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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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200/215

200話

 アデルはもはや、駆け足で城を東へ進んでいった。城門のざわめきは、どんどんと大きさを増していっている。兵士の声が、近づいてきているようにも感じた。玲奈に恐怖が襲い掛かる。幸いにも、回廊を進んだ先に、兵の姿は無かった。ふいに冷気が肌をさす。前方にある重厚な扉は開かれていた。アデルはその前で足を止めて、柱の陰に見えない玲奈を押し込んだ。小さな囁きが、暗闇に落ちる。


「この先が神殿だ」

「こっからは戦うしかないってわけだ。レナの姿も見えるようになっちまうな」

「悲観してもしょうがない。まず、導士の半数は地下神殿に駆り出されている。祭司たちも既に中に入ってるはず。敵の数はそう多くない」

「ルエルたちもここから入ってるの?」

「神殿が侵入されたと知ったら、ロアンがこっちに導士を戻すんじゃないの?」

「それを足止めするのがアボットの役割だ。暫く時間は稼げる。その間に、祭司と合流し、レナが祭壇まで行けば勝ちだ」

「侵入者の検知は施されてるはずだ。入った瞬間、戦闘が始まる」

「……分かった」


(私は……)


 祭壇に辿り着いて、その剣を前にして、自分がどういう行動をするのか。答えを出せていなかった。迷う猶予なく、戦いは来てしまった。今は、そこに辿り着くことだけを考える。


 玲奈は大きく深呼吸をした。アデルとシェルドが玲奈の肩を叩いた。


 扉の先は、石畳の渡り間が、城と神殿を結んでいる。アデルは最後に周囲を見回し、誰もいないことを確かめると、渡り間を進んでいった。神殿に近づくにつれ、柱の背が高く連なっていく。古びた石が、途中からよく磨かれた白に変わった。それを踏んだとき、玲奈は外の喧騒が消えたのを感じた。静寂が場を支配する。


(息が吸いづらい……)


 何かが、玲奈を押しつぶそうと圧をかけているようだった。冷や汗が背中を伝う。そして、視界も何やら、悪くなってきた。


(煙?)


 玲奈は、線香の匂いを思い出した。薄く漂うもやをくぐると、神殿の外壁に辿り着く。アデルはシェルドに一度目線をやると、躊躇せずに扉を開けた。


 入った瞬間、破裂音が耳に届いた。びくりと身構えるが、それは玲奈たちに向けられた攻撃ではなかった。


「祭司たちだ」


 姿は見えなかった。しかし既に、戦いが始まっていた。入口付近には誰もいない。


(……ここが)


 そこは、地下神殿と雰囲気がよく似ていた。元は神殿にいた導士たちが作ったのが地下神殿なのだから、当然かもしれない。壁面には、地下神殿にもあった神話の一場面が刻まれている。


 玲奈は、既にアデルから神殿の構造を聞いている。


(ここが前殿。あの階段を昇れば、二階に礼拝堂がある)


 そして、礼拝堂の奥の階段を進むと、最奥にあるのが祭壇。神殿が本尊を祀っている場所であり、導士の中でも一部しか入れないという聖域だ。そこに、哭剣が安置されている。


 最初、玲奈は気づかなかった。奥の柱の影が、わずかに揺れた。シェルドが、玲奈の体を攫って、影から伸びた矢を剣で跳ね返した。


「おでましだ」


 そこには、白い神官着に身を包んだ若い男が、二人並んでいた。上の戦闘から抜けて、こちらに派遣されたようだ。玲奈の隣にいる人物を見て、驚きを隠せないでいる。


「導徒だな」


 導士の中でも、まだ年若い。幹部でない者たちのことだ。


「アデル殿下……? なぜこちらに」

「ちょっと野暮用でね」

「……王家が神殿を裏切るとは」


 その顔は憎しみに満ちた。導徒は恐らく、神殿の成り立ちを知らない者なのだろう。


 シェルドが短剣を投げ放った。導徒たちが構える。


「――え?」


 導徒たちは、何が起こったか理解できないままに、血を吐いて床に倒れた。倒れたのちに、腹に剣が刺さってるのを認識した。


 シェルドは、幻導術で剣の通る空間を巻き取ったため、彼らには、短剣が瞬間移動したように感じられたのだ。


「っ、貴様……何者だ……」

「我らの、ほかに、導士が……?」

「導徒は何も知らされていないか」

「行くぞ」


 アデルを先頭に、階段を駆け上っていく。しかし、階段の中腹で、ぐらりと足元が揺れた。


「きゃっ!?」


 玲奈の体が後ろに傾くのを、シェルドが片手で支えた。足場はぐにゃりと曲がって、視界もぐらぐらと揺れる。


 その不安定さを狙って、金属片が四方から襲い掛かる。


「レナ!」


 前方からはアデルが、後方はシェルドが庇ってくれた。


「何なの!?」

「階段に侵入者を撃退する術をかけてあるんだ! とにかく登れ!」


 アデルとシェルドに引っ張られるようにして、階段を駆け上がっていく。しかし、一段昇るたびに、重力に引っ張られて、天地がひっくり返るような感覚に襲われる。


(さ、逆さまになってるっ……! 目廻るっ……)


 今、自分がどこにいるのだろうか。ちゃんと立っているのだろうか。分かるのは、左腕と、背中に感じる頼もしい体温だけだ。


「また来るぞ!」


 多量の槍が、視界を埋めた。


「―――!」


 自分が、ひゅっと息を呑む音が響いた。玲奈の目の前で、アデルが血飛沫をあげて、階段から滑り落ちて行った。



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