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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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186/228

186話


 地下神殿には、四十名超の導士が在籍しているという。それに加え、導士でないが、協力者が約五十名。彼らはここには住んでいないが、王家や貴族の情報を持ちより、提供している。アデルもその一人だ。アデルが幹部の導士の紹介をしてくれるという。


「ベルナだ。音を使った幻導術に長けている」


 黒い豊かな髪をウェーブさせた女性が、にっこりとほほ笑んだ。両耳に、大ぶりの銀色のカフがつけられていた。二人目は眼鏡をかけた、理知的な男性だった。


「シェルド。光や時空を、糸のように操れる。曲回廊も彼の魔力で動かした」

「よろしく」


 一見クールそうに見えたが、笑うと一気に親しみやすさがにじみ出た。そして、三人目は、白髪に髭をたっぷり生やした、恰幅の良い初老の男だった。


「アボットだ。会えて嬉しいよ」

「あ、こちらこそ……」


 アボットは、異質を放っていた。先ほど見た地下神殿の人間たちは、殆どが年若い者たち。アボットは、玲奈の疑問を見抜いたようだ。


「導士は、短命なのでな。近親婚を繰り返してきた。日の当たらない生活を長く続けた故でもある。私は、父の幻導術を継いだ。頑丈であるという特性なんだよ」

「それで、アボットさんは長生きをされてる?」

「そうだ。なんせ、どんな傷でも数秒で閉じてしまう。父は百五十年生きたよ」


 アボットは豪快に笑った。しかし、次には複雑そうに呟いた。


「短命なのは地下に限らず、上でもどんどんとそうなっているが」

「向こうは、ここ以上に血に敏感だ。強い幻導術を得るには、優秀な導士たちの血を掛け合わせるのが手っ取り早い」


 シェルドが続けた。アデルは、最後に辺りを見回す。


「グランも呼んだんだけど」

「アイツが祭司以外の指示を聞くわけないでしょ?」


 ベルナは首を竦めて呆れた声を出した。


「グランって、最初に会った……」

「そ。彼も幹部の一人。ま、顔は見てるしいっか」


 玲奈は正直、グランにいい感情は無かったので異論はなかった。ベルナが玲奈を手招く。


「私の隣の部屋を空けてあるの。いらっしゃい」

「ありがとう」



 * * *



 一晩明けて、地下神殿はあまり居心地が良くないと気づいた。何せ、日が当たらないせいで、ずっとどんよりした空気が流れている感じがする。導士たちも、玲奈を遠巻きに見てはひそひそ話し、好意的に見てくれる人は少ないように思えた。廊下を歩きながら、こっそりとベルナに聞いてみた。


「私、よく思われてないの?」

「兆し子には、いろんな感情を持ってるでしょうね。その力で、神殿を倒せるかもしれないし、そのせいで、ここに閉じ込められているともいえる」

「……そんなの、」

「もちろん、レナのせいじゃないわよ。でも、人の感情ってそんなに理性的じゃない」


 ベルナは部屋に玲奈を入れてくれた。お茶と一緒に菓子を貰って、一口。ざわざわしていた心が少し解けた。


「や、お邪魔していい?」

「どうぞ」


 入ってきたのはアデルだ。


「少し落ち着いたか?」

「うん」

「変な奴が多いだろ。陰気っていうか」

「ま、否定はできないわね」


 答えたのは玲奈ではなく、ベルナだ。「そうだね」とは言いづらく、少し矛先を変える。


「でも、ベルナはすごく話しやすいよ。シェルドさんとアボットさんもいい人そうだったし。ね、出迎えてくれるの、ベルナじゃ駄目だったの?」

「幹部はここを離れるのは最低限にしてるのよ」

「へ、なんで?」

「私たちは、祭司の警護が一番の役目だから。兆し子は祭司より優先度が高いと言えるけど、ルヴァリスからここに来るのに危険はないし、出迎えだけなら誰でも良かったから。レナがアデルの顔を知ってると思わなくて、任せちゃったの。ごめんね。怖かったでしょ」

「ううん、そっか」


 祭司――ルエルはそれだけ、この組織で重要な役割を果たしているようだ。


「まだ、俺を信用しきれない?」


 アデルの表情は、悲し気だ。端正な顔立ちが歪んで、そわそわした気分になる。顔が傾いて青い長髪が流れるのも、どこか色気を感じた。


「……私がロアンに捕まったら、どうする気だったの?」

「そうなったらもちろん、こっそり逃がす算段だったよ。それで、ここに隠すつもりだった」

「そうなの?」


 それならば、もしや玲奈はすごく遠回りをして、ここに来たのだろうか。最初に入れられた牢屋を思い出した。もはや、遠い遠い、昔のことのように感じられた。


「でも、簡単じゃないけどね。最適なルートをいくつもシミュレーションしたけど、俺一人で城から誰にも見つからないようにレナを逃がすのは、運任せなところが大きい」

「一人って、あなたの護衛とかは?」

「地下神殿は王政をぶっ潰そうとしている最右翼だよ。俺の護衛って言ったって、仕えてるのは王だ。俺がやろうとしてることを言える訳ない」

「じゃあ、どうするつもりだったの」

「レナが捕まらないように、できることはやったよ。そもそも、きみは神殿の中に現れる手筈だった。それを祭司の術で、少し座標をずらしたんだ。逃げる猶予ができるようにね」

「そうなの?」


 玲奈が最初にこの地に顕現したのは、王城の庭。壁のおかげで周囲からは目隠しされていた。といっても、城の敷地内で、玲奈は何度も捕まった。


「動かせるなら、もっと安全なところにできなかったの?」

「あれで精一杯なんだってさ」

「すっごく難しい魔術なのよ。下手したら、レナの体がばらばらになっちゃってたかも」


 ベルナが付け加えた。玲奈は想像して顔をしかめた。


「でも兄貴は勘が働いたみたいで、レナの方に行く気配があったから、ひやひやしたよ」

「気配?」

「俺はあいつの居場所が、何となく分かるんだ」

「それが、あなたの能力ってこと?」

「導士が産まれ持つ能力とは違うよ。俺は魔力を体内生成できない、普通の人間。でも、何でかロアンの気配だけは、昔から分かるんだよ」

「へぇ……」


 二人には血縁故の、不思議な繋がりがあるようだ。


「俺がロアンを足止めしてなきゃ、レナは城で捕まってたよ。何とかなってよかった」


 何とかならかったのは、ここではレナしか知らない秘密だ。


「ロアンを足止めしてたから、あなたは私を助けに来れなかったってこと?」

「いや、元々俺は城の裏側の指揮を任されてたから、レナを迎えにはいけなかった。そんで、わが弟がきみを救出できるよう、仕向けた」


(サディはそれであそこに……?)


 とりあえず、アデルのこれまでの行動は、納得できた。


(やたら処刑場で絡んできたのも、牢屋に行くのを怪しまれないためだったのかな)


 聞けない謎は、心に留めた。



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