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偽りの錬金術師、貴族経済を解体します  作者: みかん


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6/15

第六話 公開審査

水曜日の朝は、珍しく晴れていた。


冬の終わりの薄い日差しが、ギルド本部の石造りの壁を白く照らしている。カインは研究室の窓から空を見上げた。澄んだ青だった。


今日が、セリーヌによる第三者審査の日だ。


作業台の上には、審査に提出する錬成品が六点並んでいた。音響増幅結晶体、触媒、発酵促進剤、浄水装置、武具強化素材、そして新しく完成させたもう一点。


六点目は、昨夜遅くまでかかって仕上げたものだ。


「照明具」だった。


廃棄された魔石の破片を特殊な術式で加工し、外部から魔力を供給しなくても自発的に光を放ち続ける小型の照明具だ。燃料も油も不要で、一度設置すれば数年間は光り続ける。


通常の魔法照明具は、定期的に魔力を充填する必要があるため、充填費用が継続的にかかる。下層区画ではその費用が払えず、夜は暗い中で過ごすことになる家庭が多い。


この照明具があれば、そういった家庭の夜が変わる。


「準備できましたか」


リアが入ってきた。今日は制服をきちんと着て、髪もまとめている。いつもより緊張した顔をしていた。


「できている」


「緊張しますね」


「審査が公開形式なのは知っている。見学者が来るかもしれない」


「来ます。昨日から、ギルド内で今日の審査のことが広まっています。本部の人間のかなりが見に来るんじゃないかという話です」


「それで良い」


「……カインさんは本当に緊張しないんですね」


「準備はできている。あとは結果だけだ」


リアは少し呆れたような、しかし安心したような顔をして、作業台の品を慎重に専用の箱に入れ始めた。



審査は本部の大広間で行われることになっていた。


大広間に入ると、すでに多くの人が来ていた。


見学席は埋まりかけており、立ち見をしている職員もいた。カインを知っている者も、知らない者も、一様に好奇心の目でこちらを見ている。


前方の審査台には、セリーヌが立っていた。黄金のローブが、広間の光を受けて静かに輝いている。その隣には、ギルドの技術評価部門から二名の上位錬金術師が立っていた。どちらも初老の男性で、慎重そうな顔をしている。


審査台の向かいに、カインとリアが立つための台が設けられていた。


傍聴席の端にゴッホの姿が見えた。老商人は腕を組み、静かにこちらを見ている。その隣に、下層区画の住民代表の老女、バルデ、ドリスの三人が並んでいた。


「始めましょうか」


セリーヌが落ち着いた声で言った。広間がすっと静かになった。


「本日の審査は、カイン・ロウが製作した錬成品について、技術的な観点から品質と安全性を評価するものです。全ての過程は記録され、結果は公式書類として残されます」


セリーヌはカインを見た。


「品を提出してください」


カインは箱から六点の錬成品を取り出し、審査台に並べた。


広間の見学者たちが、少しざわめいた。錬成品を外から見ただけでは、それほど特別なものには見えない。しかしそれが今日変わる。


セリーヌは一点ずつ、丁寧に審査を進めた。


まず音響増幅結晶体。


セリーヌは結晶体を専用の分析装置にかけ、内部の術式構造を読み取った。表示された構造を見た瞬間、セリーヌの目が微かに動いた。


「……これは、既存の音響術式とは全く異なる構造ね」


「魔石のひびの振動特性を応用しています。従来の術式が魔力を変換して音を増幅するのに対し、これは素材の物理的な性質を直接利用しています」


「効率が良いわね。魔力消費がほぼゼロ」


「はい。外部から魔力を供給する必要がありません」


セリーヌは技術評価部門の二名に確認を取った。二名とも、分析結果を確認して頷いた。


「品質:優良。技術的な問題:なし。記録に残します」


次は触媒。


分析の過程で、セリーヌの眉が上がった。


「この触媒の純度は……市場の上位品と同等か、それ以上ね。廃棄された銅片から?」


「腐食層に含まれる酸化物を精製したものです。腐食を「欠陥」ではなく「特性」として利用しました」


「発想の転換ね」


セリーヌは隣の評価者に何か短く言った。評価者は神妙な顔で頷いた。


「品質:優良。技術的な問題:なし」


発酵促進剤は、特に評価者の一人が反応した。


「この菌類、希少品じゃないか。栽培がきわめて難しいはずの」


「薬草の残滓に共生している状態のものを分離・培養しました。培地の管理が鍵です」


「廃棄物の残滓から、この品質の菌類を?」


「はい」


評価者は首を振った。驚きと感嘆が混じった仕草だった。


「品質:優良。希少性:高い。技術的な問題:なし」


浄水装置の審査では、広間がざわめいた。


実演のために汚水のサンプルが用意され、装置を通した後の水質が公開で測定された。


測定結果を見た見学者の多くが、声を上げた。


「完全に浄化されている」


「材料費ゼロでこれが作れるのか」


「下層区画の話は本当だったんだ」


ざわめきが続く中、セリーヌは静かに「品質:優良。実用性:最高評価」と記録した。


武具強化素材の審査では、耐久試験が行われた。


強化素材を施した剣と、施していない同等の剣に同じ衝撃を与える。結果は明白だった。強化していない剣は刃こぼれが生じたが、強化した剣は無傷だった。


「持続時間は三ヶ月以上、星砂鉄の強化素材の一・五倍です」


「コストは」


「廃棄された水晶片を使うため、材料費はほぼゼロです」


会場が再びざわめいた。


星砂鉄の強化素材の価格は、一回の施工あたり金貨一枚だ。それを材料費ゼロで上回る品が存在するということが、今公開の場で証明された。


「品質:優良。費用対効果:最高評価」


最後に、六点目の照明具だ。


セリーヌは照明具を手に取り、じっと観察した。


「……これは今日の品の中で、最も独創的ね」


「廃棄された魔石の破片の内部構造を変質させて、自発光の機能を持たせました。外部からの魔力供給は不要で、数年間は発光が続きます」


「数年間?」


「理論上の試算では、最低でも三年。素材の条件が良ければ五年以上持つ可能性があります」


セリーヌは照明具を分析装置にかけた。


結果を見て、長い沈黙があった。


広間も静かになった。


「……本当に、自発光術式が埋め込まれている。しかもこれ、魔力の自己再生サイクルを持っている。外から供給しなくても、内部で微量の魔力を再生しながら発光を維持する」


「素材の結晶構造が特定の自然エネルギーを微量収集する性質を持っているためです。それを魔力変換する術式と組み合わせました」


「つまり、周囲の熱や光の一部を取り込んで、自分で発光し続ける」


「そういうことです」


セリーヌはしばらく照明具を見つめた。


その目に、何か強い感情が浮かんだ。


「……これが、廃棄された魔石の破片から作れるということ?」


「はい」


「材料費は」


「ゼロです」


セリーヌは目を上げ、広間を見渡した。


「このような照明具が量産できれば、夜明かりの費用が払えない下層区画の人々の生活が変わります。一台あたりの製造コストがほぼゼロであれば、価格を下げることも可能です」


広間が、静かなざわめきに包まれた。


セリーヌは審査台に戻り、評価者二名と短く話し合った。


それから広間に向かって、はっきりと言った。


「六点全て、品質優良。技術的な問題は一点もありません。使用素材は廃棄素材ですが、製造過程は適正であり、品質への影響はありません。以上を正式な審査結果として記録します」


広間が、一瞬だけ完全に静まった。


その後、ざわめきが一気に広がった。


傍聴席の端で、ゴッホが静かに目を閉じた。


リアが隣で、息を吐いた。


カインは静かに立っていた。


これで第三者審査は通過した。


ギルド公認の黄金錬金術師による、公開の審査で。記録が残った。技術的な問題がないことが、公式に証明された。


試験委員会が新たな審査基準を作っても、この記録があれば、廃棄素材から作った品の品質を否定することはできない。



審査後、セリーヌはカインに近づいた。


広間の見学者たちが少しずつ散けていく中で、二人は審査台の前に立った。


「全て通過した」


「ありがとうございます」


「礼は不要よ。技術的に優れたものを、優れていると評価しただけ」


セリーヌはカインを見た。


「六点の中で、照明具が特に気になった」


「そうですか」


「あれは、私が長年取り組んでいた問題に対する、全く異なるアプローチから来た答えだったから」


「どんな問題ですか」


セリーヌは少し考えてから言った。


「自発光の魔法道具を低コストで作れないかということ。十年研究して、結論は「無理」だった。素材コストが高すぎて、採算が取れないという限界があった」


「廃棄素材という発想がなかったんですね」


「そう。私は常に「良い素材を使って良いものを作る」という発想で研究してきた。「悪い素材の中に眠る本当の価値を使う」という逆転の発想は、持っていなかった」


カインは静かに聞いた。


「あなたはその能力を、どうやって身につけた?」


「前世の経験です。価値のないように見えるものに、実は価値が眠っていることを知っていた」


「前世の経験、というのは転生者だということね。それで……前世は何を?」


「詐欺師です」


セリーヌは少し目を見開いた。それから、ふっと笑った。


「詐欺師が、廃棄物の価値を見抜く目を持って転生した。そして今、その目で世界を変えようとしている」


「変えようとしているかどうかは、まだわかりません」


「でも、変わり始めている。今日の審査でそれが証明された」


セリーヌは審査の記録書を手に取り、カインに渡した。


「これを持っておいて。正式な記録よ」


「ありがとうございます」


「それから、一つ教えてほしいことがある」


「何でしょう」


「星砂鉄の代替品を作るつもりがあるなら、私も協力したい。あれはエシュラー侯爵家だけでなく、ギルドの上層部も一枚噛んでいる。一人では難しい」


カインはセリーヌを見た。


「価値創造の眼」に映る情報は、先日確認した通りだ。信頼できる。


「そのつもりです。ただし、まだ時期ではない」


「いつ?」


「もう一段、立場を固めてから。今はまだ、侯爵家の全力の反撃に耐えられる状況ではない」


「何が必要?」


「ギルド内での発言権を持つランクと、公式の取引実績。それと、もう一つ」


「もう一つは?」


「侯爵家の独占の根拠が脆いという証拠を、使えるタイミングで出すための準備です」


セリーヌは頷いた。


「わかった。準備が整ったら教えて。その時は力になる」


セリーヌは踵を返して広間を出ていった。


カインはその背中を見送りながら、静かに考えた。


仲間が増えた。


最初はゴッホ一人だった。リアが加わり、ギルド長が中立の立場で情報共有の関係を作り、そして今日、セリーヌが協力の意志を示した。


カインが意図したわけではなかった。


本当に価値のあるものを作り続けることで、自然にそうなった。


(これが、正しいものを作ることの力だ)


前世で人を騙す側にいた時、仲間はいなかった。組織はあっても、信頼はなかった。お互いに利用し合っているだけで、一人が落ちれば全員が逃げた。


今は違う。


カインのために動いてくれる人がいる。カインが作ったものに助けられた人がいる。それが、また次の動きを生んでいる。


「カインさん」


リアが来た。


「ゴッホさんが待っています。今日の結果について話したいそうです」


「行こう」



ゴッホは広間の出口近くで待っていた。いつもより表情が柔らかい。


「うまくやったな、坊主」


「セリーヌさんの協力があってこそです」


「彼女が動いてくれたのは、お前が動かしたからだ。誰かに動いてほしい時、普通は頼み込む。お前は結果を見せて、向こうから動かせた。それが違う」


ゴッホは三人を連れて、本部を出た。外の空気は冷たかったが、日差しがあって気持ち良かった。


「次の一手は何だ」


「星砂鉄の代替品の開発に着手する。ただし、公開する前に準備が要る」


「どんな準備だ」


「三つです。一つ目は、代替品の完成。二つ目は、侯爵家の独占の根拠に関する公文書を「使える形」にすること。三つ目は、ギルド内での発言権を持つランクへの昇格」


「試験の審査基準が変えられているのに、昇格試験を受けられるのか」


「セリーヌさんが技術顧問として審査に関与するなら、可能性はあります。ただし、別の方法も考えている」


「別の方法?」


「試験ではなく、実績による推薦昇格の制度があります。年に一度、審査委員会の推薦によって、試験を経ずにランクを上げることができる。ランベール卿がその制度の最終承認権を持っています」


ゴッホは目を細めた。


「ギルド長を動かすつもりか」


「動かすのではなく、判断してもらう。今日の審査結果があれば、推薦の根拠になりうる」


「一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「お前は、全部計算してやっているのか。それとも、流れに乗ってやっているのか」


カインは少し考えた。


「半分ずつです。大きな方向は計算していますが、細かい動きは状況次第です。全部計算通りにはいかない」


「どちらが多い? 計算通りの部分と、そうでない部分」


「計算通りではない部分の方が多い。でも、計算通りでない部分をどう使うかを考えることが、一番面白い」


ゴッホは低く笑った。


「……やはり、変わった男だ」



夕方、カインは一人で研究室に残った。


リアはゴッホに頼まれた用事で先に出た。広間の外は静かになり、ギルドの職員たちも仕事を終えて帰り始めていた。


カインは作業台の前に座り、灰色の石を手に取った。


星砂鉄と同等の成分を持つ原石だ。


この石に向けて「価値創造の眼」を改めて向けた。


情報が流れてくる。


「エシュラー侯爵領産の「星砂鉄」と同一の成分を持つ原石。精製プロセスの差異のみ。適切な術式を施すことで、市場流通品の星砂鉄と同等の品質の素材を生成可能。現在のカインの技術水準で、精製は理論上可能。課題:精製過程で生じる熱への対処」


精製過程の熱の問題が、最後の技術的なハードルだ。


星砂鉄の精製には高温の処理が必要で、その熱が術式を不安定にする。これが通常の錬金術師では代替品を作れない理由の一つだ。


しかしカインには、解決のアイデアがある。


照明具の開発で得た「自己再生サイクルの術式」を応用する。熱を逃がすのではなく、熱そのものを術式のエネルギー源として取り込む形にすれば、高温環境でも術式が安定する。


(できる)


確信があった。


ただし、精製には時間がかかる。一週間から十日、集中して作業が必要だろう。


問題は、その間に侯爵家が何かを仕掛けてくる可能性があることだ。


カインは石を机の引き出しに仕舞い、今日の審査記録書を手に取った。


セリーヌの署名と、ギルドの公印が押されている。


これが盾になる。今日の審査記録があれば、廃棄素材を使った品の品質を否定することは、公式には難しい。


(一週間、集中する)


カインは決めた。


星砂鉄の代替品を完成させる。その間、外への発信は控え、作業に集中する。


ゴッホに流通の準備を頼み、リアに外部の動向の監視を頼む。


そして一週間後に、全てを動かす。



翌朝、カインはゴッホとリアに今後の予定を伝えた。


「一週間、星砂鉄の代替品の精製に集中する。その間、外への活動は止める」


「わかった」ゴッホが頷いた。「流通の準備は進めておく。代替品が完成した時に、すぐ動けるようにしておく」


「お願いします」


「私は外の動向を見ておきます」リアが言った。「侯爵家や試験委員会の動きがあれば、すぐ連絡します」


「頼む」


「それから」リアが少し躊躇してから言った。「カインさん、食事はちゃんと取ってください。作業に集中すると、忘れますよね」


カインは少し意外に思った。


「……気にしてくれるのか」


「当たり前じゃないですか」


「前世では、誰も気にしてくれなかった」


「前世の話は知りませんが、今は私が気にします」


リアは真顔でそう言って、荷物を手に取って部屋を出ていった。


ゴッホが低く笑った。


「良い子だな」


「そうだ」


「お前に見合う人間がいるとしたら、あの子くらいだろう」


「仕事の話をしている」


「同じことだ」


ゴッホも部屋を出た。


カインは一人になり、引き出しから灰色の石を取り出した。


作業台の上に置いて、向き合った。


「さあ、始めよう」



一週間の作業は、予想通り過酷だった。


精製過程の熱の問題は、理論通りには解決しなかった。


熱を取り込む術式を組んだが、最初の三日間は安定しなかった。熱のエネルギー量が想定より大きく、術式が飽和してしまう。


四日目に、発想を変えた。


熱を全部取り込もうとするのではなく、一部を取り込んで一部を逃がす「分流方式」に変更した。取り込んだ熱は術式のエネルギーに変換し、逃がす熱は方向を制御して作業台の下に逃がす。


これが機能した。


五日目から、精製が安定し始めた。


六日目の夜、原石の内部で変質が始まった。


くすんだ灰色の石が、内側からゆっくりと変化していく。光の粒子が集まり、結晶構造が再編される。


七日目の朝。


作業台の上に、銀白色に輝く金属の塊が完成した。


カインはそれを手に取った。


ずっしりとした重みがある。表面は滑らかで、光を受けてきらきらと輝く。「価値創造の眼」で確認した。


「エシュラー侯爵領産の「星砂鉄」と同等の品質。強度:同等。魔力伝導性:わずかに上回る。推定市場価値:金貨十五枚から二十枚」


(できた)


同等以上の品質だ。


そして材料は廃棄素材の原石。コストはほぼゼロ。


カインは完成品をしばらく眺めた。


これが完成したことで、エシュラー侯爵家の「星砂鉄」独占の根拠は消えた。


代替品が存在することが証明されれば、独占の意味がなくなる。価格を釣り上げることもできなくなる。


あとは、これを適切な場で、適切な形で公開することだ。


扉がノックされた。


「カインさん、入りますよ」


リアの声だ。


「どうぞ」


リアが入ってきて、作業台の上の完成品を見た。


目が止まった。


銀白色の輝きを放つそれが、何なのかを一瞬で理解した様子だった。


「……できたんですか」


「できた」


「本当に……星砂鉄と同等の」


「同等以上だ。魔力伝導性はこちらが上回っている」


リアはしばらく完成品を見つめた。


それから、カインを見た。


「すごい」


「廃棄物が正しい価値を得ただけだ」


「それをやってのけることが、すごいんです」


リアの目に、强い光があった。


「ゴッホさんに連絡します」


「頼む。それから、セリーヌさんにも伝えてほしい」


「わかりました」


リアは部屋を出ようとして、ふと振り返った。


「食事、してますか」


「……昨日の昼から、していない」


リアは大きくため息をついた。


「やっぱり。すぐ持ってきます。食べてから全部話してください」


リアが出ていった。


カインは完成品を手の中で転がしながら、静かに考えた。


これを公開する場は、慎重に選ばなければならない。


エシュラー侯爵家は、必ず反撃してくる。


その反撃を、全て「記録」に変える準備が必要だ。


公開の場、証人、ギルド長への事前連絡。全部揃えてから動く。


段取りは見えた。


あとは実行するだけだ。



その夜、エシュラー侯爵邸に一通の知らせが届いた。


「カイン・ロウが一週間、研究室に籠もっていた。昨日、何かが完成した様子で、本日の夜から複数の人間への連絡が始まった」


マルコは報告を読み、立ち上がった。


「……完成させたか」


「何を作っていたかは不明ですが」


「わかっている」


マルコの声が、低く沈んだ。


「星砂鉄の代替品を作っていた。俺の読みが正しければ、そういうことだ」


「どうしますか」


マルコは窓の外を見た。夜の首都が静かに広がっている。


「先手を打つ。明日、ギルドに対して「星砂鉄」の希少性に関する公式声明を出す。代替品が出る前に、市場に「本物の価値」を印象づける」


「声明の内容は」


「星砂鉄は天然の産地でのみ産出される唯一無二の素材であり、代替品は品質において決して及ばないということを強調する。ギルドの上位錬金術師数名に賛同署名をもらえるよう、今夜中に動け」


「承知しました」


「そして、カイン・ロウが何を完成させたか、明日中に突き止めろ」


家令が退出した。


マルコは机の前に座り、書類を広げた。


先手を打つ。しかしカインが一手先を読んでいれば、この先手も罠になりうる。


(どこまで読んでいる、あの男は)


マルコには、まだわからなかった。


しかしわかっていることが一つある。


明日が、勝負の分かれ目になる。



―――― 第六話 了 ――――


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