017 職人の国レイドレ
*** ハル ***
ダンジョンからレイドレまではインドール平原を渡り 1 週間の道のりだった。グラッツァからダンジョンまでと比べるとコウモリ系の魔物が多いくらいで、大きな変わりはない。
レイドレではひとまず宿を確保してから、依頼を探しにギルドへ赴いた。
いつでもやっている薬草採取の依頼を受けることにして、食事処を探す。
「やっぱり町の雰囲気というか、空気が違うね」
ディモンが言う空気感は私も感じている。
「うん、物づくりに携わってそうな人が多い」
私はディモンに同意したけれど、ペイネはピンとこないらしい。
「それって、どうやったら分かるの?」
「どうと言われても・・・雰囲気だよ。あぁでも僕の場合職業柄、人の仕草とか細かいところが気になるから、それでなんとなく“そう”ってわかってるのかも」
「クレアは?」
「服装かな。汚れても良さそうな格好してる気がする」
「ふーん」
食事は宿に近い店に決めた。昼前の今はまだ客も少なく、私はすぐに出て来たシチューをさっさと食べた。クリーム系、普通の味、量は多め。
「近くの店を片っ端から回ってみる?」
「私はそれでいいわ。ディモンは?」
「僕は先に防具を見ておきたいかな。新しく注文するようなら、できるまで時間もかかるだろうし」
「確かに。じゃあ先にみんなで武器と防具を見に行こう」
ぶらつきの方針が決まった。
武器屋ではディモンと私は剣と手入れのための砥石などを、ペイネはワンドを探す。
剣は耐久性や切れ味が使われている素材や作り方で違ってくるが、ワンドも物によって魔素操作のしやすさに違いが出るらしい。・・・らしい、というのは、私は使ってみてもあまり違いが分からなかったと言うかむしろ邪魔だったから。ペイネはワンドがある方が意識を集中しやすいと言っていた。
それから私は盾を使わないけれど、ディモンは盾との相性も気にする必要がある。
「おっ。僕、これ好きだな」
ディモンが早速品物を手に取っている。今持っている剣と形は似ているけれど、色合いが綺麗で、アダマンタイトが混ざっていることが察せられる。
アダマンタイトといえば剣と魔法のファンタジーにおける最高級品のイメージだが、この世界ではそれなりに出回っている。ちなみに殆ど全てダンジョン産とのこと。
前世では空想上の金属とされたものには、流通量の多い順にミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、オリハルコンがある。ほとんどはダンジョンから発掘され、鉄や金を扱う延長上の技術で加工や合成も可能なのだとか。原理は知らない。
その他にも私が知らないだけで、色々あるんだろう。
「確かに良さそうね。でもまだ回り始めだし、もっと見てから決めたら?」
ペイネの意見はもっともだ。ディモンは数度剣を振って、もう一度まじまじと見た。
「そうだね・・・でもこれ、すごくイイよ」
最初に良いと思ったものが結局一番良い、ということは往々にしてある。けれどレイドレは職人の国だ。むしろそれが標準かもしれない。
「おじさんこれいくら?」
とりあえず値段は聞いておくようだ。
「んー?その剣か?そりゃ非売品だ。うちの技術力の結晶さ」
店主がサラッと答える。
ディモンの目利きが確かなことが証明されたが、売ってもらえないんじゃ意味がない。あからさまに落胆の色を見せ、ディモンは剣を元あった場所に戻した。
「兄ちゃんいい目してるな。実力がわかりゃ、売ってやらんでもないぞ?」
ディモンの顔がパッと明るくなる。
「えっ、どうしたらいいんですか?」
ディモン、まだ他の店も回るんだよ?
「そうだな・・・」
髭を触りつつ少し考えて、店主は答えた。
「グランドドラゴンの角を綺麗な状態で持って来たら、それと交換にしよう。いい冒険者と懇意なんだって証になる」
「グランドドラゴン・・・わかりました。必ず持って来てみせます!」
ディモン、それどこにいるの・・・。
ディモンの武器を入手するためにグランドドラゴンを倒す。うん、目標ができたことは良いことなんだろう。ただ逆に、グランドドラゴンを倒すほどの冒険者ならもっと良い武器も手に入れられるのでは?とも思ったがそれは言わないことにした。
ドラゴン系だから多分、幻惑の森を越えた荒野で遭遇するはずだ。
ディモンは店主とガッチリ握手を交わし、私たちは店を出た。
入る時は気にしなかったけれど、いいモノと出会ったのだ。名前も覚えておこう。店名は “ララの店” と云うらしい。さすがにあの店主がララではないだろう・・・。
ララの店の後数軒武器屋と防具屋を回ったが、ディモンはあの剣から心移りしそうな気配を見せなかった。ただ盾については取り回しの良さそうなものを購入し、使っていた盾は売り払った。
「もっと余裕ができたら、盾と揃いのものを身につけてみたいね」
その気持ちは分かる。ゲームでもシリーズものの装備は、大抵見栄えがいいから。
ペイネはワンドだけでなくロッドも候補に含めて新しい武器を見繕っていたけれど、それよりも先に服を新調した。
ダンジョンでは動きやすさが重要と感じたらしく、魔法使い然としたローブから、私同様に生茂る草木から身を守る程度の軽装に一新したのだった。
身体のラインがそこそこ分かって、彼女の美しさがより際立つというものだ。・・・そう見えるのは普段からそういう目で見ているせいかもしれないけれど、ともかく私は今更見惚れてしまった。
陳列されているワンドの殆どはダンジョン深部で出現するトレントの枝が材料らしく、いい枝を入手したらどこかで加工してもらうことに決めたらしい。
私は剣だけを目的に見て回った。
なんとなくかっこいいから、という理由で刀があればと思ったんだけど、似ているものすら無かった。
どの店でもそういう剣を知らないか聞いてみたが、返事はイマイチだった。
“なんとなくかっこいいから”。これはすごく重要だ。折角ならカッコよくなりたい。そう思うのは主人公願望の表れだろうか?
アテが外れて実際には私は路傍の石だったとしても、せめて私だけでも私をカッコよく思えるよう見繕ってあげたい。
そんな私にとってかっこいい武器とは刀であり、刀こそがかっこいいの象徴だ。
そういう意味で是非とも手に入れたいわけなんだけど・・・。
当然私は刀の作り方なんて詳しくない。もしかして手に入れるためには、一から誰かに試行錯誤してもらわないといけないんだろうか?
技術に自信ありといった感じのララの店で、作れないか後で聞いてみよう。
武器についての方針が朧げながら固まったので、まだ初日ではあるけれど武器屋周りはひとまず用を成したことにした。明日からは生活用品を中心に、目につけば武器屋にも寄りながら町を散策する。
ギルドで武器に詳しい人や店のことを聞くのもいいかもしれない。
もちろん、薬草採取も忘れずに。
*** ガナック=ハコバス ***
俺の父ちゃんブロック=ハコバスはレイドレでも一流の鍛治師だ。
ギルド周辺にある店の中でも質がいいと聞くことも多く、俺も鼻が高い。
店に出している商品はいわゆる “典型的な” 剣やナイフ、斧、槍、盾など。余計な細工を施さず使い勝手と質を両立させていて、見た目以上の使い心地の良さリピーターも沢山いる。
俺は、まだ学校に通っていた頃は装飾の綺麗な武器に憧れていた。それがいざ父ちゃんの下で鍛冶の修行を始めると、お客さんである冒険者たちの話ぶりから、父ちゃんの飾り気無い作品たちがいかに素晴らしいか気付き、俺も今ではそういうものを作りたいと思うようになっている。
ただ一方で、何か新しいものを生み出したい気持ちもある。
父ちゃんはこれまで武器をひたすら “正しい” 形にすることに心血を注いできて、今もその研究は続けている。俺はそのことを誇らしく思うが、それはそれとして俺も何かを成し遂げてみたい。
そのため 1 週間に 1 本くらいのペースで新しい武器のサンプルを作ったりしている。
今のところ成果はないけど。
その日父ちゃんと話していたのは、びっくりするくらい美形の女の子と結構な美男と、それからもう一人の女の子の 3 人組のうち、目立たない女の子だった。よく見れば整った顔だしその両目には惹きつけられるものがあるのに、どうにも印象が薄い。
「鋳型に入れるんじゃなくて、何十回、何百回と折り重ねつつ形を仕上げる、そういう剣が欲しいんですけど・・・」
「そりゃなんていう武器だ?完成形が頭ん中にあるような口ぶりだが」
「えぇ、刀と云います。以前流浪の冒険者に聞いて、欲しいなぁと思っていたんです」
そう言うと影の薄い女の子ソロジーは、紙に武器の絵と概要を書き出した。
“刀” は片刃のやや反った細長い剣で、握りと刃はひと続きになっていて、剣でいうガードは後から誂えるらしい。そしてソロジーが言うには、材料となる金属を熱しつつひたすら打って叩いて折り曲げながら完成形に仕上げるのだとか。
利点として、強度が高く粘り強く、取り回しがいいのだとか。
「うーん?その名前、聞いたことがなくもない。何だったかな・・・」
父ちゃんはこんな武器のことも知っているらしい。
「・・・そうだ。アポロア様の旅に出てくる武器をひたすら解説した本のどっかにあったはずだ。ちょっと待っとれ」
そう言うと奥へ下がっていった。
取り残された俺はとりあえず愛想笑いを作る。
話を一緒に聞いていた美男美女の 2 人が愛想笑いを返してくれるが、女の子の綺麗さがヤバイ。
父ちゃんは数分で戻ってきて、分厚い本のとあるページを広げた。
「ここだ。『注: アポロアはアマヤと呼ばれる人物と交流があり、アマヤが所持していた刀を折に触れて褒めたとされる』とある。作り方は分からんが、お嬢ちゃんの言う刀ってのはこれのことじゃないか?」
アマヤという人物のことは殆ど書かれていないが、確かに刀という単語が出てきた。
「このアマヤって誰?」
「そりゃわしにもわからんが、どっかの冒険者だろ」
俺と父ちゃんのやりとりを聞いたソロジーが訊ねる。
「この人のフルネームってわかりますか?」
「いや、わしは見た覚えがないな」
「そうですか」
ソロジーもそれ以上は聞かなかったが、何か思うところがあったんだろうか。
俺はふと思い立った。
「ねぇ、その刀っての、俺に作らせてくれよ」
父ちゃんが訝しげな顔で俺を見るが、俺も考え無しってわけじゃない。
「父ちゃんは店の品とか、それ以外にも個別の注文を仕上げるのに忙しいだろ?それなら俺が修行の一環として刀を作って、その出来を父ちゃんに見てもらって改善していけばいいんじゃないかと思ったんだけど」
「しかし完成形もある程度分かってるしなぁ。俺が引き受けた方がいい気がするが」
それはそうかもしれない。
「店長さんなら、どれくらいで仕上げられそうですか?」
「そうだな・・・初めてのことだし、試作に二ヶ月、完成にさらに一ヶ月ってところか?もちろん、プロトタイプが、だが」
「え、そんなに早くできるんですか?」
「お嬢ちゃんの説明からかなり具体的なイメージはできている。そんなもんだろう」
俺の出番は無いな、と残念に思いつつ話の行方を追っていると、むしろ俺も積極的に関わる流れになった。
父ちゃん自身も初めての上、試作でもあるし、一人でやらない方がいいだろうという理由だった。そういうものだろうか?
“ついで” 感は否めないけれど、俺はこの挑戦にワクワクしているのをはっきりと感じる。魔法が使えるようになった時以来と言っても差し支えないくらいだ。
・・・よし、俺が刀を完成させてやる!
一人決意を胸に、店を後にする 3 人を父ちゃんと見送った。
「ガナック、一丁やってやるか!」
「おう!父ちゃん、俺にも期待しててくれよな!」
父ちゃんもやる気を滲ませている。
工房での、今まで以上に忙しくも楽しい日々が始まった。
*** ペイネ=ボウェル ***
レイドレでは結局みんな防具を少しづつ変えたくらいで、武器は変わらなかった。見た目だけなら私が一番変わったと思う。
むしろ新しい武器のためにも、もっとダンジョン攻略に励もうという話になった。
ディモンはグランドドラゴンの角を、私は質の良いトレントの枝を狙う。クレアは希少な鉱石を、例の武器のために採取したいみたい。レアメタルはゴーレム系の魔物の核になっていたり、ごく稀に荒野に無造作に転がっていたりするらしい。
草原、森、荒野と、上の階層の魔物は下層でもより強くなって現れる。主に武器のため、私たちの次の活動は荒野でということになる。・・・まだ森までしか行ったことは無いんだけれど。
他に雑貨店を巡って購入したものが幾つかある。
私が買ったうちの一つは保湿剤で、今まで使っていた香油とは比べ物にならないくらい手足の乾燥が減った気がする。余計な香り付けが無いのもいい。ディモンはともかく、クレアの反応もイマイチだったことは納得いかない。
二人は、何に使うのか分からないけれど、ディモンは視界が良い反面しっかり顔を隠す仮面を、クレアは細かく振動する細長い棒を一番の買い物と称していた。
「多分何かに使える」
「どうにかハブラシに・・・」
と二人は言っていた。
クレアの方は成果が出たら私にも教えてもらうことになった。
新しいメンバーの目処は立たなかったけれど、レイドレでの用は一通り終え、予定通り東隣りのハラルタへ移動することになった。
ハラルタの次はまたダンジョンに戻る。
お読み頂きありがとうございます。




