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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第五章 挑戦者
107/185

101 評価

*** シェリー ***



 異世界から紛れ込んだ者達は往々にして偏った能力を持っている。それは能力の方向性がこの世界の魔法とは完全に異なっていたり、あるいはこの世界の中でも突出したものだったりと様々だが、はっきり言えるのは、共通して“強い”ということだ。

 俺がかつて直接遭遇したのはパーソルのパーティにいたカグラ=アマヤという女だけだが、そういう話はいくつか聞いたことがあった。


 序列戦などと云う意味の分からんダンジョンの障害はともかく、俺達の戦闘を観戦していたこの女は明らかにダンジョン外の存在だと直感で分かった。

 しかも道中で少なからず冒険者の情報は集めていたにも関わらず、こいつのことと思われる情報は全く耳に入っていない。ファーラから俺が封印されていた間の情勢のことは大雑把に聞いているが、人族領には魔族はおらず、魔族領には人族はいないことになっているらしい。


 それならばこいつは何だ?


 人族領で話題に上らなかった人族の冒険者。

 考えるまでもない。ダンジョンが魔族領にもあり、深部でこうして合流しているんだろう。そしてこいつは魔族領側から来たのだ。


 魔族領にいないはずの人族の女。しかも明らかに異常な強さを持っているだろうことは、一人でここにいることから想像に難くない。

 結論は一つだ。

「・・・お前、転移者だろう」

 俺はこいつを迷宮の具合を確かめるために使うことを思いついた。



 迷宮にはダンジョン深部を中心に少なからず魔物を取り込んできた。しかしどうにも迷宮が満たされていく感覚が得られない。本当にこんなことを続けていて迷宮の力が・・・俺の力が戻るのか?

 力をつけていくのは俺の下で訓練しているガオランばかりだ。


 まぁしかし俺自身に感じられないだけで実は強くなっているのかもしれない。客観的な立場ってやつが必要だ。

 その点、この女は都合が良い。

 単独行動だとかこの世界とのしがらみが無いとか色々理由はあるが、単純に強いことが重要だ。異世界の不条理とも思える理を持ち込まれる可能性も無くはないが、ダンジョン攻略で問題が起きていないなら俺の中の迷宮でも問題はないだろう。


 俺はこいつを迷宮に取り込むため、俺に攻撃させるため、敵意を向け大剣を顕現した。




 さて・・・あっさり迷宮に取り込んだはいいが、どうしたものか。


 とりあえずの目的は迷宮の現状把握だ。

 外側の俺が強化されているのが迷宮の力を反映した結果なのか、それともコアが言うのとは違って外の俺は別の理由で強さの源を得ているのか。

 ひとまず俺は序列戦とやらは突破した。こっそり女の戦闘も覗き見たが、こいつも俺と同じ立場にはいるようだ。なぜここに留まっているのかは知らないが。

 こいつと迷宮の魔物を戦わせれば迷宮の強度が計れる、そういう算段だ。


 コアが言うにはダンジョンから取り込んだ魔物も迷宮の魔物として構成できるようだが、どうせならコイツにとっての初見でやらせてみよう。

 ただの気分だ。



 まずはサイクロプスを用意した。

 コアの記憶にある迷宮の量産品ではなく、魔素を詰めて数段階強くした個体だ。


 女は・・・キャスカというらしい女は闇の魔法を纏い、数合の切り合いでサイクロプスの胴を真っ二つに斬り裂いた。

 舞台で戦っていたガオランは見ていなかったようだが、俺と女に注目していた序列戦の魔物の一体が俺が女を取り込んだのと同時に、

「キャスカ!」

 と叫んだことで俺は女の名前を知った。


(そう言えば説明をしていなかったな。それからこの後キャスカをどうするつもりかも、決めてなかった)

 そんなことを考えるが、まぁそのへんは適当で良いだろう。どうにでもなる。

 しかし貴重なサンプルが混乱して本来の実力を出せないのは困る。・・・一応説明しておくか。


 サイクロプスが倒れた空間に俺は分身を形作り、ガオランを指導するように分身に言葉を紡がせる。

「お前!」

 それより早く分身に気付いたキャスカが話しかけてきた。

「ここはお前の魔法の中なのか!?」

 うーん、そうならどれだけ俺にとっても良いことだろう。しかし悲しいかな、現実は面倒なことだらけなのである。

「いや、ここは迷宮だ。それはまぁ大した問題じゃない。お前にとって重要なのはここからどうやって出るか、だろう」

 キャスカは特に何も言わず、睨みつけるように分身をじっと見ている。


「まず初めに言っておくが、端的に言って俺はお前の敵ということになる」

「そうでしょうね、それ以外ではありえない」

 言葉に怨念でも込めていそうだな。気にならないが。

「それでだ、当然ここで死ぬことはお勧めしない。理由を教えるつもりはない」

 言って何か変わるわけでもないだろう。


「で?私をどうするつもり?」

「別にどうもしない。ただ、ここで迷宮の魔物と戦ってもらうだけだ」

「戦って、迷宮を攻略しろってことね」

 そういうことになるか?まぁそうか。残念ながら最後に俺が待ち構えている以上攻略は叶わないだろうが。あぁいや、迷宮の中の俺の方が外の俺より弱い場合はそうでもないか。

「まぁそういうことだ」

 特に何か伝えたわけでもないが、分身を送ってはみたものの正直他に伝えることも無いな。

「じゃ、またな」

 そう言い残して分身を消す。それに外のこともある。



「おいお前、キャスカはどこに消えた?」

 聞いてきたのは序列戦 1 位のランガー。中々に変わった闇魔法を使う。

「何か問題があったか?」

 俺は凄みを効かせて答える。・・・小娘の姿の俺が、高い声で凄んでも大したことはないか。

 しかし別に魔物には関係ないことだ。それをランガーも分かってか、それ以上は何も言ってこない。


 そもそもこの空間はおかしい。誰が好き好んで魔物と仲良くなどするか。

 ・・・まぁこいつらは魔物というより精霊寄りのようだが、それも、実際のところどうなっているのか俺には分からない。

 魔物に分類される生き物は何かしら魔素を操る術を持っている。ただ実際にはそんな生き物は多くないし、地域や種族によっては単に獣と呼ばれたりもする。

 しかしダンジョンや迷宮の魔物は違う。こいつらはこの世界に無理やり魔素を介して持ち込まれた存在だ。それゆえに、うかつに歩み寄るのは馬鹿のすることだ。



 ・・・ガオランは今日も負けか。

 俺の中での修行は・・・続けても問題ないだろう。続けさせよう。

 俺はガオランと共に用意された無駄に居心地の良い部屋に戻った。


 とりあえず俺の今の力を正しく理解しなければ、いきなり奈落に落ちることもありえる。

 かつて俺自身が魔王だったから分かるが、魔王というのは大概おかしな奴らだ。そして圧倒的な実力を持っている。俺が言うんだから間違いない。

 幻想の栄光にすがって痛い目を見るのは流石に避けるべきだろう。

 何せ噂ではこの先に、魔王の一人が鎮座しているかもしれないのだから。




***



 悪魔のファルとレデルカが地上でビザールと再来に遭遇し、再来との戦闘を嫌って逃げた先は冥界ではなくグロームだった。

 特異点から冥界に戻るのも一つの選択肢だったが、ファルはビザールという異質を見張る必要性を優先して地上に残った。

 地上で活動するなら拠点は決まっている。ダブルホーンの後ろ盾、あるいは今やダブルホーンそのものとも言えるグロームである。


「やぁ、世話になるからな」

 ふらっとグロームの拠点を訪れて告げたファルを拒める者はいないが、それはそれとしてダブルホーンのメンバーたちは新しい計画でも始まるのだろうかと落ち着かない様子である。

「ファル様。お久しぶりと言うには存外早い再会になりますね」

 ダブルホーン代表のファーラが、上客とも上司とも呼べる存在に声をかける。

「あ゛ー、ちょっと面倒があって」

「面倒というと?」


 一旦会話を途切れさせ適当な椅子に雑に腰掛けるファル。口調の悪さを除けば、見目のいい彼女に声をかけたくなる男は後を経たないだろう。もちろん彼女が真性の悪魔であると知らなければ。


「お前らは冒険者もやってんだろ?有名どころのパーティは知ってるよな」

「えぇ、そのつもりです。必要とあれば末端のパーティでも」

「その中に "再来" ってのがいただろ」

「再来のエンダ擁する 5 人組パーティですね」

「そうだ」


 ファルは給仕が持ってきた紅茶で口を濡らす。

「特異点にそいつらがいて・・・まぁそれはいいんだが、再来以外にも英雄だとか勇者だとか呼ばれてるヤツは他にもいるか?」

 ファーラは微妙に沸きらないファルの言葉運びを訝しみつつ、分かることを答えていく。

「人族の英雄アポロアに冠されたのと同じ意味で "英雄" と目されるのはオヴェリ=エンダだけですが、国内レベルで英雄視される人物は連邦に 4 人います。国家間紛争や災害時の功績を背景にしているため、ファル様の気にされる意味ではないかと」

 ファルは表情を変えずにファーラに先を促す。

「それから勇者については全くそれらしい情報はありません。そもそも歴史上でも勇者として台頭した人物がいないことは、ファル様がよくご存知かと思いますが」


 ファーラの回答には答えず、ファルは遺跡でのことを思い出す。

(ならばヤツは・・・天使の抜け穴に消えた “ヤツ” はなんだ?人族であれほどの存在が埋もれていられるとは思えない)

「・・・迷宮で異端と遭遇した。人族の姿で天使の特異点・・・あいつらは降臨点と呼ぶんだったか?そこに溶けていった。心当たりはないか?」

「それは確かに人族だったのでしょうか?天界や冥界への道は人族にとって未知とされていますが」

「今は、だろ。アポロア=パーソルをはじめ、かつては道も今ほど閉ざされていなかった」

 ファーラは頷くだけ頷く。そして考え、一つの可能性を提示した。


「迷宮深部のホムンクルスが、その異端ということはありませんか?」

「あ゛ーん?あいつらそんなご大層な存在じゃなかっただろ」

「えぇ、少なくとも迷宮が機能していた間は。しかし魔王復活の儀式を機に迷宮は混沌と化しています。可能性として無視できないかと」


 ファーラたちダブルホーンもギルドの依頼経由で迷宮の探索を行っていたため、迷宮がケルオスの封印を解くために準備していた頃よりも遥かに難度の上がった空間と化していることを把握していた。

「ホムンクルス・・・ホムンクルスか」

 ファルはその単語を噛みしめるようにファーラの言葉を反芻してから、ダブルホーンに幾つかの指示を出した。


 異端の行方を探ること、天使の動向を探ること、そして人族の上位勢力の力を図ること。


「少しお時間を頂きますが」

「任せる」

 こうしてダブルホーンは本格的に、しかし静かに人族への敵対を開始することとなった。

 彼らが望むと望まざるとに関わらず。




*** アリア=ソロジー ***



 エンドランドラゴン討伐の任務が終わり、その後の祭りと町の浮ついた雰囲気が収まった頃、私はギルドマスターに呼び出された。

「失礼します」

 ギルドで受付をしていたので慣れているとはいえ、今は冒険者なのでそれらしく身なりを整えて応接室に入る。

「あぁ、よく来ましたね」

 エンダリテさんだけかと思ったらアルド様もいた。


「今日はどういったご用件でしょうか。依頼関係ならリーダーのカイシオさんを呼んで頂いた方が良いかと思いますが」

 私は呼ばれた理由がよく分からず、思ったことをそのまま聞く。

「いや、今日はアリアに用があってのことです。率直に言いますが、今のパーティから離れてデイブレイクの下へ行ってはどうですか?」

「え、でも」

「これはカイシオとも話した上での提案です」

 ・・・急とまでは言わないけれど、まだ先のことだと考えていたので反応に迷う。


「アルド様からも」

 エンダリテさんに声をかけられてアルド様も口を開く。

「うむ。ワシもデイブレイクとお前さんとのやりとりはこの耳で聞いておったが、その時の条件は十分に達成できておると判断した。であれば、町に拘らず彼らに加わった方が巡り巡って町のため、世界のためになるじゃろう」

「この間のエンドランドラゴン討伐作戦での働きは、わたくしだけでなく参加した全ての者の想像を遥かに超えた高度なものでした。流石に最近開拓されたばかりのダンジョン最深部のことまでは分かりませんが、あなたが加わって足手まといになることはないでしょう」


 回復魔法のことだろう。回復とバフに関してはもしかしたら二人が言うように、私もお姉ちゃんたちの助けになれるかもしれない。けれど不安な点も残っている。

「でもまだ・・・」

 そのことを話そうとしたけれど、アルド様に止められた。


「アリア。アリア=ソロジー。力を誇示せず隠しておくことは必ずしも美徳ではない。分かるな?」

 そう言われ、私は何とも言えない気持ちになる。


 私の目標はデイブレイクにある。そうなると必然的に、デイブレイクの基準で物事を見て魔法を行使できないといけないと思って過ごしてきた。

 唯一不安に思っていることというのは、攻撃魔法のこと。

 お姉ちゃんにも言われたことだけど、少なくとも自衛できるようにならないと戦闘ではお話にならないかもしれない。そう思って私は風系統の魔素操作で攻撃魔法も磨いてきた。

 ロッキンガム大祭でのお姉ちゃんとディモンさんの魔法、エンダさんの魔法。あれを見てしまっては、私の魔素制御がとても拙いものに思えるのは仕方ないことだと思う。


 実践の場では、所々私も攻撃に回ることがある。

 そして思う。

(あぁ、こんなんじゃまだまだ足りない)

 ダンジョン攻略を通過点としか考えていないようなお姉ちゃんを持ってしまったが故に、そう思ってしまうんだろうか?でも思うことを止められない。


「カイシオが言っていました。アリアは俺らのパーティにはもったいない、と。もし修練期間のことを気にしているならそれは気にしなくてもいい、とも」

「そうですか・・・」

 賢者の町のギルドでは普通は数年最初のパーティでお世話になるけれど、それも必要ないと言われては、むしろパーティを追い出されるような気分にもなってしまう。もちろんパーティメンバーの善意だと分かるけれど。

 それに攻撃魔法についても、アルド様がいるということは、全ての要素込みで背中を押してくれているんだろう。


 ・・・まだ早いと思っていたけれど、大賢者とギルドマスターに言われて動けないほどに、冒険者として臆病に過ごすつもりもない。

「・・・分かりました。パーティメンバーの好意に甘える形になりますが、デイブレイクへの加入を目指します」

 私の答えに二人は穏やかな表情でうんうんと頷いていた。



「あ、そうそう。知っているとは思いますが、デイブレイクは近頃地上で姿を見せていません。おそらくダンジョン内でしょうが・・・まずは探すところからになりますね」


 ・・・うん、そうだった。最近全然情報が無いんだった。

 先行きが少し不安だけど、動かないことには話が進まない。私も覚悟を決めて旅立つことにしよう。


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