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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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195/218

195話


 その後はサディとアデルが二人で話し合いを続けた。一方で、玲奈はもう一人、嬉しい再会を果たした。


「ヤザン!」

「……」


 その姿を見て、自然と笑顔になり駆け寄ってしまったが、ヤザンはしかめっ面で直立不動のままだった。


「あ……、やっぱり怒ってる……?」

「……久しぶりだな」

「え、うん」


 玲奈は気まずさを感じる。何をどこまで言ったらいいのか分からなく、もごもごしていると、ヤザンはそれを察してくれた。


「先ほど、サディ様に事情は聞いた。お前の立場なら、然るべき行動だったと思う。……ただ、俺に話しても良かったんじゃないかと、そう思ってしまった」

「だって、ヤザンはサディの部下で」

「ああ。だから、言っただろう。お前が何も言わずに行ったのは、正しい」

「表情と台詞が合ってないんだけど……」


 怒っているというと少し違うかもしれない。ただ、納得しているような表情ではなかった。後ろにいたシェルドが助け舟を出した。


「レナ、そのご武人は拗ねてらっしゃるんじゃないかな」

「え?」

「自分はレナの信頼を得てると思ってたのに、頼ってくれなくて寂しかったんだよ」

「…………」


 ヤザンは反論はしなかった。


「信頼、してたよ。あの場所で、多分サディより、ヤザンを信じてたし、頼ってた」

「でも、言わなかった」

「うん、だから」

「俺はサディ様の部下で、あの方に従う。その通りだ。分かってる」


 玲奈は目を丸くした。自分に言い聞かせているような口調は、シェルドの言う通り――拗ねているようにみえる。しかし、それも少しの間のことで、ヤザンは小さく息を吐くと、玲奈と真っすぐ目を合わせた。


「でも……また会えた。お前は生きてるし、元気そうだ。だから、もういいさ」

「……心配してくれてた?」

「まさか、勝手に出て行った恩知らずを気に掛けるほど暇じゃないからな」


 それはすぐに嘘だと分かった。玲奈はシェルドと目を合わせて、こっそりと笑った。


「私、ずっとヤザンにお礼を言いたかったの。色々教えてくれて、助けてくれて……本当に、ありがとう」

「それが仕事だ。礼を言われることはしていない」

「ただの仕事なら、レナが何も言わずに出て行っても心配なんてしないんじゃねえの?」

「だから、心配などしていない」


 玲奈は今度こそ、声を上げて笑った。



 * * *



 再会は束の間、サディたちとはすぐに別れることになった。長くアデルの屋敷に留めておけば、ロアンに不信感を持たれかねない。玲奈もアデル以外に姿を見られてはいけないので、長くはここにいられない。


 しかし、この屋敷から地下神殿へは真っすぐ帰れる道は今、通っていない。シェルドの能力があれば新たに通路を繋げることはできるが、魔力を多く使うため、神殿が大きな魔力の形跡に勘づく可能性があるという。気づかれないように、少しずつ道を広げるので、いくらか時間がかかるらしい。その間、アデル以外が入ってくる可能性が一番低いという、アデルの寝室に戻ってきた。


「アデルはここに残るの?」

「あいつを呼び出した後だ。兄貴から何か連絡が来るかもしれないし」

「そっか」


 アデルは窓から、サディが馬車に乗り込むのを見つめた。玲奈がヤザンと会っている間、兄弟は二人で話していた。


「……仲直りはできた?」

「別に仲違いしてた訳じゃないさ。元々、馬が合わないだけ」

「でも、協力することになったんでしょ?」

「なったけど、だからってすぐ仲良しこよしとはいかないもんよ」

「そう……」


 フォローすることもできず、玲奈は口を噤んだ。


「レナはサディのことが好きだったんだ?」

「なっ――」


 膝に落としていた目線を上げると、アデルはにんまりと笑っていた。


「シェルドが話したの!?」

「いいや。見ててなんとなく。やっぱそうか」


 鎌をかけられたようだ。玲奈は真っ赤になって唸った。アデルはくつくつと笑っている。


「分かりやすいなあ」

「……別に、今はもう好きじゃないし」

「へぇ? 他に好きな奴がいるんだ」

「…………」

「アッハッハ! 顔に出すぎ!」


 玲奈の心情は筒抜けのようだった。何も言わずに黙秘を貫く。


「俺の好きなタイプ、教えてあげようか」

「なに、急に」


 アデルは窓際から離れて、ソファに座る玲奈の隣に腰を落とした。


「素直な子がいちばん可愛いと思うんだよね」

「ちょっ」


 アデルは玲奈の肩に腕を回した。びくりと体が跳ねる。


「恋してる女の子は、特に可愛い」


 金色の瞳と、青い髪のコントラストに、一瞬目がくらんだ。顔を少し傾けるだけで、アデルの色香があふれ出ていた。


 でも、玲奈の心はすぐに平常に戻っていた。


「離れてよ」

「あら」


 ぐいっと体を押しのけると、アデルはつまらなそうな声を出す。


「俺じゃご不満? その男は知らないけど、弟には負けてないだろ」

「さあね。かっこいいだけで好きになるわけじゃないもん」


 直近で好きになった二人はどちらもかなりの色男だが、それは口には出さない。


「残念。ほんとにいいと思ったんだけど」

「……嘘くさい」

「ひどいな」


 玲奈のじっとりした目線を受けてアデルは情けない声を出すが、それも演技っぽい。


「女の子に本気だと思われた試しがないんだよねえ」

「本気じゃないからじゃ?」

「ちゃんと、それなりにいいなあとは思ってるよ。もちろん、レナのことも」

「……」

「大体、上も下も恋愛にああも本気になれるのが珍しいんだよ。俺には色恋沙汰にあんな情熱は持てないね」


 上も下も、というのは、恐らく兄弟のことを指してると文脈で分かった。


(サディがミトラのために動いているのを、知ってるんだ)


 そして疑問が浮かぶ。上ということは、ロアンのことだ。しかし、ミトラの話では、ロアンは妻にまるで興味を持たず、側室にかまけている……。


「ロアンには、ミトラ以外に好きな人がいるの?」

「おっと。そうか、彼女と会ってたんだっけ」


 アデルは少し考えこんだ。


「……うん、レナは知っておくべきかもな」

「……?」

「兄貴の想い人は、きみのお母さんだよ、レナ」

「え……」


 玲奈は、しばし呼吸を忘れた。


「ど……どういうこと。お母さんを……?」

「レナのお母さんは昔、俺たちの魔術の指南をしていてさ」


 アデルは、遠い思い出を語り出した。


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