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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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187/228

187話


 ところ変わって、胡王国――。九垓の元に、ヒコトからの連絡が届いた。


「では、レナとは連絡取れず終い、か」

「申し訳ありません」

「いや、あの森には強い結界が張られているのは知っていた。他国の魔力が入っていたら、弾かれても不思議じゃない」

「……いかがいたしますか」


 九垓は唸った。玲奈の命――ひいては、妻の腹の中の胎児が、無事に生まれてくることは悲願である。


(リュウは戦地へ行かせた。王都の砦に、ヒコトは早く国に戻したいところだが)


「彼女がルヴァリスに長く滞在してくれていれば、私としては一番だが……そうも行かないだろうな。レナは帰りたがっている」

「もう少し、情報を探ってみます」

「ああ。私もスラジの伝手を当たろう」


 ヒコトとの通信を切って、一息つく暇もなく、今度は把南が部屋に入ってきた。


「陛下、鎮圧部隊から吉報が」

「……早いな」


 それは、久しぶりの、良い知らせだった。



 数日後、兵たちが手土産を抱えて、王都に帰還していた。その中心人物を、九垓はもろ手を挙げて歓迎した。


「リュウ! よくやった!」

「陛下」

「これで懸案はひとつ片付いた」


 九垓を悩ませていた、典中礼(でんちゅうれい)の反乱軍を、ようやく鎮圧した。反乱軍の要、昂晋を圧するには、リュウの本来の力が不可欠だった。


「昂晋は手強かったか」

「聞いていた程ではなかったですよ」

「ほう」


 九垓は、リュウの様子を観察する。


(封印を解いた反動が出るかと心配したが、問題なさそうだな)


「記憶は落ち着いたか」

「はい。最初はいくらか混乱しましたが、もう大丈夫です」

「そうか――私に、言いたいことがあるようだな」


 リュウの瞳は、強い意志の炎を灯していた。



 * * *



 玲奈を迎え入れた地下神殿では、宵議堂(しょうぎどう)にて幹部たちの会議が開かれていた。ルエルが、口火を切った。


「彼女の様子は」

「少し、ここの生活に戸惑っているかと。今はアデルが見ています」

「彼もそろそろ城に戻る頃だろう」


 アデルは地下神殿に月に一度のペースでやって来るが、滞在は三日が限度だ。女遊びに耽っていると思われ、特段怪しまれてはないらしいが、いつ懐疑の目が向けられるかは分からない。


「国内の状況は」

「扇動は上手くいっています。「破滅の子」は逃げ延びて、王都陥落を企て、潜伏しているという噂が蔓延り、灯地の守(とうちのもり)の元には一層の民が集まっています」


 応えたのは、グランだ。灯地の守。反政府の、市民団体の名称だ。地下神殿は彼らを利用し、国内の反王家の機運を高めていた。


冥教団(めいきょうだん)との接触は」

「友好的な様子を見せてますよ。ただ、私に言わせれば、あの連中はあまり信用しすぎない方がいいかと思いますがね」


 シェルドが言う。ルエルはコツコツと指を机に叩いて、考えた。


「どんな連中も、使い方次第だよ。距離を取りすぎては、何も始まらない。交渉には僕も行こう」

「あとは、貴族ですか」

「そこに近づくには、第三王子殿下の協力が不可欠だ。……レナから情報は?」

「はい。やはり、転移して暫くは、彼のもとに匿われていたそうです」


 ベルナは玲奈から聞いたことを伝えた。


「であれば、レナから接触を図るのが一番か」

「はい」


 兄弟仲が良くないことは知れ渡っている。サディとの橋渡しは本来、アデルでも十分なはずだ。しかしアデルは、自分だけでサディにアプローチしても、信頼されないと口にしていた。アデルは玲奈が来るのを待っていたのだ。


「祭司」


 アボットが深みのある声で問うた。


遺玉(いぎょく)の記憶については」

「彼女が祭壇に触れただけでは、手掛かりは得られなかった。ルヴァリスの情報も、不十分だ」

「ならば……」

「……ああ」


 ルエルは深く息を吐いた。


「決行する」



 * * *



 玲奈は、アデルからその話を聞いた。地下神殿が、サディと協力を取り付けるべく、動き出すということを。


「サディに会えるの?」

「随分嬉しそうだな」

「だって!」


 勝手に出て行ってしまった。あの時は、攫われる危機がすぐ迫っていたため、ゆっくり考える暇もなかった。サディの言葉に傷ついたのは事実だが、そんなことは小さく思えるほど、彼には大きな恩がある。謝りたいこともあるし、単純に会いたい、と思う。


(リュウを好きになったからそう思えるのかもだけど)


 現金だなと思うが、嬉しい気持ちが一番だ。そして、サディと同じくらい、ヤザンにも会いたいと思った。


 しかし、懸念点もある。


「サディが私を助けたのは、国を滅ぼす力があると信じてたからなの。自分が王になるために利用しようとした。だから、真実を知って協力してくれるかは分からない」

「あいつの欲しいものは知ってるよ。女だろ。何とでもなるさ」


 アデルは事もなげに言い放った。


「でも」

「神殿が丸ごとぶっ潰れるような事態になりゃ、自然と王政も大混乱だ。神殿の企みを防いだ恩賞に、ロアンに妻を差し出させるくらいは通るさ」

「そんなことできるの?」

「任せときなって。兄貴にとっては大したことじゃないし。勝手にしろって言って、気にも留めないさ」


 アデルが自信たっぷりなので、玲奈はとりあえず頷いた。そして、他にも懸念はあった。


「シャロフはまだ、サディに仕えてるのかな……」

「……何か懸念が?」

「うん。彼が……」


 ロアンと繋がっている、と言おうとして、思いとどまる。逆廻のことは、アデルは勿論、地下神殿の誰も知らないのだ。


「あいつが?」

「あ、いや……」


 もごもごする玲奈を、アデルは面白そうに見た。何でもない、と誤魔化すが、新たな懸念が噴き出した。


(そうだ、サディのところで今もスパイ活動しているなら、サディに近づくのは危険……)


 しかし、地方貴族勢力を取り込むのに、サディの存在は不可欠だという。


(むしろ、サディにシャロフのことを伝えて、警告するべきか)


「私の、直感でしかないんだけど」

「ん?」

「シャロフが信頼できないの。どうも、サディを裏切ってる気がして」

「へぇ? 兆し子にはそういう能力が備わってんのかな」


 アデルは面白がっている。


「でも、その件ならもう片は付いてる」

「え?」

「王家の一部しか知らない極秘情報だが、サディの護衛は王城への侵入罪で牢に入ってる。サディも嫌疑をかけられ、軟禁状態だ」


 玲奈は息を呑んだ。


「じゃあ……接触ってどうやって?」

「あいつ自身は動けないけど、俺は仮にも王族よ? 適当な理由つけて会えるよ」

 

 アデルはウィンクしてみせた。


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