012 パーティ結成
第一章最終話です。
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ペイネの大学中退手続きと両親への連絡が終わった夜、ペイネ、クレア、ディモンの 3 人はペイネの下宿先に近い食事処で話し合いの場を設けていた。
食事はごく簡単なものだけ注文して、既に食べ終わっている。
「じゃ、改めて・・・!今日ここに、この 3 人で、パーティを結成しますっ!」
クレアは二人の顔を交互に見遣る。
「異論ないですか?」
「ええ。よろしくね、クレア」
「僕からもよろしく頼むよ」
事前に確認済みのはずの答えにクレアは満足気だ。
「戦闘に関してはディモン君が斥候兼前衛、私が中衛の魔法剣士、クレアが後衛の風魔法と暫定的に決めます。それもいいですか?」
「あぁ問題ない。ただ、パーティを組むんだ。"君"はいらない。なんならリーとかローザでもいい」
「そう?じゃあディモンって呼ぶね」
「そうしてくれ」
「ディモンも私のことはソロジーでいいわ。"さん"はいらないから」
「わかった」
呼称はパーティ内での利便性だけでなく、パーティ外からそのパーティのメンバー間の関係性を推測する目印にもなる。お互い対等としておく方が、都合がいいことが多い。
「ボウェルさんのことも、ボウェルって呼ぶよ」
「うん、わかったわディモン。ペイネでもいいわよ?」
ディモンはそれは流石に、と酒を呷ったが、クレアはディモンの顔が少し赤らんだのを見逃さなかった。
「それで、ずっとはぐらかされてたけど、パーティの方向性はどうなるの?」
クレアはよくぞ聞いてくれましたとばかりにうんうんと頷く。
「ディモンも聞いてないの?私も知らない」
「そうなんだ?僕はてっきり・・・」
「そこはほら、クレアとなら何でもできるって、私は信頼してるから。・・・考えなしでいてもどうにでもなるだろうって思えるのは考えものだけど、少なくともお金と魔法の探求には間違いない環境だと思ったの。あなたもそうでしょ?」
「そうだね。僕もそんなところ」
クレアは二人のやりとりが収まるのを待つ。
三人が無言になり、しっかり溜めた後、クレアは口を開いた。
「私の目的、私たちパーティの目的は・・・いつ何が起こってもいいように、ひたすら力をつけることです!」
自身たっぷりのクレアの宣言に、ペイネとディモンは疑問符を浮かべた。
「ごめん、つまりどういうこと?」
「ディモン君、教えてしんぜよう」
そしてクレアは具体的な展望を語り始めた。
*** リーデンローザ=ディモン ***
ソロジーの語った内容をまとめるとこういうことになる。
『いつかきっとくる世界規模の厄災、災害、人災。そういう事態に立ち向かえる力をパーティで、あるいは構成メンバー各人が身につける。そのため活動の中心はダンジョン攻略としつつ、各地を巡ってパーティメンバーを集める』
うん。実に明解だった。意味がわからないという点を除けば。
「世界規模のって言うけど、アポロア様みたいに魔王を倒しに行くってこと?」
ボウェルが尋ねる。
「そうなるかもしれないし、そうじゃない何かかもしれない」
ますますわからない。
「何でそんな、漠然としたようなはっきりしたような目標を立てたんだ?」
「んー・・・そのうち機会があれば話すよ」
今じゃないんだ。
「だけどさ、何かがあったときに指を咥えて見てる側ってのは嫌なんだ。私は。それだけじゃだめ?」
「僕は君のパーティでやっていくって決めた。だけどまだ君ほどのスケールでは、自分の人生を考えられない」
正直に伝える。
「だからさ、とりあえずでいいから分かりやすい目標を立てない?」
「ディモン、いいこと言うわね」
ソロジー一辺倒だと思っていたボウェルも見方してくれた。
「クレア、短期目標って大事だと思う。学校だって身近な目標をいくつも設定してゴールを目指していたわ」
ボウェルの的をえた例えに暫く思案して、ソロジーはバッグから取り出した紙に何やら書き始めた。
ソロジーが紙に書いたのは、大雑把なポロアスト大陸の地図だった。地図に主要な地名を書きつつ線を引いていく。
「今は連邦のトーキーオ。それでダンジョンはここ。仲間を集めるんなら、いろんなとこに行かないとだよね?」
人族領ポロアスト大陸の南部に連邦があり、連邦の中央南寄りにトーキーオがある。ダンジョンは連邦の北西、大陸中央やや西寄りにある。
「そうかもしれないね」
「だからさ。今後は神国に行って、王国に行って、ポーラ大陸に行って。それからデディア大陸と、世界の果ての先を目指します」
線は大陸東部の神国、連邦からダンジョンを挟んで北西の王国に流れ、ポロアスト大陸の北東に位置するポーラ大陸に伸びる。さらにポロアスト大陸から"霧の里"で隔てられた魔族領デディア大陸にも及び、ついには大陸をはみ出して何もないところをウロウロした。
・・・世界の果て。それは天使や悪魔の領域を意味している。
「ねぇクレア」
「何?」
「世界の果ては人が辿り着ける領域じゃないって云うのが定説なんだけど」
ボウェルは常識の範囲内の人のようだ。
「そこは何とかするんだよ。各地を旅してたら、知ってる人にも会えるんじゃない?」
ソロジーは何を言ってるんだろう。心配になってきた・・・。
「そんな心配そうな顔しないで。私が守ってあげるからさ」
それは僕が言うべきセリフなんじゃないかな?例えばボウェルに対して。
実力を考えたら妥当なところがちょっと悔しいけど。
ともかく彼女は本気らしいし、それができるだけの実力をつけよう、といった意味も込めているようだ。
僕としては、何にせよ力をつけるという点に異論はない。
それにソロジーは壮大な目標だけでなく、細かい目標も設定してくれた。
「じゃあ、とりあえずパーティでダンジョンを攻略。クレアは少なくとも私と同等以上の実力を。ディモンは・・・そうだね、ディメンションレイの習得ね」
ボウェルは自分の課題そっちのけで僕に笑顔を向ける。
「わぁ、ディモン、すごいねっ!」
・・・ボウェルの微笑みが眩しすぎて、ソロジーの妄言が霞んでしまいそうだ。
いや、そうもいかない。
「ねぇソロジー」
「あ、分かってるから。アポロア様の〜って言いたいんでしょ?」
理解した上での目標設定のようだ。
ディメンションレイはアポロア様の技として広く知られているが、その習得は不可能と思えるほど困難だ。何しろ、そもそも空間魔法が極めて難しいのに、それを戦闘の最中に、しかも剣技と複合する必要がある。
簡単に言うと、ムリ。そんな超絶技巧はエンダに託したい。
「でもきっとできるようになるからさ。やってみよ?」
「君が言うのなら、そうなのかもね」
言葉とは裏腹に半信半疑だけど。ただ、ソロジーの言うことなら信じられると思うのは、何もボウェルがそう言ったからではない。
僕は既に実践的な意味で彼女を信頼し始めている自分がいることを自覚している。
・・・ならば、なってみせようじゃないか。おとぎ話の魔法剣士に!
ん?さっきソロジーは僕のことを斥候職と言っていたけど、それは別なのかな?
・・・きっとソロジーにとってそんなことは、この先を思えば些細なことなんだろう。
ともかく僕は短期目標として"伝説"を目指すことになった。
それと話が逸れて聞きそびれたけれど、パーティ目標を前人未到のダンジョン攻略と言っていた気がする・・・。
正直、不安だ。
*** ハル ***
今日ここに私たちのパーティが結成された。
二人に告げた目標は私個人の目的ほとんどそのままだが、個別の目標や小さめの目標も立てたので大丈夫だろう。求心力的な意味で。
ディモンには魔素操作の訓練を始めてもらうことになる。
ディモンは斥候職だけあって空間把握能力が高いので、きっと空間魔法への適性があるだろうと考えている。だから魔素操作次第で、ディメンションレイの習得も不可能とは思わない。
ダンジョン攻略はある意味"ついで"だけど、異世界転生者という点を考慮すれば外せないポイントだろう。それに戦闘訓練の観点から、尚更外せない。
仲間もできたし、そろそろ本格的に"物語"が始まってもいい頃だ。そうでないと私はこのまま魔素研究の第一人者に上り詰めて終わるだけになるかもしれない。
穏やかな余生にも憧れはあるが、せっかく若いんだから夢は大きく持っていたい。
例え一人芝居だったとしても。
何にせよ、準備を整えたらどこかのギルド経由でダンジョンへ向かおう。ダンジョン攻略を開始し、合間に各国のギルドを梯子しつつ東の神国を目指すのだ。
「楽しみだね!」
満面の笑みを作って二人に笑いかけると、ペイネは神聖さすら感じる微笑みを、ディモンは苦笑いを返してくれた。
*** ウェガ=ロバスタ ***
俺の店ロバスタ亭は学生街にあるが、学生よりは教員連中に利用されることが多い。
質より量って考えも大事だが、俺はどっちかって言えば質を重視したい。
看板メニューのローストポークはワインが進むと評判で、今日も沢山注文を受けた。
「なぁあんた、あそこの 3 人組、ダンジョン攻略って言ってたよ」
妻のジュピトルが給仕の合間に話しかけてきた。
「あの、か?若く見えるがな。それに線も細いな」
「そりゃ冒険者ってのは色々いるかもだけどさ。あんな可愛い子らがダンジョンに喰われちまうのは忍びないよ」
職業柄学生と接し仲良くなることは多いが、トーキーオを巣立った者たちがダンジョンで短い一生を終えたと聞くことも、珍しくない。
ジュピトルが若い世代を案じる心は年々大きくなって、お節介を焼くこともしばしばだ。
俺に話を持ってくるのも、元冒険者でゴツい身体の俺がダンジョンは危険だと話せば、若者たちも無茶はしないはずと思ってのことだろう。
「なぁジュピトル。そりゃあ俺だってあいつらみたいな若い連中に早くに死んで欲しくはないさ。けどな、冒険者ってのは、命の天秤込みでやってくんだ」
「だからって無駄にすることはないだろ?」
「何も無駄にするって言ってんじゃねえよ。それにダンジョンに喰われちまうのは大体向こう見ずなヤツさ。そういう手合いは冒険者じゃなくたって、大して成功できるとは思わん」
今までもジュピトルには俺の考えを伝えてきたつもりだが、ここらで改めてはっきり伝えておこう。そういう気分になった。
「逆にホントに冒険者に向いてるなら、若かろうが年だろうが関係ないさ。自分の実力をちゃんとわかって、それなりにやっていける。ダンジョンはそういうトコだ」
「あんたは止める気なんてないってのかい?」
「よっぽどのことがなけりゃな。そいつらの人生だ。食事処のオヤジが口を出してもつまらんだろ」
「でも・・・」
珍しくビシッと伝えた俺の言い分に、納得できないまでも反論もできないんだろう。
町で生まれ育ったジュピトルにとって、冒険者稼業が実際どんなものかは正しく想像できないのだ。
・・・まぁ、甘いとは思うが、ジュピトルの気持ちもわからんでもない。時間も遅くなってきたし手が空いたらちょっと話を聞いてみるか。
*** ハル ***
いつの間にか周りの客は捌け、自分たちともう一つのテーブルが埋まっているだけになった。
私たちはワインを開け、肴にローストポークを頼んでつまんでいる。
ダンジョンの情報はギルドや現地で収集することになるが、ひとまずお互いが噂程度に知っていることを話しつつ、半分ほど妄想で埋まった想像を膨らませていた。
「よう。どうだい、うちのローストポークは?」
さっきまで店内にいなかった筋肉質で大柄の男が急に話しかけてきた。うちの、と言っているので、キッチン担当の店主だろうか。
率直な感想を告げる。
「とても美味しいです。それにワインも」
「あぁ、そうだろう。俺が選んでんだ」
「トーキーオもそろそろで出るので、その間はずっとここに来ようかと思うくらいです」
「ありがてぇな」
男は満面の笑みだ。
「ところで、お前さんたちは冒険者なのか?ダンジョンに行くって聞こえたが」
「そうです。今日パーティを結成しました」
ディモンが答える。
「へぇ、お兄ちゃんがリーダーかい?」
「いえ、リーダーは彼女ですね」
「ほー。こう言っちゃなんだが、ちょっと頼りないんじゃないか?」
ペイネがムッとした表情になっている。
「3 人じゃ、足りんところが多いだろう。俺もダンジョンへ潜る冒険者だったから、少なからず分かってるつもりだ」
「あら、そうだったんですか。でも、私はともかく、二人とも結構できますよ?」
店主は訝しげな顔になったが、結局は私たちのダンジョン行きそれ自体には口を出さず、ダンジョンについて大雑把に教えてくれた。ダンジョンから離れて久しいらしいが、仕事柄もあるのか、何かと話は入ってくるとのこと。
店主ウェガ=ロバスタさんの話で興味深いと思ったのは、近頃ダンジョンには知性的な魔物が出現するということと、ダンジョンでは時々誰のものとも知れない声が聞こえるということの二つだった。
前者はダンジョンの活性化や、未踏の深部で何かあったのかも知れないと噂されている。現状ポロアスト大陸でも特に有名な幾つかのパーティがその情報源兼盾になっているようだが、それもいつまで"もつ"かと情報通の間では不安が広がりつつあるとのこと。
後者については"声"の頻度や"声"を聞く人物にこれといった法則もなく、極度の緊張状態や幻覚作用のある特殊な効果を受けたせいでは?との見方もあるが、体験した者たちの証言は一様だという。
曰く、“若い女の独り言が頭の中で囁かれる”のだそうだ。
精霊か神、あるいはダンジョンの意志・・・そういう類のものかな?この世界について深く知るための手がかりになる可能性が高そうだから、メンバーの誰かが体験できればいいんだけど。
客も私たちだけになってからは、奥さんのジュピトルさんも加わった。ジュピトルさんはダンジョンの危険性を興奮気味に漠然と話し、ウェガさんに宥められていた。若者が死ぬのは嫌なんだそうだ。
最初からダンジョンじゃなくて、他の仕事でも研鑚を積めるだろう?と言ったりしている。そうかも知れない。ただ、それじゃあパーティの目標には届かない。
「・・・でもジュピトルさん、私たちの目標のために必要なことなんです。ただ"分"は弁えてるつもりですから、明らかな死地に飛び込んだりはしませんよ」
ジュピトルさんはダンジョンこそが死地だとでも言いたげな表情だが、気にしないことにしよう。
ウェガさんから面白い話も聞けたし、そろそろお開きだ。
「じゃ、トーキーオを発つまではまた来ますから」
「おう、よろしくな」
「ご馳走様でした」
「気をつけてな」
私たちはロバスタ亭を後にし、ペイネは下宿先へ、私とディモンは宿へと向かった。




