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明宵  作者: 水嶋
深更

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166/168

トチ狂い

今回は本編から少し離れて久々に眞司の話となります


あの2人はどうなってるのか…

「ねえ見て!76点!」


「ふむ、サラにしては上出来だな」


「前回上回ったよ!」


「そうだな、よく頑張ったな」


「ん!」


「ハイハイ…」


目を瞑って唇を突き出したサラに軽く口付けた


サラが俺の家に通い出してかれこれ3年になろうとしていた


元々は痩せすぎた身体を健康体に戻す為に食事管理を頼まれていたのだが高卒資格を取る為通信を始め、その勉強も見てやる事になった


サラは正に転がり込んで来たネコの様に俺の部屋に居着いて年々勝手に持ち込んだサラの私物も増えてきた


かと言って正式にお付き合いしている訳ではない

サラは俺の事が好きな様だが正直その理由は分からないでいた


事あるごとに付き合えと言われているが何だかんだと、のらりくらりと躱していた


別に嫌いとか無理とかそう言う理由じゃない


歳の差19、娘と言ってもおかしくない

サラは子供の頃イジメに遭って学校に行かず家に引きこもっていたしその後モデルとして芸能界に入って悪い大人達にいい様に弄ばれていた


多分同年代の子と関わって無かったので目の前に居る手頃で人畜無害な男に目が眩んでいるだけだろう


この先他の人と関わってくれば嫌でも目が覚めるだろう


そんな風に思い一線を置いていた


サラは問題を起こし所属していた事務所はクビとなり芸能界を追い出されたが別の道で再起するべく歌のレッスンに通い歌手を目指していた


まあ歌手を目指す位なんだしそこそこ上手いんだろうな、程度に思っていたのだが…



「マジか…」


去年のクリスマスにカラオケに誘われてそこで披露された時には言葉の通りソファから立ち上がれない程腰を抜かした


曲はクリスマスの時期にあちこちでかかってる有名な外人の曲だった



「どう!?」


「お前…英語喋れるんだな…」


「そこ!?」


歌も去る事ながら発音も申し分無かった


「いや、歌の事はよく分からんが…上手いのは確かだ。専門的な事は分からんからこれ以上のコメントは勘弁してくれ…」


「もう!別に歌の批評をしてとは言ってないし!」


「じゃあ『どう?』の意味とは?」


「歌の意味!分かるでしょ?」


「あー…All I want for Christmas is you…」


「そう!それ!」


「こうしてクリスマスに俺の時間と身体を使ってカラオケに付き添ってやってるだろう?」


「足りない!」


「えー…じゃあこの後どっか甘いものでも食べに行くか?」


「もう!まあそれも行きたいけどっ!いっつも子供扱いして!」


「じゃあどうしろと…」


まさかホテルに連れて行かれたりしないよな…

まあそうなったら全力で断るが


「キスして!ご褒美に!」


「ご褒美…」


「この日の為にカラオケ通ってすっごい練習したんだからねっ」


「何で…」


「シンジに最高のクリスマスプレゼントをあげたかったの!」


「成る程…」


「ハイ!んっ!」


そう言って目を閉じて唇を突き出していた

何だかその姿に情緒も色気も全く感じず可笑しくなって声を出さない様に笑ってしまった


やっぱり子供だな…


そう思いながら言われた通り唇を付けるだけの軽いキスをした



その事が有ってから何かにつけてご褒美と称してキスをねだられていた




「100万とか…鬼だろ」


「どうした?」


サラがぶつぶつ呟いていた


何か借金でもするのかしてるのか…

世間知らずな所も色々あるのでまた悪い大人に騙されたのかと親心として心配になった


100万なら…何とか貸してやれる額だろう

サラは今年二十歳になった


お祝いに誕生日に生まれた歳のワインを買ってやったが顔を歪めて飲んでいた


まだ酒の味は分からない様だった

俺が笑うとムキになって飲んでいた


その後出してやったケーキを美味しそうに食べていた


やっぱり甘いものが好きなまだ子供だ


そんな風に思いながら結局そのワインはほぼ俺が飲んでいた


来年春には通信を終えて恐らく高卒資格もこの成績なら取れるだろう

サラもあの上手さならじきに歌手としてデビューもするだろう


そうしたらもうこうしてサラとは…


金を貸してやれば返済を理由にまだ暫くの間関係は続くだろう


そんな事を考えていた



「テックトックでね、100万再生されたらデビューさせてやるって!」


「へえ…」


どうやら金の事では無かったらしい

サラは歌の実力が認められてレッスンを受けている先生の紹介で事務所と契約していた

文句ばかり言っていたので仲が悪いのかと思っていたが何だかんだと可愛がられてる様だ


サラは口は悪いし相変わらずすぐキレて殴ったり蹴ったりして来る野良猫みたいな奴だ

しかし素直で真面目で頑張り屋でどこか憎めなくて…

可愛がられるのもよく分かる

かく言う俺もそんなサラが可愛いと思っていた


来年にはデビューの話があると言われていたらしいが…

ただ上手いだけでは中々すんなりデビューさせて貰えない様だ

やはり芸能界は厳しいなと思った


もしデビュー出来なかったらサラはどうするのだろう


このまま諦めて何処かに就職するのか別の方法を模索するのか


どうなったとしても俺に出来る事が有れば手伝ってやりたいと思っていた

最初は面倒な事を押し付けられたと辟易していたが…




『あれ?洗ってくれたんだ』


『うん!』


『金貰ってるし…別に良いのに』


朝弁当を作って洗い物をそのままシンクに入れて仕事に行き合鍵を渡していたサラが先に部屋に着いて洗い物をしてくれていた


『良いの!私がしたいからしてるだけ!』


それから部屋の掃除やらもする様になっていた


『掃除してくれて大変有難いのだが…窓は水拭きした後は乾拭きしないと筋が残るぞ?ほれ…』


そう言って窓を指差すと無言で脛を蹴られた

でもちゃんと次は綺麗に乾拭きまでしていた


飲み込みは悪く無いので教えれば大体何でも出来る様になっていたが料理だけは頑なにやろうとしなかった


『シンジの作るご飯が食べたいの!』


多分教えれば上手くやれそうなのだが…

俺は家事の中でも料理が好きなので一緒にやったら楽しいだろうなあと思っていた





○○○○○○○○○○





12月に入り勉強やら飯を食ったりやら終わりいつもの様にテーブルに向かい合わせで雑談していた



「来年はさあ…」


「うん?」


「高卒資格取って?歌手デビューも果たして?」


「うん」


「そうなったら…私…もうここに来ちゃダメなの?」


「まあ…ダメと言うより…来る理由が無いだろ?」


「ふうん!あっそ!」


サラは不機嫌にそう言って帰って行った



その後は特に何も無く普段通りだった


来年春には…


サラは俺にとっては…


他人で、しかも女でこんな風に気を張らずに素で話せて自然体で居られる相手はサラが初めてで、恐らくこの先にもこの様な相手は人付き合いを極力避けているコミュ障の俺の元には2度と現れないだろう


サラと話していると楽しいし一緒に居たいし居て欲しいと思っていた


ただその言葉はあの時言えなかった


歳の差が、子供としか見れないから、将来がある若者だから…

その建前の裏の本心は…


このままのめり込んで溺れて依存していざ現実に目を向けた時のサラに捨てられる事を恐れているただの臆病者だ


だがそれはあながち間違いでは無いと思う

やはりもうじき40になろうと言うこの歳で二十歳の子とどうこうと言うのもおかしな事だろう

今までずっと1人で過ごしていたのだから来年には元に戻るだけだ

最初は寂しく思うだろうが時が経てば…


多分大丈夫




今年のクリスマスは俺の部屋で飯を食う事になった

料理は作るがケーキは買う事にした


仕事帰りに予約したケーキを受け取り帰り道にスーパーに寄って買い物をしていた


プレゼントは考えて無かったがお菓子コーナーでサラが好きそうなお菓子を買っていた

目についたお菓子でオマケにおもちゃのアクセサリーが入っているピンクの可愛らしい箱が有ったのでプレゼント代わりにとカゴに入れた


家に帰って袋からお菓子を取り出していてあのお菓子の箱をよく見てみると対象年齢3歳以上と書いてあった


流石に子供扱いし過ぎか…

また怒られて殴られそうだな、そう思ってサラに渡すのはやめて箱を開けて中身を取り出すと申し訳程度のラムネが入っていた


お菓子は…仕事の休憩の時にでも食べるかな

そう思いポケットにしまった

オマケにおもちゃの指輪が入っていたのでサラに見つからない様に不燃ゴミの日の朝に捨てようとそれも袋から取り出してポケットにしまい空箱はゴミ箱の奥に押し込んだ



暫くしてサラがやって来て料理を出して2人で食べた

粗方前日に仕込んでいてチキンなどはサラが来てから焼き直した

シャンパンでは無くシャンパン風のジュースを出した

二十歳にもなってまた子供扱いしてと怒られるかなと思ったがまだ酒を美味いと思えない様だったので喜んで飲んでいて安堵した


「じゃあ!料理のお礼に私から歌のプレゼントをします!」


「おー!」


俺は拍手をした


多分プロの歌手になるであろうサラの生歌を直に1人だけで聴ける機会はこの先無いだろう


今日はこの間の問いかけに答えを伝えようと思っていた


この先のサラの為に

自分の気持ちにケリをつける為に

ハッキリと言葉にして伝えないとならないだろう


この歌を聴き終えたら…


「それでは、アカペラで歌います!私の尊敬する、目標の人!ミイシャで!」


自分を鼓舞するかの様に拍手をした




あなたとめぐり逢えた


愛しき人よ


見つめて 私だけ


やさしい嘘ならいらない



「欲しいのはシンジ…」



そう言って俺に向かって手を差し伸べた


去年を上回る圧巻の歌唱で完全に歌にやられていた


気がつくとその手を掴んでポケットからおもちゃの指輪を取り出してサラの小指に嵌めていた



「結婚を前提にお付き合いして下さい…」



俺の用意していた言葉は何処かへすっ飛んでトチ狂った言葉が代わりに口から出ていた



「ハイ…」



その言葉を聞いて思わず抱きしめてキスをしてサラの口の中に舌を入れた


遂に眞司が覚悟を決めた…

と言うよりサラの粘り勝ちかもですね


いやー、常識人をも狂わせる歌の力は恐ろしいですな


サラ、デビュー出来ると良いね

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