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今更普通の異世界転生  作者: 玉庭ひとり
第五章 挑戦者
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094 一石二鳥

*** シェリー ***


 ダンジョンは俺と一体化している迷宮とは大分様相が違う。

 まず迷路状ではなく、屋外かと見紛う景色がずっと広がっている。

 松明のような人工的な光源は見当たらず、代わりに幻想的に光る虫や草花が視界をほの明るくしている。

 現れる魔物は野生にもいそうな種に似たものが多く、これも人工的雰囲気を感じさせない要因だろう。


 魔物の強さはコア視点で言えば、最盛期の迷宮には及ばないが、それでもドラゴンともなると俺と交わる前のキメラの層に匹敵するほどのようだ。

 ただ層ごとに特色が違うため一概に比較するのも難しいらしいが。


 ガオランはドラゴンの最上位種と思しき緋色のドラゴンあたりで一度実力の限界を迎えたかと思ったが、案外持ち堪えて城下町やその周りでも何とか対応できている。

 ドラゴンのような大きすぎる魔物にとっては、ガオランがいくら機敏に動こうが関係なかったせいかもしれない。逆に言えばガオランは等身大か少し大きいくらいの相手には滅法強い。


 ガオランへのカース流擦り込みはあまりうまくいっていない。せいぜい 3 ヶ月で型をどうこうできるとは思わないが、コイツの中の魔素がこれまで体を動かしてきた軌跡が、型の組み込みと相性が悪い。

 戦闘での無意識の動きのパターンが常習化していて、意思以上にそれに引っ張られることが多いようだ。

 子供と思って侮った・・・そう思わざるを得ない。子供は教えに対する吸収が早いものだと勝手に思い込んでいた。


 俺の迷宮の方は順調ともそうでないとも言い難い。

 魔物を取り込むことで確かに俺の中の迷宮が育ち、最深部にいる俺の分身の深度が深まっていくのが分かる。

 ただ面倒なのは取り込んだ魔物は現状、中の俺が勝てば俺を主と認めるようで、一々魔物を中の俺が倒さないといけないことだ。

 コアは迷宮内で分身が絶対の力を持てば自然と魔物も従うはずだと言う。・・・まぁ今の俺がよっぽど弱く見えてるってことなんだろう。

 悲しいねぇ。


 魔物を取り込むことに関してガオランは「そういう魔法だ」と告げるとあっさり納得した。そんな魔法を簡単に使えてたまるか。

 どうもガオランは自分が魔法を使えないせいか、魔法というものに対して幻想にも近い感情を持っているようだ。そのせいだろう。


 だから取り込むこと自体には問題ないが、一応外の俺が対応できるレベルかどうかも確認しつつ進んでいる。

 俺はコアの言うことを完全に間に受けるつもりはない。突然取り込めない対象が出てきても困るからな。


「師匠、僕の修行がうまくいってないように思うんだけど、どうしたらいいのかな」

 城下町も反対の壁が近づいた頃、ガオランに聞かれる。

「簡単だ。一度身体強化を解け」

「え、でもそんなことしたら僕はすぐにやられちゃうんじゃない?」

「まぁそうだろうな。いや、本来は基本的な部分は最低限身に付けてから実戦に挑むのだから、そもそも前提が違う」

「じゃあ」

「そうだな・・・」

 ふと俺は名案を思いつきいた。


「俺の中で鍛えるか?」

「え?どういうこと?」

「今まで取り込んできた魔物がいるだろ。あいつらは俺の中の空間で放し飼いになっている」

 嘘くさいなぁ、と顔に書いてやがる。

「嘘っぽいよ、師匠。それにこれまでの魔物だって、身体強化無しだったら僕には勝てないよ」

 いや、そうでもない。


 迷宮内では一度取り込んでしまえば魔物たちを俺の好きにできる。

 残念なことに精霊の要素を全く受け付けないので魔素要素だけではあるが、魔法ばかり使ってくる魔物はそういなかったので大差無いだろう。

 俺の好きに、というのが重要で、元々の力を超えない範囲でなら、相当量の魔素を用意するだけで魔物を生み出せる。魔素次第では例えば弱体化させた白虎で迷宮内で埋め尽くすことも、元の力を持った緋色のドラゴン数体を据えることもできる。


 俺の考えとは、荒野の前半で取り込んだゴーレムを弱体化させて沢山用意し、そいつらを相手にガオランに型を身につけさせる、というものだ。

 ついでに俺の分身の更に分身も用意して指導役にできるから、俺としてはダンジョン攻略にも特に支障はない。

 ただ物の管理が少し面倒だが、これも大きな問題ではない。迷宮内の対象はそいつの意志では迷宮から出られないが、逆に俺側から無理やり排除することはできるからだ。

 ゴーレムは荒野のモノとこの城下町のモノは性質が違い、城下町で遭遇するゴーレムは精霊の要素が強いせいで思ったほど迷宮の力にならない。今後精霊ばかりがダンジョンの魔物の上位を占めるようだと都合が悪いな・・・。


 そもそも結構な魔物を取り込んできたが、コアにはご満足頂けていないようだ。どんだけ腹を満たせば済むというのか。


「うーん、まぁ師匠がそう言うなら・・・」

 ガオランは俺が一人でダンジョン攻略に挑む形になるのが気掛かりのようだ。

「気にするな。お前が居ようが居まいが関係ない。むしろ型を身に付けてくれた方がよっぽどマシだ」

「そ、そうだよね・・・」

 浮かない顔をしては見せるものの、ガオランも深く潜るにつれ力不足を感じていたのだろう。結局俺の提案に乗り、ガオランの迷宮での修行が始まった。



 始めてみると案外これが悪くない。

 ガオランの型の修行が一気にペースアップしただけでなく、俺は俺で迷宮の構築の仕方というものに、分身のそのまた分身の目を通して、あるいはガオランの意見を参考にしつつ馴染んでいけた。


 さて、このまま進んでもいいが、流石にそろそろ食料が尽きる。

 ガオランの修行期間としても区切りになるし、一旦地上に戻ることにするか。




*** カティアナ=ファル ***



 迷宮の入口が使いにくくなったのはお前のせいだとか言われ、あぁもうめんどくせぇなぁ、と悪態をついて過ごしていたのがつい数日前。

 とりあえずと思ってライナの特異点に向かうと、面白い状況になっていた。



「ちょうど誰もいねぇな」

「そうですね・・・いえ、そうではないようですね」

 ライナで顕現し、レデルカに言われて気配を探ると、確かにあたしたち以外の存在が近くにいた。

 ・・・というか、何だ?今まさに戦闘中ってか?

 よくよく耳を凝らすと気配の方から何かがぶつかり合ったりする音が聞こえてくる。

 そして忍び足でそちらへ向かうと、人族と魔物の戦闘以上に興味を惹かれるものを私は見つけてしまった。


「なぁ、レデルカ」

 思わずニヤけながら私はレデルカに声をかける。

「なんでしょう、ファルさん」

 レデルカの表情も、いつもの貼り付けたような微笑みではなく本当に楽しそうに見える。

 そう言えばこいつは、何だかんだ言ってもあたしみたいな無鉄砲によくついて来るよな・・・。そう思いながらレデルカの方を見る。こいつも存外あたしのように “悪魔らしい悪魔” なのかもしれない。


 見た目は関係ない。楽しみに全力で突っ込んでいけるかどうかが、真の悪魔かそうでない紛い物かの境界線だとあたしは思っている。

 ・・・それはともかく、レデルカの表情を見るにあたしと同じことに気付き、そして同じことを感じているようだ。


「ハハッ」

「フフッ」

 私たちはどちらからともなく笑いあった。


 何を見つけてたかって?・・・天使の特異点がはっきりと開かれていたのだ。


 奴らは降臨点と呼んでいたか?まぁそれはどうでもいい。

 ともかく、迷宮にまつわる何者か、あるいは人族の誰かが天界への道を辿ったのだろう。そうでなければこれほどはっきり特異点が明らかになるとは思えない。

 もっとも、それでも私たちには溶け込めないようだが。


「思ったよりも、目的の達成は早そうですね。そのことに少し安堵しました」

 レデルカが言う。

「あぁ、そうだな」

 私は答える。

 魔素の停滞を断ち、冥界への循環を良くする。

 その目的のためにケルオスを復活させ人属領で滞っている魔素の放出を計画したが、結論ありきで語るなら、魔素がひとところに留まりさえしなければいい。それはもちろん天界の崩壊でも良いわけだ。


 天界と冥界は性質の違いから強制的に相互不可侵の状態が延々保たれていた。それが今、あたしの目の前で何者かによって破られようとしている。

 ともすれば、その何者かは天界をかき乱してくれるだろう。冥界には来て欲しくないが。


「お前はどう考える?」

「何がですか?」

「あたしたちのすべきことだ。分かってるだろ」

 レデルカは私の投げかけに、元々回答を用意していたかのように答えた。

「・・・待ちに待った混沌、その始まりですわ」

「はっきり言え」

 人族の男なら数秒見つめあっただけで腰砕けになりそうな表情を、長めの前髪の向こうに浮かべてレデルカは答える。


「争いと淘汰を楽しみましょう」


 私は尚更意味不明にも思えるその答えに満足し、レデルカと共に特異点から冥界へ帰還した。




*** ユニバーサ ***



 新しい拠点である修道院のような建物と墓地にもおおよそ慣れ、軍としてのアンデッド部隊の再編もとりあえずの枠組みだけは出来たかなと思っていた頃、その悪夢がやってきた。

 その悪夢は随分若い男と女の二人組の姿で、うちらの順風満帆なアンデッドアーミー歴の第一歩を踏みにじった。


「大したことなかったな」

「そうだね、ドラゴンよりも弱かったし・・・」

 風のように飛来したかと思えば去っていった二人組は、あろうことか軍の 3 割ほどの戦力を文字通り奪って墓地を後にした。


「ラッパレン・・・」

 修道院の私用の部屋には参謀のラッパレンとその部下数名がいる。

「なんでしょう、ユニバーサ様」

 平坦な声で答えるラッパレンの表情はイマイチ読めない。

「うちの思い描いたアンデッドの理想郷は、こんなに脆いのか?所詮ポッと出のアンデッドってことか?」

 まだ始まってもいないうちらの軍記が真っ黒な墨で汚されたような気分。この気持ちをうちは誰にぶちまければいい?誰に解決して貰えばいい?

「いえ、我々は着実に歩んで来たはずです。ゴーレムやアラクネとの縄張り争いにも、ここのところ一定の成果が見て取れるようになっていたではありませんか」


 ・・・なら。

「ならさぁ!」

 うちは机をバンッ、と叩きつける。

 けれど、ラッパレンに動じた様子はない。

「ユニバーサ様。彼らは異常でした。往々にしてダンジョンとはそういうところ・・・不条理が遊んでいるようなところです」

 ラッパレンはユーモアとか言い回しが微妙に下手だ。

 でも彼の言うことも何となくは分かる。

「それは理解しているつもりだ」


 本当のところ、あたしは薄々分かっている。

 ・・・要するにあたしは突然あたしの身に生じた、沢山の部下をまとめる、ということがどういうことか分かっていないんだと思う。


 フォルト様という強大すぎる存在の下、あたしは気楽に一兵卒でいられた。

 フォルト様の下では強いも弱いも不死性という条件の中で一律に考慮され、それゆえに自分という存在を簡単に、単純に捉えていた。

 けれど、本当はそうじゃない。例えアンデッドだろうと、そうじゃない。

 死ねば死ぬし、死んでも死ななかったとしても、消滅すればそのままだ。


 あたしは戦闘でカウントされる -1 をただの数字としてみれないようなのだ。

 -1 に一人のアンデッドの “生” をみてしまう。

 そしてそのマイナスが、あの悪夢によっていくつも積み重ねられた。


「でも、だったら、どうすればいい?いつまで経ってもうちらは襲われるままか?」

 ラッパレンは答えない。もしかしたら彼も、どうすべきか考えあぐねているのかもしれない。

 城下町の先はもっと強い魔物がいるだろう。かと言って城下町から上層へ戻れば、ドラゴンが巣食っている。

 八方塞がりだ。


「ユニバーサ様。何はともあれ、我らに今できることはやはり、軍としての再編を完成に導くことです。実際、再編着手以後、ゴーレムたちとの戦闘での勝率は確実に上がっています」

 そう言われると、フォルト様の管理に穴が多かったと言われているようで、少し居た堪れない気持ちになる。

 けれどラッパレンの言うようにあたしたちが今目指せるのは集団としての力を形にすることなんだろう。

 似たようなことをラッパレンだけでなく他の補佐からも言われていたから。


「そうかもね・・・」

 悲しいかな、あたしは所詮お飾りの長。戦う以外のことは部下たちに任せるしかない。

 けれどあたしもラッパレンのやってきたこと、あたしだけができること、そういうのを、ずっと上から見ていたおかげか少し分かってきた気もする。


「とりあえず任せる」

 今はそう言うしかない。でも、そのうちあたしも本当の意味でアンデッドの王になれるよう、いろんなことを知っていきたい。


「ただ、とりあえずはあの悪夢がまた来た時のことだけど・・・」

「はい」

「うん、全力で隠れようね」

「はい」

 そう返事をしたラッパレンの表情がら少し穏やかに見えたのは気のせいだろうか?

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