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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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182/228

182話


「どうやって行くの?」

「魔具を持たされてる。これだよ。曲回廊(きょっかいろう)


 アデルはくすんだ金色のコンパスを取り出した。古びていて、汚れが目立つ。蓋を開けると、そこにはコンパス針はなく、代わりに銀色のリングが浮きながら、回転していた。


「これが?」

「そ。導士の魔力にしか反応しない。既に流し込んでもらってるから、あとは発動させるだけだ」


 そう言うと、アデルはリングを指で弾いた。キィン、と甲高い音が鳴り響き、リングから銀色に輝く、光の糸が飛び出てきた。


「うわっ、なに」

「この糸が、通路の向こう岸まで伸びる」


 一分もしない内に、光の糸はチカチカと点滅しだした。


「向こうに着いた。さ、おいで」

「わ」


 アデルに腰をとられた。


(ちょっと、距離近っ)


 青いさらりとした長髪が、玲奈の顔にかかってくすぐったく、首をすくめた。ぎゅ、と腰を引き寄せられた瞬間、玲奈の体は強い向かい風の中にいた。


「ひゃぁっ!? なにっ」


 服が強風にあおられる。ビョオオ、と風が切る音が鼓膜に響いて、目を開けているのも辛くなってきた。


「曲回廊の糸が巻き取られてるんだよ。糸の上に乗った人間は、一緒に運んでくれる仕組み」


(い、糸の上? 巻き取られてる?)


 恐る恐る足元を見れば、確かにさっき見た光の糸のようなものの上に玲奈は乗っていた。


(あんなに細い糸だったのに)


 玲奈が縮んだのだろうか。糸が大きく伸びたのだろうか。


「あとちょっとだ」


 たっぷり十分、強風の中を進むと、やがて風は納まった。足ががくがくと震えていたのを見て、アデルは手を差し伸べたが、玲奈は「大丈夫」と断った。


「こっからは歩くよ。あと一時間くらいはかかる。曲がり道は、糸が伸びないんだ」

「……今ので、どのくらいの距離を進んだの?」

「ざっと三千kmくらい」

「三千っ!?」


 そんな距離を進んだようには思えなかったが、これが魔具の力なのか。


「その道具、凄い強力なんじゃないの」

「大正解。これは地下神殿が断史紀(だんしき)から保有している、占有魔具の一つ。地下神殿の導士の魔力でのみ発動するもの」

「断史紀って?」

「俺が求めている、この国が隠している真実の時代のことだよ」

「……あなたが知ってること、詳しく教えて」

「勿論。拠点についたらゆっくりと」


 それはきっと、ルノーが言っていた、スラジの政治闘争の歴史。玲奈の宣告が捻じ曲げられた経緯、誰が仕組んだのか、何が目的なのか。全てが分かる鍵だ。



 * * *



「おいで」


 通路の行き止まりは、急な傾斜だった。言うや否や、アデルは再び玲奈の腰を掬って上った。最初に処刑場で話しかけられた際の軽薄な物言いは、演技が入っていたのかもしれないが、女たらしなのは本性であるようだ。


(女遊びに耽ってたとか言ってたな)


 じとりとした視線を受けても、アデルは「ん?」と爽やかな笑みで躱すだけだった。


 大きな扉が現れる。ルヴァリスの森から入ったときのものと、同じ形だった。アデルが魔石を取り出して、扉に翳した。扉がゆっくりと開き出す。


(……石像?)


 開いた先、玲奈の目に一番に飛び込んだのは、貴類を象った、巨大な石像だった。目の部分には、宝石が埋め込まれていた。あれは、魔石なのだろうか。


「こっち」


 扉を越えて、一線を踏み越えた瞬間。玲奈は空気が変わったのを感じた。じめっとしていて、不快感がある。そして、お香のような、焦げた木肌と仄かに甘い匂いが漂っていた。通路の両端に、石灯が吊るされていて、人工的で、不気味な青白い光を放っていた。少し歩くと、前方に、鎖が巻き付けられている石柱が立ち並ぶのが目に入った。


「ここが拠点の入口だ。開けてもらわないと」


 アデルは回路石を取り出して魔力を込めた。数秒待つと、鎖がガチャガチャと独りでに動き、柱から解放されていく。鎖が取れると、柱がゴトゴト、と重そうな音をきしませて左右に開かれていった。人が通れる大きさまで柱が動くと、アデルは玲奈を伴い、中へ入っていった。



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