第八話 法の罠
翌朝、カインが研究室に着くと、机の上に封書が置かれていた。
また封書か、と思いながら手に取った。しかし今回の差出人はエシュラー侯爵家ではなかった。
「ヴェルキア王国司法省・法務調査部」と記されていた。
カインは封を切り、中身を読んだ。
内容は簡潔だった。
「廃棄素材の所有権および使用権に関する調査のため、明日午前十時に法務調査部へ出頭されたい」
出頭、という言葉が使われていた。
任意ではあるが、無視すれば強制的な手続きに移行する可能性がある、という圧力が込められた言葉だ。
(動いた。しかも司法省を使ってきた)
カインは封書を机に置き、「価値創造の眼」でその紙面を見た。
情報が流れてくる。
「司法省法務調査部からの出頭要請。背景:エシュラー侯爵家の法律顧問からの依頼を受けて発行。調査の名目:廃棄素材の所有権の法的解釈の確認。実際の目的:カイン・ロウの活動を「廃棄物の不正流用」として法的に問題化する試み。法的根拠の強度:低い」
(根拠は弱い。しかし、動かすのに十分な圧力にはなる)
前世で詐欺師をやっていた時、法的な圧力は最もやっかいな武器だった。内容が正当かどうかより、手続きに巻き込まれること自体が時間とエネルギーを奪う。
カインは封書を持ってゴッホの店へ向かった。
ゴッホは封書を読み、眉間に皺を寄せた。
「司法省か。マルコも本気になってきた」
「廃棄素材の所有権の問題を持ち出してきた」
「廃棄素材は、ギルドが「価値なし」として処分を決定したものだ。カインが申請書を出して使用している。所有権の問題が生じる余地はないはずだが」
「通常はそうだ。しかし法律の解釈次第では、「廃棄を決定した素材の所有権はギルドに残る」という解釈も成立する可能性がある。ギルドから正式に「譲渡」された形式を取っていない、という点を突いてくるつもりだろう」
ゴッホは腕を組んだ。
「つまり、申請書だけでは「使用許可」に過ぎず、「所有権の移転」は行われていないという解釈か」
「そういうことだ。もしその解釈が通れば、私が廃棄素材から作った錬成品の所有権は、ギルドに帰属するということになる。ゴッホさんへの販売は、ギルドの所有物の無断販売という形になる」
「……きれいな罠だ」
「ああ。昨日の比較試験が記録として残った直後に、この法的な問題を出してきた。タイミングが計算されている」
ゴッホは少し考えた。
「弁護士が要る。私の知り合いに、腕の良い法律家がいる。連絡を取ろう」
「お願いします。ただし、法律家に頼む前に、一つやることがある」
「何だ」
「ランベール卿に会う。ギルドとして、廃棄素材の所有権についての公式見解を出してもらいたい」
ゴッホは目を細めた。
「ギルドが「廃棄素材の所有権は使用申請者に移転する」という見解を出せば、法務調査部の調査は根拠を失う」
「そうだ」
「ランベール卿が動いてくれるか」
「昨日、推薦昇格を検討すると言ってくれた。完全に中立ではなくなってきている。頼む価値はある」
「……やってみろ。私は弁護士への連絡を進める」
ランベールへの面会は、午前中に取れた。
カインが封書を見せると、ランベールは顔色を変えなかった。しかし目の奥に、怒りに近い何かが見えた。
「司法省を動かしたか」
「廃棄素材の所有権の問題です。法的な解釈の曖昧さを突いてきました」
「その調査が通れば、お前の錬成品の所有権がギルドに帰属するということになる」
「はい」
「ギルドにとっても、それは困る話だ」
カインは少し驚いた。
「なぜですか」
「ギルドは錬金術師の活動を支援する立場にある。廃棄素材の有効活用を奨励しているのは、ギルドの方針の一つだ。その方針と、「廃棄素材の所有権はギルドに残る」という解釈は矛盾する」
「つまり、ギルドとして公式見解を出す根拠がある」
「ある」
ランベールは書類を取り出し、ペンを持った。
「ギルド長名義で、廃棄素材の所有権に関する公式見解を出す。廃棄素材使用申請書の提出によって、使用権と所有権の双方が申請者に移転するという解釈だ」
「今日中に出せますか」
「午後には出せる」
「ありがとうございます」
「礼はいらない。ギルドの方針を守るのは、私の仕事だ」
ランベールはペンを走らせながら、言った。
「マルコは司法省を使った。それだけ追い詰められているということだ」
「そう読んでいます」
「追い詰められた相手は、予測外の動きをすることがある。気をつけろ」
「はい」
ランベールは書類にサインをして、封印した。
「この文書を持って、法務調査部に出頭しろ。調査の根拠が消える」
カインは文書を受け取り、頭を下げた。
翌朝十時、カインはゴッホが紹介した法律家のラドを連れて、法務調査部に出頭した。
ラドは四十代の細身の男で、物静かな印象だったが、書類を見る目に鋭さがあった。
「今日は私が話します。カインさんは何も答えなくて良い。答える必要があれば私が判断します」
ラドはそう言っていた。
法務調査部の応接室は、薄暗くて天井が高い部屋だった。向かいの机に、調査官が二人座っていた。どちらも四十代から五十代の、無表情な男たちだ。
「カイン・ロウ氏ですね。出頭に感謝します」
上席の調査官が言った。
「本日の調査の目的を確認させてください」
ラドが先に口を開いた。
「廃棄素材の所有権に関する調査、ということでよろしいですか」
「そうです。カイン・ロウ氏が使用した廃棄素材が、適法に入手されたものかを確認したい」
「では、こちらをご確認ください」
ラドは二つの書類を机の上に置いた。
一つは、カインがこれまで提出した廃棄素材使用申請書の全コピー。担当者の確認印が入ったものだ。
もう一つは、今朝受け取ったランベールのギルド長名義の公式見解書だ。
調査官は二つの書類を順番に読んだ。
見解書を読んだ時、上席の調査官の眉がわずかに動いた。
「……ギルド長からの公式見解書が、すでに出ているのですか」
「昨日付けで発行されています。廃棄素材使用申請書の提出によって、使用権と所有権の双方が申請者に移転するという内容です。法的な問題は存在しません」
調査官は見解書をもう一度読んだ。
それから、隣の調査官と小声で話し合った。
しばらく沈黙が続いた。
「……確認のために、少し時間をいただけますか」
「もちろんです」
二人の調査官が部屋を出た。
ラドはカインに小声で言った。
「予想通りです。ギルド長の見解書があれば、調査の根拠がなくなります。おそらく依頼人に確認を取りに行っています」
「依頼人、というのはエシュラー侯爵家ですか」
「この種の調査を司法省に依頼できるのは、貴族か国家機関だけです。タイミングからしても、侯爵家以外にいません」
「調査は取り下げられますか」
「取り下げるか、別の理由で継続しようとするかは、依頼人次第です。ただ、この見解書が出た以上、廃棄素材の所有権という根拠では継続できません」
三十分後、調査官が戻ってきた。
「本日の調査は、これで終了とします。廃棄素材の所有権については、ギルド長の見解書を確認しました。法的な問題は認められません」
「ありがとうございます」
ラドが静かに言った。
応接室を出て、廊下を歩きながら、ラドがカインに言った。
「見事な準備でした。私が来る前に、核心的な問題を処理していた」
「ランベール卿が動いてくれたおかげです」
「しかし、ランベール卿を動かしたのはあなたです。一週間の実績と、昨日の比較試験の結果があったから動けた」
「次はどんな手が来ると思いますか」
ラドは少し考えた。
「廃棄素材の問題が封じられたとすれば、次は別の角度から来るでしょう。可能性として高いのは、転生者の法的地位に関する問題です」
「転生者の法的地位?」
「ヴェルキア王国の法律では、転生者は「外来の知識を持つ者」として定義されており、その知識によって得た利益については、特別な課税が適用される場合があります。あまり使われない法律ですが、存在はします」
カインは静かに聞いた。
「課税率は」
「通常の利益に対して、追加で三十から五十パーセント。さかのぼって適用される可能性もあります」
「さかのぼって、というのは今まで得た利益全てに?」
「条文上はそうなっています。ただし実際に適用された事例はほとんどない。慣例として使われていない法律です」
「慣例として使われていないなら、使える」
「侯爵家が正式に申請すれば、調査が始まります。金額次第では、活動が続けられなくなる可能性があります」
カインは少し考えた。
転生者への課税。これは予測していなかった角度だ。
「対処法はあるか」
「一つあります。転生者の知識ではなく、「この世界で習得した技術」として活動を定義することです。カインさんは廃棄素材使用申請書に「錬金術実験」と記載して活動してきた。それはこの世界の錬金術の実践であり、前世の知識の直接適用ではないという解釈が成立します」
「その解釈を公式に固めておく必要がある」
「はい。できれば、ギルドとしての技術認定の形で。昨日の公開審査の記録がすでにその役割を果たしているかもしれませんが、より明示的な形が望ましい」
カインは頷いた。
また一つ、手を打つべきことが増えた。
法務調査部から戻ると、リアが研究室で待っていた。
「どうでしたか」
「調査は終了した。廃棄素材の問題は処理できた」
「良かった……」
「ただし、次の手が来る可能性がある」
カインはラドから聞いた転生者への課税の問題を、リアに説明した。
リアは聞きながら、少しずつ顔が曇っていった。
「そんな法律があるんですか」
「あまり使われない法律らしい。だからこそ、侯爵家が持ち出す前に対処しておく必要がある」
「どうやって」
「ギルドとして、私の活動が「この世界の錬金術の実践」であるという技術認定を取る。そのための申請をセリーヌさんに相談する」
「セリーヌさん、また頼るんですか」
「頼る価値がある方です。それに、セリーヌさん自身も、ギルドの腐敗を正したいという動機がある。一方的に頼むわけではない」
リアは少し考えた。
「……わかりました。私は何をすれば良いですか」
「ゴッホさんと連携して、代替品の流通準備を進めてほしい。法的な問題が片付いたら、すぐに市場に出せる状態にしたい」
「わかりました」
リアは立ち上がり、荷物を手に取った。そして扉の前で振り返った。
「カインさん」
「なんだ」
「一つ聞いていいですか」
「どうぞ」
「侯爵家との戦いが終わった後、どうするつもりですか」
カインは少し意外に思った。
終わった後のことを、あまり考えていなかった。
「続ける。別の問題がある」
「別の問題?」
「侯爵家だけじゃない。この世界の市場には、同じような構造が他にもある。貴族が産地を独占して、価格を操作している例がいくつもある。エシュラー侯爵家が崩れれば、次はそこに移る」
リアは少し考えた。
「一生続けるつもりですか」
「前世では一度も本当の価値を作れなかった。今世では、できるだけ長く続けたい」
リアはしばらくカインを見た。
それから、小さく笑った。
「……私も、できるだけ長く一緒にいます」
リアは扉を開けて出ていった。
カインはしばらくその言葉の余韻を感じていた。
一緒に、という言葉が、前世では一度も聞いたことのない種類のものだったと気づいた。
セリーヌへの相談は、翌日の午後に行われた。
セリーヌは話を聞きながら、手元のカップを回していた。
「転生者への課税か。あの法律を持ち出してくるとは、マルコも追い詰められているわね」
「対処法として、ギルドとしての技術認定を取れないかと思っています」
「技術認定というのは、「この活動はギルドが認めた技術の実践である」という公式の認証ね」
「はい。それがあれば、「前世の知識の直接適用」という解釈を防げます」
セリーヌはしばらく考えた。
「技術認定は私の権限でできる。ただし、条件がある」
「聞かせてください」
「あなたの錬成技術を、ギルドの技術体系として正式に記録すること。術式の構造、素材の選定基準、加工プロセスの全て。それをギルドの技術文書として登録する」
カインは少し考えた。
これは一種の「技術の公開」だ。カインが独自に開発した術式を、ギルドの共有財産として登録することを意味する。
「私の術式が、他の錬金術師にも使えるようになりますか」
「なります。ただし、開発者としてあなたの名前が記録される。これはデメリットでもありますが、メリットでもあります」
「メリットは何ですか」
「技術が広まれば、廃棄素材から価値あるものを作れる錬金術師が増える。あなた一人が動くより、多くの人が動く方が、市場の変化は大きくなる」
カインは静かに考えた。
これは、目的に沿っている。
一人で全部やる必要はない。仕組みを作れば、仕組みが動く。
「わかりました。術式の記録を作ります」
「一週間あれば足りますか」
「足ります」
「では、一週間後に技術認定の申請書を出して。私が審査します」
セリーヌは立ち上がった。
「一つ言っておくわ。マルコは転生者への課税以外にも、まだ手を持っているはずよ。法律だけじゃない。個人的な脅迫も含めて」
「わかっています」
「気をつけて。あなたの周りにいる人たちも含めて」
「……リアのことですか」
「あなたが一番目をかけている人間が、一番狙われやすい。それがマルコのやり方よ」
セリーヌは部屋を出ていった。
カインは静かにその言葉を受け止めた。
リアへの危険。これは考えていた。しかし今日改めて言葉で言われると、重さが違った。
(守る必要がある。しかし、どう守るか)
リアは侯爵家への借金という弱点をまだ抱えている。借金の完済まで、あと二ヶ月ほどかかる。その間が一番危うい。
カインは立ち上がり、計算を始めた。
二ヶ月分の給金を前倒しで支払うことはできる。ゴッホとの取引の利益があれば、その資金は調達できる。
借金を今すぐ完済させてしまえば、リアへの直接的な圧力を一つ消せる。
問題は、侯爵家が借金の返済条件を勝手に変えてくる可能性だ。ラドに確認が必要だ。
カインは急いで研究室を出た。
ラドのもとを訪ねると、法律家は書類を広げたまま迎えた。
「借金の返済条件の一方的な変更は、法的に可能ですか」
状況を説明すると、ラドは首を振った。
「契約当初の条件を貸主が一方的に変更することは、原則として認められません。ただし、契約書の内容次第です。リア・サンドール氏の借金の契約書を確認する必要があります」
「確認できるか」
「本人の同意があれば可能です。リア氏から私への委任状があれば、契約書の確認と、必要であれば法的な対処ができます」
「今日中に準備する」
カインはラドのもとを辞し、急いでリアを探した。
リアはゴッホの店で流通の準備をしていた。
カインが状況を説明すると、リアはしばらく黙っていた。
「侯爵家が、私の借金を使って圧力をかけてくる可能性がある、ということですか」
「ある。だから今すぐ借金を完済してしまいたい。資金は俺が出す」
リアは首を振った。
「そんな、カインさんに全部出してもらうわけには」
「貸す形にする。返せる時に返してくれれば良い」
「でも……」
「リアが侯爵家の圧力に弱いままでいると、俺の活動にも影響が出る。実用的な判断だ」
リアはカインを見た。
「……実用的な判断、ですか」
「そうだ」
「それだけですか」
カインは少し考えた。
「それだけじゃない」
「何が他にありますか」
「侯爵家に、お前を使わせたくない」
リアは静かにカインを見た。
しばらく沈黙があった。
「……わかりました」
リアは小さく頷いた。
「委任状を書きます」
その夜、ラドを通じて侯爵家への返済が一括で行われた。
金貨三十枚。
カインがゴッホとの取引で積み上げた利益の、ほぼ全額だった。
返済の完了通知は、翌朝侯爵家から届いた。
借金の消滅を証明する書類が、事務的な文面で送られてきた。
リアはその書類を受け取り、しばらく見つめていた。
「……本当に、終わりました」
「そうだ」
「九年間、ずっとこれがあって……こんなにあっさり終わるんですね」
リアの声が、少し揺れた。
カインは何も言わなかった。
しばらくして、リアが顔を上げた。目が赤くなっていたが、表情は落ち着いていた。
「ありがとうございます。必ず返します」
「急がなくていい」
「急ぎます」
リアは書類を丁寧に折り、懐に仕舞った。
「一つお願いがあります」
「なんだ」
「これからは、もっと遠慮なく頼ってください。私は補助研究員ですが、それ以上のことをするつもりでいます」
「それ以上、というのは」
「カインさんが目指しているものに、私も一緒に向かいたいということです」
カインはリアを見た。
「報酬は?」
「今と同じで構いません。それより、続けることの方が大事です」
カインは少し考えた。
「わかった」
それだけ言った。
リアは笑った。
「もう少し嬉しそうにしてもいいんじゃないですか」
「……嬉しい」
「全然そう見えないですが」
「内側では、かなり嬉しい」
リアはまた笑った。
カインも、今度は少し口元が動いた。
その夜、エシュラー侯爵邸では、家令が報告を持ってきた。
「リア・サンドールへの借金が、一括返済されました」
マルコの顔が固まった。
「……一括で? 三十枚全部を?」
「はい。今夜の手続きで完了しました」
「カイン・ロウが出したのか」
「おそらく。カイン・ロウ本人か、ゴッホ経由かは不明ですが」
マルコは舌打ちをした。
リアへの借金は、最後の手の一つだった。カインの身近な人間への圧力として、もう少し取っておくつもりだった。
「法務調査部の件は」
「廃棄素材の所有権については、ギルド長の見解書が出たため、継続が難しくなりました。調査は実質的に終了しています」
「転生者への課税の問題は」
「セリーヌ・ヴォルフが技術認定の審査を引き受けたという情報があります。技術認定が成立すれば、課税の根拠も弱まります」
マルコは立ち上がり、窓の外を見た。
夜の首都が広がっている。
「……全て、先手を打たれている」
「はい」
「あの男は、こちらの手を読んでいる」
「そう見えます」
マルコは深く息を吐いた。
「一つ確認する。公文書館への特別閲覧制限の申請はどうなった」
「申請は受理されましたが、ギルド長名義の調査申請が先に出ていたため、制限の対象から外れているとの回答でした」
「つまり、制限できなかった」
「はい」
マルコは長い沈黙に落ちた。
暖炉の火が揺れている。
手を打つたびに、先手を打たれる。
これは単なる技術の争いではない。カイン・ロウという人間は、戦い方そのものが違う。
(前世で詐欺師だったと言っていた)
詐欺師は相手の行動を先読みして、罠を仕掛ける。その能力が「正しい方向」に使われている。
マルコが今まで相手にしてきた人間は、力で押さえるか金で動かすかのどちらかだった。
しかしカイン・ロウは、どちらも効かない。
力を使えば記録に残る。金は必要としていない。
「……どうすれば良い」
マルコは珍しく、独り言を言った。
家令は黙っていた。
「最後の手を使う」
マルコは静かに言った。
「最後の手、ですか」
「星砂鉄の産地の問題だ。二十年前の採掘権確立の経緯に、カイン・ロウは気づいている。その前に、産地そのものを問題にする」
「どういうことですか」
「「星砂鉄の産地は、国家的に重要な資源であり、保護が必要だ」という論理で、採掘地全体を国有化させる。国有化されれば、代替品があっても産地の管理権は国にある。その管理を私が委託される形にすれば、実質的な独占は続く」
家令は少し驚いた顔をした。
「……それは、大規模な政治的な動きが必要です」
「わかっている。しかし、それしかない。王族に話を持っていく。費用はかかるが、独占を守るためなら安い買い物だ」
「承知しました。段取りを始めます」
家令が退出した。
マルコは一人で暗い書斎に残った。
最後の手。
これが通れば、カイン・ロウの活動はここで頭打ちになる。
しかしマルコの胸の中に、小さな疑念があった。
(あの男は、これも読んでいるかもしれない)
その考えを振り払うように、マルコは書類を手に取った。
段取りを進めるしかない。
それだけは、確かだった。
―――― 第八話 了 ――――




