奈落へ
今回は一生編のエピローグとなり答え合わせ回となっているので留代目線の話となります
「やはり一生も八神の男だったわね…」
「そうですね…」
「先代も皇輝も同じ様な最後だったわ」
「ええ…」
私は母と共に火葬場に来ていた
「留代はこの先どうするの?」
「私は…」
○○○○○○○○○○
幼い頃から一生を慕っていた
私の双子の姉の玉代も同じだった
私が小学生になる頃に玉代とは生活する場を分けられ別々の道を歩んでいた
私は学校へ行き人々と交流し友人も居た外の世界へ
玉代は家から…あの部屋から出されず隠され誰とも交流しない内の世界へ…
一生は私にも玉代にも同じ様に分け隔てなく可愛がってくれ愛してくれた
と思っていた
私は一生を手伝いたいのとずっと側に居たかったので看護婦となった
医学の勉強も多少かじって居たので一生が研究している事の手助けに少しでもなればと思い一生が使っていた診察室にしまってあった研究資料を読んだ
「何これ…」
それは私と玉代に関する資料や実験内容やこの先の計画を事細かに書き記していた
その内容は私を奈落へ突き落とした
私や玉代の事を全く愛してなどおらず私達の事をネズミや犬のごとく実験動物としか見ていなかった
この時今まで経験した事の無い激しい怒りを覚え、勢い余って一生の元へ詰め寄った
「私はお前達を大切に思っているよ?」
一生から返ってきた言葉に我に返った気がした
あぁ…この人は私達の事を欠片も愛してなど居ない
そもそもその様な感情が分からない人なんだ
失意のあまり一生の部屋を飛び出して自室に篭った
仕事にも行かず部屋に閉じこもっていた私を心配して母が訪ねて来た
そこで洗いざらい母に話した
「そう…ゴメンね…一生は2人を可愛がって大切にしてると思っていたから全く気付かなくて…留代にも玉代にも辛い思いをさせたわね…」
そう言って抱きしめて頭を撫でてくれた
「留代は一生の近くに…この家に居るのは良くないと思うわ」
「はい…私ももう一生とは関わり合いたく有りません…」
「留代は成人してるし看護婦でもあるのだから外の世界でもやって行けると思うわ。この家を出なさい」
「でも…それだと…」
八神家の使命は…
玉代は避妊手術を施されてしまっている
もう子は成せないだろう
「大丈夫、私もまだ産めるわ…云足と何とか子を成してみせるわ」
「はい…すみません…」
「留代が謝る事は何一つ無いのよ?私の子が幸せになる事が1番大切なのですからね」
「有難う…」
そう言って母をぎゅっと抱きしめた
「私は置いて行く玉代の事が心配です…」
「大丈夫…私が側で気を付けておくから…」
「宜しくお願いします」
それから玉代や一生には告げず家出と言う形で母の伝手に頼り秘密裏に家から出る事となった
行き先は母の妹が嫁いだ三ツ矢家を頼る事にした
この家からは遠く見つかる事は無いだろう
荷物を纏め夜明け前に家を出た
母が駅まで付き添ってくれて始発の電車に乗った
母の妹が嫁いだ三ツ矢家は裕福な家だったので住み込みの使用人も多く居候が1人転がり込んでも何の問題も無かった
看護婦の経験も有ったので三ツ矢家のお抱えの看護婦として病人や年老いた当主のお世話などをしていた
それから暫くして世界大戦となり私は疎開する事になった
『一生は軍医として召集されたので今は不在です。ここは田舎で爆撃もなく食べ物にも困って無いから家に来なさい』
母から手紙が来て私は久々に実家に帰る事にした
この頃には云足も玉代から手解きを受けて大人となっていた
「私が玉代の代わりに云足との子を産みます」
私だけが一生の元から逃げ出し置き去りにした玉代と、玉代の事や八神家の使命を押し付けてしまっている母への贖罪の気持ちから母にそう申し出た
「そう…」
母はそう一言だけ言った
玉代には睡眠薬を密かに飲ませ深く眠らせ、その間に私が玉代の着物を着て云足と交わった
やがて妊娠し、玉代や他の家の者に見つからない様に私はあの秘密基地で主に生活していた
夜な夜な玉代の枕元に行き眠っている側で語りかけていた
「ゴメンね…これ以上玉代が苦しまない様に産ませてあげるからね…」
臨月となりもうじき生まれるとなった頃には母の部屋に滞在していた
出産は八神の家で行い産婆に取り上げさせた
産気づくと母は玉代に睡眠薬を飲ませその間玉代の着物を着た私が出産した
宮乃が無事産まれた後も暫く母の部屋に滞在し、玉代が育児で疲れて眠っている間に母が宮乃を連れてきて乳を飲ませていた
やがて終戦となり私も産後の肥立ちから回復した頃、また三ツ矢家に戻る事にした
「そろそろ一生が戻って来ますから…」
「そうですか…」
玉代に会いたかったが、私は気鬱の病で自殺した事になっていたので会う事も無くそのまま帰った
それから暫くしてまた母から手紙が来た
『一生は今はもう仕事も出来ず玉代がお世話をしています』
どうやら宮乃の出産が功を奏し疑心暗鬼となり本当に玉代が出産したのか確かめる為に連日玉代と交わる為に薬物に頼り次第に精神も肉体も蝕まれて来ていた様だった
『一度様子を見に行きます』
そう返信し実家へ訪れた
こっそり様子を伺うと一生はやせ細り目の焦点も合っていない様子だった
玉代がまるで赤子を相手にする様にお世話をしていた
「長くは持たないでしょう」
「そうですか…」
「どうしますか?」
母にそう尋ねられた
「なら…」
私は幼い頃に自分がされた事を一生にしてやった
庭で裸で日光浴をさせ犬の様に四つん這いで放尿させ浣腸もしてやった
看護婦の仕事で経験が有ったのでそつ無くこなせた
しかし私の気持ちは晴れる事も満たされる事も無かった
一生は虚で私に言われるがままにされてまるで生き人形の様だった
「今となっては医師の仕事も出来ずやる事と言ったら子を成せない玉代と交わる位ですね」
「そうですね…」
一生は遺伝子の研究もやめてしまいただ本当に玉代が宮乃を産んだのか確かめる事だけに執着している様だった
「云足と宮乃が居る今はもう一生は用済みです」
「はい…」
「そろそろ一生を八神家の使命から…この苦しみから解放してやろうかと思います」
「分かりました…」
その後母は玉代に滋養強壮剤だと言って薬を渡し一生に飲ませ玉代と交接する最中、絶頂を迎えたと同時に心の臓の発作で呆気なくこの世を去った
○○○○○○○○○○
「私は叔母の元で暮らします」
「一生の事恨んでる?」
母にそう尋ねられた
「私にとって一生は全てでした…幼い頃から好いていました」
「そう…」
「優しくて色々な事を教えてくれて包み込んでくれて…一生の言う事が私の世界の理であり私の神でもあり…でも本当はそれは全て偽りの姿で私も玉代も長い間騙されていて一生にとっては都合の良い実験の為のただの道具で…」
「ええ…」
「その事を知って心底憎み軽蔑し…」
「ええ…」
「それでも…心からお慕いしています…」
憎しみと同じ分だけ好いている
それが偽りの無い本心だろう
「そう…やはり留代も八神の女ね…」
そう言って母は笑っていた
一生も皇輝同様に体裁が悪いので心労の末の発作と死因を偽っていた事と戦後の質素倹約の流れを汲み人を呼んでの派手な葬式もせずひっそりと八神の墓へと納骨された
私はその後また三ツ矢家に戻った
玉代は一生が居なくなり暫くは落ち込んでいた様だが今は云足も宮乃も居るので大丈夫だと母から手紙に書いて有った
玉代はあれから洋服を着る様になったらしいがやはり家からは出なかった様だ
「私がこの家を守らないと…一生に言われてるから…」
そう言っていたらしい
母とは手紙でやり取りしていたが病に倒れた様だった
『私もそろそろ皇輝に会いに行こうかと思います』
その手紙を最後にやり取りは終了した
私は母の妹の養女となり、名前も改名した
その後三ツ矢家の遠縁の奥方と死別した人と縁談を持ちかけられ、後妻として嫁入りした
その人とは女児を授かり名前を『美智子』と付けた
当時の妃殿下の名で流行りの名前で有った
私は久々に八神家の墓参りにその事を報告に来ていた
墓は綺麗にされていて恐らく玉代が守っているのだろう
墓には母の名前も有った
「何れ私も其方へ行きますが私の終の住処は此処では無く…この墓に眠る事は有りません」
私はもう八神家の人間では無く苗字も名前も戸籍も変わっていた
嫁いだ先の墓に眠る事になるだろう
「恐らくお互い騙し合い気持ちを弄び陥れた私も貴方も地獄行きでしょうから…冥府で会いましょう」
そう言って手を合わせた
その後今は閉鎖されている病院へ行ってみた
鍵は持っていたので中へ入った
私が家を出た後の事を纏めて記した物を鞄から持ち出し書き足した
この記録を読んだ後世の八神家の人間が同じ轍を踏まず参考になります様に…
『願わくばこの先八神家が穏やかで平穏無事で有りますよう』
まだそのまま置いてあった一生の記録の隣に置き私は病院を後にした
一生編が漸く終わりました
結局皇輝編と同じ位の長さとなりました…
やはり留代は生きていて宮乃を産み高子が手助けした様ですね
そして美智子…剛や小百合の母は留代の子だった様です
美智子については「幸せを知らなかった少女は深く愛されて愛を知る」にチラッと出てきますがやはり八神の血を受け継いだ性格ですかね
八神以外の相手との子を産んだのは韻が初では無かった様ですがまあ留代は死んだ事になってるので知る由もない…ですかね
次回からやっと本編に戻ります




