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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第二章 ダンジョン探索
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016 雷魔法の使い手

*** オヴァリ=エンダ ***


 賢者の園を出てから数年が経った。ギルドに紹介されたパーティから離れ、今はインドールの風の一員としてダンジョン攻略を目標に活動している。

 アルド校長が引退した後も、インドールの風は各地を廻って厄介な依頼を積極的に受けていた。そして依頼の無い時はダンジョンに潜っている。

 ダンジョンの攻略具合としてはかなり先頭を走っていると思う。何せ、荒野にいるドラゴンのうち 2 種類はインドールの風を含む 4 パーティしか討伐に成功していない。

 他のパーティは "ロッキンガム探索隊"、"ハラルタナイツ"、"夢幻" で、お互い進行状況を気にしつつも、荒野より先へ進めないでいる。


 原因はナイトゴーレムだ。

 ナイトは騎士ではなく夜の意味で、ダンジョンの魔物にしては珍しく夜も活発に活動している。もちろん昼も。

 このゴーレムは荒野前半のゴーレムと見た目こそあまり変わらないくせに、性能が全く違う。

 物理攻撃が普通のゴーレム以上に通じない上、魔法による攻撃も殆ど効かない。

 これだけでも絶望的なのに、それがいつも 3 体で組になって行動している。

 ナイトゴーレムは荒野の終点と目される長い石壁付近に張り付いているため、避けて通る訳にもいかない。


 大体の魔物は奥への侵入を拒むかのように冒険者たちの姿を見つけると襲ってくるが、足の遅い魔物なら撒くこともできる。ゴーレムは大体足が遅いくせに、ナイトゴーレムに限ってはそれも当てはまらない。

 荒野のドラゴンに苦戦することは減ってきたインドールの風も、ナイトゴーレムへの勝算は立たないままだ。


「あれの弱点って、あるんですかね?」

「無いから困ってるんじゃない。私の大剣が通じないなんて、こう言っちゃなんだけど、中々ないよ」

 タナカナさんと野営の番をしつつ、若干飽きてきたナイトゴーレム談義を始めた。

「ミーもさ、ここまではドラゴン相手だって結構やれてきたと思う。でもあれには自信無くすなー」

 タナカナさんはアネゴ気質のサイ系獣人で、本名はミー=タナカナ。自分を名前で呼ぶ系の人だ。

 "マルト流"の、僕の今の師匠でもある。

「今んとこ一番手応えがあったのはオヴァリのサンダーボルトだけど、それでも大した効果は得られてなかったしな」

 魔法も効きにくいが、雷魔法は他の属性魔法よりも効果が実感できた。でも、それも他 2 体がカバーするうちに回復してしまう。


 他のゴーレムと同様、身体の中の核を破壊すれば倒せるんだろうけど、殆どの攻撃が大して効かないのでどうしようもない。

「ゴーレムってどうやって動いてるんですかね?」

「そりゃ、トレントみたいに核があるから、核の力で動いてんじゃない?」

「それはそうなんですけど・・・"核で動いてる"って、そもそも何なんでしょうか」

「魔法の一種でしょ?多分」

 ナイトゴーレムだけ核が無い、なんてことは流石に無いと思う。でもあからさまに強さの異なる存在に違和感を感じてしまう。何か仕掛けがあると思うんだけどなぁ。


「それにしても・・・お前もここんとこ名前が広まってきたな」

「そうですか?」

「あぁ。酒場で "再来のエンダ" って、そう呼ばれてるのを聞いたことがある」

 ちょっと恥ずかしいけど、嬉しくもある。

「特別何かをしたわけじゃないんですけど・・・」

「いやいや、その歳でダンジョンの先頭を走って、しかも雷を従える魔法剣士だ。有名にならない方がおかしいよ」

「剣の腕はまだまだですけどね」

「さすがにそこは熟練ってモノがあるからな」


 悩みの解決案は存外、だらだらと話している中でふと見つかったりするものだけど、この夜も雑談だけに終わった。

 翌朝、インドールの風は準備を済ませるとナイトゴーレムとの戦闘に赴く。

 最近は数日かけてドラゴンを数頭倒し、その後ナイトゴーレムに挑み・・・という繰り返しで過ごしている。そしてたまに素材の売却と調味料等の確保のため南ベースに戻る。


 ・・・今回もナイトゴーレムを突破できなかった。

 あらかじめ決めていた通り、インドールの風は南ベースを目指す。



 ・・・久しぶりに陽の光を浴びる。

 南ベースで商店を開いていたのは何回か見た顔だった。

「よぉ、再来のエンダじゃねぇか。元気にやってるか?」

 小太り一歩手前の商人に声をかけられた。ゴロッド=シェルブ商隊長だ。

「えぇ、おかげさまで。と言っても、メンバーのおかげですけれどね」

「そういうなよ。若いのに立派なこった」

 名前が知られ始めている、という噂は本当のようだ。


「今日も若いのがいたが、若い力ってのは嬉しいもんだね」

「へぇ。僕くらいですか?」

「あぁ、そうだな。3 人組だったが、かなり大きいホワイトタイガーの皮を売りに来た。たまげたもんよ」

 同い年でホワイトタイガーを倒せるとなると、よっぽどの実力者だ。とても気になる。

「えれぇ美人と、まぁまぁの美男と、それからもう一人は女の子だったがよく覚えてないな」

 ・・・なんだか知り合いのような気がする。

「もしかしてその美人って、あり得ないくらい綺麗じゃなかったですか?」

「おぅ?知り合いか?」

「多分」


 きっとボウェルさんのことじゃないかな?そうだとすれば、一緒にいた女の子はソロジーさんだろう。男は誰か分からないけれど。

 でも僕の記憶にある彼女たちが手練れだったかと云うと疑問に思う。ソロジーさんはオールラウンダーだったけれど、逆に言えばこれといった特徴がなかった。別の人かもしれない。

 世の中には恐ろしく綺麗な人が、案外いるものだから。


「そうかい。じゃ、見かけることがあったらお前さんのことを伝えてみるよ」

「お願いします」


 旅をしていれば友人と出会うこともあるだろう。そういうところも、冒険者の醍醐味の一つだと僕は思う。




*** ミー=タナカナ ***


 エンダは特別驚く程の早さではないまでも、確実にマルト流剣術を習得しつつある。

 大剣を攻守で用いるマルト流は単に前衛、中衛だけでなく、一対多にも応用が効く。それだけ型も多いが、注目すべきはエンダが型だけでなく、魔法との併用もこなしている点だろう。

 エンダは謙遜するが "再来" と呼ばれるのも伊達じゃない。

 サンダーボルトこそエンダの得意魔法だが、実際には水、火、土、風の魔法も高レベルで使うことができる上、特筆すべきは剣技との複合センスだろう。


 ミーとノトはアルド様が抜けた後に加入した。アルド様の離脱後メンバーは変遷があったらしいが、私はもちろんアタッカーとしての加入だ。

 私のインドールの風に対する印象は、パーティとしては高レベルにバランスよく纏まっているが決定力にやや欠ける、という感じだった。アルド様と、暴風と呼ばれたミース様の抜けた穴は大きい。

 エンダはその物足りなかった決定力を補える逸材というわけだ。


「さっきの 3 人ってのは、知り合いか?」

「そうかもしれません。多分ですけど」

 そう言うエンダの顔はどこか嬉しそうだ。

「お前と同じくらいの年で、しかもホワイトタイガーをとなると、相当な実力だな」

 エンダは笑って返した。


 南ベースの広場には 2 組がキャンプを張っていて、インドールの風も今夜はここで野営になる。2 組からは特に有益な情報はなかったが、夕方頃ダンジョンから帰還したパーティ、アッカの星の話は興味深かった。

 なんでも、ホワイトタイガーと数日のうちに立て続けに遭遇したらしい。

 ホワイトタイガーは幻惑の森でも特に強い魔物で、討伐できるかどうかである程度実力が測れる。

 実力の目安になる魔物は、倒しやすい順に草原のレッドサーペント、ウィービー、スリーピングシープ、幻惑の森のキラースパイダー、レイドトレント、ホワイトタイガー、荒野のハイドゴーレム、ジャイアントゴーレム、グランドドラゴン、フレアドラゴンがいる。現状、その次に挙がるのがナイトゴーレムと云うことになる。

 ダンジョンに潜るパーティの 7, 8 割が幻惑の森までで活動していることを考えれば、ホワイトタイガー討伐はかなり重要な意味を持つ。


 興味深いと思ったのは、彼らとホワイトタイガーの遭遇頻度ではなく討伐したパーティのことだった。

 先に遭遇したホワイトタイガーは、インドールの風同様ナイトゴーレムで足止めされているロッキンガム探索隊が討伐し、アッカの星リーダーのハッシはその戦いぶりを褒めていた。それはまぁ、そんなものだろうという感じなので、注目したのはロッキンガム探索隊のことでもない。

 もう一方、3 人組の方だ。さっきシェルブ商隊長が話した 3 人組だろう。ハッシが言うにはその 3 人はアッカの星の助太刀に入るや、一瞬でホワイトタイガーの首を落としたらしい。

 霧に包まれて詳細は分からなかったとも言っていたが、一瞬と言うからには本当に一瞬のことだったんだろう。


 おそらく今のインドールの風では、ホワイトタイガーを “一瞬で” 討伐することはできない。

 ライナーさんが盾で押し留め、ウェンリケさんとエルモアさんが進路を阻みつつ攻撃・・・ミーとエンダがメインアタッカーとして立ち向かう布陣で、こちらに被害が出ることはないだろうがおそらく数分を要する。

 エンダならそれこそ一瞬で討伐できるようになるかもしれないが、それは今ではない。

 圧倒的な速度、攻撃力が必要だ。


「どんな 3 人だったんだ?」

「あぁ、とんでもない美人と、結構な美男と、もう一人は影が薄いが女だった。順に魔法使い、剣士、剣士だ」

「なんだ?バランスが悪いな・・・」

「俺もそう思ったんだが、なんとかなってる、って男が言ってたよ」

 実力者ゆえの傲りか、実力相応の言葉か。


 ダンジョンに限った事ではないが、冒険に必要なメンバーには前衛、中衛、後衛という戦闘での立ち位置や、外部との交渉など対外的な意味で必要な人間性以外にも考慮すべき点がある。それは水と回復をどうするか、だ。

 水魔法使いと回復魔法使いがいれば話は早いが、そうでない場合は人を増やす、持ち物を増やすといった物理的な手間が付いてまわる。

 同時に南ベースを目指したとも聞いたが、既に通過していることも考慮すると 3 人で完結している実力者パターンなのだろう。

 エンダと知り合いの可能性が高いらしいが・・・。


「え?ボウェルとソロジー?ディモン?」

「そう聞いたぞ」

「あーやっぱり」

 やっぱり、知り合いだったらしい。

「どんなやつらなんだ?」

「えーっと」

 エンダは懐かしみつつ記憶にある 3 人の印象を教えてくれた。


 ボウェル。ペイネ=ボウェルは美人。可憐さと清楚さを兼ね備えた美人。あんまり喋るタイプではなく、とにかく美人。誰もが羨み、そして妬むことすら馬鹿馬鹿しく思うほどの美人。・・・いやもう美人なのは分かったから・・・。風魔法使いで、トーキーオの魔法大学に入学したらしい。

 クレア=ソロジーはその友人で、整った容姿だったと思うがどうにも印象が薄いと。たまに風魔法を使うくらいで基本的にはオールラウンダー。

 リーデンローザ=ディモンはドワーフの血が少し混じる美男で、幻影魔法を使うオールラウンダーの斥候。

 まとめるとそんな感じだった。


 ・・・水と回復は?

 謎が深まったが、そのうち出会うこともあるだろう。パーティメンバーにもこのことを話すと皆興味を持ったようだった。

 エンダは冒険者としてだけでなく、旧友として彼らとの再会に期待しているように見える。


 ナイトゴーレムという悩みの解決策は相変わらず見つからないが、今日はこの心踊る出会いに感謝したい。

 そう思いつつ南ベースでの夜を迎えた。




***


 連邦の最西端にある国テミスは、ポロアスト大陸の西端から連邦の西南にかけて連なる山脈の南端に近く、山の幸が豊富で温泉がたくさんあり、またドワーフが多く鍛冶業も少なからず盛んだ。

 山脈のさらに南西には未開の熱帯が広がっており、テミスは熱帯の拠点へと向かう、あるいは熱帯から帰ってくる人々の中継地点にもなっている。

 テミスの中でも西にある冒険者ギルドには熱帯の様子が適宜報告されるが、環境の厳しい未開の地だけあって新しい情報は数ヶ月に 1 つあれば良い方だった。


 その日ギルドマスターのミルウィ=アエヴィナに届いた報告は、熱帯とは無関係だが無視できないものだった。

「・・・その男の目的は何なのだ?」

 拠点から戻ったテミスの探検隊長、カンメ=レイはアエヴィナの問いに答える。

「わかりません。本人は静かに暮らしたいと話していましたが」


 レイ隊長の話はこうだ。

 熱帯の拠点に山脈方向から見慣れない服装の男女が現れた。

 男女は別の世界から転移して来て、こちらの世界の住人と争うつもりはないが、落ち着いて暮らせる場を教えて欲しいと言った。

 男は道中に狩ったというドラゴンの皮や角、肉を提げていたが、それは山脈の覇者エンドランドラゴンのものであり、実力は計り知れない・・・。


 アエヴィナは戦闘に重きを置く人物ではないが、聞き及んでいるダンジョンの異変には早くから危機感を覚えていた一人だった。

 エンドランドラゴンを単騎で倒せる者など連邦にも滅多にいない。これはテミスに留まらず連邦全体で考えるべき人材の発見かもしれないと、アエヴィナが考えたのも無理からぬことだろう。

 異世界から転移して来た、という点については、そんな事例を聞いたことが無いためアエヴィアにも俄には信じ難かったが、彼はいずれにせよ是非当人と話したいと好奇心から強く思った。


「静かな暮らしは、できる限り約束しよう。国のしがらみとも無縁でいてもらおう。尽力しよう。ただその力を必要な時に貸して頂きたい・・・そう伝えてくれないか。そしてぜひ私も貴方と話をしたいと」

「今しばらくは拠点にいるはずです。確かにお伝えします」

 アエヴィナは深く息を吸い、虚空を見上げゆっくりと吐く。

「それで、2 人の名前は何というのだ?」

「男がナユタ、女はレイネと聞きました」

「ナユタと、レイネか・・・・」

 ご苦労、と告げた後、アエヴィナはレイが出て行った執務室の扉を暫くの間じっと見つめていた。

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