193話
話を聞いた次の日に、早速行動を起こすことになった。地下神殿からアデルの屋敷へは、魔術で通路を通していてすぐに行けるようだ。アデルに連れられ、玲奈とその後ろにはシェルドが付いて来た。
「一方通行なんだけどね」
「どうして?」
「そりゃあ、王族の屋敷からアジトへ直通できたら、万一の時に危ないでしょ」
「万一?」
「俺がスパイだったとき」
「……地下神殿はあなたを信じてるんじゃないの?」
「信じてるさ。計画も全部話してくれたし、こうやってレナを連れていく役目も任せてくれてる。それに、話を外に漏らすことがないように、魔術もかけてくれてる」
「……そうなんだ」
その魔術を破ったらどうなるかは聞かないでおいた。アデルも難しい立場のようだ。後ろでシェルドは苦笑いしている。
「信じていないわけじゃないけど、保険だよ。アデルにそのつもりがなくても、他の王族も屋敷には出入りできる。アジトに真っすぐ行けてしまうのはリスクが高すぎる」
「まあ、そうだよね」
「入りたいって言った時、すーっごい入念に調べられたのに、用心深いよねえ」
アデルは冗談めかして言った。
「祭司も人の良い顔して、実際は何考えてるかいまいち分かんねえんだよな」
「それだけ、多くを抱えられている方だからな」
薄暗い廊下を歩いていく。十分もかからずに、扉が現れた。シェルドが魔力を翳すと、扉は開かれた。
「地下神殿の導士の魔力でしか、開かないようになっている。アデルが帰還する時はいつも誰かが付き添うってわけだ」
「へぇ、大変」
「俺は一人で勝手に帰るのも禁止されてる訳よ。さ、おいで」
足を踏み入れると、大きな寝台の存在感がすごい。ふかふかのラグの上には、ローテーブルとゆったりとしたソファが置かれていた。
「ここが寝室?」
「そ。サディの奴は、もうすぐ着くはず。出迎えてくるよ」
アデルはシェルドに待機するように言うと、部屋を出て行った。
(サディがここに……)
同じ建物の中にいると思うと、とたんにドキドキと胸が緊張を訴えた。
(勝手に出て行った。怒っててもおかしくない)
協力を取り付けなければいけない。サディが応じてくれるのか、不安はあった。
「好きだったんだ?」
「へぇっ!?」
思わぬ攻撃を受けた。放ったのは当然、ここに唯一いる、シェルドである。シェルドは眼鏡の奥で、いたずらめいた瞳を輝かせた。
「な、なんで」
「だって、すっごい動揺してるし。今日だけじゃなくて、サディ王子の名が出ると、いつも体が強張ってた」
「えっ、ほんとに」
「うん」
観察眼が鋭いのは、導士ゆえか、シェルド本人の性格によるものか。どぎまぎしながらも、弁明する。
「その……恰好よくて……王子様みたいだったから」
こう言うと、何とも幼稚に聞こえて顔を赤くした。別に否定しても良かったのだけど、何故か正直に告白してしまった。
「ん、確かに王子様だね」
「いやそうなんだけど、こっちに来て、いっぱい助けてもらったから……」
「あー、じゃあしょうがないよなあ。確かに良い男だし。アデルは大分チャラついてるし、第一王子は堅物すぎるし、良い塩梅だよ」
うんうん、とシェルドは腕を組み唸った。
「でも、逃げたんだろ」
「……うん」
「今は好きじゃないの?」
「うん。そういうのは無い。けど今から会うと思うと、すっごい緊張が」
「あはは」
シェルドが笑い飛ばしてくれて、玲奈は少し気が楽になったのを自覚した。
「お、着いたみたいだぜ」
シェルドは回路石を取り出した。アデルから連絡が来たようだ。
「ここに来るの?」
「いや、一番奥の応接間に通すと聞いている。俺はこの屋敷内なら、どこでも行きたい放題だからね」
「どういうこと?」
「そういう特性の魔術を持っててね」
「……あ」
「俺なら、遮蔽物があっても、予め印をつけておけば通り抜けられる」
アデルと地下神殿に来たときのことを思い出した。ルヴァリスとアジトを繋げたのは、シェルドの魔力によるものだった。彼は光や時空を、糸のように操れるのだ。
「掴まって」
シェルドに引き寄せられる。腕の中に納まると、一瞬、周りが真っ暗になる。光の糸がぴん、と張られて、その上に自分は立っていた。そして糸は、ぎゅるるる、と巻き取られていき――納まった時、玲奈の前には、目を丸くしたサディの顔があった。




