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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第六章 世界の理
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105 世界の敵

*** シェリー ***



 ソロジーと名乗った冒険者とその一行の相手をしている間にどんどんビザールは深部へと進み、デイブレイクが俺から離れてしばらくするとついにキャスカとビザールの戦闘が始まった。良いタイミングで二人をけしかけられたように思う。

 さてどうなるか。


 正直に言ってビザールが数分とかからずキャスカを下す可能性も考えていたが、流石は異世界人と言うべきか、ともかくキャスカはビザールとの距離感を上手く掴んだようだった。おそらく闇属性の魔法とキャスカ自身、それから戦闘の 3 つが噛み合った結果だろう。

 しかしそうは言っても、俺から見ても異常と思える量の魔素を宿したビザールにいつかは軍配が上がるはずだ。

 俺はその間にコアがビザールにどう接触するつもりか、あるいはコアが俺をどう攻略するつもりか探る必要がある。


 コアに力が還元されるにはこれまで見てきたように迷宮内で魔素を持つ存在がその活動を終える必要がある。細かい条件までは読み取れないが。

 しかし同時に、その瞬間だけ、魔素は迷宮の中で完全に独立したただのエネルギーになっているとも考えることができる。

 エネルギーを取り込むには魔素を何らかの魔法として行使すればいい。その上で俺に流す。一番簡単なのは身体強化の形か?膨大な魔素を俺の体の制御に回しきれるかどうか・・・難しいだろうな。ならばインディゴグレーと対を為し俺と共に戦ってきた全身鎧、レオをこれを機に復活させるのはどうか?

 ・・・いい案に思える。レオはインディゴグレーと似た色味の、獅子を模した鎧だ。今の見た目には合わないだろうが、まぁそれは些細なことだ。


 結局問題はビザールをどうやって倒すのかということだ。

 コアに働きかけさせて迷宮の一部に自らなって・・・くれないだろうな。


 などと一人考えを巡らせているうちに、だらだらと続いていた戦闘にターニングポイントが訪れた。


 突如として闇の魔法がキャスカから溢れ出し、空間を埋め尽くすほどに拡散したかと思うと再びキャスカの身体へと収束する。

 ほんの一瞬の出来事がなぜか妙に長く感じられ、キャスカは完全に闇を従える形で腰に差していた刀を抜いた。


「いくよ、ナイトメア」

 そう呟いて、迫りくるビザールを迎え撃つ。


 ナイトメアか。悪くない名前だな。


 それが刀に闇を纏わせたもののことなのか、はたまた彼女が纏い直した闇魔法全体を意味するのかは定かでないが、ナイトメアと共に戦闘を再開したキャスカの動きはそれまでの彼女を完全に過去のものにしていた。


「ハァァぁ!」

 掛け声とともに刀を振れば軌跡には闇魔法が刃のように飛び、影を操ればそれらは次々にビザールの魔法を飲み込んでいく。

 右へ、左へ、完璧な足捌きでキャスカの攻撃を交わし続けるビザールだが、身体能力も高まったキャスカはビザールの動きを無理やりな動きで追いかける。


(勿体無い・・・)

 ついついそんなことを思ってしまう。

 キャスカもビザールも個の潜在能力こそバカ高いが、戦士としては未熟だ。

 ついさっき見放したばかりのガオランを育てていたせいか、彼女たちの力を更に高めたいと・・・その極みと戦いたいという思いがどこからともなく湧いてくる。


(ふ、悪い癖だな。俺はあの阿修羅のように破壊衝動それ自体を司っていたわけではないというのに)

 思い出すのは破壊を象徴する魔王、阿修羅デンストレス=1=ガンフォートのことである。やつとは何度か戦ったが、不覚にも戦闘それ自体を愉しいと思えた奇妙な巡り合わせだった。

 今はどこで何をしているのやら。



 それにしてもこのままキャスカが押し切ってくれるなら、手間が省けるというもの。そろそろ俺も加担するか?

 意識の片隅に置いたままのデイブレイク。あいつらを巻き込むのはどうにも気が進まない。内々に事を治められれば奴らは介入してこない可能性が高そうだから、できるならば関わらないままコアを取り込んでしまいたいところ。


 ・・・あのリーダー、ソロジーの異質さは何だ?


 人族の冒険者だということは分かる。おそらく万能型だろう。刀を武器にしていることもまぁ、別に良い。

 しかしその形がよろしくない。

 パーティにソロジーと同じ姿の、しかし翼と尻尾を生やした存在がいるが、どう見てもこの二人は由来が同じにしか見えない。

 ならば一方は完全に魔法によって構築された身体ということになるが、そんなことが人族に・・・いや例えそれが魔族だろうと天使や悪魔だろうと、できるものなのか?


 俺が封印されている間に何らかの技術革新でもあったのか?

 少なくとも道中はソロジーと同レベルの高度な魔法には遭遇しなかったが・・・。



「おい、突然斬りかかってくれるなよ?」


 キャスカとビザールの戦闘が佳境に差し掛かり、俺は一応デイブレイクに声をかける。

 どういう形にしろ、内的な争いが収束しないまま外身に手を出されるのは都合が悪い事しかないだろう。例え俺がコアに負けたとしても、場合によっては今コアが俺の中に存在しているように、俺という存在も何かしらの形で残るかもしれないしな。

 俺の言葉にはソロジーが、どういう意図かはともかく、

「分かってる」

 と短く返した。


 ガオランは部屋に戻ったままずっと出て来ない。

 まぁあいつが今できることなど無いだろう。それがいい。


 ・・・ハッ、弟子だとか何だとか、俺も随分丸くなったものだな!




***



 キャスカとビザールの数時間にも及んだ戦闘は、キャスカが自身の能力を少しずつ、しかし確実に洗練させていったことで最終的な決着をみることとなった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 身体能力を爆上げしたにもかかわらず恐ろしいほどに時間が掛かってしまったことでキャスカの息は上がり、意識も朦朧としている。

「・・・」

 そんなキャスカの闇に徐々に呑まれていったビザールは、四肢の損傷が激しくもはや地に倒れ伏すことしかできなくなっていた。


「勝った・・・。私が、勝った・・・!」

 解けゆく闇魔法はそのままに、刀の鞘にしなだれかかるように膝を突き強敵を見下ろすキャスカ。はっきりと自覚された自身の覚醒と、その成果。そしてあの、少女の姿をした神との邂逅。


 かつてないほどの全能感と疲労感の中、キャスカは力を振り絞り一つ名前を叫ぶ。

「シェリー!」

 呼ばれた名前の主は、ずっと見ていたとでも言わんばかりのタイミングで分身の姿を露わにした。


「どうよ!私の勝ちよ!そろそろここから出しなさいよ!」

 勝ち誇って告げるキャスカだが、シェリーはキャスカをちらっと見ただけでビザールから目を離さない。


「端的に言う。邪魔だから出てろ」


 そしてキャスカは自身が望んでいた通り、即座に迷宮の外へ弾き出されたのだった。



 キャスカのいなくなった空間で、シェリーは動く気配のないホムンクルスを足先で小突く。

(俺が負けるなど有り得ん・・・!)

 心の中で意気込み、シェリーこと魔王ゲオス=4=ケルオスは、ホムンクルスの体をインディゴグレーで切り裂いた。



 ドウフッ・・・ゥゥゥウウウアアアアアアア!!!!!!!


 静かに弾け、宇宙が時間と共に拡散速度を増すかの如く広がろうとする膨大な魔素。

 その中心でシェリーはインディゴグレーを構え、かつて自分自身が最高だった時代の相棒を構築していく。

(来い!来い!来い!来い・・・!!!)

 レオと名付けた全身鎧はインディゴグレーと対でありながら、人格を持った存在でもある。


 魔素を従え、精霊を従えた混沌の魔王。その伴侶とも言い得る闇の精霊こそがレオであり、そしてレオは精霊でありながら誕生の瞬間から人格を持つにも関わらず意志を持たない、特異な存在でもあった。


『本当の強さをみせて・・・』

 レオの構築と共に最愛の精霊の声がこだまする。

『お前は闇に強すぎる』

 それと同時に、仇敵の言葉も呼び起こされる。


(うるさい、黙ってろ!俺の強さを見ろ!俺こそが闇で、強さだ!それをどうして、どうしてお前はわかってくれなかったんだ・・・!)


 集中すればするほどに雑念が湧き、しかし確かに魔素は闇の形に押し込められ、新しく闇の精霊が形作られていく。

 少女の姿は変わらないままシェリーは藍色に鈍く輝く全身鎧に包まれ、尚も拡散を続ける魔素を鎧を介して自身へと取り込み続け、それらは迷宮のシステムすら超えて "外側" のシェリーにも影響を及ぼし始める。


 魔素の嵐。中心にいるシェリーが取りこぼした魔素は次々と迷宮によって吸収され、シェリーが恐れていたようにコアは着実に実権を取り戻しつつあった。

 それら全てを内包する外的な本体であるシェリーは、コアとの駆け引きが五分五分であることを冷静に見極める。

(くそ、どこで仕掛けて来る?どこで俺を取り込みにかかる?)


 終わりが無いかとすら思えた魔素の奔流は、しかし唐突に途切れ、急に足場を失ったような浮遊感が分身のシェリーを襲う。

(来た・・・!)

 シェリーは理解する。遂にコアが自分に手をかけたのだと。

 そしてコアは知っていた。シェリーがそれを全力で拒むための準備をしていたことを。



 シェリーの様子を観察していた者達からは、その光景は非常に奇妙に映った。


 シェリーが大剣と似た色の鎧に身を包まれたかと思うと鎧が溶け、今度は男の冒険者を彷彿とさせる大雑把な外套と剣が形を持ち始める。

 それが、シェリーの中にある二つの人格の対立が表出した結果ということは明らかだった。


「どうなるんだ?」

 ディモンが不安を口にする。

「分からない。いずれにしても戦える準備を」

 クレアが声をかける。

「何と戦うのかしら」

 ペイネが問う。

 クレアは己の内にふっと湧いた単語を、噛み締めるように言葉にした。


「世界の敵、だよ」


 何をもってクレアがそう表現したのかは、デイブレイクの誰にも分からなかった。

 実のところクレア自身にすら。

 しかしそれは目の前の光景、その行方をじっと待つ彼らの心境にスッと収まり、すぐさま共通の認識となる。


 そして、世界の敵が産声を上げた。




*** シェリー ***



「クソっ!クソっ!クソっ・・・!!!」


 俺の体がじわじわと侵食されていく不快感、それを振り切ることができないまま時間だけが過ぎていく。

 対抗策として闇の魔法で俺自身を中も外も完全に覆い尽くしておくことは初動で成功した。コアは基本の 4 元素系魔法を主に使って攻略を図るだろうと思ってのことである。

 しかしそれが、今まさにコアによって取り込まれた迷宮の覇者、ホムンクルスの力によって打ち破られつつある。


「天使の力だと!?舐めるなよ観察者どもがぁぁああ!!」


 思うがままに叫び体に力を取り戻そうとするも、当の体が言うことを聞かなくなっていく・・・。

 どこでコイツは天使の力を、天使の道を往く術を手に入れた?迷宮が崩落してから今までに何があった?

 天使の力を俺に被せて俺を俺の体から引き摺り下ろそうとするなど、どうやっているのか考えもつかないが体感させられてしまっては仕方ない。ただの事実として対抗策を考えるしかない。

 だというのに、その策が無い・・・!


 永きを生きるあの傍観者どもが迷宮に加担しているなど、考えたくもない。

 そもそも天使どもは迷宮を、ダンジョンをこの世界の危機に繋がるものとして危険視していたはずだ。そんな迷宮そのものであるホムンクルスに肩入れするはずがない。


 じゃあ何か?奴ら天使は、ホムンクルスと戦って取り込まれたのか?そしてむざむざ放置していると?そんなことを光の魔王が許すとは思えないが、まさかこんな事態は想像していなかったとでも言い訳するのか?


 いやしかし今は天使のこともどうでもいい。

 コアだ。

 コアを凌ぐ必要がある。凌げるか?闇が足りない。闇が・・・。


 つい今し方放り出したばかりのキャスカと目が合う。そうか、こいつを出したのは失敗だったのかもしれないと、今更ながら選択ミスを悟る。

 闇魔法に覚醒したこいつならば、コアとの駆け引きの中で俺の力として組み込めただろう。ただの言い訳だが。



(くそ、まだモナルカに・・・あぁ、本当の強さすら・・・)


 ・・・急激に意識が薄れ始める。

 視界の端、部屋から出てきたガオランが何かを叫んでいる。

 満身創痍だろうキャスカが闇魔法を展開する。

 オレンジに煌々と燃え、ソロジーが溶けてゆく。


 俺は、俺が───


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