↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋  作者: 雪見だいふく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

熱

サイラスが来てから2日たち、サナは仕事から帰っていた時、後ろから声をかけられる。


「サナ!」

「イリス」


同僚のイリスがサナに追いつき隣に並んだ。

ふわふわの猫っ毛が走ったせいか、乱れており所々はねている。

にかっとした笑顔ではつらつと話し始める。


「なあ、今からご飯いかないか?もう俺お腹すきすぎたよ〜」


眉を8の字に垂れさせ、お腹をさする仕草にサナもふふっと笑顔になる。


「いいわ。どこにする?」

「じゃあ、イタリアンにしよう!ここからすぐなんだ」


2人で並んで歩いている時、前から長身の男性が目に入る。

サナはぎくっとした。

サイラスが強い視線でサナを見つめ、静かに近づいてくる。

サナは咄嗟にイリスの後ろに隠れた。


「? どうしたー」

「サナ」


イリスの戸惑う声にサイラスの低い声が重なる。

久しぶりに名前を呼ばれ、どうしていいかわからなくなった。

イリスの背中から出てこないサナに、サイラスは苛立ちを覚えた。


「あの?」


イリスがサイラスに向き合うと、サイラスは愛想笑いをする。


「初めまして。サナの義兄です」

「え!サナにお義兄さんが?初耳です!」

「久しぶりに会いにきたもので。ご飯でもどうかと思って。おじゃまだったかな?」


サイラスが握手を求めると、イリスも手を差し出す。


「いいえ!こちらこそ予定があると思わなくて!サナ、また今度行こうな!」


イリスは読まなくてもいい空気を読んで、颯爽と離れていった。

2人きりになると沈黙が下りる。


「あいつとご飯に行くつもりだったのか?」


サイラスがサナを見下ろし、サナは鞄を両手でぎゅっと持つ。


「‥別にいいでしょう?仕事終わりなんだから」

「あいつと付き合っているのか?」

「っ!だから詮索しないでってば!私が誰と付き合っていようがあなたには関係ないじゃない」


サイラスの横を通り抜けようとすると、力強い手が肘を掴んだ。

耳元に低い声が落ちる。


「ああ、関係ない。だが、なぜそんなに怒っている?俺は聞いているだけだ」

「っ」


顔を上げると思いの外近くにサイラスの顔があった。

深い碧の瞳と目が合うとそらせない。


「は、離して」


弱々しい声で懇願すると、サイラスは一瞬力を込めるとスッと離す。


すぐに距離をとりサイラスから離れる。

サイラスはそんなサナを見つめ顔を背ける。


「食事でもどうかと思ったが‥改めた方がいいな。アパートメントまで送る」


驚くがこれ以上言い合いはしたくないので大人しく並んで歩く。


冬の夜風が頬をなで寒さにふるっと震える。

サナは寒さに弱く、よく風邪をひいていた。

大人になると少しはマシになってきたが、それでも必ず風邪をひいてしまう。

鼻をすするとサイラスがこちらを見下ろす。


「寒いのか?」


優しい声が耳をなでなぜか泣きたくなった。


「‥平気よ」


涙声で返事をしてしまったため、サイラスが訝しげに顔をのぞきこんでくる。


「本当か?君は寒さに弱いだろう。無理をするな」


涙目になっている目を見られたくなく、つい視線をそらすとサイラスが低い声でボソッと言う。


「俺は君にそんなに嫌われているのか」


サイラスの落胆した声が聞こえ咄嗟に声を上げた。


「違うわ!嫌ってなんか‥」


サナの様子にサイラスはおかしいと思い、立ち止まり腰を屈めて顔をのぞきこんでくる。

真っ赤な頬に潤んだ瞳ー 

一瞬、思考が停止するが、額に手を伸ばす。


「やはり‥熱があるな。急いで帰るぞ」


サナの額が熱かったため、サイラスは急ぐようにうながす。

だが、思考はだんだん落ち、歩く速度も遅くなる。

サイラスは見かねてサナを抱き上げた。


「嫌かもしれないが少しだけ我慢してくれ」


広い胸に抱かれ無意識にすり寄る。

サイラスは自身の胸にすり寄るサナを見下ろし、力を込めて抱いたまま早歩きをした。




サナのアパートメントに着き、ベッドにそうっと下ろすと着ていたコートやブーツを脱がす。

すぐに部屋を暖かくし、毛布も何枚かかけたが震えが止まらない。

サイラスはその様子に迷ったが、自身もコートを脱ぎサナのベッドに潜り込み、抱きしめる。

サナの甘い香りで理性がおかしくなりそうだが、熱のある身体をしばらく抱きしめていると、震えが収まってきた。

呼吸もようやく正常に戻ってきたようだ。


ほっとするや否やサナがサイラスの胸元にすりよってくる。

無意識なのだろうが、愛おしさを感じる反面狂おしい感情に支配されそうだ。


サナの頬をなで髪にキスを落とす。

真っ赤な頬が徐々にピンク色になってきた。

サイラスはしばらくサナの寝顔を見つめる。


先ほど潤んだ瞳で見上げられた時、熱がなければ己の中の感情を抑えられなくなりそうだった。

今もそうだ。

ぷっくりとした小さな唇を暴きたい。

そんな邪な感情を持つ義兄など恐怖の対象だ。


だからサナは出ていったのではないか。

だから俺を怖がっているのか。


サイラスは1人苦悶し、サナのピンク色に染まった頬をなでていた。







ふっとサナは目が覚める。

いつのまに家に帰ってきたのか。

毛布が身体を覆い心地の良い温かさに包まれていた。

ベッドにはサナ1人だ。

辺りを見回すと、サイラスのコートが無造作にソファにかけられている。


几帳面な彼にしては珍しいー


ぼうっとコートを見つめていた時、廊下からサイラスが近づいてくる。


「起きたのか。身体はどうだ?」


サナの目線に合わせしゃがんでくれ、じっと見つめられる。

こんな格好で気恥ずかしくなって、毛布を目の下まで手繰り寄せた。


「大丈夫よ。あなたがここまで運んでくれたの?」

「ああ。寒さにやられたんだろう。お腹は空いていないか?」

「‥少し」


小さく返事をすると、サイラスはすぐに立ち上がりキッチンへ歩いて行く。

何かを作ってくれる音がしてしばらくすると戻ってくる。


「スープだ。温まるぞ」


胃に優しそうなスープがふわっと鼻をくすぐる。

身体を起こそうとすると、サイラスが手伝ってくれる。

ふーふーとスープを冷ましてから一口飲む。


「‥おいしい」

「よかった。もっとあるからな」


ふっと柔らかく笑うサイラスにドキッとして、スープに視線をおとす。


「あなたが料理を作れるなんて知らなかったわ」

「料理は嫌いじゃない。時間があれば自分の分は作る」


サイラスの意外な部分を知り、むずがゆい感情になる。

スープを冷ましながらどんどん平らげていくサナを、サイラスは食べ終えるまで見つめていた。






仕事着だったので部屋着に着替えた。

大きめのワンピースでリビングに戻ると、サイラスが帰り支度をしていた。


「もう帰るの?」


自分でも寂しさを含んだ声になっているのがわかり、顔を赤くする。

サイラスもその意図をくみとる。


「帰ってほしくないのか?」


サナに向き合い、からかうように言う。


「っ‥いいえ」


サナがふいっと顔を背けると、ふっと含み笑いをする声が聞こえてきた。


「冗談だ。暖かくして寝るんだぞ」


コートを着て玄関へ向かうサイラスに、サナは静かについていく。

大きな背中が離れていき、無性に寂しさが抑えれなくなった。

無意識にサイラスの袖を掴んでおり、サイラスが立ち止まる。

サナは慌てて離す。


「あ‥また今度お礼させて」


小さな声で言うと、サイラスはくるっとこちらに向き直る。


「‥お礼なら今もらってもいいか?」

「え?‥ええ」


なんのことかわからなかったが、返事をするとサイラスが近づいてくる。

思わず後ろに下がろうとしたが、背中に回された大きな手に引き寄せられる。

顔に厚く硬い胸板をおしつけられ、咄嗟に両手で押すが離してくれなかった。


静かな空間にお互いの体温と息遣いがまじり、心臓が痛いくらい暴れだす。


「っサイラス」


サナは抵抗するが抱きしめる力は緩まない。

うなじと背中に大きな手がそえられ、後ろは壁で逃げ場がない。


すると低い声が静かにおちる。


「あまり可愛いことをするな。抑えられなくなるだろう」


うなじに添えている手が髪の毛をかきわけ、直に触れてきた。

びくっとサナの身体がはね、サイラスは見下ろす。


「サナ」


サイラスが顔を上げるように促すが、決してあげなかった。

サイラスの脇腹辺りの服を握りしめていると、ふっと抱きしめる力が緩む。

その隙に離れようとしてすり抜けた。


十分に距離をとり胸の前で両手を握りしめる。

サイラスの方へ見ると彼もこちらを見ていた。

思わず視線をそらし戸惑いながら言った。


「っ‥なんのつもり?」


サイラスの返答はない。

サナの目にはだんだん涙がたまり「もう帰って」と言う。


小さく「すまない」と聞こえた後にドアを開け出て行く音がした。

ドアの鍵を閉めた後ふらふらとベッドに戻りダイブする。


(なんなのよ?)


サイラスはサナを連れ戻しにきたというが、強引に連れ帰るというわけでもない。

今だって献身的に看病してくれてスープまで作ってくれた。

でもそのお礼がハグ‥だったんだろうか?


サイラスの雰囲気が違うことを感じて少し怖かった。

サナは毛布を頭までかぶり丸まる。


サイラスに抱きしめられた感触が残っている。

サイラスの身体も熱かった‥


サナはしばらく悶々とするが熱でまどろみ始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。