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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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197/216

197話


「その後ずっと、メイリのことは俺らの中じゃタブーになってたんだけど、一年前になって、神殿がレナを呼び戻すって言いだした。ロアンは待ってましたと言わんばかりに、どう処刑するのか、処刑までの間の処遇について、先頭切って動き出して。その内容がまた、レナをどうやったら極限まで痛めつけられるかみたいな感じでさあ」

「……つまり、ロアンは私を恨んで、憎んでる」

「そう。大好きなメイリを失ったのは、レナのせいだと思ってるわけ。きみは何にも悪くないのにね」

「……それで」


 ロアンと会ったときの、玲奈に向ける視線。交わした会話が、次々に思い浮かぶ。あの憎しみがこもった眼差しの意味が、やっと分かった。


『……は似てない。でも、声は……』

『その声……声だけは、似て……』


(あれも、お母さんのこと……)


 彼は、玲奈を通して母を見ていたのだ。


「すぐに整理がつかないのは無理ないさ」

「あ……うん」


 黙り込む玲奈に、アデルがフォローを入れた。当の玲奈は今までのロアンの行動に色々と腑に落ちていたところで心配はいらないのだが。アデルは、玲奈の髪をそっと撫でた。


「兄貴のような想いじゃないけど、俺もメイリは好きだった。優しいし、魔術はうまかったし。子供が産まれるのも、楽しみにしてたんだ」

「そうなの?」

「うん。あの頃、近くに自分たちより幼いやつはいなかったから、興味あってさ」

「え、サディは?」

「あいつは側室の子だ。王城には住んでなかったし、たまに会っても仲良く会話しようとはならなかったよ。母さんも、なるべく俺らからあいつを遠ざけようとしてたし」

「そう……」


 サディは、不遇な幼年期を送っていたようだ。その中の光明がミトラだったのかもしれない。


「でも、会う前にレナは行っちゃった。宣告が下されてなければ、妹みたいに、一緒に過ごした未来があっただろうに」

「…………」


 玲奈は、不意に泣きたくなった。今まで、ずっと向こうが自分の居場所で、ここの世界に帰属意識など欠片もなかった。でも、今アデルを前にして初めて、自分がこの地で過ごしていた過去が、そして幸せな未来があったのかもしれないと感じた。


 滲んだ涙を、アデルの長い指が掬った。その体温は、とても暖かく、ほっとした。玲奈を命がけで守ってくれた母と直接関わりのあったアデルに対して、親愛の情が募っていくのを感じた。


「……ねえ」

「ん?」

「じゃあ、私のお父さんのことも知ってるの?」

「いや、旦那の方とは喋ったことはないな。神殿の導士だし、メイリが死去してからも何度か顔を見たことはあるんだけど、あんま印象がない」

「そうなんだ……。今も、神殿にいるんだよね」

「その筈」

「つまり、お父さんも、私を処刑しようとしてる」

「だな」

「…………」

「俺の推測だけど、彼は、あんまり妻に愛情を持ってなかったんじゃないかと思う」


 病床の妻のもとに付き添わないとなれば、それは自然と導かれる。


「結婚は、二人の意思じゃなかったとか?」

「導士が政略結婚するとしたら、相手は貴族だ。神殿の中での恋愛は、禁止こそされてないけど、あまり推奨はされない」

「そうなんだ?」

「血が近くなりすぎると、良くないからな。それに今となっては、導士は格好の政治道具の一つだ。神殿はなるべく、彼らを外とのコネクションを強めるのに使いたい」


 その考えは聞いててあまり心地の良いものでは無かったが、それより、両親のことだ。


(じゃあ、やっぱり二人は恋愛結婚したはず。お母さんが一方的に好きだったとか……?)


 謎は深まるが、解決できる手立ては、今はない。


「少し休んでるか?」

「え?」

「まだ向こうに帰れるには時間がかかる。待ってるのも疲れるだろ。そこに寝床はあるよ」


 実際、玲奈は疲れていて、アデルと話している間も、瞼を重そうにしていた。


「でも寝床って、アデルが使ってるベッドでしょ」

「なんだよ、恥ずかしい?」

「そういうわけじゃ、ない、けど」

「じゃあいいじゃん、ほら」


 アデルがぐいぐいと玲奈の背中を押して、ベッドに投げた。口では否定したが、やっぱり男の人が使ってるベッドに入るのは、恥ずかしい。しかし、柔らかな布団に体を預けたとたん、起き上がろうとする気力が削がれてしまった。


(だめ、眠……)


「おやすみ」


 下から見上げるアデルの青い髪が揺れるのを最後に、玲奈はすとんと眠りに落ちた。



(あいつが見たらどう思うかな)


 アデルは、玲奈の頭をそっと撫でた。玲奈に宣告が下されなければ、こんな風に可愛がる今が、日常になっていたかもしれない。そして、それを誰よりも望んでいたのは、ロアンに他ならなかった。




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