113 再会
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城下町を超えた先でデイブレイクと遭遇した天使たちは、クレア=ソロジーというパーティリーダーから迷宮の本体であるダンジョンコアを彼女たちが討伐したことを聞いた。
証拠こそ無いと言うものの、明らかに常軌を逸した存在を目の当たりにしたことで天使たちはその報告を事実として受け入れた。
常軌を逸した存在、それはソロジーのことに他ならない。
魔素的存在である天使たちは、人族であるはずのソロジーが自分たちと同じ領域に自らを昇華させていること、そしてそれに留まらず、知覚不能な魔法で体を維持していることを理解した。
「お前は、何者だ」
リーダーが問う。
「何者かと言われても、天使相手に答えるなら人族の冒険者ですとしか・・・」
「いや、お前はそんな単純な存在じゃない。我ら天使や、悪魔と同じ領域に体を再構成しているにも関わらず、私にすら感知不能の魔法を隠している」
ソロジーは彼の問いには答えず、微笑んで言う。
「天使は世界の敵たる存在・・・異世界から持ち込まれた存在を監視しているんですよね」
「あぁ、それがどうした」
答えが返ってこないことに苛立ちを覚えつつも、彼は律儀に答える。
「それは今後も続けてほしいと、天使の王に・・・・魔王ナハト=7=クールズに伝えてもらえませんか」
唐突に出た魔王の名に動じず、彼はソロジーを見据えて告げる。
「・・・お前が何者か今はこれ以上追求すまい。しかしお前とて、力を誤れば我らの敵になることを忘れるな」
「行くぞ」
短いやりとりではあったがお互いにそれ以上交わすべき言葉が無いことを悟ると、天使たちはリーダーの一言で元来た空を飛んで行った。
「ソロジー、なんで魔王が?」
天使が見えなくなるとディモンが口を開いた。
「あぁ、ディモンはアポロア記に熱心じゃなかったっけ」
「ボウェルは知ってたの?」
「もちろんよ。だってアポロア様が天界で遭遇した光の王クールズって、魔王クールズのことじゃない」
「へぇ、そうだったんだ・・・」
ソロジーもうんうんと頷いている。
「それより彼ら、あっさり引いたね。よかったのかな?」
「目的が無くなったって分かったなら仕方ないんじゃないかな。このまま進んで天使たちが序列戦に挑む必要性もないし」
ソロジーの回答にディモンは、そういうものかなぁ、と呟く。
「それより、その魔素体って天使と同じ領域だとか言ってなかった?」
「言ってたわね」
「もう見慣れちゃったから何も疑問に思わなかったけど、やっぱり改めて考えるとすごい魔法なんだね・・・」
ソロジーはふふんっと鼻を鳴らしてディモンの言葉に答えた。
天使たちはその後空中の利もあってデイブレイクに追いつかれることなくダンジョンを抜け、そのままライナへ飛び、遺跡の降臨点から天界へ帰還した。
天使の軍勢が降臨したことでライナには多くの人が物珍しさのためか押し寄せていて、彼らが空に現れた際など、
「うわぁ!本当に!」
「天使様綺麗・・・」
「神話は本当だったんだ!」
「おーい!天使様ー!」
などと歓声があがったのだった。
迷宮からは今だに魔物が這い出してくるため、遺跡付近はライナおよびギルドによって立ち入りを禁じられており、降臨点が人で埋もれてしまっているということはなかった。
「何だか見せ物みたいで、あんまり良い気分じゃないですね」
「そうか?私は気分がイイが」
天使たちは人族の様子にそれぞれ感想を述べつつ、さすがに少なからず疲れた様子を覗かせながら降臨点に溶けていった。
天使の軍勢との衝突の可能性すら考慮に入れていたソロジーは、遭遇した少数の天使もあっけなく撤退したため若干物足りなさを感じていたが、それはそれとして順調にパーティで地上を目指した。
そして荒野のドラゴン地帯に至ると、今度は一人の冒険者と遭遇した。
冒険者は野良のドラゴンを相手に風魔法で挑み、今まさにその首にトドメを刺したところであった。
しかしよく見ればドラゴンの体には不自然な傷痕がいくつもあり、それが何を意味するのかは冒険者本人に問いたださなければ分からないだろう。
そしてその冒険者を、クレアたちは知っている。
「アリア!」
クレアが妹の名前を呼ぶ。
「お姉ちゃん!」
アリアは本当に久しぶりに姉の姿を見たことと、それからそもそも人に会うのも久しぶりだったこともあり、顔一杯に笑みを湛えてクレアに駆け寄っていく。
「アリア・・・もしかして一人でここまで?」
「うん、お姉ちゃんたちの所に行こうと思って」
一言で片付けられるほどに楽な道のりでないことは誰もが知っているため、デイブレイクの面々はアリアの旅路を労った。
「よく頑張ったね。でもすれ違うこともあるとは思わなかったの?」
「あー、それはどうにかなるかな、と。それにお姉ちゃんならむしろ、少々の距離なら私を見つけられたんじゃない?」
無計画なのか計画的なのか判断に困るところではあるが、クレアがアリアとの遭遇より前からアリアの魔素を捕らえていたことは確かであり、アリアの考えは正しかったことになる。
「それで・・・私をデイブレイクに加入させて欲しいんだけど・・・」
アリアはおずおずといった様子で本題を切り出す。
たった一人でここまで潜れる実力。その実力を身につけるまでの速度。どう考えても合格と思えるがしかし、クレアは王国での約束をきちんと果たさせるべく課題を提示する。
「・・・次に遭遇したドラゴンを私が倒すから、それを治してみせて」
アリアは姉の言葉の意味を正しく理解する。倒す・・・それすなわち首を落とすということだろう。首を落とされて尚治すとなると、瞬時の治癒能力が求められる。しかも約束通りなら、遠隔で、という条件がつく。
「分かった。・・・みせてあげる」
アリアを加えて荒野を進むこと小一時間、現れたのはグランドドラゴンだった。
「私が行くから」
そう言い残して一人駆けるクレアと、後を追うアリア。
「ねぇ、どれくらいで決着になると思う?」
ボウェルが誰にともなく問う。屋敷を出てからこれまで、個人訓練のため戦闘はクレア以外のメンバーが持ち回りで、たまに組みになって当たっていた。そしてクレアは何やら自分の中で練習しているとのことだった。
「僕は 1 分くらいだと思うよ」
「私は 30 秒くらいかと」
ディモンとフレアが答え、最後にネフが続けた。
「ふん、皆、まだまだクレアを分かっておらんのだ・・・我は接敵の瞬間とみた!」
そしてネフの言葉通り、クレアはグランドドラゴンとゼロ距離になった刹那、一太刀の下にドラゴンの首を刎ねる。
「ふははっ」
とネフが予想を当てたことを得意げに笑う数瞬の間に、後を追っていたアリアが風と癒しの魔法を飛ばしたことでグランドドラゴンの首は元あった場所に挿げられ・・・ドラゴンは何事もなかったかのように飛翔した。
「うわぁ」
「おお!」
アリアの鮮やかな魔法さばきに見学者たちは感心し、そしてアリアのデイブレイク加入を確信した。
「どうでした?」
グランドドラゴンを倒し戻ってきたアリアが尋ねる。
「うん、よかったよ。アリアは本当に癒しの魔法が合ってるみたいだね」
初めにソロジーが評価を伝え、他のメンバーも感想を述べた。
「じゃあ改めまして・・・。アリア=ソロジーです。不束者ですが、デイブレイクの一員としてこれからよろしくお願いします!」
元気よく宣言するアリアを、デイブレイクは歓迎の言葉で受け入れた。
*** オヴァリ=エンダ ***
悪魔たちを退けた日以後、僕たちは遺跡の警備以外にも問題を抱えることになった。
言わずもがな、ダブルホーンのことだ。
ダブルホーンが悪魔に扮して・・・というか元々悪魔だったようだけど、迷宮から現れて僕たちと敵対した。気付いたのは僕とナユタさんだけだった。
「誰か、彼らのこと、気付きました?」
という僕の微妙な言い回しに鋭く反応したのはナユタさんだけで、僕はこのことをドラゴンロアと別れた後に再来で改めて話し合った。
その後数日経っても悪魔が現れることはなく、ギルドにはダブルホーンは帰還していないという。
もしかしたら彼らは彼らで僕たちの反応を何処かから監視しているのかもしれない。
悪魔たちとの戦闘を経験したおかげか、僕たちとドラゴンロアはますます戦闘の練度が上がり、迷宮から現れる魔物への対処も上手くなった。このため自分たちが広く動けるようにと、他のパーティに対して迷宮の魔物の動きや弱点などを種類ごとで広め、戦闘経験を積んでもらっている。
正直なところ、できるだけ急ぎたい。ダブルホーンの行く末が気になるから。
ダブルホーンは今や単なる冒険者組織ではない。僕たちがダンジョン探索に力を入れていた頃はよく知らなかったけれど、ダクスパーナでの一件以来、特に連邦の北の国々の話を聞く際には必ずと言っていいほどその名前が挙がる。
彼らはグロームの英雄で、旧ラナの救世主で、そして今や一つとなったグロームの誰にも受け入れられる心強い存在なのだそうだ。同時に影の支配者だとか軍を掌握しているだとかの噂も耳に入るけれど、グロームの国民はそれすらも折込済みなのだという。
そして例のダクスパーナ族長会議を襲撃したのは彼らではないかとまことしやかに囁かれているけれど、これは誰も確証を持っていないため完全に噂止まりだった。
力は持っているが善良な冒険者集団。それが本当は人族に害をもたらす悪魔たちの集団だったとしたら?
迷宮での情報を広めるのはあまりに危険すぎる。
僕たちが戦闘集団ダブルホーンに命を狙われるという、僕たちにとっての不都合だけで済めばいいけれど、当然そんなことはないだろう。
悪魔への忌避感からグローム国内で、あるいは周囲の国が、打倒ダブルホーンを掲げて戦いを始めるかもしれない。
それ以外にも、グロームが国として英雄たるダブルホーン側について、周囲の国に対して悪魔との共存を認めさせようとする可能性も、無くはない。
戦いがどのような形であれ始まってしまうと、例の襲撃事件の犯人グループが本当にダブルホーンなら、連邦東部の大国ダクスパーナがまず真っ先に落とされてしまうこともありうる。
・・・想像するだけでも恐ろしい。
(ダブルホーンは何を考えてこんなことを?そもそもなんで人に紛れて過ごしていたんだ?)
再来と悩みを共有しているとはいえ、解決策が見つからないまま日が過ぎていく。
ナユタさんはこういう問題への対処なり画策がうまそうだけど、政略事に関わる気はないと以前言っていた通り、
「上手く回ってるものをかき乱す必要があるか?」
と現状維持の意見をはっきりと口にした。もちろん僕は彼らが異世界から安寧を求めて渡ってきたこと、その根元の理由を蔑ろにするつもりはないので、それ以上のことは言わない。
もし僕がこの問題に積極的に介入することにしたら、ナユタさんとレイネさんは僕とは道を分かつことになるんだろうか?
モヤモヤした気持ちで過ごしていたある日、ライナの街中で僕たちはその人物と遭遇した。
「お久しぶりですね、再来のみなさん」
ヤギ獣人の姿をした彼を、僕たちは以前見たことがある。
「ファーラさん、ですね」
もちろん忘れるわけがない。僕が敗北した相手、ロッキンガム大祭武術大会上位 4 名の一人だ。
天使の軍勢が降臨したという噂が広まったこともあって、ライナの通りは以前よりも人口密度が増している。ここで戦うわけにはいかない・・・少なくとも僕たち側の都合としては。
「立ち話というのも味気ないですから、お茶にしませんか?どこか良いところがあれば紹介して頂きたいのですが」
ファーラはそう言うと僕たちが動くのを待って、大人しく僕たちの後について一軒の店に入った。
店はたまに利用する食事処で、時間が悪いこともあって店内には殆ど人がいない。端の一席に陣取って、僕たちも、それからファーラも注文する。
(あ、普通にご飯食べるんだ・・・)
僕たちはお茶だけを頼んで、ファーラはお酒やステーキを頼んだ。確かにここの料理は美味しいし、良いところがあればと言われてついついその通りの店を選んだわけだけれど。
「それで、どういう用件だ?」
結局僕たちもお酒とつまみを頼んで食べ始めたところで、グレイモアさんが本題を切り出した。
「どういう要件、とは?」
グレイモアさんは完全に睨みつけて、ファーラの次の言葉を待っている。
「用があるのは私の・・・いえ、私たちの方ではなく、あなた方なのかと思いましたが」
自分から声をかけておいて変なことを言うんだな、と思ったけれど、確かに言っていることに間違いはない。
僕は再来のメンバー 4 人と一通り視線を交わして、酒を一口含んでから聞いた。
「悪魔の件です。ダブルホーンの目的を知りたい」
ファーラは僕の言葉に、妙に満足そうに目を細めた。
「そうでしょう、そうでしょう。私もそのことでライナまで足を運んだのですから」




