013 南の拠点
新章です。
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クレアたちはトーキーオを出発した後、二人が盗賊を引き渡したグラッツァに向かった。
グラッツァはそれなりの規模の国で、連邦の中でもダンジョンに近く当然ギルドがある。
パーティ登録は簡単で、ギルドマスターにメンバーを申告し、書類にサインするだけだ。
パーティの不和や諸事情によるメンバーの脱落も考えらるため、3 年に 1 度は申告を重ねる必要がある。申告がない場合パーティ自体の登録が抹消され、複数のパーティでメンバーに重複があると、古い方は抜けたものとみなされる。
そして連絡専門のギルド職員や専用の依頼を受けたパーティがその申告を、年が明けて最初の数ヶ月で広めることになっているのだった。
ダンジョンに向かう準備は案外多くない。主に必要なのはダンジョンへたどり着くまでの食料くらいだろうか。
ダンジョンは魔物を擁し、ハグレの魔物は周囲の平原や山に出没するため、農作業ができる程の町は付近に作れない。
しかしギルドによって最低限の、ごく小さな拠点がダンジョン付近に南北で 2 ヶ所だけ設置されており、それぞれ南ベース、北ベースと呼ばれている。
拠点には宿も食事処もなく、あるのはキャラバンが店を開ける広場と、それからギルドから派遣される定期連絡員の駐在所だけだ。冒険者たちはその広場でキャンプを張ることが多い。
この拠点を目指して各地から商人が小規模な商隊を組み馬車でやってくる。行きは食料を、帰りはダンジョンの戦利品を積むためだ。
商隊の護衛はある程度の実力が必要なため、商隊の品物は護衛への報酬分だけ割高だ。しかし新鮮な食料や物品輸送の手間を考え、多くの冒険者はかなり頻回に開かれる臨時商店をダンジョンに潜る前に利用することになる。
もちろん護衛を兼任して拠点を目指すことも往々にしてある。
3 人はグラッツァのギルドでパーティ登録を行い装備品などの準備を整えると、2 泊の後ダンジョンへ向け旅立った。ダンジョンを初めて目指すにあたって、商隊とは無関係に行くことにした。
ダンジョンでは勝手が違うかも知れないが、道中に野営や陣形の訓練をするためだ。
それから、ハグレの魔物と遭遇して魔物との戦闘を経験することも目的にあったが、これは運次第だった。
旅を始める前、クレアはペイネとディモンに伝えたことがあった。
「当分の間、目立たないことを念頭に活動しますので、そのつもりでよろしく」
「それは前も聞いたけど」
「当分っていつまで?」
二人はクレア個人としてだけでなくパーティとしてという意味でクレアが言ったことを察し、疑問を口にする。
「私がこれまで、規模の大きい魔法は使ってこなかったのは知ってるでしょ?」
「あぁ、賢者の町でもそうだったみたいだね。風魔法使いってことも、最近知ったけど」
ディモンが答える。
「あれは何か理由があったんだ」
ディモンの投げかけにペイネが続ける。
「そうですペイネさん。全ては目立たないように、そのためです」
「うん、なんで丁寧語?」
クレアは答えず話を進めた。
「私たちの当面の目標は、ざっくり言えばダンジョン攻略と仲間集めでしょ?」
二人が頷く。
「でも、私たちもメンバーは多くないわけだから、周りからしたら勧誘の対象になるかもしれない。それを一々断ったり、目を付けられて変な人から声が掛かっても面倒だと思うんだ。それに全然関係ないことで頼られたりしても嫌だし・・・」
ふんふんと二人とも首肯する。
「とにかく、目立たなければ面倒ごとは減るはず。だから例えば私が一応全属性の魔法が使えるとか、そういう噂が広まっても別にメリットにはならないかなって、そういうことなんだけど」
「そういうことか。まぁ、無難かもしれない」
「私たちがその域に達するのはまだまだ先だろうけど、クレアはそうだよね。今後実用レベルにもなっていくだろうし」
クレアが体内で構築したセーン文字を介して、実験段階ながら多様な魔法を使える事はすでに二人とも知っている。
「もちろんダンジョンの攻略が予想以上に進んだり、それからあっさりメンバーが増えた場合は臨機応変に、ということで」
ペイネもディモンも特に異論はなく、止むを得ない事態以外ではこのことを念頭に活動する方針になった。
連邦を離れてダンジョンまでは、常時身体強化を施した状態で 10 日足らずの道のりだ。
ダンジョンの南に広がるインドール平原では植物系の魔物が主に出現し、動物系では狼系やコウモリ系の魔物の出現が目立つ。
三人は道中、腕のように枝をしならせる木の魔物トレントや、狼の魔物、ネズミの魔物と数度ずつ対峙した。
トレントは木の魔物の総称で細分化すると色々な種類があるが、特に大きかったり毒持ちの種類以外は一纏めにされがちだ。しかしその耐久力はいずれも高く、武器の消耗という点から冒険者には動物系の魔物より嫌がられる傾向にある。
動物系の魔物は、魔物でない動物同様に頭部や心臓が急所になる。植物系は幹の中腹に核となる臓器があり、この臓器はゲル系の魔物のそれと同様、単に“核”と呼ばれている。
クレアにとって植物系の魔物の構造は違和感しかなかったが、植物の形をした“そういう生き物”と思い込むことにしたようだった。
動植物を問わずディモンの幻影は有効なため、見敵後は速やかにディモンが牽制に当たり、後方からクレア、ペイネが風魔法を放った。
牽制と言ってもそもそもディモンが気付かれていないことが多く、魔物視点ではいつの間にか風魔法に刻まれたと感じるかもしれない。
クレアとペイネの風魔法はカマイタチ状に構築され、ある程度の厚みまではバッサリと、それ以上だと削るように魔物を襲う。基本的にペイネが先に放ち、撃ち漏らしをクレアが補う形だ。
「僕、斥候しかしてない・・・」
とディモンが呟く姿がみられたが、軽快な道のりは彼の手腕に依るとことが大きいのでクレアとペイネはむしろ感謝している。
拠点で商隊の買取が望めるとはいえ、速度重視のため魔物からの素材採取も最低限にして彼らは進んだ。
「予想よりも早かったわね」
ペイネが南の拠点を遠目に確認して言う。
「そうだね。魔物に苦戦することもなかったし、雨も降らなかったから」
「いや、正直僕は結構疲れたんだけど、二人はそうでもないの?」
「私は大丈夫よ。クレアは・・・聞くまでもないかな?」
魔素の制御力に比例する体の調整能力を考えれば、ディモンが彼女たちに付いて来られたことは賞賛に値するだろう。さすが、オールラウンダーと称されるだけのことはある。
「おー、ちょうど商隊も開いてるね。テント張って駐在所に挨拶したら、商隊に声をかけようか」
クレアは商隊に興味があるのか、嬉しそうだ。
広場では他に 2 組のパーティがキャンプを張っていた。拠点をどのように利用するかはパーティ次第だが、ダンジョンと広場を毎日往復する場合、ほぼ常設の形になる。そうでない場合、ダンジョンに潜る前の一時凌ぎに過ぎないためごく簡単な設置だ。
2 組のうち一方は常設、もう一方は通過組の様相だった。
「こんにちは。隣でキャンプを張るので、よろしくお願いします」
ディモンが常設の方に声を掛けに行った。
「あら、いい男じゃん」
割合つくりのしっかりしたテントから出てきたのは、戦闘用らしき露出の多い服を着た女性だった。遅れてもう一人、ドワーフ系の背の低い男が出てくる。
「おー、そんな挨拶なんかいらんぞ。して悪いこともないがな」
「そうなんですか」
「ああ。見ない顔だが、どっから来たんだ?」
「パーティとしてはトーキーオからです。ダンジョンには初めて来ますね」
「そうか。俺らは今出てて居ないのも含めて、神国からだ」
「かなり通いですね」
「まぁ神国と言ってもこっちに近い西の端だがな」
ディモンはこの広場で注意すべき点、魔物が出現する頻度等を聞き、テントに戻った。
「ここ、警備も居るし、夜も案外安全らしいよ」
「へぇ、そうなんだ?」
「道中同様に一人ずつの交代でいいと思うけど、どうかな」
「それでいいんじゃない?」
クレアは素っ気なく答える。
野営では見張りに二人以上で当たるのが望ましくセオリーだが、クレアたちは三人しかいないためそうもいかない。しかし、クレアとペイネは魔素での身体補助が可能なため徹夜への耐性があり、ディモンはそもそも斥候のため慣れたものだった。
「あっちのテントには誰もいないみたいだったし、とりあえず商隊に行こうか」
「ディモン、中まで見たの?」
「いや、気配だけで」
「随分無用心ね。いらないものだけしかないのか、それともそれくらいここの警備を信頼してるのかな」
ペイネの疑問は尤もだ。ディモンはテントの中も物は少なそうだったと告げた。
*** 商隊長ノトルノス ***
「こんにちは、これ買い取ってもらえます?」
そう言って俺に声をかけたのは、若い 3 人組のうち印象の薄い女剣士だった。彼女と、それから男は帯剣している。もう一人はワンドを腰に下げている。
「魔物の素材かい?」
「ええ、狼とトレントのものばっかりですが」
「もちろん構わんよ。計算するから一通り見せてくれ」
返事をして、彼女たちが店先に並べた素材を見て俺は少なからず驚いた。
「これは、君らが全部?」
「そうです。グラッツァからの道中に」
「そうかい。じゃあ、結構日にちも掛かったろう」
魔物の素材は値がつく部分ばかりで、どれも丁寧に処理されていた。これらの部位を狙って獲ることはこの 3 人だけだと難しそうだから、素材になっていない数まで相手をしたに違いない。
「8 日くらいでしたね」
「・・・うん?そ、そうかい?」
見た目の若い 3 人はどう見ても長命種ではなさそうだが、運なり相性がよかったのだろうか・・・。単に実力の結果だとすると、中堅以上に腕が立つということになる。
対価を支払った後は薬の類を勧めたが、毒消しと高価な回復薬を買い求めたくらいだった。ワンドの彼女が回復役なのだろう。それにしても、パーティとしては随分軽装に見える。
「そんな装備で大丈夫か?」
彼らの行末を心配して声をかけるが、女剣士が満面の笑みで振り返って答えた。
「大丈夫だ、問題ない」
そして食料品を扱う馬車へ寄り、テントへと戻っていった。
「なぁ、あんたらはどう思った?」
今回の行商の護衛についている冒険者に、先ほどの 3 人について問う。
「ノトルノスさんはどう思ったんだ?」
巨人系の血を引いていそうな大男、ヘッズ=ドライゴンが質問で返した。
「俺か?俺は、あんなんでダンジョンに行くのは若気の至りかと、そういう感じだが」
「そうか。俺とは少し違うな。ガネイスはどうだ?」
声を掛けられ、パーティの回復役、ガネイス=バーツも会話に加わる。
「僕ですか?女の子が可愛いなぁとしか・・・」
はぁ、とドライゴンがため息をつく。
「3 人だが売ってきた素材は質がいい。これだけでもポイントが高い。それからあの軽装で平原を、しかも 8 日で渡れるくらい一人ひとりが動けるってこった。当然、高い身体能力が求められる。そこに回復魔法使いがいて、何なら水と火も誰かは使えるんだろう」
「そう聞くと、熟練だとでも言いたげに聞こえるが」
「あんな美人と美男がいるんだ。噂になるだろう。そうじゃないってことは新参だ。帰った先のギルドでも聞いてみるが、全く末恐ろしい」
「ただの無鉄砲の可能性は?」
「正直自分で言ってて本当かどうか疑わしくなってきたが、俺の勘では 8:2 でマジもんだな」
ドライゴンさんの勘は当たるからなー、とバーツが呟く。
「そんならいいんだが、ダンジョン内は知性ある魔物が増えてると聞くし、気になってな」
「いずれにしても力があれば名は知れるさ。そん時に思い出せばいい」
それもそうかと思い、俺は買い取った素材を輸送用に梱包する作業に戻った。
バーツのことを言えた義理じゃないが、確かにあのワンドの彼女は綺麗だったなと思い出しながら。
***
一通り生活雑貨の揃った部屋で、背の低い少女が机に置かれた一本の槍をしげしげと見ていた。
「ねぇエテっちー。この槍カッコよくない?」
少女は顔が日焼けしたように茶色い。おそらくまじまじと見なければ、彼女が土を素材としたゴーレムだとは気付けないだろう。それくらい精緻な動きをゴーレムの少女はみせていた。
「あぁ、そうだな。工房も十分に成熟していると云うことだろう」
答えたのは、扉から部屋に入ってきた影の薄い男だった。影が薄いというか、物質としての濃度が実際に薄く、ゴーストの類であることを予想させる。
「後でまた、ファイズに持っていかせよう」
「えーでもー、そろそろ危ないんじゃないー?」
「いや、まだまだ大丈夫だろう。ファイズも少しづつ成長しているからな」
「そうかなー」
少女は不安げだ。
「そもそもさ、さっさとあのどんより空間をなんとかして欲しいわけ。英雄とか勇者とか、そういうのがそろそろ来てくれてもいいんじゃない?その劣化版でもいいけど」
「まぁそう言うな。人族も魔族も、ここにばかり構ってはいられんのだ」
「それもそうかもしれないけど、頑張って調整してる身にもなって欲しいわけ!」
少女は槍を手に突きの動作を始めた。見た目とは裏腹に力があるらしく、ビュッと音を残して虚空を突く。
「そうは言っても、こういう事態もなくはないと想定していた。特に問題ないだろう」
ゴーストは少女を見て続ける。
「お前がいなくなっても、なんとかできるつもりだ、ゼンナ。とても助かっているが嫌になったら留まっておく必要はないからな」
少女は手を止めて、ほんの少し悲しそうな顔をする。
「何回も言わなくてもわかってるわよ。でも、今のところそのつもりはないからね!」
「そうか。それならばよろしく頼む」
「オッケー、エテっち。任された!」
快活に答えて、ゴーレムの少女ゼンナは槍を置き、部屋を出た。
ゴーストは彼女の背中を見つつ思う。
(この楽しみもいつまで続くか分からないが、せっかく作り上げたのだ。存分に楽しもうではないか)
そしてゴーストも槍を手に部屋を出た。
お金か時間かと言われたら時間が欲しいです。
読んで下さってありがとうございます。




