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初恋  作者: 雪見だいふく


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1/3

初恋は義兄

「‥なぜここにいるの、サイラス」


サナは自分のアパートメントの前に、長身の男性が立っているのを見て一目で誰か分かった。


「久しぶりに会ったのにそんな言い方はないだろう」


艶やかな黒髪に深い碧の切長の瞳、長身で体格もいいため狭い廊下がさらに狭く感じた。

涼やかな唇から低い声が廊下に響いた。


「中に入れてくれないか。ここで立ち話もしたくないだろう」


サナは戸惑う。

(中に?いやよ!)


「中はちょっと‥散らかっているし、他のとこでもいい?」

「ここでいい。それとも俺と2人がいやか?」


(見透かされているー)


サナの隠し事は昔からこの義兄には隠し通せなかった。

わかりやすいほうではないのだが、何故かこの人には隠せなかった。


「‥分かったわ。開けるから少し下がってくれない?」


義兄が一歩ドアから下がると、サナもドアに向かって一歩ずつ進んでいく。

内心距離が縮まっていくのに緊張していた。

鍵を開けようとドアノブに手をかけている時、視線を感じる。


(そんなに見ないでよ)


サナは義兄が苦手だった。それと同時に身体が熱くなっていた。


鍵が開くと先に中に入り電気をつける。

部屋はアンティーク調でまとめられ、暖かみのあるかわいらしい部屋だった。


サイラスは部屋の中をざっと見渡し、居心地のいい部屋だと思った。

物は多いが散らかっていることはなく、むしろきれいにまとめられている。

コートを脱ぎ腕にかけていると、サナがハンガーにかけてくれる。


「温かい飲み物を出すから座ってて」


サナはキッチンに行くと2人分のコップを棚から出し、お湯を沸かす。

サイラスは1人がけのソファに腰掛け、壁にかけてある写真を見つめる。

そこには満面の笑みのサナと父が抱き合っていた。

サイラスがしばらく見ていると、サナが温かいコーヒーを机に置く。


「はい、コーヒーでいい?」

「ああ、ありがとう」


サナが少し離れた窓際の1人がけのイスに座ると、早速切り出す。


「それで、何故わざわざ来たの?フレールから半日はかかるでしょ?」

「君を連れ戻しにきた」


サナは目を開く。

義兄は両手を組んでサナを見つめている。

その視線から逃げるように手にあるコップにそらす。


「なに?今さら。私はもう戻るつもりなんかないわ」

「君はあの家をいやで出たわけではないだろう?むしろ愛していた。なら、戻ってきてもいいはずだ」

「あの家はもうあなたのものよ。私のものじゃないわ。それにあなたもそろそろ妻を迎えるべきでしょう?私がいては邪魔だわ」

「そんなことを君が気にする必要はない」


少し低くなった声にサナの鼓動は速くなった。

ちらっと義兄を見ると向こうもサナを見ていた。


深い碧の瞳を見るとそらしたいのにそらせなかった。


「‥とにかく私はもうここで生きていくと決めているの。仕事もあるし、人もいいしー」

「君こそいい人がいるんじゃないだろうな?」


サナの言葉に被せるように義兄が早口で捲し立てる。

サナは少しムッとする。


「だったらどうなの?私のことは詮索しないでよ。あなたに関係ないでしょ?」


サナが強い口調で言い返すと、義兄もイライラを隠さない。


「‥どうりで手紙の一つもよこさない訳だ。俺が必死に事業を立て直している時に、君は楽しんでいたんだな」


低い声と強い視線に、サナは逃げたくなる。


「‥もう帰ってくれない?仕事で疲れているの」

「今夜はここに泊まるつもりだ。宿をとっていないんでね」


サナは驚愕する。


「なに言ってるの?泊めるわけないじゃない!」

「じゃあ義兄が寒い中路頭で寝てもいいのか?」

「半日もかかるのになぜ宿をとっていないの?分かっていたでしょう?」


サナは義兄が何をしたいのかが分からなかった。

サナの口調が強いのに対して、義兄はごく落ち着いている。

そして立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

サナはびくっとして慌ててイスから立とうとするが、義兄の方が速くイスの背もたれに片手を、もう片手を窓の縁に置き見下ろしてくる。

急に近づいた距離にサナの胸は痛いほど高鳴っていた。


「どうした?義理の兄妹なのだから泊めることぐらいなんともないだろう?」


顔を近づけ深い碧の瞳が迫ってくる。

サナはびくっとする。


「いやっ」


目に涙がたまり顔を背けると、義兄がスッと離れる。

サナが涙が浮かんだ目で見上げると、義兄は背を向けていた。


「‥冗談だ。宿はとってある。しばらくこちらにいるつもりだ」


義兄はそう言うと、コートを手に持ち玄関まで歩いていく。

離れていく背中に何も言えず、サナはイスに座ったまま見送った。

やがて義兄が出ていくと、サナの目から涙がこぼれる。


(なにがしたいのーからかっただけ?)


ひくっと声にならない嗚咽を漏らすー。






サイラスはサナの部屋を出てから、しばらくドアの前で立ち尽くしていた。

サナに顔を近づけた時、目に涙がたまるのを見て少なからずショックを受けていた。


(‥くそっ)


泣かせるつもりではなかった。

視線が中々合わないからこちらを見てほしいと思ってー。


来るべきじゃなかったな。


サイラスはドアから離れ歩きだす。


もう3年になるか。

久しぶりに会った彼女はきれいになっていた。

垢抜けなかった幼い顔立ちが、化粧で整えられ大人の女性に成長していた。


昔からサイラスに対して苦手意識を持ってそうだったが、間違いじゃなさそうだ。

距離が縮まるたびに身体をこわばらせていた。


(なぜだ?そんなに俺が怖いのか)


サナとまだ一緒に住んでいた時、先ほどのように視線が合わなかったことは多々ある。

それでも目が合えば頬がうっすら赤くなり、嫌がられるというよりむしろ、正反対な感情を持たれていると感じていた。

だから先ほど泣かれたのが印象に残った。


サナのアパートメントを出て彼女の部屋を見上げる。

窓から光が漏れ、カーテンが閉まり切っている。


サイラスは背を向け、宿に向けて歩き出した。


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