いパーティだ。初めて見たが、あまり疲れた感じも見受けられないし草原地帯をメインに活動しているのだろう。
キャンプ常設のパーティは出払っているようなので、とりあえず情報収集のため 3 人組に話しかけることにする。
メンバーには夜営の準備や商隊との物資の売買を任せる。
「やぁ。君たちも今帰還したところか?」
3 人のうち整った顔立ちの男が答える。
「えぇ。そういう貴方もそのようですね」
「あぁ。最近何か変わったことを聞いていたら教えてくれないか」
「変わったことと云うと?」
「文字通り、これまで無かったことなどだ」
浅層で活動するパーティは拠点にいる時間も長くなり、それだけ他のパーティとの交流の機会も増える。私たちがダンジョンに潜っていた半年弱の間に広まった情報も、何かしら持っているだろう。
そう期待したが、彼らからは思いがけない答えが返ってきた。
「僕らも当分他のパーティと遭遇してなかったので・・・」
「3 ヶ月ぶりだと思いますわ」
・・・恐ろしいほどの美女が相槌を打った。美女とも美少女ともつかない年齢だ。国の中枢でも出会わないほどの美しさに一瞬思考が止まる。
「3 ヶ月?」
「ええ。久しぶりに日の光を浴びました。気持ちいいものですね」
商隊の恩恵を比較的楽に受けられる草原で 3 ヶ月も過ごすとは考えにくい。彼らの実力を見誤ったようだ。人を見る目には自信があったのだが。
「そうか。それならば仕方ないか」
とはいえ、無闇に彼らにとって遥か先の懸念事項を伝える必要もあるまい。そう思っていると案の定、逆に問いかけられた。
「何かあったんですか?」
「石壁付近で気になることがあってな。まぁ、いずれ君たちも力を貸してくれ」
適当にはぐらかしその場を離れようとした時、美女が持つ袋に気になるモノが入っていることに気付いた。それは彼女の美しさに気を取られていたとは言え、気付かなかったことが不思議なくらい注目すべきものだった。
「・・・聞くが、それはグランドドラゴンの角ではないか?」
「あぁ、これですか?そうですよ」
男が美女の持つ袋から取り出したそれは、紛れもなくグランドドラゴンの角で、しかも殆ど損傷も見当たらない。グランドドラゴンの角は貴重だ。他のパーティが譲ったとは考えにくい。
「それはすごいな。君たちを勝手に侮っていたよ。すまなかった」
こういう実力のある者たちのことは、私の騎士道に照らせば素直に認めるのが最良だ。仮にいずれ私と敵対する可能性があるような場合でも。
「そんな、恐れ多いです。ロッキンガム探索隊の方にそう言ってもらえるなんて」
「わかるのか?」
「石壁に到達している 7 人パーティとなると、そうかなと」
まぁ、その通りだが。
その後は若者にアドバイスをと思い、フレアドラゴンとの戦闘について教えたりしながら雑談を交わして別れた。
フレアドラゴンのことは 3 人とも興味深そうに聞き、
「へぇ、そうやって倒すんですねー」
などと感心した様子だった。
彼らはここで夜営することなく、すぐにレイドレへ向け出発するという。
私から離れた後、彼らは簡単に商隊で用をすませ、駐在所と私たちに挨拶をして南ベースを後にした。
夜営の準備も終わって夕食までの時間、私自身も商隊へ話を聞きに行くことにした。商隊長は顔馴染みとまではいかないが何度かやり取りしたことがある人物だった。
「何か、変わったことがないか聞いていないか?」
すでにメンバーからも聞かれただろうことを私も聞く。情報収集は繰り返すことが大事だ。ふと思い出すということはよくある。
「変わったことだって?そりゃ隊長さん、さっきあんたが話してた 3 人こそ、その “変わったこと” だろうよ」
どういうことだ?
「隊長さん、さっき彼らがダンジョンでどこまで行ったかとか、聞かなかったのかい?」
「グランドドラゴンの角を持っているのは見せてもらったな」
そう答えると、商隊長はニヤッと笑って後ろからその素材を取り出した。
・・・商隊長のにやけ顔の理由がわかった。
実力を見誤るどころの話ではない。彼らはもしかしたら私たちをも凌駕する可能性があったのだ。カウンターに置かれたモノがその傍証である。
それは紛れもなく、フレアドラゴンから採取される素材だった。
独特の深い色合いの鱗で覆われたフレアドラゴンの革は、夕陽を浴びて艶めかしく煌めいていた。
*** ペイネ=ボウェル ***
フレアドラゴンの倒し方はとても参考になった。
特に参考になったのは、土魔法と身体強化ができる大盾使いのドワーフ、ガレクストさんと、土と水魔法使いのエルフ、トーリさんの二人だけで、突進攻撃以外は攻撃を受け止められると云うこと。
トーリさんは進路の制限程度で、それだけに大盾のガレクストさんの役割が大きいらしい。
私たちのパーティは現在盾役と回復役を募集中で、その方針は間違っていないと思って良さそうね。
もちろんガレクストさんがダンジョン内でもトップレベルに熟練の前衛だということは分かっているけれど、新しいメンバーの加入が待ち遠しくなる。
盾以外では、攻撃の主体を次々と入れ替わることでドラゴンの注意を散漫にさせ、大きな一撃の頻度を減らせることも新しい発見だった。
私たちはパターン D の布石としてできるだけ固まって応戦していたけれど、人数が多い場合は確かにそういう戦い方を選ぶのが無難で良さそう。いつまでも 3 人でやっていくのは厳しいと、ショークさんは暗に私たちに伝えたかったのかもしれない。
それから、ロッキンガム探索隊はまず翼を狙い飛べなくしてから、次に四肢を攻撃し、最後に胴体を標的にするのだとか。翼や四肢から繰り出される強力な攻撃を警戒してのことらしい。薄々気付いていたけれど、初手から必死の一撃を狙うのはセオリーではないようだった。
ショークさんが知りたかった情報と、その情報を求めるに至った理由は結局分からなかったけれど、ダンジョンへ戻り更に先へ進めば分かるんだろう。
ダンジョンでの出来事をあれこれと話しつつ私たちはレイドレを目指した。
1 週間ほどでレイドレに着き、前回も利用した宿を借りて荷ほどきを済ませると、真っ先に向かったのはもちろんララの店。ディモンがとても上機嫌で街中を歩いていて、クレアと二人で後からその姿を微笑ましく眺めていた。
ララの店では店番をしていた女性に声をかけ、店主を呼んでもらった。後から聞いた話では店主を呼びに行った女性が、店主の奥さんのララ=ハコバスさんなのだとか。
店主のブロック=ハコバスさんは私たちを・・・というかディモンの持つグランドドラゴンの角を見るや、ほうっ!と驚きの声を漏らした。
「お前さんたちがそれを?」
「えぇ。どうでしょうか。あの剣を頂けますか?」
そう言ってディモンが角をハコバスさんに渡し、ハコバスさんはそれをじっくり見る。
「・・・こりゃ、相当のもんだな。大きさはともかく状態がいい。正直に言って驚いた」
ディモン、ご満悦。
「じゃあ・・・」
「あぁ、この剣を託そう。今後もうちを贔屓にしてくれるとありがたい。よろしくな」
「ありがとうございます!」
ディモンは剣が壊れていたこともあって、尚更嬉しそうだった。
ハコバスさんから剣を受け取ると、鞘に修めたり構えたりと、一通り堪能してから私たちに向き直った。
「ところでハコバスさん」
ディモンの用事はひとまず終了したので、もう一つの目的を私が伝える。
「なんだい?お嬢さん」
「これをディモン用の装備に加工してもらえませんか?余ったら、私とクレアが使える何かしらに」
持ってきた袋からフレアドラゴンの革を取り出す。店内はそこそこに明るく、綺麗な色合いは健在だった。
革からハコバスさんに視線を移すと、ハコバスさんは驚きとも喜びとも言えない奇妙な表情をしている。
「まさか・・・まさかこれも 3 人で?」
うん、わざわざ買うようなものではないと思うわね。
「そうです。お願いできますか?」
「こんな大役を断るなんて、わしには考えもつかん。よし、任せてくれ!」
クレアが危惧していた様に扱えないということはないらしい。ハコバスさんが快諾してくれてよかった。
ディモンを採寸して、成長の余地を残して云々・・・と考え込み始めたハコバスさんにクレアが付け加える。
「できればあんまりソレと分からないようにしてもらえませんか?」
ハコバスさんは意図が分かりかねるといった顔で私とディモンを見る。
「あんまり目立ちたくないんです。まだ」
更にクレアが続けた言葉にも、だからなんで?と言いたげなことは雰囲気で察せられたけれど、特に聞き返すこともなく、「わかった」と答えただけだった。
装備の完成までそれなりに時間が欲しいということで、2 週間より後にまた訪れることを伝え、私たちはララの店を後にした。
他にも素材の加工を請け負ってくれるところはあるんだろうけれど、3 人とも「まぁここでいいか。また探すのも面倒だし」という感想を暗に共有していたので、ハコバスさんに一任することに異論はない。
私は特に用はなかったけれど、クレアは店主の息子のガナック君から例の剣、刀の試作品を受け取っていた。
ガナック君はお父さんである店主と二人で刀について色々と話していたけれど、武器は使ってこそという結論で締めていた。次回防具を受け取りに来たときにまた新しいものを渡すから、そのときに今回のものの感想を教えてくれとクレアに伝えていた。
クレアはこれまで使っていた剣も当面持っておくらしいけれど、傍目にちょっと邪魔そう。ただそれ以上に、試作品の刀の出来に満足しているようでもあった。
私もワンドを新調したい。そのためにはまず "それなり" のトレントと遭遇しないといけない。
国や町へ戻るほど、私たちのダンジョンを求める気持ちは高っていく。
多分それは、このパーティだから、という理由もあるんだろう。
まだ見ぬ新しいメンバーとも良い関係を築きたいものだわ、と、私は今から楽しみに思っている。




