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どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


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177/228

177話

(どこまで行くんだろ……)


 五分か、十分か。貴類の後ろを恐る恐るついて行く。近くに来ると余計に、この生物の異質さが分かる。人の道理が通じる者ではない。息が浅くなるのを感じた。


 やがて、貴類は足を止めた。長くかかったのか、そうでもなかったのか、玲奈には分からなかった。貴類は大きな木の下に腰を下ろすと、玲奈を見つめた。


「……あの、私、聞きたいことが」


 貴類はゆっくりと瞬きをした。


(は、話せってことかな)


「迷宮にいるとき、助けてくれたちっちゃな生物に、かみなりって名前をつけたんです。あれは、あなたたちと同じ、貴類ですか?」


 貴類は目を閉じた。玲奈はじっと待つ。背後から、カサカサと僅かな物音がした。振り返ると、そこには、懐かしい姿があった。


「――っ、かみなり!!」

「ンナ!」


 小さな子猫の背中に、翼がぴょこんと生えている。前足を上げている姿は、よっ、とでも声が聞こえてきそうだ。


「この森にいたの?」

「ナ」

「そっか。やっぱり、貴類なのね?」

「ン」


 一応、何となく言っていることは分かるが、もっと詳しく知りたい。貴類と喋れるつもりだったのだが、玲奈はやっぱり無理なのだろうか。そう諦めかけた時に、頭の中に声が響いた。


『それは特殊な個体だ』

「え!?」


 玲奈はばっと振り返る。貴類の口は動いていなかったが、頭の中に、確かに声が聞こえた。しゃがれた、老人の声だ。


(ルノーに見せてもらったのと、同じだ)


「あなたが喋ったんですか」


 貴類は頷いた。


『私たちの口腔は言葉を発するのに適していない』

「ああ、それで……」


 貴類はかみなりの説明を続けた。


『人が貴類と呼ぶ我々は、幼体を持たない。次代は、前代が朽ちると、炉から生まれ出る』

「炉?」

『そこで命が朽ち、芽吹くのだ』


 分かったような、分からないような説明だったが、そこはあまり気にするところではないだろう。


大母(だいぼ)が、三度、この世に出でんとしている。それを視た我々は、手立てを考えた。企てを、阻止すべく。それこそ、今、きみの手に収まっているものだ』


 大母、というのは恐らく、ラプラトのこと。最初の貴類は、ラプラトから生まれたのだ。


「この子は、あなたたちがラプラトの計画を阻止するために、用意した特別な子、ということですか」


 貴類は頷いた。かみなりは、腕の中であくびをしている。


「魔石から出てきたのは?」

『我々が忍ばせた。きみに近く、我々の力が豊富なものへ。環境が整えば、顕現できるように』


 貴類は、玲奈の目を見つめて、続ける。


『我々は、人の世に、大きな干渉はできない。きみの処刑が決まった時も、決定を覆すことはできなかった。幼き赤子が安穏に育つよう、胎児に戻して父母の確かな庇護を得るようにするので精一杯だった』

「それで……」


 玲奈がこちらで産まれた後、元の世界で母の腹から出てきたのは貴類の力だったようだ。知らないだけで実は養子だったという可能性も考えていた。


「私、こっちで罪人の印を付けられたみたいなんですけど、胎児に戻してもそれは消せなかったんですか?」

『消すことは容易い。だが、それは我々の領分を超える』


 印を消すことも、人の世界に過干渉になると判断したということか。玲奈からすれば、そんな力があるなら、スラジのやり方に否を唱えるのは簡単だろうと思ってしまうが、貴類のルールではそれはできないようだ。


 貴類は、かみなりに視線を向けた。


『それをうまく使いなさい』

「使うって、どういう風に」

『多くはできない。我々と同じような力は、ない。だが、人ではない。そういうことだ』


 どういうことだろう。玲奈にはあまり分からなかった。


「かみなりは、ここから一緒に来てくれるってことですか?」

『いいや。我々の力が潤沢に及ぶ場に限り、現れる』


 迷宮は、そういう場所だったのか。あれを作ったのは、導士。導士の力は、貴類から授かったもの。導士の魔力が張り巡らされる場所ならば、かみなりは姿を現せる。


「かみなりが、途中でいなくなっちゃったのは?」

『それは、寒さに弱い』

「そうなの?」

「ンニ」

『我々は普通そうではない。かの国は暑い。耐えられるように作った』


 いなくなったのは、偽物のリュウたちが表れた時だった。トンネルをくぐると、一気にひんやり感じたのを思い出した。ルノーが言っていたように、貴類はひんやりしたところが好き。だが、スラジは暑い国なので、かみなりは暑さの耐性を持つようにした。代わりに寒さは苦手ということらしい。


「氷の中に、一瞬、かみなりの姿を見た気がしたのは……」

『寒さに身動きが取れなくなったところを捕らえられたのだ』

「誰に」

「あの地に粘着する、強い執念だ」

「……? あの、よく」


 分からない、と続けようとした言葉はさえぎられた。


『地に逃げようとしたのも失敗し、閉じ込められた。だが、きみが救い出したことで、ここに顕現できた』

「地……?」

『我々は、この地を境に、住処を行き来する』


 そういえば、ルノーもそう言っていた。かみなりは、あそこから冥界へ行こうとしていたのか。よく分からないが、迷宮の何かしらの力にとらえられてしまった。檻を外へ持ち出したことは、必要なことだったようだ。あれでかみなりは逃げることができたのだ。


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