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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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207/211

207話

 ロアンは反応できなかった自分を恥じた。足が動かないと思って油断しすぎた。


(なぜ動ける)


 疑問に思いつつも、玲奈を捕まえようとすると、アーケインが制した。


「ここは私が」

「まだ動けたのか?」


 アーケインは倒れこみそうにぐらつく体を、遠ざかる玲奈の背に向けた。右手から、魔術陣が展開される。光線が、玲奈に真っすぐ伸び――途中で不自然に曲がって跳ねた。


 アーケインは舌打ちする。ルエルが残りの力で防いだのだろう。


「もういい。退いていろ」


 ロアンは剣を抜いた。アーケインの返答を待たず、大きく踏み込んで玲奈に一直線に飛び掛かる。


「もう一度、その足斬ってやろう」


 近づいてくるロアンの気配に、玲奈が気づいて振り返った。防御しようと体制を取っている。


(遅い)


 ロアンの脳裏に、メイリが映った。膨らんだ腹を、愛おしそうに撫でる彼女。それを振り切って、ロアンは剣を突き落とした。



 ――その剣は、血飛沫を上げることは無かった。


「貴様……」


 玲奈は、目の前に映る姿が信じられなかった。夢を見ているのだろうか。その衝撃に、玲奈の心臓は一瞬、鼓動を止めた。


 ロアンの剣と玲奈の間に、男が立っていた。その男は、軽々とロアンの剣を片手の短剣で受け流していた。


「な、んで……」

「話はこいつを大人しくしてからだな」


 その声も、記憶のもの、そのまま。玲奈の細胞がぐつぐつと沸騰する。玲奈は別れた時から変わらず、ずっと、ひたむきに、一途に。


 この男――リュウが好きなのだと、体が大声で訴えていた。



 リュウの返答に、ロアンは苛立ちを露わに剣を構えた。


 二人の間に、緊張が走った。静寂の中で、互いの呼吸を探る。ロアンが先に大きく踏み込んだ。剣の重なる音が、白い空間に響く。ロアンの剣は重たく、鋭かった。リュウは内心、やるな、と舌を巻くが、それでもロアンはリュウの敵ではなかった。


 いつの間にか、リュウの剣戟に押されて、ロアンは後退していった。ぎりぎりのところで深い傷を避けているが、何度もリュウの剣を受ける内に、腕の痺れが強くなっていた。額からは汗が噴き出す。苦悶の表情で、リュウを――そして、背に隠れる玲奈への憎しみを、募らせる。


(どこ見てんだ)


 その隙を逃す、リュウではなかった。止めを刺す剣を振り下ろす。しかし、それはロアンには届かなかった。


「くっ――」

「リュウ!」


 玲奈の心配する声が後ろから届いた。ロアンの奥から、アーケインがリュウへの攻撃を放っていた。剣で受け止めるが、衝撃を吸収しきれず、上へ弾き飛ばした。ドゴン、と波動が天井に衝突し、白い空間が大きく揺れた。


(あいつが長か)


 ロアン以外の存在には気づいていたが、立ち上がれる状況にないと思い、気にしていなかった。


()()を継いでいるなら、回復に長けてるか……)


 リュウの見立て通り、アーケインはルエルに受けた傷を少しずつ、修復していた。土煙が収まる。ロアンはリュウを警戒し、アーケインの近くまで後退した。


「リュウ!」

「話は後、つったろ」

「分かってる。あの壁の奥に、地下神殿の長が」

「知ってる。懐かしい魔力だ」

「え……?」

「ちゃんと後ろにいろよ」


 リュウは導士ではない。高度な魔術は使えない。それでも、導士に敵わないと思ったことはなかった。


 崩れた天井の瓦礫が散らばる中で、三人は睨み合う。アーケインは肩で大きく息をしていた。ロアンは横目でそれを確認し、先に飛び出した。ロアンが地面を蹴ると、剣先から、炎が噴き出して、渦を巻いてリュウに向いた。アーケインが後ろから、血に濡れる指先を動かすと、ロアンの炎に、黒い稲妻がとぐろを巻いた。轟音を唸り上げて、炎が襲ってきた。


 リュウは指を軽く弾いた。炎はリュウに辿り着く直前、霧散した。ロアンがそれを目視した次の瞬間に、目の前にリュウが迫っていた。アーケインの援護が届くより先に、ロアンは腹に衝撃を受けて倒れこんだ。


(早、すぎる……)


 血を吐き出して、痛みに悶える。リュウの剣を全く見切れなかった。どんな攻撃を受けたのかも、分からなかった。手が痺れて、動かせなかった。剣戟の音が聞こえる。リュウは早々にアーケインの所へ辿り着いていた。


 首と眼球をかろうじて動かせば、奥にいた玲奈の姿が見えた。リュウのことを、見つめていた。愛した女性とは似ても似つかないと思っていたが、その眼差しには既視感があった。


(メイリも、ああやって見ていた……)


 ロアンは、いつかの胸が軋む切なさを思い出した。

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