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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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185/228

185話


 玲奈は、暫し呆けた。


「状況は掴めたかな」

「……私の前にも、いたんですね」

「そう。兆し子は、きみで二人目だ。前回では、兆し子はラプラトの復活を回避すべく、死んだ。ラプラトの復活は先延ばしになり、そして、きみが現れた。しかし前回のことは、今の王族は知らない。真実を知っているのは、神殿の上層部、そして我々のみ」

「地下神殿の母体って……」

「お察しの通り。我々は、クーデター一派に追い出された、元来の神殿の長の一派だ」


 正しい宣告を聞いた人々の、子孫。それが、このような地下に追いやられているというわけだ。


「何で王族は、クーデター一派を重用したんですか? 自分たちを滅ぼそうとしてるんでしょう?」

「王家への情報を止めている隙に、弟側は、長こそがクーデターを計画していると吹き込んだんだ。そして同時に、貴類の宣告を捻じ曲げた。長の子供がラプラトの先祖返りである。その子供を哭剣で殺せば、女神の復活を免れ、国の破滅を防げると」

「……それが今も信じられていて、私を処刑することに」

「そう。長が兆し子を異界へ送ったことで、王家は長がクーデターを行うと、確信を持ってしまった。長が否定しても、遅かった」


 確かに、長が自身の子供を助けたいばかりに、クーデターを試みるというのは、状況的に信じやすい。王家への情報を止めていたのも、疑いを深めることになっただろう。そして、それをリークした弟は、重用された。


「でも、クーデター派の望みって、自分たちが王家に代わって国を治めることでしょう? 千年経っても、未だに神殿で王家に仕えてるのはなぜですか?」

「長は人望があったからね。多くの導士を仲間割れで失い、残った導士のみでクーデターを起こすのは無理だと判断したんだ。当時、既に王の率いる軍隊はかなりの数があったし、神殿は多くの魔石を王家に提供していた。いくら導士が強い魔術を使えると言っても、十数人では敵わない。だから、次の兆し子が生まれてくるのを、長い間、じっくりと待っていた」

「……」

「勿論その間、何もせずにいた訳ではない。神殿は断史を行って、正しい史実を記した書物を、全て焚書にした。兆し子に関わることは勿論、導士の誕生から捻じ曲げた」

「導士は、村娘が貴類と恋に落ちて、力を授かったっていうのも」

「そう。貴類を使って自分たちの名声を上げた。王家と神殿の関係も、対等なものであり、神殿は王政への助言をする立場だと」

「そんなことができたんですか?」

「時間はかかったが、やり遂げた。神殿は、王家の信頼を徐々に勝ち取っていった。過去の文字を消し、神殿の非難をした者は罰した。数世代を経た時には、史実は神殿の作ったシナリオにすり替わった」

「じゃあ、あなたたちは書物が何も残ってない中、生き残った人たちの証言だけを信じて今に?」

「破棄される前に確保した書物はここに貯蔵されている。地下神殿の歴史は、確かなものだ。そして、アデルの証言で、一部の書物が王宮内に残されていることも分かった」


 アデルが言っていた、王宮の図書庫に隠されていたという、解読できない本。


「どうやら、その部屋は王族が入れないような細工がされている。何故アデルだけ入れたのか、現地を見ないことにははっきりとは分からないけど、王宮に隠されているということこそ、神殿が歴史を改ざんした確かな証拠だ」

「何でその本は焚書されずに隠されたんですか?」

「恐らくそれは、我々の母体たる導士たちの魔術がかかっているのだとみている。燃やされることも、図書庫から持ち出すこともできないようにされたんだ。神殿は、隠すしかなかった」

「それがあることを、アデルが王族に伝えたら事は済むんじゃないですか?」

「それは我々も進言して、実際やったんだ。けど、図書庫に連れて行っても、他の王族には見えなかったらしい。外に本を持ち出すこともできず、本の内容を写そうとしても、中に紙は持ち込めず、部屋を出た途端、仔細を覚えられなかったという。相当強い魔術がかかってる」

「……ほかの国は? そっちの書物までは手が出せないんじゃ」

「交易はあったけど、王家は神殿の情報を国外には出してなかった。導士の力は、軍事力に直結するからね。でも、完全には抑えられてはないよ。各国のトップは、スラジの神殿に対して懐疑的な見方を見ているし、我々と通じているところもある」

「じゃあ、神殿がクーデターを考えているって、知ってる国もあるんですか?」

「確信には至ってなくても、操られている国内よりは正しい情報を持っているだろうね」

「じゃあ、何でスラジにそれを黙ってるんですか」

「そりゃあ、スラジが滅んでくれるなら、その方がいいと考えてる国は多い」


 そう言われて、玲奈はサディの言葉を思い出した。


「あなたたちがこの情報を伝えても、王家は信じない?」

「信じない」


(……やっぱり、戦うしかないんだ)


 吐き出した空気は重たいものだった。


「ルヴァリスから、核の話を聞いたかい」


 玲奈は頷く。


「初代の兆し子が自害したとき、血溜りから脈打つ核が現れたんだ。王家はそれを回収した。数日後、兆し子の体が完全に生気を失うと、核は割れて、石化した。その意味を知るため、王家はルヴァリスに協力を仰いだ」

「神殿ではなく、ルヴァリスに?」

「当時、既に神殿は王家に深く入り込んでいた――が、地下神殿側の訴えに耳を貸す者もまだ残っていた。王家は確実な情報を得るため、ルヴァリスと密約を結び、貴類の声を聴いたという。ルヴァリスがカンシュタットの領地でありながら自立性を保っているのは、スラジの働きがあったからだ」

「……ルノーは、当時の経緯は知らないって」

「文字に残すことは封じられたのだろう。――核が石化したのは、兆し子から女神の血が分かたれた証。王家は石化した核を保管し、今に継いでいる。レナが同じものを示せば、王家はきみを開放するしかない」


 王家が核の壊し方はルヴァリスに聞かなかったのは、破滅の子が既に死んで、もう核が壊れていたから。神殿を巡る権力争いの最中で、信頼性をルヴァリスに求めた。その後、神殿の力が増して、間違った情報も生まれたが、核の石化が、ラプラトの血が破滅の子から分かれた証だということは今も正しく伝わっている。それを示せば王家は玲奈を処刑できない――。


 玲奈が進む道は、見えてきた。


「ルヴァリスは、核の取り出し方は教えてくれた?」

「哭剣で肌を切って、血を流せば核が出てくるって」

「……それだけ?」

「はい」

「そうか」


 自分のやることが明確になり、拳を握った。ルエルはその様子を見たのち、おずおずと玲奈に質問する。


「それ以外に何か見たものは?」

「……? それ以外って?」

「何か、感じ取ったとか」


 ルエルの質問はやたら曖昧で、要領を得ない。


「どういう……」

「いや。何もなければ大丈夫」


 不思議に思ったが、ルエルはそれ以上は続けず、玲奈を上階へ帰した。


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