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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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189/228

189話


 送り込まれた地では、孤児の面倒を見てくれる寺院に身を寄せた。貧しいながらも、安全な場所で、向こうの文字も覚えた。隠れて魔術の研鑽を続け、こちらに戻ってきたときに備えた。


 だが、実際は、想像より酷かった。光る鏡に吸い込まれて、スラジへ戻ってきたとき、彼は十七歳になっていた。


「ここは……王宮の裏か?」

「いたぞ! 捉えよ!」

「ああ!? おいおい、どうなってんだ!」


 この地に降り立った途端に、自分を追う人間がいる。王宮を守る衛兵だ。事情は掴めないが、彼は咄嗟に魔術で身を隠した。彼は非常に優れた導士になっていた。衛兵ぐらいは、すぐに撒けた。


(とにかく捕まったらまずいな。ひとまず家に……)


しかし、身を隠しながら走って辿り着いた彼の生家は、見るも無残な姿になっていた。火が付けられていたのだ。


「クソ……」


 絶望しながらも、そこで僅かな光明を見つけた。


「リュウ様!」

「ユリシアか!」

「こちらへ!」


 父の部下であった男が、声をかけた。彼を助けるため、近くに身を隠していたのだ。


「状況は」

「リオネラ様は、残念ながら既に……こちらに残った者も、いったん身を隠しています」

「……そうか」


 彼の父も、母も、既に殺されていた。戻るときは、安全が確保されたときだという期待を裏切り、彼をスラジへ呼び戻したのは、クーデター一派だったのだ。彼は目を瞑った。堪えたのはひとときで、目を開けた際には、自分のなすべきことだけに集中した。


「例のものは」

「こちらに。リオネラ様から託されています」


 父は死の間際、「血禍の鞘」を部下に確りと託していた。彼は、ユリシアからそれを受け取り、大事そうにしまい込んだ。


(良かった。これさえあれば……)


「一度、国外に逃げるしかありません」

「ああ」


 彼は、部下たち数名と共に、スラジと胡王国を繋ぐゲートへ向かった。しかし、そこには彼の逃亡を防ぐかのように、数々の罠が張り巡らされていた。足止めを食らっているうちに、ついに追手が彼を見つけた。


「奴だ!」

「捕えよ!」


(ぐっ、魔力がもう……)


 何日も魔力を使い続けたせいで、魔術の発動が切れ切れになりつつあった。


(先に、これを)


 彼は、父から受け継いだ血禍の鞘を取り出し、自身の魔力で包み込んだ。それは光の粒に包まれて、姿を消した。


「リュウ様」

「お前たちは逃げろ。機会を待て」

「できません! 私も最後まで」

「お前には仕事がある。いいか。いつか、次が産まれる。俺と同じ場所へ逃がせるよう、取り計らえ」

「…………」

「俺の、父さんの意思を継いでくれ……頼む」

「……分かりました」


 ユリシアは迫りくる軍勢を見て、悔しそうに歯ぎしりし、頷いた。


 視線を、逃げていく部下たちから兵たちに移す。クーデター一派に付いた、馴染みの導士の姿もあった。父を裏切った叔父の姿を、最後に見ることはできなかったのは、心残りではあったが、彼に迷いは無かった。


(どうせ、女神の崩壊と一緒に死ぬつもりだったしな)


 彼は思い切りよく、短剣で喉を掻き切り、自害した。ドサッ、と地に足をつく彼を見て、追手の導士たちはどよめいた。


「死なせてはまずい!」

「処置しろ!」

「治癒ができる術者は居ないぞ!」


 遠ざかる意識の中、彼は自分が蘇生することのないよう、そして、後世の助けになるよう、最後の魔力を放出した。


(兆し子はまた生まれる……俺ができる、助けを……)


 遠い未来で、辛い思いをするだろう子供のことを想って、彼は涙を流した。


「ごめんな……」


 彼の右腕から、銀色の光が放たれた。体から抜けて風に乗り、地面に、樹木に、彼の魂が、記憶が降り注いで溶けていった。その記憶に呼応して、二対の樹木には文字が刻まれた。


 二本の樹の真ん中。その地面に、光の粒に隠された血禍の鞘が、吸い込まれていった。




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