表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうやら私は破滅の悪女らしい  作者: りらこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
175/228

175話

「かつて、神の世には三千の神々がいたとされていて、一つずつ、計三千個の神話が残っている。そのうちの一つが、ヒリアムの神話。それを元にしたのが、ヒリアムの呪いだ」



 遠い昔。楽園に、ヒリアムという女神がいた。ヒリアムは内向的で、家に閉じこもってばかりだったので、あまり周りの神たちに好かれなかった。自信がなくて、外に出ると、いつも俯いていた。でも、一人だけ、幼馴染の友達がいた。ヘカテといった。彼女はヒリアムとは反対に、明るく美人で、いつもみんなの人気者。多くの男神たちから求愛されていた。ヒリアムは成長するにつれて、自分とヘカテを比べて、どんどん卑屈になっていった。


 転機が訪れたのは、ヒリアムが十六歳のときだった。ヒリアムが久しぶりに外に出かけると、道に迷ってしまった。雨に打たれて蹲っていると、彼女に手を差し伸べてくれるものがいた。男神・スサルだった。彼は真っすぐな性格で、根暗で卑屈なヒリアムにも優しく、道に迷ったというと、親切に家まで送ってくれた。ヒリアムはスサルに恋をした。しかし、問題があった。


 彼は、ヘカテの恋人だった。


 スサルを手に入れたい。でも、彼はヘカテの恋人だ。そうでなくても、自分が好かれるはずがない。現実に打ちのめされながらも諦められないヒリアムは、冥界の魔女・ワラテを訪れた。彼女は欲望のままに神の力を使い、天界を追放された女神だった。


「彼を手に入れたいの」

「ほう。では、代わりにお前が差し出せるものを貰おう」

「代わりに?」

「この呪いには対価が必要だよ」

「でも、私に渡せるものなんて」


 迷うヒリアムに、ワラテは提案した。


「美しい女神との、友情があるじゃないか」


 ヘカテのことだ。年々、ヘカテへの僻みを強めていたヒリアムはすぐに頷いた。ワラテは、ヘカテに呪いをかけた。ヒリアムが天界へ帰ると、スサルはヘカテを激しく嫌悪し、拒絶していた。ヘカテはショックのあまり、この世から姿を消し、異界へ旅立った。


 その後、ヒリアムは熱心に、根気強くスサルを口説いた。スサルは遂にヒリアムに応えた。二人は夫婦になった。二人の間には、三人の子供ができた。ヘカテとは疎遠になったが、ヒリアムは全く気にせず、幸せな生活を送った。



「その呪いが、私に?」

「そう考えれば自然。誰かがレナちゃんにヒリアムの呪いをかけた。恋人の彼が、呪いの影響に充てられてしまった」

「……解く方法はないの?」

「続きがある」




 ヒリアムとスサルが結婚して、十数年が経ったころ。突然、スサルが叫んだ。


「なぜお前と結婚してるんだ!? 俺を騙したな!」


 呪いが切れたんだ。ヒリアムはすぐに理解して、ワラテのもとへ行った。


「どうして!」

「対価がつきたのさ」


 ヒリアムとヘカテが幼いころから築いた友情は、十数年。同じだけ時が経って、スサルの心にかけた呪いは、効力を失ってしまったのだった。失望のままに天界へ帰ると、家はもぬけの殻だった。スサルも、子供たちも、みなヒリアムのもとを離れてしまった。


 家に引きこもるヒリアムのもとを訪れたのは、異界より戻ってきた、ヘカテだった。


「私を笑いに来たの」

「そうね」


 ヘカテは、ヒリアムがしたことを分かっていた。時間を経て、失意から立ち直ったヘカテはヒリアムを責めることなく、彼女に寄り添った。ヒリアムはすべてを失ったが、唯一持っていた、ヘカテとの友情だけは、手元に戻ってきたのだった。


「スサルとヘカテは、寄りを戻さなかったの?」

「神話では、スサルはその後、別の女神と結婚している。呪いが解けた時、ヘカテは異界にいたからな。その内、ヘカテへの愛も冷めちゃったみたいだ」


 ヘカテの立場になっている可能性がある玲奈としては、眉を顰めてしまう。そして、ヘカテという名前には聞き覚えがあることに思い至る。


「私の世界でも、ヘカテっていう女神は、神話に出てくるよ」


 玲奈が思い浮かべたのは、ギリシャ神話に出てくる女神だ。魔術や冥界を司るという言い伝えもある。


「へえ? ヘカテが旅立った異界は、あんたが行ったところと同じ世界か……気に留めておいた方がいいかもな」

「どうして?」

「レナちゃんは、ヘカテと因縁があるのかもしれない。同じく、ヒリアムの呪いをかけられた……そういった縁は、厄介なもんを引き寄せる」

「気に留めろって……何をしたら」

「そこまでは俺に聞かれても」


 ルノーは首をすくめて、話を戻した。


「神話では、対価が尽きた時に呪いが解けた。現代に伝わる呪いを解く方法も同じ」

「他に解く方法は無いの?」

「あとは、術者の魔力が切れることだね。術者が自発的に呪いを解く。でなければ、術者を死なせるしかない」

「…………」


 玲奈は、閉口するしかなかった。


(そもそも、誰が? いつ? 呪いだと決まったわけじゃないけど)


 そして、一人の人物が、思い浮かんだ。


(ユラン……)


 彼女が、玲奈への嫉妬心、リュウへの気持ちを暴走させ、このような呪いをかけたのだろうか。一番、動機があるのは彼女だ。


「呪いってどうやってかけるの」

「被呪者と対面して術を施す。つまり、あんたと会ったことがある人物だな。それに呪いとは呼ばれているが、禁制魔術の一種だ。並の導士じゃ扱えない」

「導士じゃない人がかけるのは無理?」

「無理だ」


(じゃあ、ユランじゃない?)


 ユランは、導士ではない。


「心当たりがいるのか?」

「そうかと思ったんだけど、その子は導士じゃなくて」

「んー……導士に依頼した可能性はゼロじゃないが……」

「……その子は、立派な家系の娘だと言っていた。もしかしたら、伝手があるのかも」

「呪いをかけるには、大事な要素がいる。強い執念をもっていることだ。他人に頼んだとして、うまく発動するとは思いにくい」


(執念……)


「ちなみに、三千の神には生まれた順番に、番号が振られている。ワラテはかなり古く、八番目の女神だ」

「ふうん?」

「そして、三千番目の女神がラプラト」

「ラプラトが最後の神様ってこと?」

「そう。ラプラトが父親の大司神・ハンダルを呪い返して殺してしまって、神の世は終わりを告げたんだ。その先は、人の世になった。レナちゃんが下手を打てば、また時代は逆行するかもね」

「…………」


 ルノーは「冗談」と笑ったが、玲奈の口は引き攣る。ルノーはそれを笑い飛ばすと、暫し物思いにふけって、考え込んだ。


「ヒリアムの呪い……他の可能性は……調べてみるか……」


 ルノーはぼそぼそと呟いて、部屋の奥に入っていった。ここには貴類のみならず、魔術の書物も沢山あるようだ。どうやら、彼は知的好奇心の強い人物らしい。


 一人になって、反芻する。


(恋人に嫌われる呪い……私は帰るんだし、どうせ、リュウと一緒にはいられないけど、でも……)


 理性とは裏腹に、リュウへの恋心は、くすぶって、消えてくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ