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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第一章 賢者の町
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010 旅立ち

*** ハル ***


 賢者の園を出てから 2 年、インドール平原を中心に活動する私の冒険者姿も中々サマになってきたと思う。

 園の出身者はギルドマスターが園を仕切っていることもあって、ギルドへの登録後、相性の良さそうなパーティを紹介してもらえる。もちろん自分で情報収集して声をかける場合もあるし、逆にパーティの方から声をかけられることもある。

 パーティ側としては足りていない役職の補充に園の出身者を紹介される場合と、単に育成のため紹介される場合とがある。後者の場合は数年の期限付きで、ギルドから報酬が発生する。

 もしもパーティとの相性が悪い場合、加入した冒険者は次を探すことになるが、新人の場合は少なくとも一年ほど待って残留あるいは離脱を決める時期を設けるのが、このギルドでの通例だ。


 幸い私は紹介されたパーティでうまくやってこれたと思う。けれど、そろそろ自分のパーティを組もうと考えている。


 私の今のパーティは 5 人構成で、前衛から順に大剣を使う巨人系男性のガイウス=カイシオ、補助的に土魔法を使う男性剣士のザック=オロビア、風魔法主体の剣士の私、女性の氷魔法使いアマソナ=ローヴェ、それから癒しの魔法を使うハーフフット系女性のカーヴァエス=セィネだ。

 専任の斥候職がいないが、割とバランスがいい。


 扱う仕事の半数はギルドで請け負う。町人の仕事の手伝い、他の町への移動の護衛、辺境に育つ薬草の採取、野生動物の狩りなど様々だ。場所もインドール平原だけでなく、町の西で熱帯地域との境界になっている山脈へ赴くこともある。

 そいった依頼の最中、あるいは特に依頼のない時、ダンジョン周囲でハグレと呼ばれる魔物の討伐をおこなっている。

 ダンジョンには行かないのか聞いてみたら、ダンジョン外の依頼でも十分に生活は成り立つからパーティ次第だろう、とのことだった。



 ダンジョンは地下へ潜る層構造で、表層はハグレに劣る魔物が殆どのため、表層を活動の中心とするパーティも少なくないらしい。けれどハグレ以上の強さの魔物が現れることも当然あって、そもそも深部へ行くほどリスクも上がるので、魔物由来の素材や発掘されるマジックアイテムと命のどちらを優先するかは考え所だ。


 カイシオさんとセィネさんは以前から行動を共にしていて、ダンジョン探索がメインのパーティにいたこともあるらしい。

「どうにも、回復役次第、というところだったな」

「そうよねー。それか圧倒的な戦力ぅ?」

 そう言って二人は顔を見合わせた。お互いを批判している感じではない。

 まだ若いオロビアさんとローヴェさんの成長次第、という意味合いも言外にあるんだろうか?

 ちなみにカイシオさんの立ち回りに不安を感じたことはないし、セィネさんの癒しの魔法も冒険者としてはそこそこと聞いている。



 私は何を目的にパーティを組むべきだろう。

 パーティメンバーを検討するなら、まず思い浮かぶのはペイネだ。

 園を出た後、ペイネはさらに魔法を学ぶため連邦の首都へ向かった。

 入学試験に合格したという一報以後、時々手紙のやりとりをしていたが、一度彼女を訪れるのがいいかもしれない。


 手紙で教えてもらったことだけれど、連邦の首都トーキーオの魔術大学では主に属性ごとの魔法とそれらを複合した魔法、それから新たな魔法の習得についての研究が盛んらしい。

 新たな魔法の習得というのは、人が特定の魔法を使えるようになった後で別の魔法も身につけることを指し、ある程度法則は分かっているという。学生たちは自分の長所を伸ばしつつ、実験を重ねて二つ目、才があるならば三つ目と、魔法の習得を目指すのだそうだ。


 それからセーン文字の研究も活発と聞いた。年に数個くらいのペースで新たな文字が開発されているとの知らせに、非常に惹きつけられた。私もセーン文字については自分なりに研究しているが、一度基礎を教えてもらいたいと思っていたのだ。

 新たな魔法の習得の法則についても、私が目下模索中の、人に定着した魔法とセーン文字の関わりという点で何かわかるかもしれないし、実は秘匿されているだけですでに解明されているのかもしれない。

 何にせよ、行ってみないとわからない、ということは往々にしてある。


 ペイネの次に思い当たるのは園の同期ディモンだ。

 いわゆるオールラウンダーとして期待されていた彼は、長所はそのままに、斥候としてのスキルを特に磨いていると噂で聞いている。

 得意としていた幻影の魔法が、常時発動することで索敵の要素を帯びたためらしい。

 元々の剣と盾のスタイルも変わらないようだし、彼はきっと優れた斥候兼前衛になる。


 他に最低限必要なのは、やはり回復役だろう。

 回復役には当てがないが、これは自分が兼ねればいいと思っている。・・・相変わらず鍛え続けた魔素の操作の成果を発揮する形で。


 園を出た頃、制御できる魔素の最小単位は私の感覚でビーズ大だった。それが今では再び大きな流れとして捉えられるようになり、細部の積み重ねで全体を作るのではなく、全体を定めることで自然と細部も決まる、そういう運用ができるようになっていた。

 元々私が使えた風魔法は実のところ周囲の魔素を操作していただけで、それが風として感じられていたわけだが、鍛錬の過程で魔素の制御を大気以外にも及ぼすことができるようになった。

 大気以外。つまり自分以外の人の体内の魔素も操作できるようになった。

 もっと掻い摘んで言えば、人の身体機能を強化し、運動能力と治癒力を向上させられるようになった。

 自分自身の身体強化と治癒は言わずもがな。


 魔素制御については、回復以外にも重要な成果がある。むしろこっちが本命かもしれない。

 魔素の制御レベルがついに体内でセーン文字を構築できるまでに至ったのだ。

 まだ維持に過度な集中を要するという点は課題だが、簡単な文字なら歩きながらでも既に構築と発動ができる。威力は家庭用レベルまでだけど。

 ・・・いや、マジですごいんじゃない?擬似風魔法でも十分通用していた現状、冒険者としての私の未来は明るそうだ。


 パーティに引き止められたり他から勧誘されたりといった面倒を避けるため、風魔法使いとして過ごしてきたが、いよいよ解禁の時だろうか?まだ早いか?

 秘められし力を遂に解き放つ!楽しみだね!・・・そんな感じ。

 多分、転生した私が果たすべき役割もそろそろ明らかになる頃だと思う。むしろさっさと知りたい。この世界にかなり慣れた現状、放置プレイは単純に辛い。


 何はともあれ、今度の山脈への依頼を終えたら、連邦へ行こう。

 そしてペイネをパーティに誘おう。そう決めた。




*** リーデンローザ=ディモン ***


 園を出た後僕が紹介してもらったのは、ダンジョン探索を主軸にする中堅パーティだった。

 初めは足手まといで守ってもらってばかりだったが、ある程度探索の緊張感に馴染んだ後は本来の目的であるスキルの向上に専念することができた。


 斥候としての自信がついてきた今日この頃、ダンジョンでは知性ある魔物の出現報告が目につくようになっている。

 そんなある日、園の同期だったソロジーから声をかけられた。

「ねぇディモン君。ペイネを迎えに行こうと思うんだけど、一緒に行かない?」

 あからさまに、僕の勧誘は"ついで"という雰囲気を感じたが、その場で断るのは躊躇われた。

 何を隠そう、僕はボウェルさんの隠れファンだったから。


 ボウェルさんは同年代の男なら誰もが気になる存在だった。一度、園の男全員で密かに集まって、この事を共通の認識として共有したので間違いない。

 程度は人によるかもしれないが、僕は率直に言って彼女が好きで、しかし声すらかけられずにいた。

 なんなら、ボウェルさんといつも一緒にいたソロジーを疎ましくも羨ましく思っていた程だ。

 そういうことを同期の友人に話した時は、ソロジーとセットだからいいんじゃないか、と逆に嗜められたんだけど。


 そんなボウェルさんと、本格的にパーティを組むつもりだとソロジーは言う。

 正直、専門職としての自覚が生まれてきたこともあり、彼女にアタックするいい機会だと思った。

 フラれたとしても、その時はその時。楽観的な考えが少なからず冒険者生活の中で身に付いたことも、ソロジーの案に乗ることを後押ししている。・・・いや、いざ会えば尻込みしてアタックしないかもしれないけど。

 問題はソロジーの冒険者としての立ち位置を僕が把握していないことか。

 

「んーっとね、私、結構なんでもできると思うよ?」

「それは知ってるよ。でも、そうじゃなくてさ」

 彼女がオールラウンダーなのは知っているが、その呼称ではむしろ何もわからない。

 パーティを本気で考えるなら、個々の役割は明確な方がいい。僕はそう思っている。

「それもそうだよね。じゃあ、とりあえず報酬は払うから、護衛の依頼を受けると思って、一緒にトーキーオまで来てくれるかどうかだけ決めてくれない?」

 そう言ってソロジーが提示した額は、僕がこの半年で報酬として受け取った額に相当した。

 連邦までだと滞りなく馬車で行って帰って 3 ヶ月前後。身体強化による強行でも同じくらい。単に報酬だけ考えても、悪くない。

 結局、僕は二つ返事で彼女の暫定パーティメンバーとなった。




***


 冒険者としての基礎を身につけたならば、単独での行脚でも不安要素はかなり減っていると言える。道中に遭遇するかもしれない賊あるいはハグレの魔物に対する回避や逃避を含めた対抗手段も、"基礎"に含まれるからだ。

 年が明けて数週間後、クレアとディモンの二人は賢者の町を離れ、連邦の首都トーキーオへの旅路についた。賢者の町を出てしばらくは草原を行くことになるが、その後は連邦に属する小国を経由しつつ進む。


 ディモンは同行の依頼を受けた際、クレアから契約の条件として一つの約束を提示された。はじめディモンはその意味がわからなかったが、旅を始めて数日もしないうちに理解することになる。


「私の魔法のこと、パーティを組んでくれないなら他言しないでね?」

 小国の途中で不運にも賊に絡まれた直後の現状、ディモンはソロジーの言葉を改めて思い出していた。いや、不運というか、むしろわざと絡まれた気さえしていた。


「ねぇディモン君」

「何?」

「彼ら、どうするのが正解だと思う?」

 "彼ら"とは、たった今クレアとディモンに対して金品目的に襲いかかり、虚しくも返り討ちにあった 5 人の盗賊のことだ。


「本来なら国の警備なんかに引き渡すところだと思うよ」

 そう、本来なら。もちろんクレアもこれまでの経験でそれはわかっているだろう。しかしクレアはあまり手柄を立てて目立つようなことは避けたいらしく、迷っていた。

「君がいいなら、僕が一人で引き渡してこようか?」

 ディモンがそう聞くと、

「え、いいの?よかった」

 と、先ほどまでの思案顔がただの演技だったかの様にクレアは表情を緩め、安心したというポーズをとった。正直に言ってディモンはその様子を可愛いと思ったが、賊を捕捉した手際を思うと裏がある様に思えて仕方がない。



「おう、嬢ちゃんに兄ちゃん。悪いことは言わねえからカバンと武器を置きな」

 そう言いつつ街道脇の農地用と思われる小屋の影から賊が出てくるや否や、クレアは風魔法で砂を巻き上げ彼らの目を眩ませ、魔法で足を拘束し、そして風が収まった頃には盗賊は意識を手放して横たわっていた。

 砂嵐の中を疾駆するクレアの姿を目で追いつつ、ディモンが魔法を構築し終わる頃にはすべてが終了しており、彼の役目は横たわった盗賊たちを縛るくらいしかなかった。


 ディモンは、「え?」と呆けた声をあげただけで状況をいまいち把握していなかったが、クレアが全てを一瞬で為したことは、今まさに自分の目で見ていたので分かっていた。

「今の、ソロジー?」

「そりゃ、もちろん」

「ソロジーって上級の風魔法闘士だったんだ」

 ディモンの問いかけにクレアはニコッと笑って、

「そういうわけじゃないんだけどね。ともかく結構何でもできるって、そう言ったでしょ?」

 と、微妙によくわからない答えを返したのだった。

「なんなら回復もできるよ。もちろんディモン君の、ね」

「・・・ハハっ」

 ディモンは乾いた笑いを返し、鮮やかすぎる手並を披露したクレアのパーティへの加入を本気で考えることにした。

 けれどディモンは、クレアが自分の魔法を他言しないようにと言った理由を、その本質をまだ知らない。


 クレアが縄にかかった盗賊を無理やり立たせる。ディモンはハッとして、クレアの無言を察する。

「と、とりあえず、彼らを引き渡しに行こう」

「ありがとう、交渉はお願いするね」

 ディモンの言葉に心から嬉しそうな表情を浮かべるクレア。

 ディモンはかつて園の仲間たちが、“ペイネとソロジーはセットだからいい”と言った理由に、今更同意することとなった。




*** 衛兵マティノ ***


 俺の国グラッツァは連邦でも北に位置し、連邦の中ではダンジョンに近い。

 グラッツァは議会をトップとする民主制の国で、民主主義の色合いが強い。

 国の北を通る街道との接点で衛兵として働く俺は、国の訓練施設を経てこの仕事についた。

 国にはもちろんギルドがあり、仕事柄冒険者と接することは多い。ダンジョンへ向かう彼らの戦果を聞くこともよくあり、最近はそれにも随分と慣れてしまった。



「すみません、この国の方ですか?」

 夕方、話しかけてきたのは一人の若い冒険者だった。

 若い冒険者自体は珍しくないが、それが 5 人もの男を縄にかけ引き連れている様子には違和感しかない。

 俺は一緒に任務についているアッガスと顔を見合わせる。

「そうだが、後ろの男らは?」

 アッガスが尋ねると、彼は虚な顔の男たち指差して言う。

「盗賊を捕まえたので、警備の方に引き渡したいんです」

「そ、そうか。俺らはこの国の衛兵だが、兄ちゃんが一人で捕まえたってのか?」

「えぇ、まぁ」


 微妙に煮え切らない返事だが、よく見ると一列に縄にかけられた男たちの一番後ろには、もう一人若い女がいた。彼女との二人組なのだろうか。

 いずれにせよ、盗賊の捕縛に対しては盗賊の有名無名を問わず褒賞が支払われる。そして盗賊の素性を詰所で調べる間は、国に滞在してもらうことになる。

 そのことを彼に告げると彼は特に何かを問うこともなく、アッガスに門を託して詰所に向かう俺について来た。お縄の男たちが呆然と引き連れられる様子は、さながらお伽話のゾンビの行進の様で気味が悪いが、暴れ出さないので都合はいいか。


「俺はマティノというが、兄ちゃんは?」

「ディモンです。後ろの彼女はソロジー」

「二人旅か?無用心だな」

「トーキーオへの道中です。二人とは言っても、まぁ何とかなってますよ」

 確かにこの数の盗賊が苦にならないなら、戦闘面での不安はないだろう。

「しかしそれにしたって、もうちょっとパーティメンバーを増やした方がいいんじゃないか?」

 顔見知りの冒険者たちは少なくとも 4 人以上でパーティを組んでいる。見た目から熟練とは思い難いディモンたちなら尚更だと思うが。

「そのメンバーを求めての旅です」

「そうか」

 気にしても仕方ないか。そう思い、国の名物なんかを教えてやりながら詰所へ向かった。


「ゴンツァ所長はいらっしゃるか?」

 詰所に戻り受付のミラノに声をかける。

「あら、マティノさん。早いお帰りですね。所長は在室ですが、どうかされたんですか?」

「盗賊を捕まえ引き連れて来た冒険者を外で待たせてるんだ」

「そうですか。では呼んできますね」


「待たせたな」

 そう言って出て来たゴンツァ所長は、早速という感じで詰所を出て、盗賊を見回すといきなり大声で俺の名を呼んだ。

「おいマティノ!」

「は、はい!?」

「大斧のガルドが捕まってるじゃないか!」

 ・・・え?誰?


 所長曰く大斧のガルドは近隣で主に家畜を襲い、たまに街道を行く者にも手をかけていた賊で、巨人系の血をひく大柄な体に見合わず慎重な性格のため今まで捕まることがなかったのだという。

 確かにかなり大柄な男が混じっているとは思っていたが、名の知れた賊だったとは。

「こいつらをこの兄ちゃんが一人で?」

 ゴンツァ所長もアッガスと同じ様なことを聞く。

「そう言ってますね。ツレと二人旅とのことですが」

「へぇ、若いのにずいぶん腕が立つんだな。まぁそういうこともあるか?」

 それ以上は所長も追及することなく、盗賊たちの身柄を引き受け取り調べ室へと向かった。


「何じゃワレオラァ!」

「殺すぞクソがぁ!」

「ウラァ!ゴゥラァ!」

 ・・・間も無く、詰所の奥から怒号が聞こえて来た。

 多分、さっきまでの虚な様子の原因はディモンが何かしていたんだろう。もしくは相当怯えていたか。

 縄はキツく縛られていたから動けないだろうし、所長に任せっきりで問題はないはずだ。所長も伊達に荒くれ者と向き合って来たわけではない。


 二人組はこの日は宿をとり、夕食には俺がおすすめした食事処を利用したらしい。

 翌日改めて詰所を訪れると、所長から報酬を受け取るなりさっさと街道に戻って行った。


 見送りに出た所長に話を振られる。

「あいつら相当に手練れだな」

「どうしてそう思うんです?」

「ガルドたちだが、人を襲う時は絶対に万全のパーティ構成を崩さなかったらしい。それがあいつらの前に立った直後からこの所内まで、妙に記憶がおぼろげなんだと」

「そりゃあまた・・・」

「洗脳系の魔法かもしれんが、それだけじゃ説明がつかんこともあるしな」

 所長は彼らの背中が見えなくなると、やれやれといった風に肩を竦めて仕事に戻っていった。

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