176話
滞在中、ルノーの特技で驚いたことがある。
「飯できたぞ」
「わぁ! 今日も美味しそうっ!!」
湯気の立つ料理は、キラキラと輝いて見える。野菜を煮込んだ具沢山のスープに、こんがりと焼けた、バターの練りこまれたパン。色鮮やかなサラダに、メインはほろほろに煮込まれたお肉料理だった。聞けば、森の敷地内には木々を伐採した畑があり、買い出しに行かずとも粗方の野菜は手に入るようだ。
「なんのお肉?」
「これは鹿」
「へぇ~!」
いただきます、と手を合わせて、一口。
「ン~~~~っ!!!」
その美味しさに、頬が落ちた。
「美味そうに食うね」
「だって、ほんっとうにおいしいもん……料理上手だよねぇ」
「好きなんだよ。手をかけた分、成果が分かりやすい」
「いいなあ。私も料理上手くなりたい」
「ん? 一緒にやるか?」
「え! 教えてくれるの?」
「どうせ暇してんなら、手伝えよ」
「うん! やった!」
向こうに戻ったら、料理を趣味にするのもいいなあ、と玲奈は呑気に思った。
「これ、一センチ幅に刻んで」
「うん」
ルノーが手際よく材料を振り分ける横で、怪しい手つきで包丁を扱う。ルノーは近くでそれをじっと見ているが、真剣に野菜に向き合っている玲奈は全く気付かなかった。
「どう?」
「上出来」
時間をたっぷりかけて切り終わり、ルノーを見上げると、思ったより近くにいて少し驚いた。そして、その顔に、慈愛の色を見つけた。
(……気遣ってくれたのかな)
「次、これとあえて」
「はい!」
(優しい人だよなぁ)
一緒に過ごすうち、彼に、兄のような頼りがいを感じ出していた。
昼食時。その日も、一緒に作った料理を食べていた。粗方食べ終えてまったりとしていると、ルノーがドアの外に神経を向けた。
「どうしたの?」
「……いる」
「え?」
「ついて来い」
いつもすぐ片付け出す食器を置いてけぼりにして、ルノーは扉へ向かった。慌てて玲奈もついていく。ルヴァリスの森は、それまで玲奈が感じた雰囲気とは、違う空気を纏っていた。ひんやりとした冷気が肌にピリピリと刺す。ザクザクと落ち葉を踏みしめるほど、それは如実になっていった。
ルノーは小さな池の前で足を止めた。玲奈を手招きし、前方を指さす。
「貴類だ」
池の向こう側に、生物がいた。強く惹かれたのは、瞳だった。玲奈はそれを、サディにもらった魔石みたいだと思った。青く輝いているが、何層にも奥に煌めきが広がって、宝石のような目をしていた。その目を飽きるほどに見て、ようやく体に目が行った。頭と胴体は鹿のような形をしていたが、足は光の粒子が集まっているかのように、透けていた。頭頂部からは、一本の角が真っすぐ生えていた。摩訶不思議な生物だった。
(あれが……)
貴類は、横を向いた。
「ついて来いって言ってる」
「え!?」
「行け」
「ルノーは?」
「俺は呼ばれてない。あんただけだ」
ごくりと息を呑む。そう言われたら、行くしかない。玲奈は意を決して、落ち葉を踏んだ。玲奈が付いて来たのを確認してか、貴類はゆっくりと後ろを向き、先導して歩き始めた。




