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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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183/228

183話

(ここが地下神殿……)


 中に入ると、柱は入口を閉じた。玲奈は周囲をきょろきょろと見まわす。


「本当に地下にあるの?」

「その名の通りね」


 地上から隔離された、石造りの空間。だというのに、天井は高く開放的で、息苦しさはなかった。壁には創世の神々が彫られている。その周囲には渦巻く雲、波、星の軌跡が細密に刻まれていた。床も石張りで、コツコツと靴が鳴る。辺りの光景に夢中になるばかり、玲奈は後ろから寄ってきた人間に気づかなかった。


「予定時刻を過ぎている」

「ひっ!」


 突然かかった声に、飛び上がった。バッと後ろを振り向けば、黒髪の男が不機嫌そうにアデルを睨んでいた。


「いや、ちょっと説得に時間がかかっちゃって」

「説得?」

「俺のことを知ってたんだよ。怪しまれちゃって」


 その男は、玲奈に視線を移した。瞳は青く。切れ長。全体的に細身で、襟が首元まで詰まった、黒い祭服を纏っていた。


「グランだよ。地下神殿の導士の一人だ」


 玲奈を見つめたまま、何も喋らないグランの代わりに、アデルが紹介した。玲奈は頭を下げたが、グランは微動だにしなかった。


(少なくとも、アデルが地下神殿の一員として受け入れられているのは間違いない。スパイの線はまだあるけど)


 二人が喋っているのを見て、玲奈はようやく一つ安心した。そして、色々と聞きたい、とグランに話しかける。


「あの」

「女は好きじゃない。喋りかけるな」

「な……」


 玲奈は絶句した。


「ね? 言ったでしょ。俺が適任だって」


 目を見開く玲奈の傍ら、アデルがため息をついた。


「しかし、その女は追い出せない。お前が案内を果たせ」

「はいはい」


 仮にも一国の王子だというのに、アデルは全く敬意を持たれている様子はなかった。王族の敵対組織とあれば、こうなるのが自然なのだろうか。


「それと、祭司がその娘をお呼びだ」

「じゃあ、先に祭壇に行くか。ついでに宵議堂(しょうぎどう)に顔見せよう。おいで、レナ」


 地下神殿は、広さのわりに人の姿が見当たらない。しかし、地階に続く階段を下りて、それは勘違いだと知る。入口から一つ下の階に降り立つと、何十という人が同じ祭服に身を包んでいた。そして、玲奈が現れたとたんに、ぴたりと動きを止めて、一斉にこちらに注目した。


「やあ、皆さんお揃いで」

「兆し子……」

「あの子が」


 静寂から、騒めきが広まっていく。玲奈はある言葉に引っかかった。


兆し子(きざしご)って、私のこと?」

「そう。この地下神殿では、きみをそう呼んでる。ここは宵議堂(しょうぎどう)。組織の中枢部だ。もう一つ下が居住区」

「え、ここに住んでるの?」

「そりゃあ、彼らはお尋ね者だからね。地上に出るのは諜報活動に行くとき位だ」


 言われてみると、皆、色白くて細身だなと思ったが、それは口に出さないでおいた。


「この組織って」

「おっと、それは下でボスに直々に聞いた方がいいな」


 そう言って、アデルは更に下って行った。その玲奈の姿を、ぎょろぎょろとした目玉たちに見られ、居心地の悪さに耐えながら付いて行く。もう一つ下の階は、先ほど聞いた通り、導士たちが住んでいるようで、いくつもの部屋が連なっている。アデルはすっ飛ばして、更に下に下った。


「ここが最下層」


 そこは、上の階とは様相が違っていた。壁も床も、水晶のように透き通っている。玲奈は迷宮で、氷張りの中、そりで危うく命を落としそうになったことを思い出した。ひたひたと足を進める。ふと、アデルが足を止めた。前方から、声がかかった。


「やあ、よく来たね」


 その声は、男のものにしては高く、柔らかで、敷き詰められた水晶のように、透き通っていた。アデルが一歩、横にずれた。現れた人物は、声の通り、柔和で優しそうな男だった。


「あなたは」

「ルエルという。一応、この地下神殿を治める立場。みんなには、祭司なんて呼ばれてる」

「祭司……」

「きみはお客様だし、ルエルって呼んでよ。名前で呼んでくれる人がいなくて寂しいんだ」

「はぁ」


 地下神殿のトップという割には、威厳という言葉はあまり似合わない、若くて親しみやすい男だった。柔らかそうな銀の髪をさらりと揺らし、瞳は薄い緑色。ほかの導士と同じような祭服を着ているが、裾や袖の装飾が凝っていた。


「聞いてもいいですか」

「もちろん。何でも聞いて」

「アデルを、どうして受け入れたんですか。敵ですよね」


 この地下神殿という組織は、王族を倒そうとしている一派だ。アデルが近づいてきたときの経緯、どうしてアデルを信頼しているのか。玲奈は、アデルを信頼していいのか。彼ほど、尋ねるのに相応しい人物はいまい。


「その者が(まこと)を述べているかどうかは、目を見れば分かるよ」

「それは、あなたの能力?」

「いやいや。魔術は関係ないよ。生きている内に養ったものだ」


 つまり、勘ということか。そんなあやふやなもので、アデルを信用したというのか。玲奈は懐疑的な目を向けざるを得ない。


「スパイだったら、どうするんですか」

「その時はその時。でも、そうはならないよ。僕は彼を信用してる」

「……そうですか」

「あーんま、納得いってなさそうだねぇ」


 アデルも口を挟んできた。どうしても、最初に見た、処刑場での印象が強く、敵という警戒が抜けきれないのだ。ルエルのお墨付きが欲しかったのだが、それも直感という、なんとも頼りないものに過ぎなかった。


(自分で判断するしかないのね)


「ひとまず、ルエルさんがアデルを信用してるのは理解しました」

「うん、それでいいんじゃない? 信頼は勝ち取るものだ」


 ルエルはアデルに「頑張って」と励ました。



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