焦がれていた
一晩寝込んだ後、次の日には熱が下がっていた。
今日も休みだったのでゆっくりすることにした。
ベッドを整えて顔を洗い、温かい紅茶を入れてソファで飲んでいるとインターホンが鳴る。
「誰かしら?」
サナは玄関へ行こうとするが‥
(サイラスかしら‥)
昨日のことを思い出し思わず立ち止まる。
ドキドキしながらインターホン越しにカメラを見ると、イリスが立っていた。
サナはすぐに玄関を開ける。
「サナ!大丈夫か?」
「え?」
「昨日スーパーでお義兄さんと会ってサナが熱が出ている、様子見をしてやってほしいと言われたんだ」
「サイラスが?」
イリスの手にはたくさんの袋があり、全部サイラスから渡されたという。
胃に優しいご飯やゼリー、プリンなどが入っている。
追い出すように別れたのに‥
サナの目には涙がたまる。
そんなサナを見たイリスは優しいお義兄さんだなと感心している。
夕方にはすっかり体調がよくなり、明日は仕事が行けそうだと思って早めに休もうとすると、再びインターホンが鳴った。
(またイリスかしら)
今度はインターホンを確認せずに玄関のドアを開けると、サイラスが立っていた。
驚きを隠さずに見上げると、サイラスの眉間が寄せられた。
「いきなり確認もしないで開けるな。不用心だ」
「あ‥ごめんなさい」
心配で注意しているのが伝わり、素直に謝ると眉間のしわがなくなる。
「体調はどうだ?あいつは来たか?」
「もう大丈夫よ。イリスのこと?来てくれたわ。色々買ってくれたのね、ありがとう」
ほほ笑むとサイラスはじっとサナを見つめ目尻を下げる。
「よかった。もう大丈夫そうだな。‥今夜向こうに帰ろうと思っている」
「え、そうなの?」
「ああ。短かったが会いに来れてよかった。元気でな」
サイラスはほほ笑んでいるがサナは寂しさに黙り込む。
「‥」
「サナ?」
「あ‥そうよね、仕事もあるもんね」
「ああ。君もあいつと上手くやっているみたいだし、もう心残りはない」
「え?」
サナが首を傾げるとサイラスは目を細める。
「あいつと付き合っているんだろう」
昨日あんな言い方をしたから、サイラスは2人が恋人だと勘違いしていた。
誤解だと言おうとすると、低い声がさえぎった。
「俺もそろそろ考えなくてはな」
心臓がいやな音を立てる。
何も言えずにいると大きな手がサナの頭をぽんっとなでる。
「昨日みたいなことはもうしないから、たまには帰ってきてくれ。みんなも待っている」
大きな手が離れていき思わず呼び止める。
「っ待って!」
サイラスは背中を向けていたがピタッと止まった。
サナは涙声になりながら小さく言う。
「イリスとはただの友達よ。恋人じゃないわ。私が好きなのは‥」
目から涙がこぼれしゃくりが出てきたため、その先が言えなかった。
顔を真っ赤にしながら涙をぬぐっていると、サイラスが近づいてくる。
うつむいているとのぞき込まれた。
「中に入ってもいいか?」
深い碧の瞳が優しくこちらを見つめている。
無言で頷くと、背中を支えられて部屋に入る。
サナを落ち着かせるためにソファに座らせ、サイラスも隣に腰を下ろす。
しゃくりが徐々に収まってきた時、慎重な低い声が響く。
「あいつとは恋人じゃなかったんだな。じゃあ今は付き合っている奴はいないのか?」
サナは無言でうなずく。
隣から緊張している様子が伝わってくる。
「‥好きなやつは?誰なんだ?」
サイラスを見ると真っ直ぐに見つめてきた。
心臓が強い音を立てている。
視線をそらしそうになるが一回ぎゅっと目をつむり、彼に向き合う。
「‥あなたよ。ずっと好きだったの」
涙声で震えていてしっかり言えたが、徐々に鼻の奥がつんとして涙がこぼれてきた。
「‥ずっと?」
戸惑う声が聞こえてきた。
「そうよ‥ひく‥家を‥出る前から」
恥ずかしさにもう視線を合わせられず逃げたくなってくる。
すると肩を寄せられ広い胸に抱きしめられる。
「‥俺もだ。ずっとずっと好きだった。君が家を出て行っても毎日想っていた」
強い抱擁と熱い告白にサナは信じられない思いで聞いていた。
「何度焦がれたか。毎日会いに行きたいと思っていた。でも嫌われていると思って会いに行けなかった。今回決心したのは君を諦めるためだった」
「‥私があの家にいてはあなたが妻を迎えれないかと思って」
「‥それで出て行ったのか」
サナの頭を大きな手がなでる。
心地よさと安心さでまた涙があふれてきた。
サイラスの服の裾をつかんで大きな胸に顔を埋めていると、身体を抱きしめる力が強くなる。
「サナ、戻ってきてくれ。君がいない生活はもう耐えられない。俺の妻になってほしい」
サナは驚くが同時に嬉しさでいっぱいだった。
「っ嬉しい」
抱きしめる力が弱まり身体を起こされると、涙でいっぱいの目尻にキスを落とされた。
それから額やこめかみ、頬にも慈しみのキスをされていく。
最後に口の横にも落とし、慎重に唇を啄む。
サナが嫌がればやめるつもりだったが、そんなそぶりはなく目を閉じていた。
サイラスの理性は限界だった。
サナの唇を甘噛みしていき、徐々に侵入していく。
サナがサイラスの服の裾を掴みながら、必死に受け止めているのを見つめ段々と激しくなっていく。
やがてサナが胸板を叩き唇をはなす。
真っ赤な顔に涙でいっぱいの目からは今にもこぼれそうだった。
小さな唇も真っ赤で果実みたいだ。
親指で唇をぬぐうと、サナの身体が震える。
「っ」
恥ずかしそうにうつむく姿に、サイラスは限界だった。
その先はまだ早い。
己の荒ぶる精神を必死におさえ、サナを優しく抱きしめる。
「少し性急過ぎた。すまない」
サナは返事の代わりに大きな背中に手を回す。
「‥非常に名残惜しいが今夜は帰ることにする。また手紙を書くから待っていてくれ」
「ええ」
「戻ってこれるのはいつ頃になりそうか。仕事の関係もあるし、早めの方がいいがゆっくりでいいから進めておいてくれ」
「わかったわ」
「‥本当にいいんだな?戻ってきたらすぐに結婚になる。もう離してやれない」
引き返すなら今のうちだと口では言っているが、反論は許さないとばかりに身体を強く抱き込まれる。
「大丈夫よ。すぐに行くわ」
安心させるように背中をなでるとようやく離してくれる。
深い碧の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
もうそらさず受け止めた。
もう一度キスをしてから玄関まで見送る。
最後に抱きしめられ別れた。




