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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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203/212

203話

「ここだ」


 玲奈とアデルは、次なる追手に足止めされることなく、礼拝堂の入口までたどり着いた。道中、床に伸びている導士たちを幾人も跨いだ。ルエルたちが全部倒してくれたのだ。中に入ろうと扉に手をかけた時、アデルはその手をぴたりと止めた。


「どうしたの?」


 小声で問う玲奈には答えず、アデルは立ち止まったまま、外の音に耳を澄ませた。


「クソ、来やがった!」

「え……」

「気配がした、ロアンだ!」


 その名前に、玲奈は身を震わせた。アデルがロアンの気配が分かると言っていたのは、本当だったようだ。


「どうしよう!」

「俺がここで足止めする。レナはこのまま中に行け! 進めば祭司たちがいるはずだ!」

「分かった!」


 玲奈を先に行かせて、アデルは入口に立ち塞がった。


(裏から来るか)


 ロアンの気配を探って、舌打ちをする。表から入ってくればシェルドが足止めしてくれただろうが、ルエルたちが通った神殿の裏から入ってくるルートは、ここまで障害物がない。


(やるしかないって訳ね……)


 そう長く待つことは無かった。階段を上がってくる、兄の革靴の音が聞こえた。その姿が見えた。兄は、アデルを捉えて、睨んだ。


「情報が間違ってると思いたかったが」

「それは残念だったな」


 アデルが神殿に侵入したということは、正しく伝わっていたようだ。ということは、玲奈がいることも。


「王家の面汚しに成り下がったな」

「王家は操られている。神殿は、破滅の子を利用して王家を滅ぼすつもりだ」

「ああ……お前は昔から密謀を語るのが好きだったな」


 ロアンはアデルの言うことに耳を貸すつもりはまるでない。分かっていたことだ。今、二人の間に、対話は意味をなさない。


「しかし、兄としてお前の罪に情状酌量の余地を与えたい。お前はその論を信じ、王家を救うためにそこに立ってるわけだな」


 アデルは薄く笑った。


「いいや、王家が滅ぼされようが気にしないさ。俺は信念を貫くためにここにいる」

「信念?」

「隠された真実を、明らかにする」


 二人の間に、沈黙が降りた。ロアンはアデルにも届かない程小さく、「馬鹿馬鹿しい」と呟いた。


「お前が俺に勝てると本気で思ってるわけではないだろう」

「やらなきゃ分かんねぇだろ」


 言葉とは裏腹に、ロアンの方が力が優れているのは、幼いころから何度も手合わせしているアデルが一番分かっていた。


(ロアンだけならまだしも……)


 その後ろに控える、二人の導士に目線を移した。アデルに勝ち目はない。それでも、一秒でも長く、時間を稼がねば。


 ロアンが剣を抜く。魔石の魔力が流し込まれて、剣は赤く光る。アデルの剣も同じように、青く輝いた。踏み込んだ靴の乾いた音が、神殿の床をきしませた。


 同時に飛び上がった二人の剣がかち合う。金属の澄んだ音がぶつかった。ロアンの剣が斜め上から振り下ろされる。その重さに、アデルは受け止めるだけで精いっぱいだ。跳ね返す力が無く、何とか横に滑り落した。剣からは火花が散った。ロアンは間髪入れずに踏み込んできて、鳩尾めがけて剣を突き入れた。何とか半身で躱して、後ろへ下がった。


 アデルが呼吸を整える暇を与えず、ロアンは次の斬撃を放つ。


(くっ……!)


 払っても払っても、ロアンの攻撃はやまなかった。アデルの息が荒く乱れて、次の剣を視界に捕らえる。間に合わない、と思考が赤く点滅した。


 そして。


「ッ――」


 ごぼっと血をこぼして、倒れるアデルの体を、ロアンは床に転がした。


「だから言っただろう。負ける戦いに挑んで、謀反の罪を犯して……何の意味があった。お前の信念とやらは、血に背く程大事なものだったのか」


 ロアンの瞳は、呆れと軽蔑の色をしていた。突かれた痛みに肺をヒューヒューと切らせて、アデルは言う。


「やっぱ、俺は兄貴には敵わないんだな……」

「……」


 アデルは血をこぼしながら、自嘲の笑みを浮かべた。


(結局、俺は何もできない……いつも中途半端で……)


 痛みに、意識が遠のいていく。傷は深いが、魔術をもってすれば、治癒できてしまう程度だと分かる。いっそ、ここで死にたかった。自分は、何をしたかったのだろう。


 隠された歴史の真実を探求した日々は、楽しかった。王家に背き地下神殿と通じる日々は、刺激的だった。その背徳感に魅了されていただけだったのか。


 記憶の中で、家族は誰も、アデルを見ていなかった。両親は優秀な兄のことばかり。兄はいつも、想い人に夢中だった。


 薄く目を開けば、兄の真っ赤な瞳がアデルを見ていた。見られている、と感じたのはいつぶりだっただろうか。


「直に癒符師が来る。精々大人しくしておけ」


(……やっぱりな……)


 ここまで真っ向から歯向かっても、結局ロアンは、アデルの兄であることを辞めないのだ。


(そうだ……俺は、兄貴みたいに……)


 押し込めていた感情がふわりと浮かんできた。劣等感、嫉妬、羨望、色んなものをひっくるめて、昔から抱えてきた思いの、根っこにあるもの。


 アデルはずっと、兄のようになりたかったのだ。

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