173話
「あんたが無事に帰るには、血に流れる破滅の子の核を壊して、王族に証明するのが一番早い」
「核?」
「破滅の子の血には、ラプラトの生まれ変わりであることを示す核があるという。核を取り出し、哭剣で貫く。無事核が壊れると、半分に割れて石化する」
「血を剣で貫いたら、私死にません?」
「いいや。血は数滴流せば十分だ。それで核が取り出せる」
剣を使って、核を取り出す。それが第一の手順。それで、壊れて石化した核を王族に提示する。
「……それを見せただけで、本当に納得してくれるの?」
「間違いない。破壊された核が、破滅の子の役目の終焉であると、スラジの文献にしっかり記述されている。間違った情報が伝わっているのは、その核の壊し方だ。王族が哭剣によって、破滅の子を殺すことでしか、核は破壊されないと信じられている」
「どうして?」
「かつて、スラジの王族からルヴァリスに、石化した核についての情報提供を求めたことがあるらしい。それで、神殿の入る余地なく王族に正しい情報が伝わった。ただ、当時の詳しい経緯は残ってない。スラジが聞いたのは壊れた核の意味するものだけで、核の壊し方は聞かなかったみたいだな」
「経緯が残ってないって?」
「政治取引があったのか、横やりが入ったのかは分からない。でも、スラジの王家が現在も石化した核について認知しているのは確かだ」
「本当に、それで私を解放してくれるの」
「ああ」
玲奈はいまいち疑心暗鬼だった。ロアンの、あの猛烈な執念を見てるからだ。それがどうしたと、玲奈を殺そうと言い出しかねない。ルノーはその心配を否定した。
「スラジは暴君の独裁国家じゃない。王家に代々伝わってる決まり事を破って、暴虐するようなことはしない。それをするなら、国家としての権威や信頼を失うことになる。本末転倒だ」
納得できたわけではないが、とりあえず頷いた。
「というわけで、レナちゃんは哭剣を手に入れる必要がある。でも、追われている今、正面から王家に貸してくれと言ったって無理な話」
「……元の計画では、スラジにいる、反王政勢力と接触するつもりだったの。その前にカンシュタットに来たのは、逃げ場所に適していたのもあるけど、貴類のことで、聞こうと思ってたことがあって」
ルノーは目を細めて先を促した。
「迷宮にいるとき、私の魔石から翼の生えた子猫が飛び出してきたの。それで、私を助けてくれたんだけど、途中で見えなくなっちゃって……。あの子の正体って、ルノーは分かる?」
「造形は完全に貴類だな。けど、それ以上は分からない。直接聞いた方がいい」
「直接って……貴類に? でも、いつ会えるかは分からないんでしょ」
「そりゃそうだけど、ここまで来て貴類に会わないつもりか? あんたが生き延びるヒントをくれるかもしれないぜ?」
「……分かった」
あまり、悠長にしてられる時間はないのだが、確かに、貴類に会えるチャンスを棒に振るのはよろしくないだろう。玲奈は頷いた。
「どうせ、既に敵はあんたの居場所がここだと当たりをつけてる。焦ろうが時間をかけようが一緒だろ」
とたんに不安に襲われた。
「……私、ここから出られるの?」
「安心しろって。伊達にルヴァリスの守り人をやってない」
ルノーには、何か策があるらしいので、ひとまず信頼することにした。
「で、反王政勢力に伝手はあるのか」
「胡王が力を貸してくれるはずだったんだけど、時間が無くて詳しくは聞けてない。ヒコトさん……部下の人と、連絡絶えちゃったし……」
玲奈の考えでは、ヒコトに護衛してもらいつつスラジに入り込み、九垓の伝手と接触する。そして、できれば、もう一度サディとも会いたいと思っていた。ヒコトと離れてしまった今、どうすればいいか、当たりはついていない。
「俺は胡と直接連絡が取れるパイプは持ってない。代わりに、俺の知り合いを紹介する」
「さっき言ってた?」
「そう。レナちゃんを欲しがってる奴らがいる」
玲奈は、九垓の話を思い出した。スラジには、大きく三つの反王政勢力がいる。一つ、地方に追いやられた下級貴族。二つ、貧困に喘ぐ市民。最後に、宗教家。しかし、ルノーが示したのは、どれでもなかった。
「地下神殿だ」
「……地下神殿?」
「元々、スラジの宗教的権威を担っていた一族がいる。今の神殿の立ち位置にいた者たちだ。けど、反対勢力に追い出された」
「反対勢力って」
「現在の神殿の連中だ。レナちゃんの宣告を捻じ曲げた張本人」
「……何があったの?」
「さっきも言ったけど、俺はスラジの内政をすべて知ってるわけじゃない。ただ、貴類の真意は知っている。だから、それを是とする組織とは繋がりを持っている。それが地下神殿」
「その人たちは正しい宣告を知っているのね」
「そうだ」




