第四話 侯爵家の罠
翌朝、カインが研究室に入ると、机の上に封書が置かれていた。
白い封筒に、赤い蝋で封がしてある。蝋の紋章は、エシュラー侯爵家のものだった。
カインはコートを椅子にかけ、封書を手に取った。
重さは普通だ。中身は紙が数枚入っている程度だろう。
開ける前に、封筒の表面を「価値創造の眼」で見た。
情報が流れてくる。
「エシュラー侯爵家からの招待状。表向きの目的:カイン・ロウの才能を評価し、共同研究を提案するため。実際の目的:カインを侯爵家の管理下に置き、以後の活動を制限する。招待への参加リスク:高い」
(やはり、そういうことか)
カインは封を切り、中身を取り出した。
丁寧な筆跡で書かれた招待状だった。内容は、エシュラー侯爵が直々にカインの才能を評価したいということ、侯爵家の設備と資金を提供する用意があるということ、今週末に侯爵邸で食事を共にしながら話したいということ、の三点だった。
文面は礼儀正しく、丁寧だった。しかしカインには、その礼儀正しさが罠の包み紙だとわかった。
リアが研究室に入ってきたのは、カインが招待状を二度読み終えた頃だった。
「おはようございます。ギルド内の動きについて、昨日調べてきたんですが……それ、何ですか?」
リアが封書を見て目を細めた。
「エシュラー侯爵からの招待状だ」
リアの顔色が変わった。
「招待状? 直接ですか?」
「そうだ。共同研究の提案という体裁を取っている」
リアはカインの手から招待状を受け取り、素早く読んだ。読み終えると、顔を上げてカインを見た。
「行くつもりですか」
「行く」
「……危なくないですか。侯爵家の屋敷に乗り込むなんて」
「招待を断れば、侯爵家は次の手を打つ。その手がどんなものかわからない。招待を受け入れて直接会えば、侯爵が何を求めているかをこの目で確認できる」
「でも、向こうの土俵じゃないですか」
「前世で詐欺師をやっていた時、相手のホームに乗り込むことはよくあった。大事なのは、向こうの罠を理解した上で入ることだ。罠とわかっていれば、罠は罠として機能しない」
リアは不安そうな表情を崩さなかった。
「……せめて、ゴッホさんに相談してからにしてください」
「そうする」
ゴッホの店に着いたのは昼前だった。
老商人は招待状を手に取り、眼鏡を直しながらじっくりと読んだ。読み終えた後、封筒ごと机に置いて、カインを見た。
「マルコが直接動いてきたか」
「予想より早かったか」
「いや、このタイミングは計算通りだろう。水晶片の強化素材が冒険者の間で評判になっているという話は、もうあちこちに広まっている。侯爵も焦り始めた証拠だ」
ゴッホは腕を組んだ。
「招待を受けるつもりだと言うんだろう?」
「そのつもりだ」
「……坊主らしい判断だ」ゴッホは苦笑した。「普通の人間なら断る。あるいは怯えて従う。お前はどちらでもなく、利用しようとする」
「断れば向こうの次の手がわからない。受ければ、少なくとも侯爵が今何を求めているかを確認できる」
「侯爵邸に一人で乗り込むのは危険だ。私が同行しよう」
カインは少し考えた。
「助かる。ただし、あなたが来ることで侯爵の反応が変わる可能性がある」
「構わない。マルコとは昔、取引をしたことがある。顔は知られているが、それで良い。こちらも何人かで動いているということを、向こうに見せておく方が得策だ」
「わかった。同行を頼む」
ゴッホは立ち上がり、棚から埃を被った帳簿を取り出した。
「マルコについて、知っておくべきことがある」
「聞かせてくれ」
「エシュラー侯爵家が「星砂鉄」の独占権を手に入れたのは、今から二十年前だ。それ以前は、鉱山の採掘権は複数の業者が持っていた。マルコが父親から爵位を継いだ直後に、他の業者を一人ずつ買収や恫喝で追い出し、独占を完成させた」
「つまり、もともと独占ではなかった」
「そうだ。採掘権は本来、国から与えられる許可に基づいている。マルコは法の抜け穴を利用して、他の業者の許可を無効にする形で独占した。当時の国王に金を積んで、特例措置を取らせた」
カインは静かに聞いていた。
「その経緯が記録に残っているか」
「残っている。国の公文書館に。ただし、通常は閲覧できない。上位貴族か、特別な許可を持つ者だけが閲覧できる文書だ」
「閲覧する方法はあるか」
ゴッホは少し考えた。
「一つある。ギルド長名義の調査申請書を使えば、技術的な研究目的での閲覧が認められることがある。お前のギルド長との関係は、今どの程度だ?」
「一度面会した。完全な信頼関係ではないが、敵でもない」
「申請してみる価値はある。ランベール卿は、今のギルドの在り方に疑問を持っている人だと聞いたことがある。若い頃は貧しい地区の技術普及に力を注いでいたらしい。ただ、長い時間をかけて現実に妥協してきた」
「つまり、内側では変えたいと思っているが、動けない状況にある、ということか」
「そういうことだ」
カインは頷いた。
「土曜日の招待に備えて、それまでにできることをやっておく。ギルド長への申請と、公文書の確認、それから流通経路の最終確認」
「任せろ」
その日の午後、カインはギルド長のランベールに二度目の面会を申し込んだ。
面会は翌日の朝に設定された。
ランベールの執務室は、前回と同じ整然とした部屋だった。老ギルド長は書類に目を通しながらカインが入室するのを待ち、顔を上げた。
「また来たか。今度は何だ」
「エシュラー侯爵から招待状が届きました。今週末に侯爵邸で会いたいとのことです」
ランベールは眉を上げた。
「マルコが直接出てきたか。それで?」
「招待を受ける前に、一つお願いがあります。国の公文書館への閲覧申請書をギルド長名義で出していただけないでしょうか。調査対象は、エシュラー侯爵領の鉱山採掘権に関する許可文書です」
ランベールは長い沈黙を置いた。
「何を調べたい」
「二十年前に行われた独占権の確立過程です。手続き上の問題がなかったかどうかを確認したい」
「それを調べて、どうする」
「確認するだけです。今すぐ何かに使うわけではありません」
ランベールはカインを見た。
「お前は、侯爵家と全面的に対立するつもりか」
「繰り返しになりますが、対立が目的ではありません。ただ、事実を正確に把握しておきたい」
「同じことだと言ったはずだ」
「事実を知ることと、戦うことは別です。医師が患者の病気を診断することと、治療を始めることは、別のステップです」
ランベールは短く笑った。
「うまいことを言う」
老ギルド長はしばらく沈黙した。それから、引き出しから公文書閲覧の申請書を取り出した。
「サインをする。ただし条件がある」
「聞かせてください」
「調べた結果を、まず私に報告すること。その上で次の動きを相談すること」
カインは少し考えた。
これは条件として妥当だ。ランベールを完全に巻き込むのではなく、情報を共有することで信頼を積み上げる。
「わかりました。そうします」
ランベールは申請書にサインして、カインに渡した。
「一つ聞いていいか」
「どうぞ」
「マルコの招待に行くつもりか」
「はい」
「気をつけろ。マルコは紳士的に見えるが、追い詰められた時は手段を選ばない男だ」
「ありがとうございます」
「礼には及ばない。私はただ、ギルドの利益を考えているだけだ」
カインが部屋を出ようとした時、ランベールが後ろから声をかけた。
「カイン・ロウ」
「はい」
「お前が水の浄化装置を下層区画に広めているという話を聞いた。材料費ほぼゼロで、金貨五枚の浄水器と同等のものを」
「はい」
「私が若い頃、下層区画の病気を何とかしようとしていた時期がある。しかし当時の技術では、安価な浄水設備を作れなかった。お前がやっていることは、私が三十年前にやりたかったことだ」
カインは振り返り、老ギルド長を見た。
ランベールの目に、かつてそこにあったものの残影が見えた。情熱の残り火のようなものが。
「まだ遅くないと思います」
カインは静かに言った。
「……そうかもしれん」
ランベールは、それだけ言った。
公文書館は、首都の中心部にある重厚な石造りの建物だ。
ギルド長名義の申請書を提示すると、白髪の文書管理官が奥の棚から分厚いファイルを取り出してきた。
「エシュラー侯爵領の鉱山採掘権に関する文書、二十二年分です。閲覧は館内のみ、複写は禁止です」
カインは閲覧室のテーブルに腰を下ろし、ファイルを開いた。
年代順に並んだ文書を、一枚ずつ丁寧に確認していく。
最初の十年分は、複数の採掘業者が許可を持ち、それぞれが独立して採掘を行っていた記録だ。価格は市場の需要と供給によって決まり、年によって変動している。
転換点は二十年前だった。
マルコが爵位を継いで三年後の年に、一連の文書が集中していた。
まず、既存の採掘業者三社への「採掘区域の見直し」という通達。通達の名義は当時の国土管理省長官だが、カインの目には、その文書の端に押された小さな紋章が見えた。エシュラー家の紋章だ。
「なるほど」
カインは静かに呟いた。
通達は「環境保護のための採掘区域の縮小」という名目で出されていた。しかしその結果として、既存の三社が採掘可能な区域を失い、事実上の廃業に追い込まれていた。
その翌年、エシュラー侯爵家のみが「新規採掘許可」を得ていた。
「環境保護」の名目で他社を追い出した土地に、自分たちだけが新たな採掘権を得た。これは明らかに、許可制度を私物化した利権操作だ。
ただし、当時の国王の許可印がある以上、法的には問題ない形式を取っている。
(法的には問題ない。しかし正当ではない)
カインはファイルを閉じた。
この情報は、今すぐ使えるものではない。しかし「星砂鉄」の独占が、いかに脆い根拠の上に成り立っているかを示す証拠として、いつか使える。
公文書館を出ると、冷たい風が吹いていた。
カインはコートの前を合わせながら、侯爵邸への道順を頭の中で確認した。
明日、マルコと会う。
土曜日の夕方、カインとゴッホはエシュラー侯爵邸の正門の前に立った。
首都の高級住宅街に構えるその屋敷は、壁に蔦が絡まる三階建ての石造りで、門の前には二人の衛兵が立っていた。庭には手入れされた木が並び、噴水の音が聞こえる。
「久しぶりだな、この門を見るのは」
ゴッホが低く呟いた。
「来たことがあるか」
「二十年前、まだ私が大商会を経営していた頃に一度。その頃のマルコはまだ若く、父親の権力に頼って強引な商売をしていた。今より稚拙だったが、本質は変わっていない」
衛兵に招待状を提示すると、二人は邸内に通された。
広い玄関ホールだった。天井が高く、大きなシャンデリアが下がっている。床は磨かれた大理石で、壁には肖像画が並んでいる。エシュラー家の歴代当主たちだろう、みな似たような顔をしていた。
案内の使用人に従って、二人は応接室に通された。
暖炉の前に、マルコ・フォン・エシュラー侯爵が立っていた。
招待状や評判から想像していた通りの男だった。五十代の太った体格、しかし目だけは細く鋭い。侯爵の礼服を着て、両手を背中で組んでいる。その姿勢は傲慢そうに見えて、実は少し緊張している人間の立ち方だとカインには見えた。
「来てくれたな、カイン・ロウ」
マルコの声は低く、落ち着いていた。
「招待ありがとうございます。こちらはゴッホ氏です。私の流通面を支援してくださっている方です」
マルコはゴッホを見て、一瞬だけ顔が固まった。
「ゴッホ……。懐かしい顔だ」
「お久しぶりです、侯爵閣下」
ゴッホの声は穏やかだったが、その目は一切笑っていなかった。
「まあ、座れ」
三人は暖炉の前のソファに向かい合って座った。使用人がワインと軽食を運んできた。
「カイン・ロウ」マルコは開口一番に言った。「お前の才能は本物だ。廃棄素材からあれだけのものを作るとは、私も驚いた」
「過大評価です」
「謙遜はいい。私は長年、多くの錬金術師を見てきた。お前は本物だ」
カインは静かにワインに口をつけた。甘口の、高価なワインだ。
「それで、提案というのは何でしょうか」
マルコは少し笑った。
「直接的だな。まあ良い」
侯爵は身を乗り出した。
「我がエシュラー家の専属錬金術師にならないか。研究室、設備、資金、全て提供する。給金は今の十倍を保証する。住居もこの屋敷内に用意する」
カインは黙って聞いた。
「お前の才能を、より大きな舞台で発揮できる。今の銀色見習いという立場より、遥かに良い環境だ」
「その代わり」
カインは静かに言った。
マルコの目が細くなった。
「その代わり、私の錬成品は全て侯爵家のものになり、市場への直接販売はできなくなる、という条件でしょうか」
マルコは一瞬黙った。それからゆっくりと頷いた。
「専属ということは、当然そういうことになる」
「つまり、今私がやっていることを全部止めて、侯爵家の管理下に入れということですね」
「言い方は荒いが、本質はそうだ」
カインはワインのグラスを机に置いた。
「お断りします」
マルコの目の温度が、わずかに下がった。
「理由を聞いていいか」
「私の目的は、市場に正しい価値を供給することです。侯爵家の専属になれば、その目的は達成できません」
「報酬は十分なはずだ」
「金銭が目的ではありません」
マルコは少し間を置いた。
「では、何が目的だ」
「先ほど申し上げた通りです。市場を正しくすること。廃棄されていた価値を、必要としている人々に届けること」
「高尚なことだ」マルコの声に、初めて皮肉の色が混じった。「しかし現実的ではない。市場というのは常に力を持つ者が動かすものだ。お前がどれだけ良いものを作っても、流通させる力がなければ意味がない」
「だからこそ、流通の仕組みを変えることが重要です」
「一人の銀色見習いに、そんなことができると思っているのか」
カインは静かに侯爵を見た。
「今はまだ銀色見習いです。しかし、そうでなくなる日は来ます」
マルコは長い沈黙の後、表情を変えた。
親切な顔から、別の何かへ。
「カイン・ロウ、正直に言おう」
侯爵の声が低くなった。
「お前のやっていることは、私の利益を侵害している。それは看過できない。今回の提案を断るなら、私はお前の活動を止めるために別の手段を取る」
「それは脅しですか」
「警告だ」
カインはゴッホを一瞥した。ゴッホは表情を変えずに、しかし小さく頷いた。
カインは侯爵に視線を戻し、静かに言った。
「侯爵閣下、一つ確認させてください」
「何だ」
「閣下の「星砂鉄」の独占権は、二十年前に他の採掘業者を「環境保護」の名目で追い出した上で確立されたものです。その時の公文書は、今も公文書館に残っています」
マルコの顔から、わずかに血の気が引いた。
「……何が言いたい」
「私は今すぐそれを使うつもりはありません。ただ、閣下が「別の手段」を取られるなら、私も「別の情報」を持っているということをお伝えしたかっただけです」
沈黙が落ちた。
暖炉の火がぱちりと音を立てた。
マルコは長い間、カインを見続けた。
やがて、ゆっくりと息を吐いた。
「……お前は、思ったより厄介な相手だな」
「ありがとうございます」
「礼を言う場面ではない」
「侯爵閣下に「厄介だ」と言わせることができたなら、私の立場も多少は強くなったということです。感謝するのが自然かと」
マルコはしばらく無言でカインを見た。
それから、フッと笑った。
「面白い男だ。気に入らないが、面白い」
「光栄です」
「今日のところは、この話はここで終わりにしよう。しかし、これで終わりではない」
「存じています」
カインは立ち上がり、軽く頭を下げた。
「本日はお招きありがとうございました。ワインは美味しゅうございました」
マルコは返事をしなかった。
カインとゴッホは応接室を出て、廊下を歩いた。
玄関を出て、門を抜けてから、ゴッホが低い声で言った。
「最後の一言は余計だったんじゃないか」
「ワインは本当に美味しかったので」
ゴッホは小さく笑い、それからため息をついた。
「侯爵は引かない。あれは本気の目をしていた」
「わかっている。しかし、動けない状況にはした」
「公文書の件か」
「彼は今、「下手に動けば公文書を暴露される」という状況にある。すぐには仕掛けてこられない」
「時間稼ぎだな」
「その間に、もう一段立場を固める。次のランク昇格試験まであと二ヶ月。それまでに、金色見習いに届くだけの実績を作る」
ゴッホは立ち止まり、カインを見た。
「坊主、一つ聞いていいか」
「どうぞ」
「怖くないのか」
カインは少し考えた。
侯爵家の全力の圧力、公文書の問題、リアへの危険、ゴッホへの影響。考えれば考えるほど、危険な状況に踏み込んでいることは確かだ。
「怖いとは思わない。ただ、慎重にはなる」
「なぜ怖くない」
「前世で似たような状況を経験した。詐欺師は常に、自分が作った罠と相手の反応の間を綱渡りしている。怖いと思った時点で動けなくなる。だから恐怖の代わりに、分析と準備に集中するようにしていた」
ゴッホは少し沈黙した。
「……変な生き方をしてきたんだな、お前は」
「そうだ」
「でも今は、正しい方向を向いている」
カインは少し意外に思ってゴッホを見た。
老商人は苦笑いをしながら、歩き始めた。
「私も詐欺に遭った時、怖いより怒りの方が強かった。同じかもしれんな」
二人は首都の夜道を歩いた。
遠くで鐘が鳴った。夕方の六時を告げる鐘だ。
カインは歩きながら、頭の中で次の段取りを組んでいた。
侯爵家は今、動けない。しかしそれは永久にではない。カインが動きを見せれば、侯爵家も動く。その前に、もう一手打つ必要がある。
(次は、ギルドの内側から動く)
公文書の件は「止める」ための情報だった。
次に必要なのは、「押し進める」ための実績だ。
廃棄素材から星砂鉄の代替品を作り、それを公開の場で証明する。ギルド本部の承認を得た上で。これにより、侯爵家が動けない状況で、市場の認識を変える。
段取りは決まった。
あとはやるだけだ。
その夜、エシュラー侯爵邸の書斎で、マルコは一人でワインを飲んでいた。
カインが帰った後、家令に指示を出すでもなく、ただ一人で暖炉の火を眺めていた。
久しぶりに、手強い相手に出会ったと思った。
技術的に対抗できない相手は、これまでにもいた。セリーヌのような天才錬金術師だ。しかしセリーヌは、権力や政治には興味がなかった。金を積んで研究の場を与えれば、余計なことには関与しなかった。
しかしカインは違う。
技術の才能を持ちながら、政治的な動き方も知っている。罠を仕掛けたつもりが、来る前から見抜かれていた。公文書の存在まで調べ上げていた。
(前世で詐欺師だったと言っていた)
マルコは静かに考えた。
詐欺師の思考というのは、常に相手の先を読む。相手が何をするかを予測して、その行動を逆手に取る。
自分が今までやってきたことと、根本的には同じだ。
ただし、カインはそれを「正しい方向」に使っている。
(厄介だ。本当に厄介な相手だ)
マルコは立ち上がり、窓の外を見た。
首都の夜景が広がっている。
この街の経済の多くが、自分の手の中にある。少なくともそう信じてきた。
しかし今夜、その確信が僅かに揺らいだ。
「……まだ終わりではない」
マルコは小さく呟いた。
次の手は、別の方向から打つ。
カインが予測していない角度から。
―――― 第四話 了 ――――




