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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第六章 世界の理
112/185

106 夜明け前

修正時点で、何を思ってこの後書きを書いたのか全く思い出せません。

***



 リーンッ・・・


 張り詰めた空間に鈴の音のように澄んだ音が鳴る。


 リーンッ・・・


 リーンッ・・・


 舞台を中心に鳴る音はダンジョンを突き抜け世界を巡る。


 リーンッ・・・


 天使達は気付いた。この世界の異物たるダンジョンが力を確立させたのだと。

 精霊の王は悟った。この世界の異物たる異世界の意志が力を確立させたのだと。


 さらに数度鈴は鳴り、そして静寂が舞台に戻った。


「・・・良い気分だ」


 シェリーだった "それ" は藍色の鎧を纏い、藍と灰を混ぜたような大剣を携え、シェリーとは違う何かの声で呟いた。




*** ハル ***



 間違いない。


 舞台に立ったそれは私に一つのことを確信させるのに十分な存在感を放っていた。

 絶対に間違いない。あれが私の敵。

 あれこそが、私がこの世界に生まれた理由の一つ。

 その先を考える余裕は、今は無い。


 ・・・あれは、絶対に、ここで倒さないといけない。


「一応聞くけど、お前は誰なの?」

 ふふっと、鎧の奥で笑ってそれは答えた。

「私はダンジョンの意志。私に害をなすものを駆逐する者」

「害をなす・・・」

「異世界から持ち込まれた異物たる私を、世界は許さない。私はそれを、許さない」


 聞きたくないが、聞かないといけないだろう。これは所謂 “お決まり” だから。

「具体的には、どうするつもり?」

 先ほどよりも高らかに笑い、それは更に答える。

「この世界に私の世界を植え付ければいい、そう思わないか?全てを取り込み、書き換え、私で満たせば、私はこの世界そのものになれる。誰も私を害することなどなくなる」



 私は理解した。理解したくなどなかったが、シェリーがコアとの綱引きで苦しむ様子を見ていたせいで、理解してしまった。


 こいつは・・・名前すらないこいつはシェリーが言っていたように迷宮と呼ばれるダンジョンのコア、その意志なのだろう。

 ダンジョンが歩く。その脅威は想像を絶する。

 命の潰えたモノを取り込み、そしてその内に新たな命を生み出し、生まれた命は次々と命を奪っていく・・・。繰り返される侵食の先に待っているのはダンジョンを起点とする混沌、そして世界の書き換え。つまり終焉だ。


「そうはさせない。今ここで、お前を終わりにする」

「今更お前達のような小さい存在に何ができる?つい今し方魔王ゲオス=4=ケルオスすら取り込んだのだ。もはやこの世界に抗える術は無いと教えてやろう」


 魔王の真名をコアが語り、ペイネとディモンに緊張が疾る。

 ・・・まさかシェリーが神話の時代の "混沌" だったとは。しかし私は驚きの反面、そのことに妙に納得できた。魔法の技術、剣術、豪胆さ。どれも “らしい” 雰囲気があった。

 ダンジョンコアのせいで力が十全ではなかったのだろう。


 ・・・沈黙が降りる。

 会話パートはここまでか。


 刀を握る手に力を込め、

「いくよ」

 私の合図で戦闘が始まった。



 序列戦以後、ひたすらに個人技と連携技を磨いてきたデイブレイク。今ならどんな陣形でもうまく機能できる自信がある。

 しかしそうはしない。

 どうやってでも動けるからこそ、最大効率を得るためには結局最適解である一つに落ち着くことになる。

 現状でそれはパターン A。パターン G を今の編成に改良したものだ。

 まだフレアがただの人形だった時に活躍したパターン G は、ディモンが幻影、私が敵の足止めと攻撃、ペイネが奇襲という陣形だった。

 改良版であるパターン A はその面影を残しつつ、より攻撃的な布陣を敷いている。


「ファントムミスト!」

 技名を叫び、ディモンが幻影魔法を発動する。

 この世界には剣技や魔法名を叫ぶような風習は無いものと思っていたけれど、どうもディモンはそういう憧れがあったらしく、完全に習得した自信作には名前をつけている。

 それに実際的な意味でも、幻影に紛れた中で何の魔法が発動されたのか確実に分かるので味方としては動きやすい。まぁ聞かなくても分かるけど。


 もはや霧の及ぶ空間全てにディモンの意志が拡張されているのではないかと思ってしまうほどに濃密な霧が立ち込めて視界を奪う・・・しかしその範囲は敵周囲に限定され、敵の動きを確実に捕捉して霧も移動する。

 技名から想像するほど規模は大きくないというかむしろ小さく思えるけれど、ディモンの魔法の習熟が伺える非常に厄介な技だ。

 もちろん視界だけでなく、嗅覚も聴覚もファントムミストの中では鈍り、私たちの幻影を見せられていることだろう。


 この幻影の目的は大技を当てることだ。

 私は霧ごと風の檻で固定して準備を進め、ネフに合図。

「いいよ!」

「うむ!」

 ネフは私の風の代わりに闇魔法でシリンダーを形成した改変版のイレイザーカノンを放つ。

 制御がまだ甘く径が大きい代わりに、ネフの全力をこれでもかと詰め込んだ熱線の威力は凄まじく、ディモンの霧を蒸発させつつコアを襲う。

「ふぐぐっ・・・」

 何とも言えない唸り声をあげ闇魔法による鎧の強化で耐えようとするコアだが、ネフのイレイザーカノンは初撃の一条で終わりではない。


「ソロジー、頼むのである!」

 もちろん。任せなさい。


 私はコアを固定するために展開していた風をイレイザーカノンの熱量を逃さないよう収束させ、ディモンの霧が耐えられず消えていくのもお構いなしに灼熱の空間を生み出す。

 完全に魔素体として分離したことでネフから炎魔法を取り出せなくなるというマイナスはあったけれど、ネフを含めたみんなの魔素制御の力が上がったことで私は私の役割に一層集中できるようになった。

 パターン G では私の役割は敵の捕捉、捕縛がメインで、そしてこれはパーティメンバーを守るという意味でかなり重要だ。


 私は私のパーティを、私の責任できっちり守り切ってみせると密かに心に誓っている。

 世迷言とも取れかねない私の目標を、馬鹿にせず一緒になって目指してくれる大切な仲間を。


 ネフが生み出した魔法の熱量が失われても、私は風魔法を緩めない。コアの手足を積層化した風の障壁で包み、移動と攻撃を妨げる。

 ・・・いやしかし流石に強いな。私の魔素制御にかなりのレベルで抗ってみせている。まぁ距離があるから当然と言えば当然かも知れないけれど。


 ディモンは幻影を私たちの側に展開し、直接ではなく間接的にコアの動きを撹乱する。偽物の私たちの姿を見せているわけだ。

 そして最前線にはフレアが飛び込む。フレアは私が操作していた時以上に、最前線が似合っていると思う。

 ゴーレムとしての破壊耐性を存分に生かしつつコアの攻撃を受け止める。

 ・・・ゴィン!ガォン!ガァァン!

 鳴り響く音は剣をその身に受けた人間のものではあり得ず、フレアの体が超密度の合金であることを感じさせる。


 フレアは精霊体としての顕現を目指しつつ、パーティでの立ち位置を念頭に置いたゴーレム操作に苦心していた。

 火魔法の化身でありながらナイトゴーレムとして土魔法と、私の魔素制御の影響で風魔法にも精通したフレア。私たちの人生を思えばネフ同様先の永い彼女にとって、このパーティが一時的な関係に終わらないらしいことはとても喜ぶべきことで、その中で彼女は盾としての道を模索したのだった。


 フレアが目指すべき完成形の一つとも言える存在がダンジョンにはある。言うまでもなくゼンナ=グッグその人である。

 グッグは私との試合で負けるのがよっぽど悔しいらしく、

「ちょっとあんたたち、ソロジーの弱点って何かないわけ?」

 と、デイブレイクの皆にあからさまに助言を求めていた。ご丁寧にもというか私を裏切ってというか、そんなグッグにメンバーは私のことをあれこれと教えていたらしい。

「だって私たちもクレアに勝ちたいと思ってるから」

 ペイネはそう言っていた。いやでもグッグは敵かもしれないわけだけど・・・。あまり気にしないようにしよう。


 そんなこんなで私と離れたところで彼女たちは交流を深めていたらしく、そこでフレアは土の上位精霊であるグッグにゴーレム操作の相談をしていたようだ。

 その成果が素材への理解の向上と、それらを踏まえた上での利用に繋がったということだろう。

 精霊体の時私は刀しか携行していないけれど、私の体に入っているネフが持つ剣フラクタルを見れば、グッグの上位精霊としての力は推して知るべしというもの。そんなグッグに直接師事できるのは精霊として相当喜ばしいことなのだと、フレア自身が言っていた。


 距離のある私の拘束と眼前のフレアの盾では十分にコアを抑えられていないが、コアの動きをさらに抑圧しているのがペイネだ。


 ペイネは短剣をワンド代わりに魔法を馴染ませ続けて、刀身に魔法が定着したおかげで短剣は一種のアイテムになっている。

 ミスリルの刀身に浮かび上がる紋様は風魔法を象徴するかのように流麗に流れ、風の足場で戦場を駆け回るペイネに呼応して魔法が次々と生まれる。

「エルマって、名前を付けてみたの。どう、綺麗でしょ?」

 嬉しそうに魔法の馴染んだ剣を披露してくれたペイネの表情が忘れられない。短剣が綺麗なのか、ペイネが綺麗だから彼女の持っているものも綺麗に見えるのか、私には分からなかった。


 エルマから放たれる風魔法は速度と鋭利さに特化し、身軽な彼女の動きと相まって戦闘の隙間をうまく縫っていく。コアは動き出しの起点に攻撃を置かれたように感じることだろう。

 逆に、人の形をとっている今のコアは人間らしい痛みだとか躊躇いとか、そういう感覚が備わっているんだなと分かる。そうでなければそもそも人の形に拘る必要がない。

 もしかするとシェリーが内側からそう仕向けているのかもしれないし、あるいはシェリーとの融合がそうせざるを得ない状況を生んでいるのかもしれないけれど。



 ・・・それにしても “硬い” と言わざるを得ない。

 ディモンとフレア、それからペイネが絶え間なく攻撃しているというのに、傷は次々とつくものの即座に回復してしまう。3 人以上だと空間的に攻撃の余地が殆どないため私は拘束に徹し、ネフは綻びの瞬間を待って待機しているが、それにしたって人族領でも上位だろう 3 人の攻撃をこれだけ受けて耐えるとは。


 ・・・想定以上、想像以内という感じかな。


「クレア、パターン C はどう?!」

 ペイネが叫ぶ。

 戦況は私たちに分があるけれど、膠着しつつあるとみなすなら次の手を打ついいタイミングだ。

「・・・分かった!じゃあ、合図するから!」


 拘束はそのままに、私はペイネの告げたパターンに入るイメージを固める。

 そして予備動作を手早く済ませ、大きく叫んだ。

「パターン C !!!」




*** フェイト=キャスカ ***



 デイブレイクとパーティ名を名乗った彼ら人族領の冒険者たちの実力を間近に見て、私は彼女たちの鮮やかさに目を奪われ、戦闘に入り込めないでいた。

 もちろんホムンクルスとの戦闘で疲弊しているというのもあるけれど、多分万全の状態だったとしても同じように立ち尽くしていたと思う。


 序列戦の先、管理者用だという屋敷で見かけた時から名前だけ聞いていた彼女たちことはずっと気になっていたけど、ゼンナ=グッグを倒せないがためにデイブレイクについて知ることはできないでいた。

 けれどやっぱりというか、私がそうだろうと思っていた通り彼女たちは人族領側のダンジョンの攻略者で、そしてつまりは他の冒険者たちとは一線を画する実力者だった。


 クレア=ソロジーがリーダーらしく、彼女の掛け声で戦闘が始まる。

 というか、ソロジーが二人いる・・・?

 片方は翼と尻尾があってカワイイ・・・じゃなくて、口調からソロジー本人ではないらしい。じゃあ何かと問われると分からないけど。常闇の類縁かな?


 戦闘は翼のソロジーの一撃、それに連なる灼熱の檻から始まって、リーデンローザ=ディモンの幻影魔法、フレア=ロージーとペイネ=ボウェルの攻撃魔法が続き、全てが流れるように繋がりダンジョンコアの動きを奪っている。

 けれどあのホムンクルスと、それから実は混沌の魔王だったらしいシェリーまで取り込んだコアの耐久力は早々破れるものではなく、私とホムンクルスの戦いのように持久戦の様相を見せ始めていた。

 しかしそこは流石に一流のパーティというべきなのか、作戦を変えるらしい。


「パターン C !!」

 そうソロジーが叫ぶと前線にいた 3 人は一斉に飛び退き、翼ソロジーの熱線を追うようにソロジーが前に出た。



 ・・・圧巻だった。ただ、いくつかピースが足りないとも思えた。


 刀を構えたソロジーは急激に距離を詰めてコアに肉薄する。

 けれど刀はコアの剣を受け流す役割のようで、彼女の攻撃の本体は風魔法だった。

 再生が覚束ないほどのスピードで体を削られていくコア。さっきまで以上に動きが鈍いのは、ソロジーが束縛の役割も担っていたからかもしれない。

 それなら最初からソロジーが前に出て戦えばいいのに、と思わなくもないけれど、何か理由があるんだろう。

 剣士の体がどんどん削られ、そしてその端から再生していく。

 刀と剣の軌跡だけを追っていたなら、彼女たちの立ち合いはゆっくりとした動作で型の稽古でもつけているような印象すら受ける。まぁそうは言っても速いんだけど。


 なんでソロジーだけが前に出たのかも、しばらく見ていて理由が分かった。それは彼女が前に出てしまうと他のメンバーが攻撃に参加する余地が無くなるからだ。ソロジーの攻撃は面ですらなく三次元的に直接敵の形を捉えている。他の誰かが介入するのは難しいだろうと一目で分かるほどに。

 多分ソロジーが前に出るこの陣形は瞬間最大火力を上げるもので、もしかするとソロジーという柱を失う可能性がある諸刃の剣なのかもしれない。

 完璧なタイミングで引いたメンバーたちはと言うと、それぞれが回復と次に放つべき魔法の構築に余念がない。さすが序列戦をパーティで攻略した猛者だ。一人一人のレベルが、私が魔族領で知り合ったどんな冒険者、探索者よりも遥かに高い。

 もしかすると魔王カンナバーラや魔王ガルネリアよりも・・・?流石にそれは無いか。


 しかしそれでも・・・それでもコアが力の底を見せない。

 全くもって悪夢とすら思えるこの敵は、もしかしたらこの世界のラスボスなのかもしれないと、そんな考えが頭をよぎった。

 私がこの世界に来てからの日々、神様との会話、神話と現世の交わり。全てがどこかに収束する定めなら、それはここなのかもしれないと。



 そんな悪夢と対峙するソロジーに足りないもの。

 それは多分、彼女があの少女のことを知らないというただ一点に由来する “世界” との不協和。

 私は神様かもしれないあの少女を知っていて、彼女の後ろ盾をはっきりと自覚して力の覚醒に至った。

 この世界で人が人である限り越えられない限界の上限にソロジーやデイブレイクのメンバーが立っているとしても、世界を超えたところに根源を持つ私やダンジョンコアには勝てないのではないか・・・そう思えて仕方がない。


 前の世界で空想に毒されすぎたせい?

 それとも、私が深層心理に秘めている勇者願望的なものがそう解釈させているんだろうか?


 ソロジーにもまだまだ余力はあるようだけれど、私は今こそ私の真価をみせる時だと本能的に理解した。

 ・・・いつまでも休んでいては、物語に乗り遅れてしまう。


「行くわよ、フェイト」

 自分自身に言い聞かせ、ナイトメアを発動する。

「行くわよ・・・!」

 デイブレイクにも聞こえるようにはっきりと宣言して、私は刀を構えソロジーの隣へと駆けた。


あーっ!

まだ感想も★★★★★も付けてないワルイ子がいるわね〜?

めっ!だよっ!

お姉さん悲しいなぁ? キミはちゃんとできる子だと思ってたのになぁ?


今ならまだ許してア・ゲ・・・どうしよっかな〜★

う〜ん、キミ次第だねっ!

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