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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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199/215

199話

 玲奈たちが城の近くまで辿り着くと、既にそこには、戦火があがっていた。


「サディの指揮下の者たちだな。これだけ集めるなんて、流石じゃないか」


 サディは、連絡を受けてすぐに動いてくれたのだ。市民兵を中心とした部隊が、王城に押しかけていた。城門は二重構造になっている。外門のぶ厚い木扉はは既に破られ、内門の鉄板を砕かんとしている。城壁の上から、衛兵たちが食い止めんと飛び道具を手に応戦していた。


「兵が少ない。奇襲は成功してる」

「ルエルさんたちはいない……」

「もう中に侵入してる可能性が高い」

「俺らも行こう。こっちだ」


 アデルは馬車を降りた。アデルの護衛は馬から降りて、待ったをかける。


「殿下、私も」

「お前は屋敷で待機だ。俺の居場所を聞かれたら部屋に居る筈だと言っておけ。確認したいと言われたら通していい」

「……分かりました」


 彼は暫し躊躇ったが、大人しく従った。アデルが頷くのを横目に、玲奈は魔石を用意した。久しぶりの、緑の色が舞った。馬車は元来た道を戻っていった。それを見送り、門前の喧騒を背に暗い路地に入る。石畳を通って、アデルは壁を体当たりして押し込んだ。向こう側に壁が倒れて、道が開いた。すぐに下へ続く階段になっていた。


「急だから、足元気をつけろ」

「うん」


 真っ暗なので、迷宮で覚えた方法で視界を調節した。階段を降り切ると、狭い道がうねうねと伸びていた。体をひねりながら進むと、アデルは足を止めた。奥の扉を指さす。


「この戸を開ければ、地下牢だ。非常時だからこっちに来てる兵は少ないと思うけど、最低限の見張りはいるだろうな。なるべく騒ぎにならないように行きたい」

「扉を開けてくれるか。俺がやる」


 アデルが戸を開け、シェルドが兵を倒す作戦のようだ。


「レナ、油断するなよ」

「分かった」


 アデルとシェルドが目くばせし、タイミングを合わせた。そして扉を開けた瞬間に、シェルドが突っ込んでいった。アデルは少し時間を空け、玲奈を背に続く。そこには、音もなく、背後から、兵士の意識を失わせているシェルドがいた。シェルドはくったりと力の抜けた兵士を、壁にもたれさせ、こちらを向いた。


「ここには一人か」

「上が慌ただしいからな」

「祭司たちが計画通りのルートを行ってるなら、北東の門から入ったはずだ。俺たちとは逆側にいる」

「合流できるのは神殿に入ってからだな」


 スラジ王国の王城は、大きく三つの建造物でできている。正門から入り、一番手前にあるのが本殿。政治と軍事の拠点だ。玲奈が最初に連れ来られた処刑場もある。本殿の奥に抜けると、独立した城壁が囲んでいて、王家の居殿が中に構えられている。


 そして、本殿の東端に、神殿が寄り添うように(そび)え立つ。大きさは本殿の四分の一程度だが、導士の拠点。どんな守りが施されているか、アデルでも把握できないという。玲奈たちの目的地は、その神殿の最奥にある、祭壇だ。


「本殿を突っ切るのはそんなに難しくない。レナさえ隠せば、俺はアデルの護衛と言い張れるだろ」

「問題はその後だな。正面から神殿に入れさせてもらえるとは思えない」

「アデルは王子なのに?」

「普段も滅多に神殿に出向くことはない。あそこは導士の治外法権……年に数回、儀式の際に入るくらいだ。この非常事態に入れさせろと言っても無理だ」

「てことは、そこから先は戦うしかないな」

「みんなで擬態をして、姿を隠せないの?」

「無理だ。神殿の中じゃ、その程度の魔術はすぐ見破られる」


 玲奈は神妙に頷き、胸元の魔石を握りしめた。



 アデルが先導し、地下牢から伸びる階段を上がっていく。牢の中には、人の姿もあった。外の喧騒など全く知らぬ彼らは、寝息を立てていた。


(ここ……最初に入れられた)


 より一層、頑強な造りの牢は玲奈が入れられたものだった。今は空っぽだ。ひんやりとする岩場を抜け、重い鉄の扉を開けると、騒がしさが降ってきた。


 壁を挟んだ向こう側から、兵士たちの雄叫びが次々に聞こえた。


「こっちだ」


 アデルは回廊を進む。床はよく磨かれた石で、玲奈の足音はしっかりと響いていた。でも、今はそこまで気にできない。兵士の声が打ち消してくれることを祈るだけだ。


「待て! そこで何をしている」


 低い武人の声に、玲奈は飛び上がった。後ろでシェルドの手が支えてくれたのを感じた。声の方をゆっくり向くと、熊のように大きいシルエットが見えた。


「兵士は前庭に集合と指令があったのを知らぬのか」

「お前、誰に言ってる?」


 アデルの声に、男は息を呑んだ。


「やれ、アデル殿下でしたか! なぜここに! お屋敷においでの筈と伺っておりますぞ!」

「ちょうど用事があったんだけど、表が騒がしいから確かめに出て来た。どこの賊が押しかけてる」

「まだ特定はできておりませんが、武具は一等品です。手を引いてるのはそれなりの者と」


 男はアデルを認め、警戒を解いた。玲奈の心臓は、まだバクバクと鳴っていた。


「兄貴は?」

「今は外に。時機にお戻りになると」

「分かった。お前は指揮があるのだろう。早く行け」

「ですが殿下が内へお入りになられるのを見届けませんと」

「少し様子を見れば戻るよ」

「いやしかし……この者は? 見ない顔ですな」


 男は、シェルドに視線を移した。


「新しい護衛だ」

「新しい? ベイズリー殿は」

「あいつは近頃、任務に着けない日もあるからな。見習いを雇った」

「ああ! 確か、御母堂のお体が良くないとか」


 男は納得し、「では」と低頭し、去っていった。アデルは踵を返し、足早に進んでいく。十分に離れたところで、舌打ちした。


「城衛長だ。ロアンに手懐けられてる。俺がいることはすぐ伝わる」

「でも、連絡取れない筈じゃ」

「兄貴との連絡は取れるようにしてるさ」

「アデルを疑っていたようには見えなかったが」

「ロアンは城で起きたこと全てを報告させるよう、部下に命じてる」

「でも、アデルはここにいても不思議じゃないでしょ?」

「慎重を期すのが兄上の性格だからな。急ぐぞ」


 アデルはロアンを誰より、深く知っていた。

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