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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第二章 ダンジョン探索
25/185

019 グランドドラゴン

***


 ハラルタでのパーティメンバー探しは不発に終わり、クレアたちは再びダンジョンに戻ることにした。

 唯一手に入った有用な情報、ギー=グレイモアと云うマッス流の大盾術を修めたマルト流剣士のことも、行方が分からないらしく、期待は薄そうだと 3 人とも同じ感想を抱いた。


 ダンジョンには、丁度ギルドで商隊の護衛の依頼を見つけたため、商隊に同行することにした。

 商隊は慣れたもので、ギルドで挨拶を済ませるとそのままダンジョンへ向け出発した。

「僕たちだけですが、いいんですか?」

 ディモンは名の売れていない、しかも見た目に若いメンバーしかいないことが気にならないのかと思い商隊長に尋ねたが、「ホワイトタイガーを倒せると聞いてるからな。むしろ願ったりだよ」と返された。


 ギルドと商人はある程度交流があり、特に護衛が必要なダンジョン行きの商隊ならば、情報をギルドや他の商隊と自発的に共有するのが一般的だ。

 町に居座る商人は情報は囲ってこそ価値があると考える傾向にあるが、商隊の商人たちは、情報を共有することで得られる安全と利益の天秤を、一様に "安全寄り" で捉えている。

 冒険者たちとしては密かに実力を把握されていることを快く思わない場合と、話が早くて楽だと歓迎する場合とがある。

 クレアたちは現状目立たずに活動したいと思っているため、商隊長の返事は内心好ましくなかったが、そういう情報網の存在を察せられたことは良かったとプラスに考えることにした。

 それにクレアたちには分からないことだったが、実際には商人たちとしても情報はやはり価値そのものであり、無闇に冒険者やパーティの実力を吹聴することはない。

 クレアたちの実力についても、クレアたちが想像するより遥かに狭い範囲に知られるに留まっている。


 道中は至って平和で、インドール平原で遭遇する魔物も大した障害にならない。

 商隊に同行することで時間はかかるが、今回はお試しということもあって 3 人は時間は気にせず、商隊員たちと話しながらダンジョンへ向かった。

 思わぬ収穫だったのはギー=グレイモアを最近見たという隊員がいたことだった。

 隊員はアバレティナン出身で、今回の遠征前に帰郷した際、それらしい人物がいたことを覚えていたのだ。

「短めの銀髪を後ろで結んだ優男でしょう?大盾に加えて大剣も提げてたから、合ってると思いますよ。装備が目立つんで覚えてただけで、話してはいませんがね」

 クレアとディモンは何故わざわざ大盾と大剣の両方持ち歩いているのか意見し合ったが、本人に聞かない限りわからないので、とりあえず目撃証言を得られた事を喜んだ。


 ダンジョンへは 2 週間ほどで着いたが、商隊長のジョージー曰く普通より 3 日は早かったらしく、追加の報酬を受け取ることになった。索敵範囲の広さや接敵時の対応の早さを商隊長は褒めていた。

 丁度他の商隊がいなかったため、3 人は護衛に当たっていた商隊から冒険に必要な食料等を買い求め、そのままダンジョンに潜って行った。




*** ハル ***


 久しぶりのダンジョンは相変わらず薄暗く、しかしワクワクする様な空気が満ちている。

 前回通ったルートを大まかになぞりつつ、草原地帯は足早に通り過ぎる。1 週間ほどで幻惑の森へ入り、ホワイトタイガーを討伐したあたりまで 3 日、それからさらに 1 週間ほどを費やして森を抜けた。


 いわゆるボス敵のうち、草原ではレッドサーペントと 1 回、スリーピングシープの群れと 3 回、森ではレイドトレントと 2 回、ホワイトタイガーと 1 回遭遇したけれど、いずれも手古摺ることはなかった。強いて言えばスリーピングシープの群れの 1 つが大群だったため時間を要したくらいだ。

 ホワイトタイガーはディモンとペイネが希望したので二人に任せたが、ディモンの幻影と剣、ペイネの旋風と風の壁で十分制圧可能だった。比較対象が無いせいで分からないけれど、私だけでなく二人も魔素制御の訓練を四六時中続けているおかげで、全ての魔法の効果がかなり底上げされていると思う。

 ・・・それにしてもペイネはともかく、ディモンは訓練を始めてからの期間が短い。本人のセンスが魔法と剣技の両方で冴え、相乗効果を生んでいるんだろう。



 森と荒野にははっきり境界があって、森を抜けると一気に視界が開けた。

 相変わらず仄暗いため見渡せる範囲には限りがあるが、遮蔽物が少ないだけで随分違う。私は視覚とは別に魔素の動きでもモノを捉えているので、二人とは感じ方が違うかも知れないけれど。

 荒野はそう呼ばれるだけあって草木が少なく、大小の岩石が転がっている。

 半日ほどの移動で更に分かったが、この荒野は隆起した地層とそれに挟まれた浅めの谷が繰り返していて、暗がりを行くことを考えれば、ふとした落下の危険を避け基本的に谷を進むことになる。

 谷と言っても幅は様々で、500 m は開けているところから 10 m ほどしかないところまである。ルートはいくつもあるらしいけれど、他の冒険者と出会う機会が増えるかもしれない。

 それから、魔素溜まりとでも言えるようなところが点在している。魔素溜まりは近付こうと思っても近付けず、離れて行くか拡散してしまう。


 荒野ではこれまでに出現した魔物の強化版もいるが、ゴーレムとの遭遇率が高い。ゴーレムは土とも木ともつかない微妙な見た目で、剣でも斬れるけれど、ズブッと表現するのがしっくりくる不快感を伴う。

 動きはそれなりに早く、前世的に例えるならマスコットの着ぐるみに入った人が半日動き続けた後みたいな感じだ。大きさも大体は人くらいだし。

 中には小さいゴーレムや大きいゴーレムもいて、そういうのは大きさと速さが反比例していた。

 大きいものでは 5 m くらいの個体も見かけて、達磨落としのように足から切り刻むとちょっと楽しかった。


 ゴーレムはたまにレアメタルを宿していて、核を失った後に崩壊した体の中から見つかることがあるらしい。

 しかし数日の間に倒した数十体はレアメタルを持っていなかった。流石にレアと呼ばれるだけのことはある、と云うことなのかな?

 そうこうしているうちに、案外呆気なくドラゴンの棲む領域に突入した。



 ドラゴンといえば泣く子も黙る魔物の頂点、御伽噺では定番のボスだ。アポロア記にもたまに出てきた。

 しかし、物語の、あるいは前世の知識的なドラゴンを想像していた私にとって、ダンジョンで初めて出会うドラゴンはコレジャナイ感満載だった。


 まず翼がない。顔立ちがシュッとしてない。後ろ脚で立たない。火を吐かない。細部を挙げればキリがないが、ともかくコレジャナイ。もっとはっきり言えばただの大きいトカゲだ。

 二人は気にならないんだろうか?この地を這う大きな爬虫類がドラゴンと呼ばれていることが。

 ・・・いや、諦めるのは早い。後々ザ・ドラゴンが登場するはずだ。

 私は期待を込め、最初の数頭をマナス切りにした。


 ・・・期待は喜ばしいことに裏切られた。

 どうやらトカゲは下位種らしく、ちゃんとそれらしい姿のドラゴンが出現し始めたのだ。

 彼らは空を飛び、炎を吐き、素晴らしくドラゴンだった。

 もっとも一体の魔物として対峙してしまえばやることは変わらない。

 幻影に嵌め、風で拘束し、首を落とす。風への抵抗力と鱗の固さに初めは戸惑ったが、こちらの機動力をきちんと活かせば、矢継ぎ早に攻撃を重ね蓄積させたダメージは確実に首を落とすに至った。

 ドラゴンと戦って分かったことだけれど、これまでは 3 人とも機動力を殆ど活かしてこなかったと云うか、活かす前に勝敗が決していたらしい。

 いい経験になる。


 ディモンのお目当てのグランドドラゴンは荒野に入って 2 週間後にようやく遭遇した。

 グランドドラゴンは名前に反して空を飛んだ。しかし岩のようにゴツゴツとした鱗を纏い、崖を崩し尾で弾き飛ばしたり、転がる岩石を飛ばしつつ突進してくる姿はまさに "グランドドラゴン" だった。

 ララの店の店主が言っていた角は額のところから一本、根本を岩で飾られるように生えている。突進攻撃を考えると、これを綺麗に採取するのは骨が折れるかもしれない。

 

 問題なのは首の周囲が特にがっちりと岩で覆われて、これまでの作戦が通じなさそうなこと。

 さて、どうやって倒そう。




*** リーデンローザ=ディモン ***


 グランドドラゴンにはダンジョンの入口から約 1 ヶ月で遭遇した。

 雄々しく岩を纏った姿は暗闇に巨大な影として佇み、一言で言うならカッコいい。

 一頭目のドラゴンを見たクレアの落胆がその場では僕には理解できなかったけれど、空を飛ぶ個体と戦い、そして今目にしているグランドドラゴンを思えば、確かにあのドラゴンたちを物足りなく感じるのも分かるというもの。

 店主との約束もある。俄然力が漲るのを感じる。


 グランドドラゴンはその名の通り大地や岩を巧みに使って攻撃してくる。

 岩の大きさは様々だけど、石とは最早呼べないほどの大きさになると、例え小さくても無視できないダメージを負ってしまう。

 ボウェルとソロジーは自分で回復できる。僕はまだできないので盾をしっかり活用して攻撃から身を守る。

 思えば、ようやく盾の出番が回ってきた。正直邪魔だなと思っていたけれど、やっぱり持っていて良かった。


 グランドドラゴンは首回りと背後のガードが硬いため、腹側が攻撃の標的になる。突進の間は横腹は隠れているから、空を飛んでいる間が勝負だ。

 ソロジーならどうかわからないが、ボウェルはグランドドラゴンを御するほどの風魔法はまだ使えないとのこと。ソロジーによくある "気分の問題" なんだろうけど、ボウェルの代わりを務める気はないらしいので他の案を立てる。

 霧を展開しても翼で風を起こし効果を弱めらてしまうし、アッカの星の助太刀でホワイトタイガーを倒した時のようにソロジーが空を駆け上ろうにも、グランドドラゴンに近くなるほど岩の攻撃の密度が増す。


 何かないか。

 ・・・あ、そうか。盾のある僕が近付けばいい。・・・のか?

「ソロジー、僕を飛ばせる?」

 僕の意図をすぐさま察してくれたらしく、ソロジーは大きく頷いた。

「次に飛翔したらその頂点を目標に踏み出して。サポートするから!」


 ソロジーの言葉を信じ、グランドドラゴンが大きく羽ばたいたのと同時に僕も空中を駆け上がった。ソロジーが絶妙な位置に風の層で足場を作ってくれている。なんの不安もなく駆け上がれてしまったことに、むしろ拍子抜けさえする。


 グランドドラゴンは舞い上がり、崖の側面を前足で削り取ろうという構えをみせる。

 思いきり駆け上がった僕は勢いそのままに、グランドドラゴンの足の付け根を剣で突き刺した。


 羽ばたきで地面へと突き返されるが、ソロジーが風のクッションで受け止めてくれた。

 グランドドラゴンの右前足はだらんと垂れ、咄嗟の連携がうまくいったことを確認する。

 できれば翼を落としたいが、いけるだろうか?いや、なんとしてもやってみせる・・・。


 その後もドラゴンの飛翔に合わせた強襲を繰り返し、何回かが功を奏しついにドラゴンは翼を失った。

 地に堕ちたグランドドラゴンの突進は全力で回避、もしくはソロジーが力技で受け止め、止まったところをボウェルの風で浮かせてひっくり返そうと試みること十数回。足を中心に攻めたことがやっと効いてきたのか、ついに弱ったグランドドラゴンをひっくり返し、すかさず腹を、胸を切りつけ、グランドドラゴンの討伐に成功した。

 有難いことに、ソロジーが器用に避けてくれていたため角も綺麗なままだ。

 これなら店主に見せても文句はないだろう。


「パターン以外でも、案外なんとかなるね」

 そう言ったのはソロジーだ。

「私、力不足だったわ・・・」

「いやいや、僕こそ感じたよ」

 6 人前後がパーティのセオリーになる理由も頷ける。強敵を前にするとどうしても一人ひとりが果たせる役割の数が制限され、足りない要素が出てくるからだ。それが実感された。

「そうかなぁ?」

 僕とボウェルとは違ってソロジーは楽観的だ。


 グランドドラゴンを 3 人で討伐した。文字通りに受け止めるなら僕たちが十分以上に力をつけていることが察せられるけれど、そうは言っても相当に疲弊した。余裕とは言い難かったのだ。

 先を思えばもっと細部まで突き詰めていく必要があると思う・・・。


 ともかく、幸先よく一頭目のグランドドラゴンで目的の角を手に入れることができた。

 光苔の色が変わり始める時間になっていたこともあり、僕たちはそのまま近くで野営することに決める。そして翌日からは、荷物次第だが行けるところまで行こうという話になった。

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