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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第二章 ダンジョン探索
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021 荒野と進退

*** ドッド=12=ガルネリア ***


 ドラゴンの跋扈する荒野で止まっていたダンジョン探索。しかし今は知性ある魔物の軍団に押し戻され、“森” まで後退している。

 ダンジョンには我がリフェン領からだけでなく腕自慢の者たちが好き勝手に参入していたが、知性ある魔物の出現以後、探索者の多くは自然と連絡を密に連携するようになっていた。

 森は地形的に軍団の侵攻に制限がかかるらしく、また探索者たちの連携もあって、現状はうまい具合に足止めできていると報告を受けている。

 魔物の軍団はアンデッド主体で、しかしアンデッド以外の魔物も加わっていると云う。森の木々が邪魔をするためか、あまりにも大きい個体は混じっていないらしいが。


 "結界盤" の設置は予め探索者に周知し、我が領と和平関係にある地域の出身者には対価と引き換えに "再生の護符" を持たせている。しかし元々治癒力の高い者や癒しの魔法に長けたメンバーがいるパーティは気侭にダンジョン探索を続けており、そういうパーティほど連携からは外れがちだった。

 ダンジョンを私物化する気か?との声もあるようだが、さすがに魔王たる俺に直接抗議できる程豪胆な者はいないようで、そのあたりはテレイズたちに任せている。結界盤自体も、所在は隠しているが一応幹部に見張らせている。


 軍団が森を抜けるには相当時間がかかるだろう。何の障害もなく最適なルートを熟練の探索者が駆けて 1 週間の道のりではあるが、奴らは大所帯であり、こちらの抵抗や結界盤の効果を考えれば、少なくとも半年くらいは森で停滞することになる目算だ。

 仮に草原へ至ったとしても奴らの拠点が荒野の更に奥にあるのなら、草原に出て来たところを各個撃破していけば軍団員の補充にも時間がかかり、やはり時間は稼げると試算している。

 最良のパターンは森で戦力を削ぎ奴らの戦力がそのまま枯渇してくれることだが、どういった理由で軍団が生じたのか分からないため、期待すべきではないだろう。


 ・・・いや、軍の殆どはアンデッドなのだ。ダンジョン内で魔物や魔族が死ぬ度に軍団の勢力として復活しているのか?そう考えたとき、アンデッドの “死亡” がそのまま軍団の力を削いでいることと同義なのかは疑問である。

 アンデッドが討伐後何度でも復活するとなればもっと面倒なことになるが、流石にそれは考えにくい。そうでなければ世界は既にアンデッドで満ちているだろう。


 原因の一端を推測するに、そもそもダンジョンは想像の魔王エ=2=エテが設置した可能性が噂されている。エテはゴースト系の魔族であり、軍団の指揮を取っていたとしても不思議ではない。まぁ、だから何か対応が変わるわけでもないが。

 逆にエテがダンジョン外にいるのならこの事態を解決するアイディアを乞いたいところだが、エテの所在は分かっていない。

 ・・・いずれにせよ、現状は最善を尽くせていると思いたい。



「ガルネリア様、アレスタイです」

 執務室のドアをノックしてアレスタイが入ってくる。定期報告だろう。無言でそれを待つ。

「カンナバーラ様の召喚が実験段階を終了したとのことです」

「・・・ふむ」

「カンナバーラ様からは、次の満月の夜ゴッデス闘技場で召喚を行うので立ち会わないか、との招待を承っています。召喚の披露と、いざという時の保険だと仰っていましたが」

「そうか。お前は実験段階のものは見たか?」

「いえ、見ていません」


 カンナバーラ殿は魔王の中でも温和な方だが、実力で魔王の座に着いていることは疑いようもない。

 同盟を結んでいるとは言え、わざわざ俺が行くこともないと思わないではないが、この渦中に罠を張ることもあるまい。彼は積極的に争いの目を蒔くような性格ではない。今回の招待は、半分はダンジョン問題解決のための成果を同盟国君主である俺に見せるため、もう半分は自慢のため、といったところだろう。

 ゴッデス闘技場は魔素が充満している。きっと召喚に適しているのだろう。


「次の満月となると、数日中に出れば間に合うな。どう思う?」

「私は特に断る理由がないと思います。召喚されたモノを実際に確かめておくことは、今後を思えば必要でしょう」

「そうだな。俺もそう思う」

 それに、召喚とやらを見てみたい好奇心もある。

「よし。最低限の人数で行く。集まれる幹部を夕刻に集めてくれ」

「わかりました」



 幹部会でメンバーについて議論し、リフェン領とダンジョン以外に手を回す余裕のある部隊から数人ずつ募った。しかし募ったはいいが手を挙げる者がおらず、こちらから指名する形で 4 名に同行を命じた。

 リフェン領の君主代理はテレイズとライノの二人に任せ、幹部からはアレスタイのみが同行することになった。

 メンバーの傾向的には、一般的なパーティ編成が組めた形だろう。たまにはこういうのも悪くない。


 翌々日には即席パーティの準備と事務系統の引継ぎを終え、俺たちはゴッデス闘技場へ向けて出発した。




*** ハル ***


 グランドドラゴン討伐から 1 週間。私たちはその後更に 1 頭のグランドドラゴンを討伐し、荒野の覇者とも呼ばれるフレアドラゴンを今まさに遠目に発見したところだった。

 フレアドラゴンは荒野のラスボス扱いで、討伐できるパーティは数えるほどしかいないらしい。

 護衛の道中商人たちは、フレアドラゴンの素材は早々出回らないが一頭分の利益だけでも商隊として相当儲かるから、特に上位の冒険者とは懇意にしておくに越したことはない、と言っていた。

 ダンジョン帰りのパーティに南ベースで出会っても、売ってもらえないんじゃ意味がない、と。


 とは言え、数少ないフレアドラゴンを討伐可能なパーティも、その素材を直接鍛冶屋等へ持ち込んで加工を依頼することが殆どなのだとか。

 南ベースを行き来する商隊全てで、数年に 1 回フレアドラゴンの素材を取り扱うかどうか、という頻度らしい。

「もし討伐されたら、是非うちへ」とは商隊長ジョージーの言葉だが、生憎私たちも加工に回すだろう。口ぶりからは期待していない感じだった。二重の意味で。



 フレアドラゴンは小高い丘の上で丸まっていて、寝ているように見える。

 焦げ茶色と赤が混じる艶めいた鱗は、ダンジョンの薄明かりの中でも繊細な色合いが感じられる。・・・発光しているわけではない。口から時折漏れる炎がその姿を明るみにしているのだ。

 おそらくあの炎がフレアドラゴンの魔法なんだろう。魔物も魔法を使うけれど、こんな風に垂れ流しているのは初めて見た。寝息のリズムに合わせるように、ボゥッ、ボゥッと小さな炎が漏れている。


 魔物とはいえ、気高さを感じる姿は寝込みの襲撃を躊躇わせるが、とりあえず "パターンその 2 " から交戦に入ってどのみち起こすことになる。

 荒野を進むにつれてドラゴンの防御力は高まり、普通のドラゴンでもお決まりのパターン・・・別名 "パターンその 1 " の幻影、風拘束、ギロチンコンボが通じなくなっていた。

 そこで新たな連携パターンとして練習したのがパターン 2、またの名をパターン D だ。

 パターン D は対ドラゴン用で、いかにドラゴンの腹を晒し心臓を突くかを追求している。胸腹部の鱗が他よりも薄いので、そこを文字通り突くわけだ。きっとドラゴンも、体全体が硬い鱗に覆われていると動きにくいんだろう。

 もちろんドラゴンと言っても翼のない例のトカゲは対象外。


 殆どのドラゴンは突撃攻撃を持っていて、突撃には一度高く飛翔する予備動作がある。飛翔後は自由落下に翼での加速を加え、地面すれすれを舐めるように硬い鱗で薙ぎ払ってくる。

 鱗の固さと速度のため、地表では反撃どころかきちんと回避しないと防御もままならずにダメージを負うが、野良のドラゴンならパターン D が決まりさえすれば、突撃を始めることなく絶命することになる。


 まず、ドラゴンの飛翔動作をバラけずに応戦する形で待つ。この時ディモンの幻影で、私たちの動きを実際よりも遅く錯覚させる。"バラけない" のがコツで、おそらくドラゴンは私たちを一纏めに攻撃できると思うんだろう、突撃を選択しやすい気がする。

 飛翔動作に入ったらディモンは幻影を解き追従を開始。同時にディモンは魔素を全て身体強化に回し、ペイネがディモンをバフで更に強化する。私はディモンの動きに合わせて空中に足場を作り、ドラゴンの飛翔の頂点がディモンの駆け上がった頂点と重なるように調整。そして、ディモンがドラゴンの心臓を穿つ。

 ・・・一連の流れはこんな感じだけれど、途中で飛翔をキャンセルされた場合や、当たりどころが悪く一撃で終わらない場合もあるので、臨機応変に動くことになる。


 ディモンの身体強化だけだと突きの威力が十分じゃないからペイネのバフは欠かせないし、私は私で魔素の操作はともかく最高到達点の見極めに集中する必要があるのでバフまでは手を回せない。

 パターン D はみんなの機動力と攻撃力をディモンの一撃に注ぎ込む渾身の "パターン" で、パーティメンバーの長所を活かした自信作と言える。



「じゃ、行ってみようか」

「・・・よし。何か気を付けることはあるかな」

「炎の魔法の威力と頻度次第では、ディモンは幻影メインに切り替える必要があるかもしれない」

「炎次第、ね。わかった」

 言うまでも無くディモンの役割が特に重要だ。けれどディモンに気負う様子はない。

「私の風魔法も、盾として使うことになるかしら?」

 ペイネが聞く。それはあり得るだろう。

「その時は私も防御に回るよ」

「心強いわ、クレア」

 ふふん、と笑って応える。

「じゃ・・・起こそう」

 準備ができたことを再確認して風魔法で岩を飛ばし、フレアドラゴンの眠りを遮った。


 フレアドラゴンは体に岩が当たるとスッと目を開け、鋭い眼差しで周囲を見廻す。

 隠れている私たちにはまだ気付いていないけれど、翼を広げて天に向け咆哮し、いきなり空に舞い上がった。

 さすがに距離もあるし、突進の予備動作とは思えない・・・そう考えてフレアドラゴンが地上に戻るまで待機を決めたのも束の間、私たちのいる方へ急降下を始めた。

「回避っ!!!」

 簡潔に告げて散開すると、ドラゴンの両翼がついさっきまで私たちが隠れていた木立を薙ぎ倒した。

 体にぶつけられた岩から私たちの居所の目星を付けたんだろうか?

 ・・・ともかく、ここからは一切の失敗が許されない。



 フレアドラゴンは高頻度で炎の魔法を操り、魔法の及ぶ範囲も侮れない。

 口から火炎放射器のように吐き出す炎はダンジョンを瞬間的に明るくし、荒野にまばらに生える草木を燃やす。

 3 人ともドラゴンの攻撃に対しては回避優先で立ち回り、私とペイネは障壁の展開に余念がない。ディモンも要所を押さえて幻影を繰り出し、攻撃を微妙に外させている。

 ディモンの魔法が作る私たちの虚像は数瞬で炎や物理的な攻撃の余波によって掻き消えてしまうけれど、それでも局所的な余裕が生まれ回避率は大幅に上がっている。


 嬉しい誤算だったのは、鉤爪や翼による攻撃の威力がグランドドラゴンと大差ない点だ。むしろ大小の岩を散弾のように飛ばしてきたことを思えば、グランドドラゴンの方が物理的な面では厄介かもしれない。

 それでもフレアドラゴンが荒野最強とされるのは、速度、炎魔法の強力さ、鱗の強固さが抜きん出ているからだろう。

 琥珀に似た色合いの鱗はグランドドラゴンの岩のような鱗よりも硬く、しかし重くはなさそうで、動きに鈍さは無い。

 他のパーティはどうやってこいつを倒すんだろう?ぜひとも意見交換をしたいところ。


 回避ばかりではジリ貧だ。私たちはひとまず一度パターン D を完成させるべく好機を待つが、如何せんフレアドラゴンはなかなか飛び上がらない。

 何かきっかけを・・・と、思いつきで火炎放射へのカウンターよろしく懐に風刃を飛ばしてみたら、首元に一条の傷が付きフレアドラゴンの動きが一気に激しくなった。

 ・・・いわゆる逆鱗に触れたんだろうか?ちょっと "早まったな" と思いつつも、どうせやることは変わらないと開き直って冷静に飛翔を待つ。

 ちらっとディモンとペイネを見ると、二人ともジト目で私を見ていた。いや、ごめんて。


 私の攻撃が功を奏したのか、ドラゴンの攻撃はかなり直線的になって、ついにその時が来た。

「ディモン!」

 私は叫び、ディモンとペイネが併走を始める。

 ディモンのための足場だけでなく、万が一の火炎放射に備えてディモンの前方に障壁も展開する。

 予想以上にフレアドラゴンの飛翔速度が速いが、ディモンも付いて行けている。


「うおおあぁぁぁぁ!!」

 珍しくディモンが吠え、そして完璧なタイミングでドラゴンの胸に剣を突き立てた。


 ・・・しかしフレアドラゴンは深々と刺さった剣を前足で抜き、尚も突撃の構えを崩さない。ディモンは血飛沫を浴びつつ、勢いを失って落下し始めている。

「ペイネ、デイモンをキャッチ!」

「任せて!」

 ディモンは咄嗟に幻影を生み、フレアドラゴンはディモンの脇を通過する形で突撃を開始した。

 私は突撃の線上に立ち、フレアドラゴンの標的になる。

 フレアドラゴンは炎を吐きつつ急降下し、吐き出された炎が身体に纏わり付いていく。鳳凰、あるいはフェニックスを彷彿とさせる姿に見惚れつつ、回避に徹する。


 ディモンの攻撃がイイところに刺さっていたんだろう。私への突撃を外したドラゴンはその後精細を欠き、剣を回収して戻ったディモンとペイネを交えた地上での攻防の末、再びの飛翔に合わせた 2 度目のパターン D で討伐に至った。

 ・・・地に堕ち、死際に目の光を失っていく姿が妙に印象的だった。


 ディモンの剣はトドメの攻撃に耐えかねたかの様に、ドラゴンから引き抜くと同時に刀身が割れた。

 散々ドラゴンを屠ってきたことを考えれば、初期装備にしては異常に耐えた方なのかもしれない。ディモンの目利きゆえだろうか?

 ディモンの剣がダメになったので、ここで引き返すことになりそうだ。


 フレアドラゴンの革や、鱗、牙など金になる部分を採取して、流石に疲れたので近くの岩陰で休む。

 素材用の袋を別に持ち歩き、戦闘時は片隅に置いておく方式を採っていたけれど、大きい魔物からはどうしてもたくさんの素材が手に入るので、相対的に価値の低いものは捨てて行くことになる。何か妙案があればいいんだけれど、今のところ思いつかない。

 ダンジョンのどこかに置いておく、という手段は使えない。轍が消えるのと同じ様に、ダンジョンではいつの間にか倒された魔物たちが消えてしまう。同じように、放置された所持品も、死体も。


 帰り道は私の剣をディモンが使って、できるだけ戦闘は回避して南ベースを目指すことを決め、そのまま夜営に移った。

 簡単に焼いただけのフレアドラゴンの肉は、格別に美味しかった。

お気付きの方もいるかも知れませんが、この小説はディモンのハーレムエンドを目指しています。


嘘です。

何エンドをご希望かなど、感想を下さると嬉しいです。・・・完結済みですが。

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